七色の毒

中山七里による日本の小説
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七色の毒』(なないろのどく)は、中山七里の短編推理小説集。『小説 野性時代』で2012年から2013年に不定期で掲載された6話に書き下ろしで1話追加されて刊行された。

七色の毒
Poison of the Seven Colors
著者 中山七里
発行日 2013年7月30日
発行元 角川書店
ジャンル 推理小説
日本の旗 日本
言語 日本語
形態 四六判上製本
ページ数 251
前作 切り裂きジャックの告白
次作 ハーメルンの誘拐魔
公式サイト www.kadokawa.co.jp
コード ISBN 978-4-04-110495-8
ISBN 978-4-04-102046-3文庫本
ウィキポータル 文学
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人間の奥底に眠る悪意を鮮烈に抉り出す[1]今作とは対を成す世界観で描かれた長編作『切り裂きジャックの告白』でも登場した警視庁捜査一課の刑事・犬養隼人が、色にまつわる7つの事件に挑んでいる[2]。『七色の毒』というタイトルどおり、著者はこの作品で叙述物理的なトリックなど、思いつく限り今までの作品とはテイストを変え、原稿用紙50枚くらいの短編でどれくらいのどんでん返しができるか挑戦した[3]。そして短編ミステリの面白さを追求した結果、「間違いなく、私の最高傑作です」と自負する作品となり[1]、ミステリー評論家の佳多山大地も「多種多様な社会派テーマを織り込みながら結末でどんでん返しを演出する職人的技巧は短編でもいかんなく発揮され、さらに切れ味を増している。」と評価している[4]

白い原稿」ではある小説作品を風刺したというが、誰のどの作品を風刺したのかは著者自身も書店員も明言していない[3]

収録作品 編集

  • 赤い水(『小説 野性時代』2012年7月号)
  • 黒いハト(『小説 野性時代』2012年12月号)
  • 白い原稿(『小説 野性時代』2013年2月号)
  • 青い魚(『小説 野性時代』2013年3月号)
  • 緑園の主(『小説 野性時代』2013年4月号)
  • 黄色いリボン(『小説 野性時代』2013年5月号)
  • 紫の献花(書き下ろし)⇒文庫収録時タイトル「紫の供花」

主人公 編集

犬養 隼人(いぬかい はやと)
警視庁捜査一課巡査部長。30代半ば。
赤い水」のころは入院中の娘・沙耶香との親子関係は良好ではなく、沙耶香は長い間碌に口も聞かず機嫌が悪いことが多かったが、1年後の「紫の献花」のころには聞かれたことには答え、捜査協力くらいはしてくれるようになっている。

各話あらすじ&登場人物 編集

赤い水 編集

高井戸インターチェンジで事故を起こし、乗客9名中8人に重軽傷を負わせ、1人を亡くしてしまった名濃(めいのう)バスの運転手・小平真治は取材に訪れたマスコミのカメラの前で潔く自分の非を認め、ひたすら謝罪していた。蓬田が所属する交通捜査課ではこの事故を居眠りが原因の自動車運転過失致死傷罪として立件する準備を進めていたが、そこへなぜか旧知の仲だが事件には関係ないはずの刑事部捜査一課の犬養が現れる。犬養はテレビで会見を見て、小平の喋り方が突発的な事故を引き起こして狼狽える人間の喋り方ではないことが気になって来たと話す。

小平 真治(こだいら しんじ)
高校までを岐阜県龍川村で過ごし、他県の大学を卒業してから故郷に帰り、多治見市に本社がある名濃バス(高速バス)に運転手として就職。29歳、独身。中央自動車道高井戸インターチェンジ付近で防護柵に激突する事故を起こした。真面目で礼儀正しい好青年。
高瀬 昭文(たかせ あきふみ)
名濃バス株式会社運行管理係。小平とは同郷のよしみ。
蓬田 晃一(よもぎだ こういち)
警視庁交通部交通捜査課。配属されて5年目。部下の錦野からは生き字引扱いされている。犬養とは警察学校で同期で、最初の配属先も同じだった。無骨で性格はまるで逆だが妙にウマが合い、別部署に転属してからは疎遠になっていたものの、ハガキのやり取りは欠かしたことがない。
多々良 淳造(たたら じゅんぞう)
10年前に都内の帝京軽金属株式会社に中途入社したが、60歳で定年を迎えて現在は嘱託扱いで単身赴任をしていた。

