カルロス・ゴーン

ブラジル、フランス、レバノンの実業家

カルロス・ゴーン(Carlos Ghosn、1954年3月9日 - )は、ブラジル出身の実業家

カルロス・ゴーン
Carlos Ghosn
Carlos Ghosn 2010.jpg
2010年撮影
生誕 (1954-03-09) 1954年3月9日(67歳)
ブラジルの旗 ブラジルポルト・ヴェーリョ
住居レバノンの旗 レバノン
国籍ブラジルの旗 ブラジル
フランスの旗 フランス
レバノンの旗 レバノン
別名コストキラー、ミスター調整
民族レバノン人
出身校コレージュ・ドゥ・ノートルダム・ドゥ・ジャンブール
エコール・ポリテクニーク(1974年卒業)
パリ国立高等鉱業学校(1978年卒業)
職業実業家
著名な実績日産自動車会長
三菱自動車工業会長
ルノー取締役会長兼CEO (PDG)
活動拠点レバノンの旗 レバノン
給料10億9800万円(2016年度)[1]
(過少申告の疑いで捜査中)
宗教キリスト教マロン派
栄誉レジョンドヌール勲章(シュヴァリエ)
藍綬褒章
大英帝国勲章(ナイト・コマンダー)
日本自動車殿堂殿堂者

2004年に藍綬褒章を受章[2][3]ルノー日産自動車三菱自動車工業株式相互保有を含む戦略的パートナーシップを統括する「ルノー・日産・三菱アライアンス」の社長最高経営責任者(CEO)を務めていたが、2018年11月、東京地検特捜部金融商品取引法違反の容疑で逮捕され、その後解任された。2019年12月にレバノンに密出国している。

来歴編集

祖先について編集

祖父ビシャラ・ゴーン(Bichara Ghosn)は、レバノンで生まれ13歳でブラジルへ移住し[4][5]、ブラジル北部、ブラジルとボリビア国境近くのロンドニア州の奥地 São Miguel do Guaporé サン・ミゲウ・ド・グアポレ でゴム産業に参入[6]。最終的には農産物を売買する会社のオーナーとなった[6]

レバノン系ブラジル人である父 ジョルジ・ゴーン(Jorge Ghosn)はロンドニア州の州都ポルト・ヴェーリョに居を構え、同じくナイジェリア生まれのレバノン人の女性と結婚[7][8][9][5]。一部報道によれば、ジョルジ・ゴーンは神父を殺害した犯人のひとりとして1961年に死刑判決を受けたが、後に禁固15年に減刑され1970年に出所したものの、間もなく偽札製造の罪で逮捕され、禁固3年(別の報道では禁固15年)の刑に処された。その後、1975年に勃発したレバノン内戦の混乱に乗じてレバノンからブラジルへ移住したものと報じられている[10][11]

誕生から高等教育修了まで編集

1954年3月9日にカルロス・ゴーンが誕生した[12]。カルロスが2歳くらいの頃、不衛生な水を摂取したことで病気となり、母親とともにリオ・デ・ジャネイロに移転[13]

カルロスが6歳の時[14]、彼の3人の姉妹と母とともに[13]、祖父の母国であるレバノン・ベイルートに転居し[6]、ベイルートのイエズス会系の Collège Notre Dame de Jamhour(コレージュ・ドゥ・ノートルダム・ドゥ・ジャンブール)で中等教育を受けた[15]。その後、パリ6区にあるプレップスクール Lycée Stanislas(リセ・スタニスラス)、そして、Lycée Saint-Louis(リセ・サン=ルイ)で学ぶ[16]

1974年、エコール・ポリテクニーク(École Polytechnique)(グランゼコールの代表格でエリート養成校の一つ)を卒業し[17]、1978年にパリ国立高等鉱業学校(École des Mines de Paris)で工学博士を取得し卒業[18][17]

就職後編集

パリ国立高等鉱業学校を卒業した後、1978年に欧州最大のタイヤメーカー、ミシュラン Michelin に入社した[18][19]フランス国内で工場長、産業用タイヤ部門の研究開発ヘッドを歴任[18][20] 後1985年、30歳の時に3億ドルの市場を持つ南米ミシュランの最高執行責任者(COO)に任命された[18][21]

生誕地であるブラジルに戻ったゴーンは、彼に操業の立て直しを命じたフランソワ・ミシュランフランス語版に、ブラジルのハイパーインフレ[22] 下における事業の不採算性と困難について直訴している[21]。その中で、南米事業部におけるフランス、ブラジル、その他多国籍の従業員の間での最良な業務形態を模索し、クロスファンクショナルマネージメントチームを結成[23][24]。このブラジルでの多文化体制下での経験は、後にゴーンの経営理念の核となるクロス・カルチャーな経営スタイルと強さの基盤を形成した[25]。「人は多様性から学び、そして共通性に安らぎを感じる。」とゴーンは語っている[26]

