ライアン・クルーザー(Ryan Crouser、1992年12月18日 -)は、アメリカの陸上競技選手。砲丸投で屋外・室内ともに世界記録を樹立している。オリンピックでは2016年リオデジャネイロ大会2020年東京大会で2連覇を達成している。

ライアン・クルーザー Portal:陸上競技
クルーザー(2022年)
選手情報
国籍 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
種目 砲丸投
所属 ナイキ
生年月日 (1992-12-18) 1992年12月18日(31歳)
出身地 オレゴン州ポートランド
身長 201 cm[1]
体重 145 kg[1]
自己ベスト
砲丸投 23m56(2023年)世界記録
円盤投 63m90(2014年)
やり投 61m16(2009年)
獲得メダル
陸上競技
オリンピック
2016 リオデジャネイロ 砲丸投
2020 東京 砲丸投
世界選手権
2022 ユージーン 砲丸投
2023 ブダペスト 砲丸投
2019 ドーハ 砲丸投


世界室内選手権
2024 グラスゴー 砲丸投
2022 ベオグラード 砲丸投
世界ユース陸上
2009 ブレッサノーネ 砲丸投
2009 ブレッサノーネ 円盤投
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2021年オリンピック代表選考会23m37をマーク、ランディー・バーンズが保持していた23m12の世界記録を31年ぶりに更新した[2]2023年には23m56をマーク、自身が保持していた世界記録を19cm更新した[3]

2023年時点で22m以上の投擲を238回記録している。これは史上最多記録であり、歴代における22m以上のパフォーマンスの3分の1以上を占めている。

競技経歴 編集

幼少期から大学生時代まで 編集

クルーザーは1992年12月18日にオレゴン州ポートランドで生まれ、ボーリングで育った[4][5]。小学5年生から陸上競技を始め、当初はやり投を専門としていた。投擲一家の出身であり[6]、父親であるミッチ・クルーザーは1984年ロサンゼルスオリンピック円盤投の代表補欠選手だった。叔父のブライアン・クルーザーはやり投でオリンピックに二度出場し、もう一人の叔父のディーン・クルーザーは砲丸投で21m06の記録を持っている。従兄弟であるサム・クルーザーとヘイリー・クルーザーもやり投の選手であり、サムは83m33の記録を持っている。

オレゴン州グレシャムのサム・バーロウ高校に入学。2009年には、円盤投(1.62kg)で61m72 の高校2年生の全国記録を樹立した[7]。同年に開催された世界ユース選手権に出場すると、砲丸投(5kg)では21m56の大会新記録をマークして金メダル、円盤投では銀メダルを獲得した。

高校生最終シーズンとなる2011年には、砲丸投(5.44kg)で23m54の室内高校記録を樹立した[8][9]。屋外では、円盤投(1.62kg)で72m40の全国高校記録を樹立[9]

2012年にテキサス大学オースティン校に入学、大学生活では砲丸投で4つのNCAAタイトルを獲得している[10]。最初のタイトルは2013年(大学2年生時)のNCAA屋外選手権で、20m31を記録している。

2014年(大学3年生時)、NCAA室内選手権で21m21を投げて2度目のタイトルを獲得[11]。同年の NCAA屋外選手権でも21m12 で優勝している。

2016年から2018年まで 編集

2013年にレッドシャツを行使していたため、2016年の室内シーズンに大学5年生としての競技資格を得た。NCAA室内選手権では21m28で優勝、4度目のタイトルを獲得した。このシーズンに記録していた21m73により、2016年の世界室内ランキングでニュージーランドトマス・ウォルシュに次ぐ2位に浮上した[12]

2016年の全米選手権では、自己ベストの22m11で優勝。初の国内タイトルを獲得し、2016年リオデジャネイロオリンピックの出場権を獲得した。

リオデジャネイロオリンピック決勝では22m52をマークして優勝、金メダルを獲得した。また、ウルフ・ティンマーマン1988年ソウルオリンピックでマークしていた22m47を上回り、28年ぶりのオリンピック新記録となった。

2017年全米選手権では自己ベストとなる22m65で2連覇を達成するも、ロンドンで開催された世界選手権決勝では21m20の6位に終わった。

2018年の全米選手権では20m99で2位、コンチネンタルカップでは21m63で5位となっている。

2019年 編集

3月には自己ベストを塗り替える22m74をマーク。当時の世界歴代6位であり、過去29年間における世界最高記録であった。7月の全米選手権では22m62で優勝、ドーハで開催される2019年世界陸上競技選手権大会の代表権を獲得した。

