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人質司法(ひとじちしほう)とは、日本の司法制度による身柄拘束における問題点として指摘される言葉である。

概要編集

法律上捜査機関は、逮捕状による72時間とその後の勾留状に基づく20日(計23日)間しか、同一容疑での取調べは許されない。この法律上の建前は、今の運用では原則と例外が逆転している[1]

日本において、被疑者または被告人被疑事実または公訴事実自白する場合に比べ、否認する場合には勾留による身柄拘束が長期化し、釈放保釈がされない傾向にある。身柄の長期拘束によって、自白や警察検察の意に沿った供述を得ようとしているものとして、検察庁裁判所、あるいは現行司法制度の実態を説明する際に用いられる言葉である。このような人質司法が、自白の強要や冤罪を誘発させていると批判されている。

微罪逮捕別件逮捕代用刑事施設接見交通権制限制度、起訴前保釈がない、取調べの可視化がない等の他の司法制度の問題も、人質司法への批判に拍車がかかっている。

日本で広く人質司法がおこなわれているという事実が、日米地位協定の改正協議の障害のひとつとなっているといわれている。

人質司法が問題となりやすい罪名編集

「被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮にあたる罪」などの凶悪事件の場合は自白しても逃亡の恐れがあることが最大の理由に保釈が認められないと見込まれているため、人質司法という批判は避けられる(だが、人質司法以外でも前述のように身柄拘束での取調べにおける日本の司法制度の問題は存在する)。

一般的に人質司法として批判されやすいのは、特に否認せずに自白すれば略式裁判の対象となることが多い、下記のような微罪に関する身柄拘束である。

上記の罪において、否認していると正式起訴に発展することもあり、起訴後は被害者や目撃者などの証人と口裏合わせをする懸念から「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」又は「被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき」が保釈請求却下の理由になり、被害者らの証人地方裁判所で法廷証言を終えるまでは、保釈という形で身柄が解放されないことが多い。

また、逃亡の恐れが低いとされやすい社会的地位が高い人間が容疑となっている知能犯罪や経済犯罪における、複数犯に対する捜査において、罪を認めて自白した者には保釈が認められたり、そもそも逮捕されなかったりするが、罪を認めていない者には逮捕・起訴されて保釈が認められないというように、自白の有無で身柄拘束や保釈の是非が決まると考えられる場合は『人質司法』という批判がされやすい。

その一方で、松本芳希大阪地方裁判所令状部総括判事が、2006年6月に法律雑誌で「現在の保釈の運用は基準が厳格化しすぎており見直しの必要がある」「証拠の恐れなどは具体的に判断し、保釈を拡大していくべきだ」と述べ、ライブドア事件橋梁談合事件では捜査機関から首謀者と目された人物が全面否認しても、早期に保釈されるなど変化がみられている[2]。また、痴漢容疑の逮捕案件では、東京地方裁判所では容疑を否認しても勾留請求を原則認めない運用が定着しつつある[3]

法制審議会編集

2014年(平成26年)の法制審議会特別部会では、居住先の指定など条件を課す代わりに、身柄拘束しないで捜査する「中間処分制度」を創設すべきか議論になったが、警察や検察出身の委員から「証拠隠滅の恐れが高まる」との否定的な意見が相次ぎ、見送られた。裁判官出身の委員から「手続きは適切」と一蹴され、村木厚子らは「我々の感覚とずれている」と温度差があったことを明らかにした[4]

人質司法問題が描かれた書籍・映画・ドラマ編集

書籍編集

映画編集

人質司法が指摘された例編集

カルロス・ゴーンの逮捕編集

AFP通信元東京支局長のフィリップ・リエスは、フランス経済紙レゼゴー』で、カルロス・ゴーン逮捕され、身柄を東京拘置所において108日に渡り身柄拘束されたことについて、自身が40年前にポーランド統一労働者党政権下のポーランド人民共和国で、スパイ容疑で収監された経験と比較し「当時は独房ではなく、日常着でいられた。妻と毎日、数分間面会する権利も得た」日本の検察は「途方もない権力」を担い、容疑者に自白を迫っていると訴え、「それが有罪率99%の原因。スターリン政権下のソ連でも、これほど高率ではなかった」と批判した[5]

フランスの新聞フィガロ』は、カルロス・ゴーンの逮捕・勾留について『人質司法』であるとの見解を示した[6]CNNは、カルロス・ゴーンの事件について hostage justice英語を用いて報じている[7]。2019年(平成31年)4月25日、東京地方裁判所の保釈決定に対して、検察庁幹部(氏名不詳)は「裁判所は『人質司法』という言葉に完全にひよっている。」との見解を表明している[8]

一方、中華人民共和国出身で比較刑事法学が専門の王雲海一橋大学大学院法学研究科教授は、フランスでは予備審問で劣悪な環境下において4年以上勾留されることがあり、過少記載を2段階に分けて再逮捕した手法に関しても欧米においても同様の手法が取られていると指摘し、海外からの批判に関して「筋違い」であるとした[9]

脚注編集

関連項目編集