1989年、南米事業部を黒字転換させた後[23]、ミシュランの北米事業部の社長兼(COO)に選ばれ[27]、家族を伴い米国サウスカロライナ州グリーンビルへと移転[27]。1990年にミシュランの北米の最高経営責任者(CEO)に昇格する[18][27]。1996年に、ルノーの上席副社長にヘッドハンティングされ[28]、再びフランスへと居を移したが、1999年にルノーと日産の資本提携が行われた後[29][30]、ルノーでの役職も維持しながら日産の最高執行責任者(COO)に就任[17][31]。家族とともに日本に移り住んだ[32]

米フォーブス誌には「過酷な競合が繰り広げられる世界の自動車業界において最も多忙な男」と呼ばれ[23]、日本のメディアからは「セブンーイレブン(早朝から深夜まで非常にハードに働く)」と称され[33]、パリと東京の両拠点での職務に自らの時間を分割するゴーンの航空移動距離は、一年で約15万マイルにのぼる[23]

マルチリンガルで、アラビア語フランス語英語スペイン語ポルトガル語の5言語を流暢に話す[28]。さらに日本語も学んでおり、日産自動車社内で自らの肉声で語る際には、あえて日本語での演説を行うようにしているという[34]。ブラジルとフランス両国の市民権を有し[35]、また少年期10年の間居住し、初等ー中等教育を修了したレバノンとの強い繋がりも維持。レバノン北部海岸沿いの街 Batrounにある環境に配慮したワイン農場で、ワインの輸出も行う「IXSIR」に出資している[36]

2018年11月、金融商品取引法違反で東京地検特捜部に逮捕され、日産、三菱の会長職を解任される。2019年1月、特別背任罪で追起訴された。

2019年1月、ルノーの会長職を辞職。

2019年4月、日産自動車の取締役を解任される。

2019年12月、レバノン密出国する。

人物編集

 
2009年11月8日世界経済フォーラムインド経済サミットにて

両親はレバノン人で、ブラジルで誕生。幼少期をブラジルで過ごし、中等教育は父の母国であるレバノンベイルートで受けた。フランスの工学系グランゼコールの一つであるパリ国立高等鉱業学校を卒業した後、フランス大手タイヤメーカー、ミシュランに入社し18年間在籍。

ミシュラン社での業績が評価され、ルノーに上席副社長としてスカウトされ、同社の再建にも貢献した。

1999年3月、当時経営と財政危機に瀕していた日産がルノーと資本提携を結び[37]、同年6月、ルノーの上席副社長の職にあったゴーンが、ルノーにおけるポジションを維持しつつ、日産自動車の最高執行責任者(COO)に就任。後に日産自動車の社長兼最高経営責任者(CEO)、ルノーの取締役会長兼CEO(PDG)、ルノー・日産アライアンスの会長兼最高経営責任者(CEO)に就任。

「コストキラー」[38]「ミスター調整(FIX IT)」[39] などの異名をとるゴーンは、日産再建に向け社員とともに「日産リバイバルプラン」を作成。短期間で日産の経営立て直しを果たし、2003年にフォーチュン誌は、ゴーンを「アメリカ国外にいる10人の最強の事業家の一人」と称している[40]。2013年6月から2016年6月には、ロシアの自動車メーカのアフトヴァース会長も務めていた[41][42]

レバノンとブラジルとフランスの多重国籍を有する。

2016年10月より、ゴーンはルノー・日産アライアンスに加わった三菱自動車工業の代表取締役会長に就任。2017年2月23日、日産自動車は同年4月1日付で副会長兼共同CEOの西川廣人が代表取締役社長兼CEOに就任することを発表した。ゴーンは引き続き日産の代表取締役会長を務め、アライアンス全体の経営に注力する。

2020年8月4日に発生したベイルート港爆発事故において、ゴーンと妻のキャロルは無事であったが、逃亡先の住居は破壊された[43][44]

公開されている個人情報編集

ゴーンは1984年から2010年まで[45]リタ(Rita)と結婚していて、子供は女子3人(Caroline、Maya、Nadine)、男子は1人(Anthony)がある。リタは『ゴーン家の家訓』(集英社、2006年)を出版しており、夫を「透徹した批判眼の持ち主であり、最も信頼できるパートナー」と述べている[46]

2016年5月、ガールフレンドのキャロル・ナハス(Carole Nahas)と再婚し、同時にゴーンの60歳の誕生日祝いも兼ねて、結婚披露宴ベルサイユ宮殿大トリアノン城で行なっている[47][48][49]