10月に行われた世界選手権決勝では、世界歴代5位タイ(当時)となる22m90を記録して銀メダルを獲得した。優勝したジョー・コヴァクスが22m91、3位のトマス・ウォルシュが22m90と、金メダルから銅メダルまでが1cm以内の差であり、またいずれもウェルナー・ギュンターの大会記録22m32を上回ったことから、国際陸上競技連盟からは「史上最もハイレベルで、史上最も接戦だった砲丸投の試合」と評されている[13]

2020年 編集

新型コロナウイルスの流行により屋外でのシーズンインを7月まで見送るも、同月18日には世界歴代4位タイ(当時)となる22m91をマーク。

このシーズンは室内を含む11試合で22m以上を記録しており、また全ての試合で優勝している。

2021年 編集

1月の世界室内ツアーでは22m82をマーク、ランディー・バーンズの22m66を塗り替えて32年ぶりに世界室内新記録を樹立した。

5月には世界歴代3位(当時)となる23m01をマーク。23m以上のパフォーマンスは自身初であり、史上3人目の23mスロワーとなった。

7月に行われた全米選手権では23m37をマークして優勝、ランディー・バーンズが31年間保持していた23m12を塗り替え、世界新記録となった。

8月の東京オリンピック決勝では、自身のオリンピック記録をさらに更新する23m30で金メダルを獲得、オリンピック2連覇を達成した。この大会では、6投全ての試技においてリオデジャネイロオリンピックで自身がマークしていた22m52の大会記録を上回っている(22m83 - 22m93 - 22m86 - 22m74 - 22m54 - 23m30)[14]

2022年 編集

世界室内選手権では怪我の影響によって22m44に終わり、22m53をマークしたダーラン・ロマニブラジル)に次ぐ銀メダルとなった。

全米選手権では23m12をマークして優勝、自国のオレゴン州ユージーンで開催される2022年世界陸上競技選手権大会の出場権を獲得した。

世界選手権決勝では22m94の大会新記録をマークして優勝、自身初となる世界タイトルを獲得した。2位のジョー・コヴァクス、3位のジョシュ・アウォトゥンデもアメリカ代表選手であり、砲丸投史上初のアメリカ勢による表彰台独占となった。

2023年 編集

5月に行われたロサンゼルスグランプリでは23m56世界新記録をマーク。2021年の23m37に続いて、自身二度目の世界記録更新となった。

全米選手権では22m86をマークして優勝、ブダペストで開催される2023年世界陸上競技選手権大会の出場権を獲得した。

ブダペストへの出発前、ふくらはぎから2カ所の血栓が見つかるも出場を決行[15][16]

世界選手権決勝では23m51大会新記録をマークして優勝、2連覇を達成した。22m34をマークして銀メダルを獲得したレオナルド・ファブリイタリア)とは、大会史上最大の記録差となる1m17cmを離している。

ベスト記録 編集

種目 記録 年月日 場所 備考
屋外
砲丸投 23m56 2023年5月27日   ロサンゼルス 世界記録
円盤投 63m90 2014年5月18日   ラボック
やり投 61m16 2009年5月23日   ユージーン
室内
砲丸投 22m82 2021年1月24日   フェイエットビル 室内世界記録

主な戦績 編集

大会 開催地 種目 順位 記録 備考
2009 世界ユース選手権   ブレッサノーネ 砲丸投 優勝 21m56 大会新記録(当時)
円盤投 準優勝 61m64
2016 オリンピック   リオデジャネイロ 砲丸投 優勝 22m52 大会新記録(当時)
2017 世界選手権   ロンドン 砲丸投 6位 21m20
2018 IAAFコンチネンタルカップ   オストラヴァ 砲丸投 5位 21m63
2019 世界選手権   ドーハ 砲丸投 準優勝 22m90
2021 オリンピック   東京 砲丸投 優勝 23m30 大会新記録
2022 世界室内選手権   ベオグラード 砲丸投 準優勝 22m44
世界選手権   ユージーン 砲丸投 優勝 22m94 大会新記録(当時)
2023 世界選手権   ブダペスト 砲丸投 優勝 23m51 大会新記録

人物 編集

2020年東京オリンピックで優勝した際、テレビカメラに向かって「Grandpa, We did it, 2020 Olympic Champion!(お爺ちゃん、やったよ、2020年オリンピックチャンピオンだ!)」と書かれた紙を掲げている[14]。これは大会直前に亡くなった祖父へ向けたメッセージである[14]

40ヤード走では4秒80を切る[17]ベンチプレスでは250kgが最高重量であり[18]、225ポンド(約102kg)を50回連続で挙上することができる[17]。その身体能力の高さが注目され、NFLチームのインディアナポリス・コルツからトライアウトのオファーを受けたことがある[17][19]