黒いハト 編集

日沢中学校2年A組の東良春樹は、1週間前に教室の窓から飛び降りて亡くなった親友・保富雅也のことを今日も思い出し、自分を責めていた。なぜ自分は親友を護ってやれなかったのだろう?実は春樹だけでなく多くの生徒が雅也がいじめに遭っていたことを知っていたが公にはならず、母親の携帯に遺言らしき声が残されていたことから所轄の高輪警察署が事件性無し&自殺として処理したため、学校もこれ幸いといじめの事実には蓋をしていたのである。しかしそんな学校側の態度を非難する声が次第にあちこちからあがり、改めて警察が捜査することが決定された。そして春樹のクラスの事情聴取に警視庁の犬養がやって来る。

保富 雅也(ほどみ まさや)
日沢中学校2年A組の生徒。1週間前に教室の窓から飛び降り自殺をした。
東良 春樹(ひがしら はるき)
雅也の親友。雅也とは1年の時から同じクラスで、好きな漫画やゲームがかぶっていたため仲良くなった。目立たず騒がずがモットー。
岩隈 信夫(いわくま のぶお)
日沢中学校の校長。
八神(やがみ)
2年A組の担任。空気が読めない。いじめを黙認していた。
影山 健斗(かげやま けんと)
雅也をいじめていた張本人。クラスで1番上背があり、口よりも手が早く、子分も2人いる。成績は悪い方ではない。父親は都議会議員。

白い原稿 編集

8月初旬、都内でも指折りの高級住宅街にある公園のベンチでロック歌手兼小説家の桜庭巧己の死体がナイフが胸に刺さった状態で発見された。そしてそのわずか3時間後、自称小説家の荒島秀人という男が自分が犯人であると出頭してきた。取り調べにあたった犬養が話を聞くと、「ビブレ賞」という文学賞に応募したものの、桜庭が受賞したせいで自分が受賞できなかったことを恨んでの犯行なのだという。しかし公園で寝ていた被害者を見ての突発的な行動で、殺意は無かったと話す。殺意の否定には疑問が残るものの、話している内容に矛盾は無いため、犯行の裏付けのため関係者に話を聞いて回っていた犬養であったが、御厨からの検死報告書を見て驚く。そこには直接の死因は凍死であると書かれていたのだ。

桜庭 巧己(さくらばたくみ)
篠島タクという芸名のロック歌手。20代半ば。小説『うつろい』を執筆し、ビブレ大賞という新人文学賞を受賞して一躍時の人となり、「天は二物も三物も与える」ともてはやされたが、その内容は受賞するには到底値しないレベルだと書評家たちがいいはじめ、今となっては出来レースだったのではないかと噂されている。受賞作は100万部を突破したが、読者の反応も最悪で、版元であるビブレ社にも非難は集中した。
8月初旬、港区高輪4丁目の公園脇のベンチで胸に深々とナイフを突き立てられた状態で発見される。
桜庭 香澄(さくらばかすみ)
巧己の妻。大学生の時、篠島のファンクラブの会長になり、卒業してから結婚した。
荒島 秀人(あらしま ひでと)
ペンネーム:嵐馬シュウト(あらしましゅうと)。34歳、無職。自称作家のタマゴで5年程前から投稿の常連。桜庭巧己を殺したのは自分だと出頭してくる。『幽玄の森』という作品をビブレ賞に応募しており、最終選考に残ったものの桜庭のせいで大賞を受賞できなかったことが動機だと話している。
日下 康介(くさか こうすけ)
ビブレ社の篠島の担当編集者。一見快活そうな印象を受けるが、レンズの奥の目は陰険そうに蠢いている。
御厨(みくりや)
検視官。