ゴーンの個人住居は6軒、東京パリベイルートリオデジャネイロアムステルダムニューヨークにあり、購入費用は日産自動車に負担させていると様々なメディアが伝えている[50]

事件編集

東京地検特捜部による逮捕と一連の疑惑の発覚編集

2018年11月19日、日産において開示されるゴーン自身の役員報酬額を少なくするため、長年にわたり、実際の報酬額よりも少なく見せかけた額を有価証券報告書に記載していたとして、東京地検特捜部により金融商品取引法違反容疑で代表取締役グレッグ・ケリー [51][52]とともに逮捕された。ビジネスジェットで羽田空港に着陸したタイミングで特捜部の捜査員に逮捕された形となった[53]。日産自動車の西川廣人社長は、同年11月22日に招集する取締役会議でゴーンを同社の会長職を解任する方針と説明した。日産は内部通報により、数か月間の内部調査を行ってきたことをプレスリリースで明らかにしている[54][55]

逮捕を受け、日産自動車の川口均CSOが総理大臣官邸を訪れ、菅義偉内閣官房長官に謝罪や日仏関係の維持のための協力要請を行った[56][57]駐日フランス大使館によると、翌20日には、ローラン・ピック駐日フランス特命全権大使東京拘置所を訪れ、ゴーン会長と面会を行ったとされる[58]

11月22日、日産の取締役会において日産の会長職と代表取締役から解任され取締役となり[59]、同月26日には三菱自動車においても会長職と代表取締役から解任され取締役となった[60]

2018年12月、東京地検はカルロス・ゴーン、グレッグ・ケリー、日産自動車を金融商品取引法違反で起訴した[61]

2019年1月、東京地検はカルロス・ゴーンを特別背任罪で追起訴した[62]

2月6日、フランスのフィガロ電子版は、ゴーンが2016年に開いたベルサイユ宮殿での結婚披露宴の際に、ルノーの資金を不正に使った疑いがあると報道し、事件はルノーにも飛び火した[63]

3月5日、東京地方裁判所保釈を許可する決定をし、検察の準抗告も同日深夜に棄却され、翌6日、保釈保証金(金商法違反事件で2億円、特別背任事件で8億円)の納付後に保釈された[64][65]。東京地裁の決定に対し、東京地検の久木元伸次席検事は「保釈条件に実効性がない」とする異例のコメントを行った[66]

3月12日、日産の社内調査において、少なくとも50件の不正が発覚した[67]

4月2日、ルノー社が社内調査を仏検察当局に対し報告、それによればゴーンのCEO在籍時の2011年から5年間に渡り、オマーンの販売代理店スハイル・バハワン・オートモービルズに数百万ユーロの資金が流れていた他、CEOオフィスからもレバノンや英領バージン諸島の会社などを含む様々な組織に支払われており、その中にはカルロス・ゴーンの息子のアンソニー・ゴーンが共同出資者に含まれている会社もあった[68]

4月4日、中東オマーンの販売代理店側に支出された日産の資金の一部を不正に流用した疑いが強まったとして、東京地検特捜部は特別背任の容疑で4度目の逮捕をした[69]。検察内部には在宅での追起訴でよいとの慎重論もあったが、いわゆる「オマーンルート」疑惑の捜査のため再逮捕になったと報じられている[70]。このオマーンルート並びにサウジアラビアルートでは、カルロス・ゴーンと親しかった実業家のハリド・ジュファリや上記のスハイル・バハワンも関わっていると報じられている[71]他、代理店やゴーン自身が事実上管理する投資会社であるレバノンのGFIから、ペーパーカンパニーを介して自身の妻と息子(アンソニー・ゴーン)に送金すると言った手口が浮かび上がっている[72]

4月23日にパリで開かれた日仏首脳会談でフランスのエマニュエル・マクロン大統領は日本の安倍晋三内閣総理大臣に対してカルロス・ゴーンを適切に処遇するよう求めた[73]

4月25日、再度保釈された。前回の保釈時は作業着姿に変装していたが、今回はノーネクタイのスーツ姿での保釈となった。今回の保釈に対して検察幹部(氏名不詳)は「明らかに地裁の判断は矛盾しており、『保釈ありき』ではないか」「裁判所は『人質司法』という言葉に完全にひよっている(おじけている)。」との見解を表明している[74][75]

その後アメリカの証券取引委員会とは役員報酬の虚偽記載について100万ドルの課徴金を支払うことで和解。日本との裁判に集中する構えで、日本に対しては引き続き無罪を主張していくとする[76]