数字に強く、数学数独パズルを得意としている[20]。2016年に財政学の修士号を取得しており、将来的には金融コンサルティングの分野に携わることを考えているという[20]

出典 編集

  1. ^ a b Ryan Crouser and his pursuit of perfection”. worldathletics.org (2022年7月5日). 2024年3月19日閲覧。
  2. ^ Electrifying kickoff to U.S. Olympic trials, world record shattered”. Reuters (2021年6月19日). 2021年6月25日閲覧。
  3. ^ Crouser breaks world shot put record with 23.56m in Los Angeles | REPORT | World Athletics”. worldathletics.org. 2023年7月17日閲覧。
  4. ^ Dennehy, Cathal (2022年7月4日). “Ryan Crouser and his pursuit of perfection”. worldathletics.org. 2023年12月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月1日閲覧。
  5. ^ “Oregon native wins shot put gold, sets record”. KATU. Associated Press (Portland, Oregon). (2016年8月18日). オリジナルの2019年1月2日時点におけるアーカイブ。. https://archive.today/20190102223914/https://katu.com/sports/oregon-native-wins-shot-put-gold-sets-record 
  6. ^ Robbins, Kevin (2012年1月24日). “Horns thrower Crouser brings family history with him” (英語). Austin American-Statesman. 2024年1月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月1日閲覧。
  7. ^ Pfeifer, Jack (2009年6月17日). “Ryan Crouser, First Oregon Prep Discus Over 200 feet at Mac Wilkins All-Comers Meet in Portland, Or”. MileSplit. 2016年8月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年6月22日閲覧。
  8. ^ Mauldin (2011年2月23日). “With 1 record down, Ryan Crouser shifts to others”. MaxPreps.com. 2016年6月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月1日閲覧。
  9. ^ a b Shepard, Jack. “High School All-Time Top 10s – Men”. Track & Field News. オリジナルのMay 31, 2016時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20160531033203/http://trackandfieldnews.com/index.php/tafn-lists?list_id=34&sex_id=M&yyear=2008 2016年6月22日閲覧。. 
  10. ^ Athlete biography - Ryan Crouser” (英語). University of Texas Athletics. 2024年1月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月1日閲覧。
  11. ^ “UT’s Crouser wins second straight NCAA shot put title”. Austin American-Statesman. (2014年6月16日). オリジナルの2024年1月1日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20240101044259/https://www.statesman.com/story/news/2014/06/16/uts-crouser-wins-second-straight-ncaa-shot-put-title/9796461007/ 2023年12月31日閲覧。 
  12. ^ Mills, Steven (2016年2月28日). “Maslak prepares for Portland with Czech 200m title – indoor round-up”. International Association of Athletics Federations (IAAF). 2016年6月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年6月22日閲覧。
  13. ^ Mulkeen, John (2019年10月5日). “Report: men's shot put - IAAF World Athletics Championships Doha 2019”. worldathletics.org. 2023年3月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月30日閲覧。
  14. ^ a b c DAY7ハイライト/砲丸投クルーザー五輪新でV急逝した祖父思い涙の連覇!110mHは波乱、十種ワーナー五輪新で王座”. 月陸オンライン (2021年8月6日). 2024年2月9日閲覧。
  15. ^ Greif, Andrew (2023年8月19日). “Ryan Crouser wins shot put world championship gold again amid blood clot scare” (英語). Los Angeles Times. 2023年12月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月30日閲覧。
  16. ^ “American Ryan Crouser overcomes blood clot to claim shot put world title” (英語). The Guardian. (2023年8月20日). ISSN 0261-3077. オリジナルの2023年12月30日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20231230202738/https://www.theguardian.com/sport/2023/aug/19/ryan-crouser-shot-put-world-championships 2023年12月30日閲覧。 
  17. ^ a b c Why It's Almost Impossible to Shot Put 24 Meters” (2019年11月22日). 2024年2月4日閲覧。
  18. ^ Ryan Crouser reveals personal bests in weight training”. sportskeeda (2024年3月5日). 2024年3月19日閲覧。
  19. ^ Ryan Crouser eyed an NFL tryout, then Olympic gold, now the bathroom mirror”. NBC Sports (2019年4月26日). 2024年2月4日閲覧。
  20. ^ a b RYAN CROUSER”. World Athletics SPIKES (2016年11月17日). 2024年2月4日閲覧。

外部リンク 編集

記録
先代
  ランディー・バーンズ
男子砲丸投屋内世界記録保持者
2021年1月24日 –現在
現職
先代
  ランディー・バーンズ
男子砲丸投世界記録保持者
2021年6月18日 –現在
現職
受賞
先代
Sam Crouser
Track & Field News High School Boys Athlete of the Year
2011
次代
タイリーク・ヒル