青い魚 編集

1人で釣具店を経営する帆村亮は45歳で遅い春を迎えて幸せな日々を送っていた。3か月前、店を訪れた20代の若くて美人な本橋恵美が自分のことを気に入り、あれよあれよというまに同棲生活を始め、結婚が決まったのである。ただ1つ、恵美の実兄だという由紀夫までがいつからか同居人として加わってしまったのには困惑したが、由紀夫の人柄にも好感がもて、何より家族というものに飢えていた帆村はこんな生活も悪くないと思い始めていた。しかしある日、3人で船を出してハギ釣りに熱中していた時、帆村は頭部を押されてボートの縁に激突し、そのまま海に身体を放り込まれてしまう。

帆村 亮(はんむら りょう)
両親はすでに他界しているが、父親の商売を継ぎ、釣具屋を経営している。45歳。
本橋 恵美(もとはし えみ)
亮の恋人で同棲中。20代、小顔で美人。亮に対して、年上を年上と思わない物言いをする。
由紀夫(ゆきお)
恵美の兄。亮より10歳年下だが老成した印象があり、年上への気遣いも忘れない。恵美と住み始めた1か月後に挨拶がてらやってきて、そのまま同居人となってしまった。普段は泰然自若としているが、恵美のことになると必死。何でも屋をやっている。慎重かつ執拗だが、開放的な性格。
輝之(てるゆき)
亮の5歳下の弟。三白眼と薄い眉をしている。中学のころから素行が悪く、夜の商売を転々とした後、暴力団員となった。長らく家に寄りつかなかったが、最近ちょくちょく顔を出すようになっている。

緑園の主 編集

ホームレスの塒(ねぐら)に火が放たれ、黒沢という男が全身火傷で救急搬送された事件現場を訪れていた犬養は、班長の麻生から別の事件の現場へ急行するように命じられる。都営グラウンドで部活動をした後の帰り道に昏倒し、搬送されたが亡くなってしまった中学生・小栗拓真の体内から劇薬のタリウムが検出されたというのだ。誰かに毒を盛られたとするとまた違う被害者が出るかもしれないと懸念されたのだが、ホームレスの事件の方に残った部下の高千穂からの連絡により、事件は違う顔を見せ始めた。意識を取り戻した黒沢は、自分の塒に火を点けたのは小栗拓真であると証言したというのだ。

小栗 拓真(おぐり たくま)
14歳。都営グラウンドでサッカー部の練習活動(ポジションはMF)をした後、悶死。体内からタリウムが見つかる。細面で尖り耳。
黒沢 公人(くろさわ きみひと)
ホームレス。昔は造園業を営んでいた。段ボールとビニールシートで作られた家が全焼し、全身に火傷を負う。
佐田 啓造(さだ けいぞう)
都営グラウンドのすぐ傍の一軒家に住んでいる。妻・祥子と2人暮らし。
佐田 祥子(さだ さちこ)
啓造の妻。認知症を患っており、家に男性が訪ねてくると、40年前に交通事故ですでに亡くなっている息子と勘違いする。
高千穂(たかちほ)
犬養の部下で行動を共にしている刑事。
麻生(あそう)
犬養の班の班長。
御厨(みくりや)
検視官。

黄色いリボン 編集

学校で担任の戸塚先生が話していた性同一性障害の話に、桑島翔は心が軽くなる思いがした。自分には、学校の誰にも言っていない秘密がある。毎日学校から帰ると女の子の格好して化粧をして、「ミチル」という女の子として過ごしているのだ。今なら皆に秘密を話しても大丈夫かもしれない・・・一縷の望みを抱いた翔だったが両親は否定的で、「ミチル」でいるのはこれまで通り家の中と団地内までと厳命された。しかしある日、架空のはずの「ミチル」にダイレクトメールが来ているのを発見したのを発端に、知らない男やましてや警察にまで、あちこちで翔はミチルについて聞かれることになる。