人質司法との指摘編集

AFP通信元東京支局長のフィリップ・リエスは、フランス経済紙『Les Echos』で、身柄を東京拘置所において108日に渡り身柄拘束されたことについて、自身が40年前にポーランド統一労働者党政権下のポーランド人民共和国で、スパイ容疑で収監された経験と比較し「当時は独房ではなく、日常着でいられた。妻と毎日、数分間面会する権利も得た」日本の検察は「途方もない権力」を担い、容疑者に自白を迫っていると訴え、「それが有罪率99%の原因。スターリン政権下のソ連でも、これほど高率ではなかった」と批判した[77]

フランスの新聞フィガロ』は、カルロス・ゴーンの逮捕・勾留について『人質司法』であるとの見解を示した[78]CNNは、カルロス・ゴーンの事件について hostage justice英語を用いて報じている[79]。2019年(平成31年)4月25日、東京地方裁判所の保釈決定に対して、検察庁幹部(氏名不詳)は「裁判所は『人質司法』という言葉に完全にひよっている。」との見解を表明している[80]

一方、中華人民共和国出身で比較刑事法学が専門の王雲海一橋大学大学院法学研究科教授は、フランスでは予備審問で劣悪な環境下において4年以上勾留されることがあり、過少記載を2段階に分けて再逮捕した手法に関しても、欧米でも同様の手法が取られていると指摘し、海外からの批判に関して「筋違い」であるとした[81]

レバノンへの密出国編集

レバノンの治安当局者によると、ゴーンはプライベートジェットを用いてトルコアタテュルク国際空港を経由し、機材を乗り換えレバノンの首都ベイルートにあるベイルート国際空港に日本時間の2019年12月31日午前6時30分過ぎに到着したという[82][83][84][85][86]

レバノンの複数のメディアは「クリスマスディナーの音楽隊を装った民間警備会社のグループが、ゴーンの滞在先に入って楽器のケースに隠して連れ出した」「レバノンに到着して大統領と面会した」などと報じている[85][87]インデペンデント・アラビーヤによると、本事件は「軍事関連会社」が実行し、「2,000万ドル(約22億円)以上の費用がかかった」と報じられており[88]ウォールストリート・ジャーナルによると、米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)出身の男性ら2人の協力で、「音響機器運搬用の黒い箱」の中に隠れたと報じられている[89][90][91]

日本の出入国在留管理庁データベースには出国の記録が無い。レバノンのジュレイサティ国務大臣は、トルコから同国への入国時にはフランスのパスポートとレバノンの身分証明書を所持しており正当に入国したとしており、同国政府関係者によると本名名義のフランスの旅券を用いていたという。国土交通省大阪航空局関西空港事務所は、29日夜に関西国際空港を発ってイスタンブールに向かったプライベートジェットが1機あることを確認している[92][85][93]

プライベートジェットの場合には、保安検査(航空機内に積み込む荷物の検査)の「法的な義務」はなく、機長が実施の必要性を判断しており[94]、「X線検査」の有無についても状況によって異なっている[95]。関西国際空港関係者は、「ケースが大きくて照射装置に入りにくかったため、X線検査を行わなかった」と証言している。そのため、ゴーンが大きな箱のようなケースに入った状態で、X線による検査を受けないままプライベートジェットの機内に積み込まれ、正規の出国手続きを受けずに離陸した可能性が浮上している[96]

日本の裁判所はゴーンを保釈する際に、「海外渡航の禁止」という条件を付しているが、ゴーンはこれに違反したことになった[83][97]

2019年12月31日、ゴーン本人は、この事件について、「私はレバノンにいる」という内容の声明を発表し[98][99]、「もはや私は有罪が前提とされ、差別がまん延し、基本的な人権が無視されている不正な日本の司法制度の人質ではない」「私は正義から逃げたわけではない。不公正と政治的迫害から逃れたのだ」と述べている[100]

本人の初公判は2020年4月21日に開かれる方向で調整が進められていたが、刑事訴訟法に基づくと今回の場合では、本人が日本に帰国しなければ公判は開くことができない規定になっている。日本はレバノンと犯罪人引き渡し条約を締結しておらず、同国の了解を得られなければゴーンの身柄が日本へ引き渡されることはない。帰国が実現しなければ事件の審理に大きな影響を及ぼすことが懸念される[101][97]

東京地方検察庁は、2019年12月31日、東京地方裁判所にゴーン被告の保釈取り消しを請求した。同日夜、東京地方裁判所は保釈を取り消す決定をすると同時に保釈金15億円も没取された[102]。これはかつて過去最高額の没取だった、許永中(イトマン事件)の6億円を超え、過去最高の没取額とみられる[103]

2020年1月2日、日本政府は、国際刑事警察機構(ICPO)に対し、レバノン政府にゴーンの身柄を拘束するように要請することを求めた[104]。レバノン国営通信社NNA[要曖昧さ回避]は、「ICPOからの赤手配書[105]をレバノンの検察当局が受領した」という内容の報道を行っている[106][107]

