交響曲第94番 (ハイドン)
交響曲第94番 ト長調 Hob. I:94 は、フランツ・ヨーゼフ・ハイドンが作曲した交響曲。イギリス訪問時のロンドンで作曲された、いわゆる『ロンドン交響曲』のうちの1曲であり、『驚愕』(または『びっくり』、英: The Surprise, 独: Mit dem Paukenschlag)の愛称で知られている。
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HAYDN Symphony No.94, 'Surprise' - Case Scaglione指揮デトロイト交響楽団による演奏。デトロイト交響楽団公式Webサイト(DSO Replay Browse Video Categories)より。 | |
Haydn’s Surprise Symphony[注 1] - エリアス・グランディ指揮カタール・フィルハーモニー管弦楽団による演奏。カタール・フィルハーモニー管弦楽団公式YouTube。 | |
F. J. ハイドン:交響曲 第94番 ト長調「驚愕」 - デリック・イノウエ指揮による演奏《エリザベト音楽大学第74回定期演奏会(2014年10月12日)より》。エリザベト音楽大学公式YouTube。 |
概要
編集ハイドンが長年楽長として仕えてきたエステルハージ侯の死去に伴って、同侯家を去ることになってから2度にわたって経験したロンドン旅行の1回目の滞在期間中にあたる1791年に作曲されている[1][2]。前記「2度にわたるロンドン滞在」で書き上げた『ロンドン交響曲』(ザロモン・セット)のうちの1曲に数えられると共に、ハイドンが遺した全作品の中でも最も有名な作品の一つにも数えられる[3][4][5][6]。
ロンドン滞在1回目の期間中にあたる1792年3月23日に初演されている[1][4]。
作曲の経緯
編集ハンガリー系貴族のニコラウス・エステルハージ侯爵に長らく仕え、同候家お抱えの楽団の楽長として食卓向けの音楽を作るなど創作活動を行ってきたハイドンであったが、1790年にニコラウス・エステルハージ侯爵が死去することで転機を迎えることとなった。その後を継いだアントン・エステルハージ侯爵は父親の音楽愛好を受け継がずにお抱えの楽団を解散してしまい、この結果として肩書きだけの楽長と化したハイドンは同侯家を去り、自由な立場の音楽家としてウィーンに赴いた[1][4][7]。
そのウィーンでは、ハイドンの噂を聞きつけて赴いてきたボン出身のヴァイオリニストで興行主としても知られるヨハン・ペーター・ザーロモンと出会った。ハイドンはそこでザーロモンから、ロンドンに渡ってザーロモン自身が主催する演奏会のため作曲して欲しい、との依頼を受けた。破格の待遇内容も併せて提示されたハイドンはザロモンからの依頼を引き受け、1791年から92年にかけて、および1794年から1795年にかけての2度にわたってロンドンに渡航・滞在し、のちに「ロンドン交響曲」(ザロモン・セット)と総称されることになる計12曲の交響曲を書き上げることとなった。当楽曲もこれら全12曲の交響曲に包含されるものの一つとして、ロンドン旅行1回目の滞在期間初年にあたる1791年に作曲され、翌1792年3月にロンドンに於いて初演されるに至る[4][2][7]。
愛称の由来
編集当楽曲に付与されている『驚愕』という愛称は、第2楽章冒頭の主題が最弱音にて2度繰り返し演奏された後の16小節目に於いてティンパニを伴ったトゥッティで不意打ちを食らわせるが如くに強く演奏するところから名付けられたもので、作曲者自身が命名したのではなく、初演から間もなくして初演地のロンドンで発行された新聞紙上に掲載された演奏評に由来する[3]。
こうした作曲の仕方を採った背景として、ハイドン自身が1度目のロンドン滞在中に目の当たりにした聴衆のマナーの悪さがあったとされている。当時、聴衆の中に居眠りをする者が少なからず存在していた。このことに癪に障る思いを抱いていたハイドンは、持ち前のユーモアさなどを活かし、当楽曲の作曲を通じて聴衆をたたき起こそうと行動を起こしたのである。そして実際の演奏の場で、前記第2楽章の強奏箇所のところでハイドンはティンパニ奏者に対し力一杯叩くよう指示、果たして狙い通りに聴衆がビックリして飛び上がったという[8][9]。
もっとも、このことに関しては、音楽ジャーナリストの飯尾洋一が、主題を最弱音で一通り演奏した後に唐突な強奏をすることで驚かせるという趣向自体は使い古されたジョークであり、むしろ最弱音で演奏される主題こそが、茶目っ気がそのまま音になって表現されているかのようで可笑しい、という考え方を示している[9]。
なお、愛称の『驚愕』自体に関して、英語表記では「The Surprise」と表される一方、ドイツ語表記では「Mit dem Paukenschlag」と表される。直訳すると「ティンパニの打奏を伴った」という意味になる[4]。
楽器編成
編集木管 | 金管 | 打 | 弦 | ||||
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フルート | 2 | ホルン | 2 | ティンパニ | ● | 第1ヴァイオリン | ● |
オーボエ | 2 | トランペット | 2 | 他 | 第2ヴァイオリン | ● | |
クラリネット | 他 | ヴィオラ | ● | ||||
ファゴット | 2 | チェロ | ● | ||||
他 | コントラバス | ● |
曲の構成
編集全4楽章、演奏時間は約23分[1]。
音楽・音声外部リンク | |
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第1楽章 Adagio - Vivace assai | |
Sudeten Filharmonie - ダリウシュ・ミクルスキ指揮。指揮者自身の公式YouTube。 | |
カペラ・イストロポリターナ - バリー・ワーズワース指揮。ナクソス公式YouTube。 |
- ト長調、4分の3拍子 - 8分の6拍子、ソナタ形式。
- (譜例1)
- (譜例2)
- 4分の3拍子によるアダージョ・カンタービレの序奏部(譜例1)と、8分の6拍子によるヴィヴァーチェ・アッサイの主部(譜例2)からなる。第2主題は旋律的性格が薄いもので、シンコペーションによるリズムに走句風のパッセージが乗る形をとる。コデッタ主題は対位法的楽想によるもの。