桑島 翔(くわしま しょう)
目が大きく鼻筋が通っていて、口が小さく眉が整っている。はいつも近くにいる親友以上の存在である直也曰く「可愛い顔」。一生懸命に勉強するかわりに、1日に1度だけ女の子の格好をして「ミチル」として外(ただし団地内だけ)に出ることを両親に許されている。
直也(なおや)
翔の友達。翔のことを気に入っている姉と、刑事ドラマおたくの兄がいる。陽気。
柴崎(しばさき)
区の子育て支援課に勤める公務員で犬養とは大学の同期。

紫の献花 編集

多治見署刑事部強行犯係の刑事・榊間明彦は取調室で昨年5月に発生した名濃バス株式会社による高速バス衝突事故の被害者で足に障害を負った樫山有希と対峙していた。名濃バスの運行管理係だった高瀬昭文が自宅で刃物で刺された状態で死亡していたのだが、高瀬には家族がいないにもかかわらず、事故後名濃バスを退職した直後に生命保険に加入しており、その受取人が樫山有希になっていたのである。しかし樫山は高瀬とは全く面識がな無いし、ましてやもしそこまで恨むとしても、運行係の高瀬ではなく廃業して民事でも責任をとらなかった元社長の菅谷の方だと主張する。その時、警視庁捜査一課から犬養がやってきて、あのバス事故の裏には実は高瀬の殺人教唆があったのだと話す。

榊間 明彦(さかきま あきひこ)
多治見署の強行犯係になって3年目の刑事。
高瀬 昭文(たかせ あきふみ)
妻と娘を亡くし、2LDKの平屋一戸建ての部屋で独り暮らしだったが、左脇腹後ろに包丁が突き刺さった状態で死亡していた。67歳。瓜実顔で彫りが深い。「赤い水」で勤めていた名濃バスで運行管理係として勤めていたが、事故により名濃バスが昨年7月に廃業に追い込まれたため、2か月の就職活動を経て8か月前に織部タクシーに転職し、配車係を務めていた。仕事は有能でミスがなく、性格も温和で実直。
礼島(れいしま)
個人経営の小さな会社・織部タクシーの社長。
菅谷 豪志(すがや たけし)
名濃バスの元社長。民事で訴えられていたが、「名濃バス」を廃業させて逃げ、翌週には弟が代表取締役である「菅谷ツアーズ」というバス会社に入社した。赤ら顔ででっぷりと太っている。
樫山 有希(かしやま ゆき)
20代女性。中学・高校と陸上部でスプリンターを目指して体育大学に進学し、オリンピックの強化選手となっていたが、1年前の5月に起こった名濃バス事故により右足が砕け、選手としては再起不能となり、今でも右足を引きずって歩いている。大学は中退し、今は故郷である多治見に戻って就職活動をしている。

脚注 編集

  1. ^ a b 「七色の毒 中山七里 次々と襲いかかるどんでん返しの嵐!」『ダ・ヴィンチ』第233巻2013年9月号、メディアファクトリー、14頁、ASIN B00DZS2K3E 
  2. ^ 公式サイトには”連作短編集”と書かれているが、実際に話自体がつながっているのは「赤い水」と「紫の献花」のみである。
  3. ^ a b 中山七里(インタビュアー:清水志保)「from BOOK SHOPS 第98回 中山七里さん」『WEBきらら』http://www.quilala.jp/pc/fbs/interview13_08.html2013年10月7日閲覧 
  4. ^ 佳多山大地「身体を侵す毒よりも心を蝕む毒こそおそろしい」『本の旅人』第214巻2013年8月号、角川書店、24-25頁、ASIN B00EBDFVL0 

関連項目 編集

外部リンク 編集