2020年1月8日、レバノンで記者会見を開き、自身の追放に西川廣人元社長、川口均元副社長、豊田正和経済産業審議官らが関わったと主張した[108]。2021年3月に改めて川口均がクーデター説を否定した[109]

狭まる包囲網編集

本密出国事件においては多数の共犯者がゴーンの密出国を手助けしたと見られ、各国で幇助犯の逮捕が相次いだ。

1月2日にゴーンの密出国に協力したとして、プライベートジェット機を運行したMNG航空パイロット4名と会社幹部1名、客室乗務員2名の計7名がトルコで逮捕され5月7日にトルコ検察当局に起訴された[110][111]。一方で現地のヒュッリイェト新聞は、会社幹部(オカン・キョセメン被告)の「知人(ニコラス・メザロス容疑者)から家族に危害を加えると脅された」という証言も報じている[112][113]。2021年2月24日、イスタンブールの裁判所は、オカン・キョセメン被告とパイロット2人にいずれも禁錮4年2月の実刑判決を言い渡した。他の操縦士2人と客室乗務員1人は無罪、別の客室乗務員1人は公訴棄却となった[114][115]

2020年1月7日、東京地検特捜部が証人尋問で嘘の証言をしたとして、偽証の容疑でゴーンの妻のキャロル・ナハスの逮捕状を取得[116]。こちらも夫同様逃亡中であり、ICPOを通じて国際手配が要請された[117]。また、同月、東京地検特捜部は、ゴーンの逃亡を手助けしたとしてグリーンベレー出身男性ら2人を含む3人の逮捕状を取得した。その後、2020年5月20日に、アメリカ当局によって元グリーンベレー隊員のマイケル・テイラーと、その息子のピーター・テイラーが身柄を拘束され[118][119]、日本政府が引き渡しを請求した[120][121]

アメリカ国務省は2020年10月に犯罪人引き渡し条約に基づいて容疑者の身柄を日本側に引き渡すことを認めたが、容疑者側が「不当な扱いを受ける恐れがある」として差し止めを申し立てた。しかし、連邦地方裁判所連邦控訴裁判所、および、連邦最高裁判所が申し立てを退けたため、2021年3月2日未明(日本時間)にボストンローガン空港でマイケル・テイラーとピーター・テイラーの身柄が日本側に引き渡され、2人を乗せた飛行機が日本に向けて離陸した[122]。東京地検特捜部によって犯人隠避容疑で逮捕されたテイラー親子は、2021年3月2日16時過ぎ(日本時間)に成田空港に到着し、入国手続きやPCR検査を受けた後、同日21時30分過ぎに東京拘置所に収容された[123][124]

米当局の捜査により、逃亡密出国の手口の詳細が明らかになりつつある[125]。報道によれば、六本木にあるグランドハイアット東京の部屋を手配し、ゴーンとともに犯行の打ち合わせをしていた。逃亡当日は午後2時半頃に保釈中の自宅から同ホテルへ徒歩で向かった。同ホテルでカルロス・ゴーン、マイケル・テイラー、ピーター・テイラー、ジョージ・ザイエクの4人が合流し、ピーター・テイラーのみ成田空港から中国経由で移動。残りの3人は品川駅までタクシーを使用し、東海道新幹線新大阪駅に移動。関西国際空港にほど近いスターゲイトホテル関西エアポートで、ゴーンが箱に入って「荷物」として積み込まれ、そのまま逃亡した[126][127]。共犯者のうち残りの1人、ジョージ・ザイエクは現在も逃亡中である[128]

2020年7月には、ブルームバーグニュースが、息子アンソニー・ゴーンがピーター・テイラーに仮想通貨プラットフォーム、コインベースを介して支払いを行っていたと報じている[129]

なお逃亡事件によって共犯に問われたグレッグ・ケリー被告の裁判はゴーン抜きで進められている。

2021年4月3日、ゴーンは産経新聞の取材に対して、改めて日本の司法批判と自己の逃亡の「正当化」を行った[130]

2021年5月には、フランスの司法当局が同月末にもルノー資金流用事件の捜査のためレバノンで事情聴取を行う意向を明らかにし[131]、同月31日よりオマーンルート事件を含む捜査当局の聴取が始まった[132]

2021年5月20日、オランダアムステルダムの地方裁判所は、ゴーンが日産自動車と三菱自動車がオランダに設立した統括会社(日産三菱BV・通称NMBV)に対して「労働法違反があった」としてゴーンが起こした未払い賃金の返還訴訟を却下、裁判所は報酬を不正に受け取ったとしてゴーンに対して逆に500万ユーロを返還するように命じた[133]