音楽・音声外部リンク | |
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第2楽章 Andante | |
Sudeten Filharmonie - ダリウシュ・ミクルスキ指揮。指揮者自身の公式YouTube。 | |
カペラ・イストロポリターナ - バリー・ワーズワース指揮。ナクソス公式YouTube。 |
- 第2楽章 アンダンテ
- ハ長調、4分の2拍子、変奏曲形式。
- 主題と4つの変奏からなる。有名な主要主題が で反復されると、突如 による全合奏で「驚愕音」が鳴らされる。第2変奏はハ短調で、後半は で劇的に進行する。第3変奏はオーボエやフルートの木管がメインになる。第4変奏ではクライマックスが築かれ、コーダではオーボエとファゴットが主題を奏でて静かに曲が終わる。
音楽・音声外部リンク | |
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第3楽章 Menuetto. Allegro molto | |
Sudeten Filharmonie - ダリウシュ・ミクルスキ指揮。指揮者自身の公式YouTube。 | |
カペラ・イストロポリターナ - バリー・ワーズワース指揮。ナクソス公式YouTube。 |
- ト長調、4分の3拍子、三部形式。
- ハイドンのメヌエットとしては最も速いテンポ表記が与えられている。
音楽・音声外部リンク | |
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第4楽章 Finale. Allegro di molto | |
Sudeten Filharmonie - ダリウシュ・ミクルスキ指揮。指揮者自身の公式YouTube。 | |
カペラ・イストロポリターナ - バリー・ワーズワース指揮。ナクソス公式YouTube。 |
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b c d 飯尾洋一(音楽ジャーナリスト) (2015年4月). “Program notes(楽曲紹介)…「4月4日(土)」・「4月5日(日)」” (PDF). 月刊オーケストラ・2015年4月号. 読売日本交響楽団. 2018年12月9日閲覧。 “→『月刊オーケストラ』ポータル(読響Webサイト内)”
- ^ a b 白石美雪 (2017年7月15日). “■ハイドン/交響曲第94番ト長調Hob.I:94「驚愕」” (PDF). 定期演奏会・音楽堂シリーズ第12回. 神奈川フィルハーモニー管弦楽団. 2018年12月9日閲覧。 “→「定期演奏会・音楽堂シリーズ第12回」公演案内”
- ^ a b “驚愕交響曲(きょうがくこうきょうきょく)”. コトバンク. 朝日新聞社. 2018年12月9日閲覧。
- ^ a b c d e 奥田佳道(音楽評論家) (2014年11月28日). “PROGRAM NOTE(曲目解説)” (PDF). 室内オーケストラシリーズ19. 兵庫芸術文化センター管弦楽団. 2018年12月9日閲覧。
- ^ “ハイドン:交響曲第94番≪驚愕≫、100番≪軍隊≫、101番≪時計≫”. サー・コリン・デイヴィス(アーティスト個別ページ). ユニバーサル・ミュージックジャパン(UNIVERSAL MUSIC JAPAN) (2005年6月22日). 2018年12月9日閲覧。
- ^ “ハイドン:交響曲第94番「驚愕」・第101番「時計」”. CDJournal. 音楽出版社 (2007年12月5日). 2018年12月9日閲覧。
- ^ a b “ららら♪クラシック〜2014年9月13日(土)の放送”. ららら♪クラシック. NHK (2014年9月13日). 2018年12月9日閲覧。
- ^ “強運&いたずら好き? “交響曲の父”ハイドン誕生(1732〜1809)”. おんがく日めくり. ヤマハ. 2018年12月9日閲覧。 ※ 現在はウェブアーカイブサイト「archive.is」内に残存
- ^ a b 飯尾洋一(音楽ジャーナリスト). “【クラシック大全】交響曲の10傑〜ハイドン”. CLASSICA JAPAN. 東北新社. 2018年12月9日閲覧。
外部リンク
編集- 交響曲第94番 ト長調 Hob. I:94『驚愕』の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
- Symphony no.94 in G major 'Surprise' - 『Musopen』より
- Symphony No.94 in G major Hob.I:94 - 『Free-scores.com』より
- Symphony No.94 in G major('Surprise'/'The Drumstroke'/'Mit dem Paukenschlag'), H.1/94 - 『AllMusic』より《ディスコグラフィ一覧有り》
- Sinfonia n°94 in Sol maggiore «La sorpresa» – - 『Liber Liber』より《クナッパーツブッシュ指揮ベルリン・フィルによる演奏音源を掲載(1954年収録)》
- インターネットアーカイブより《演奏音源アーカイブ》
- lp-00752_BeG - Joseph Haydn - ベイヌム指揮コンセルトヘボウ管による演奏音源《モーツァルト『交響曲第33番』と共に収録;当楽曲は「Record 1 side B - 21:57」のほうに収録》
- Haydn_Symphony_No_94_Surprise - クーセヴィツキー指揮ボストン響による演奏音源《1929年収録》
- 『Leon Levy Digital Archives』(ニューヨーク・フィル公式)より
- Haydn, Franz Joseph/SYMPHONY NO.94, G MAJOR(SURPRISE) - Score and Parts - バーンスタインが実際に使用したスコアとパート譜
- Haydn:Symphony No.94 in G major 'Surprise', Dec 2, 1971 - Dec 6, 1971 - 1971年12月上旬の公演(当楽曲演奏含む)に向けての業務用メモ群とみられる