2021年5月26日には、一連の事件に伴う日産自動車の株価下落で損失を被ったとして、アメリカ・イギリス・ドイツなどの90の海外機関投資家が合計約345億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした[134][135]

一連の事件

人物・団体

金融証券

取引法

違反事件

ルノー資金

流用事件

サウジアラビア

ルート事件

偽証事件 オマーン

ルート事件

逃亡密出国事件 オランダ

NMBV事件

現在

カルロス・ゴーン 逃亡中
グレッグ・ケリー 公判進行中
キャロル・ナハス 逃亡中
アンソニー・ゴーン
マイケル・テイラー 米国で逮捕→日本に移送され、東京拘置所に収容
ピーター・テイラー 米国で逮捕→日本に移送され、東京拘置所に収容
ジョージ・ザイエク 逃亡中
ニコラス・メザロス
ハリド・ジュファリ
スハイル・バハワン
日産自動車
三菱自動車
ルノー
MNG航空 幹部1人とパイロット2人に実刑判決
GFI

ビジネスにおけるキャリア編集

ミシュラン編集

大学卒業後、1978年に欧州最大のタイヤメーカー、ミシュランMichelinに入社[17]。3年目の1981年に、27歳でフランス国内のル・ピュイ工場の工場長に抜擢され[136]、1984年に同社の産業用タイヤ部門の研究開発ヘッドを務めた[137]。翌1985年には、ブラジルを拠点とするミシュランの南米事業の最高執行責任者(COO)に任命された[137][17]

5年後の1990年、35歳でミシュランの北米事業部の社長兼最高経営責任者(CEO)に就任し、ユニロイヤル・グットドリッチタイヤ社を買収後のリストラを主導するなど、18年間のミシュラン在籍期間中、重要な役職を歴任した[17]

ルノー編集

1996年、ルノー会長(当時)のルイ・シュバイツァーフランス語版からスカウトされ[138]、購買、研究、先進技術のエンジニアリングと開発、製造、および南米ルノーのスーパーバイジング担当の上席副社長として、ルノーに入社[20][139]。シュバイツァー自身、国営自動車会社ルノーの時代に経営再建の為、請われてフランス予算省の上級官僚から転職した人物[140]。ルノーは過激左派組織のテロなど[141]、フランス国内外での混乱を生じながらも民営化[142]、民営化後も人員削減を押し進め、いったんは国内集中にシフトしていた事業展開を再び国際化へと方針転換していた最中で、ゴーンの手腕をかったシュバイツァー会長が自らヘッドハンティングを行った[138]

ルノーに入社したゴーンは、ベルギーのビルボールド工場閉鎖など不採算事業所の閉鎖や[143]、調達先の集約などで経費の圧縮を進め、赤字だったルノーの経営を数年で黒字へと転換[144]。これによりゴーンは「コストカッター」「コストキラー」の異名を拝するようになった[38]。ルノーでの部下にディディエ・ルロワトヨタ自動車取締役副社長などがいる[145]

ルノー・日産の資本提携と日産の復活編集

 
麻生内閣の「仕事と生活の調和推進プロジェクト」に参画
 
ルノーと日産自動車の共通のプラットフォームを使用するルノー・クリオ(日本名 ルノー・ルーテシア)
 
本牧埠頭を視察するゴーン(2011年7月)

1999年3月27日にルノーが日産の株式の36.8%を取得し、ルノーと日産の間で資本提携が結ばれ[31]、同年6月、ゴーンはルノーにおける役割を維持したままで、最高執行責任者(COO)として日産に入社した[31][29]。翌年2000年6月に日産自動車の取締役に就任[29]。さらに2001年6月に日産の最高経営責任者(CEO)に選出された[30]

ゴーンが入社した当時の日産は約2兆円(200億ドル)の有利子負債を抱え[146][147]、国内販売でもラインナップされた46モデル中、3モデルだけが利益をあげている状況だった[148]。ルノーからの巨額な資金投入が行われた上で[29]、ゴーンの指揮下、両社の間でプラットフォームやエンジン、トランスミッションなどの部品の共通化、購買の共同化などを通じて両社のコストダウンを行う[149]

日産リバイバルプラン」の下[150][151]、東京都武蔵村山市にあった日産自動車村山工場などの生産拠点の閉鎖[152] や子会社の統廃合[147][153]、航空宇宙機など余剰資産の売却[154] や21,000人(総従業員の14%)を目標とした早期退職制度による人員の削減など大幅なリストラを行った[155]。同時に新車種の投入、インテリア・エクステリアデザインの刷新やブランドイメージの一新などの計画を次々に敢行[156][157]。また、鋼板調達先を選別強化・集約しコスト削減を図ったことは「ゴーンショック」と呼ばれ、日本の鉄鋼業界再編の契機となった[158]

日産自動車社内の公式言語を日本語から英語に変更し[159][23]、初めてのキー・グローバル戦略会議は[160]、ヨーロッパや北米の幹部も出席して開催された。日本の商慣習にとらわれない過激な手法に、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が「公共の怒りの対象となる」とのコメントを掲載するなど[161][162]、先行きを危惧する声も少なからずあったが、ゴーンは自らテレビコマーシャル出演し[163]、インタビューに応えるなど、積極的にメディアに登場[164]

残された日産自動車社員および株主・関係者への配慮を見せ[165]、日産自動車株主総会を日本語で行うなど[166]、全ての利害関係者に向けて社内改革をアピールした。その結果、1998年には約2兆円あった有利子負債を[146]、2003年6月には全額返済(社債を発行して、銀行からの借入金を全部返済している)[167]。1999年度には1.4%であったマージンは2003年度には11.1%へと増加させる成果をあげ[168]、12%前後まで落ちた国内シェアを20%近くまで回復させた[169]

同時に、2002年にゴーンが打ち立てた3か年経営計画「日産180[153](全世界での売上台数を100万台増加させ、8%の営業利益率を達成し、自動車関連の実質有利子負債をなくす)における販売台数目標達成のために、計画終了(2005年9月30日)前に集中して新型車投入を行ったことによる、計画終了以降の国内販売台数の深刻な低迷や、「ゴーン以前」に入社した居残り組と、「ゴーン後」に入社した中途採用組の社内闘争など、深刻な問題を残したままの親会社への復帰に疑問の声も上がっている。

2005年5月には、ルノーの取締役会長兼CEO(PDG)にも選ばれ[170]、これによりゴーンはルノーと日産というフォーチュン・グローバル500にリストされる2社を同時に率いる世界で初めてのリーダーとなった[171]。ゴーンは両社の株式持ち合いと同等所有権を含む戦略的パートナーシップを統括するルノー・日産アライアンスの社長兼最高経営責任者(CEO)も兼務している。2010〜2014年の間、ルノー・日産アライアンス(AvtoVAZを含めた)は、全世界自動車市場の約10%のシェアを維持し続けている[172][173][174][175]。2014年の時点でアライアンスは世界第4位の自動車グループとなった[176][175]

2006年以降、関連会社の日産と歩調をあわせるようにルノーの業績も悪化していることもあり、ルノーの取締役会長兼CEO(PDG)になった後の2006年2月には、日産に対するリストラのような従業員の解雇を行わずに、2009年の販売台数を2005年の約250万台から80万台多い330万台とし、2009年の売上高に対する営業利益率を6%にするという内容の中期経営計画「ルノー・コミットメント2009」を発表した[177]

2011年3月11日、大規模自然災害となった東日本大震災が発生した。ゴーンは地震と津波による被害の復旧支援活動を率先して行う[178][179] に留まらず、震災による打撃とともに、福島第一原子力発電所事故の影響下にあった、福島いわきエンジン工場の操業回復をいち早く決定[180][181]。再構築を推進、奨励する為、自ら頻繁にテレビ番組などに登場した[182][183][184][185]。さらに、2011年5月にゴーンは、最低100万台の日本国内での自動車およびトラック生産をコミット[186][187]

2012年6月に、OAO AvtoVAZの取締役会の副会長に選ばれ[188][189]、翌2013年6月には会長に任命された[190][191] ルノーは、2008年に、会社の25%の株式を取得した後、OAO AvtoVAZ との戦略的パートナーシップを始めていた[192] さらに、極度の経営不振の状態にあった日産自動車を立て直したということで、他社の社外取締役に招聘されている[193]

2013年6月に、ゴーンはロシアの会社アフトワズの会長に任命された。ゴーンは2016年6月まで、この地位を保持した。2018年に、特別背任の疑いで、グレッグ・ケリーとともに日産の会長を解雇された。特別背任の容疑があるため4度再逮捕された[194][195]

三菱編集

2016年10月、日産は三菱自動車工業の34%の投資買収を完了した。ゴーンはルノー・[196]日産における地位に加え三菱の会長として就任した。これは燃費データ改竄における長期に渡る不祥事と、その影響からの利益減収回復を図ることを目的とする。日産三菱パートナーシップは、三菱の電気自動車における共同開発開発も含んでいる。ルノー・日産・三菱の提携は、トヨタ自動車、フォルクスワーゲン、ゼネラルモーターズに続く自動車グループとしては、世界第4位の地位を確立した[197][198]

アドバイザー関連編集

2015年までブラジルの銀行バンコ・イタウの国際諮問委員を務めた[199][200]中国清華大学の経済管理学院顧問委員[201][202][203]ベイルートのアメリカン大[204]セント・ジョセフ大学の戦略会議メンバーを務めている[203]。2014年5月には欧州自動車工業会の会長に選出され、ゴーンは世界経済フォーラムの知事としての役割を果たす[205]

パーソナリティ編集

 
2006年度のチャンピオンマシンのルノーR26
 
本牧埠頭を視察するゴーン(2011年7月)

経営陣のトップであるが自らハンドルを握って運転する事を好む。この事はゴーンが立場を越えてルノーや日産自動車の車種に限定されず、自動車の運転に好意的な事を示した過去の報道からも明らかである。この事は、ゴーン体制下の日産自動車が、2002年の排ガス規制で生産終了が決定していたスカイラインGT-Rの後継車種である日産・GT-Rや、フェアレディZを復活させた大きな要因である(両車ともゴーン自らゴーサインを出し、自ら発表している。)。元々スポーツカーが好きであり、北米ミシュランに勤務していた際の愛車がフェアレディZ32であった事も要因と言われている。フェアレディZ33発表時には、かねてよりZファンだったことを公言しており、フェアレディZの復活を誰よりも喜んでいたという。『日経スペシャル カンブリア宮殿』に出演した際に、「ハンドルを握って5分も運転すれば、どんな嫌なことも吹き飛ぶ。車以外にこんな製品がありますか?」と発言している。

しかしながら、日産自動車のセドリック/グロリアサニーといった伝統的な車名を次々に廃止したことに対しては、ゴーン自身は車名が体現する伝統の大事さを訴え、販売部署が望んだブランド名変更に最後まで反対だったという[206]。一方、日産が長年参戦してきたル・マン24時間レースからの完全撤退など、モータースポーツに関しては比較的否定的な立場であり、ルノーF1チームが2005年2006年の2年連続で世界チャンピオンに輝いたにもかかわらず、同チームの継続的な参戦にはブランドイメージ形成や予算の面から懐疑的だと伝えられている。ただしF1チームの中では予算が少ないと言われているルノーでも、年間予算は100億円を優に超える(ただし、SUPER GTに関しては例外中の例外であり、近年ではGT-RによるFIA GT選手権への参戦も果たしている)。

就任1年目の1999年夏に第70回都市対抗野球を視察に訪れた際、スタンドの応援団と観客の盛り上がりに感銘を受け、その直後に記者会見を開いて当時存廃問題が取りざたされていた野球部の存続を明言し、「都市対抗野球こそが日本の企業文化の象徴である」とまで公言した。しかしながら、2009年には金融危機による不況により、日産はゴーン体制初の営業赤字に転落し、その対策として、グローバル人員を2万人削減すると同時に、野球部を含む運動部の休止が発表された。

受章・栄典編集

 
2002年10月16日総理大臣官邸にて内閣総理大臣小泉純一郎(右)から「企業改革経営者内閣総理大臣表彰」を授与された

2001年にベスト・ファーザー イエローリボン賞(経済部門)を受賞。

2002年にフランス政府から、レジョンドヌール勲章シュヴァリエ)を授与された[207]

2004年に外国人経営者として初めて藍綬褒章を受章した[208]。同年、法政大学名誉博士になっている。2005年には早稲田大学からも名誉博士号を授与されている。極度の経営不振と経済的危機の状態にあった日産自動車を立て直したということで、他社の社外取締役に招聘されたり、大学の委員なども務めた。更には2002年に「企業改革経営者内閣総理大臣表彰」[209]を受けている。また、自らコマーシャルに出演するなど[210][163]、マスメディアにも積極的に登場。ビッグコミックスペリオールに「カルロス・ゴーン物語 ―企業再生の答がここにある!!―」[211]が掲載されるなど、広く知られる存在となっている。

2006年に、KBE大英帝国勲章・ナイトコマンダー)を授与された[212]

脚注編集

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注釈・出典編集

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参考文献編集

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  • 遠藤徹「ゴーン神話はこうして作られた」ぱる出版。
  • 長谷川洋三「カルロス・ゴーンが語る5つの革命」講談社。
  • カルロス・ゴーン「ゴーン・テキストービジネスの教科書」文藝春秋。

関連項目編集

外部リンク編集

先代:
(新設)
日産自動車COO
初代:1999年 - 2001年
次代:
志賀俊之
先代:
塙義一
日産自動車CEO
第2代:2001年 - 2017年
次代:
西川廣人
先代:
塙義一
日産自動車会長
第6代:2003年 - 2018年
次代:
(空席)
先代:
益子修
三菱自動車工業会長
2016年 - 2018年
次代:
益子修