化学物質(かがくぶっしつ、: chemical substance)とは、一定の化学組成と特徴的な性質を持つ物質の一形態である[1][2]。化学物質には、単体(単一の化学元素からなる物質)[3]化合物、または合金がある。

水蒸気と液体水は、同じ純粋な化学物質、水の2つの異なる形態である。

物理的な手段によって、より単純な構成成分に分離できない化学物質は「純粋(pure)」であると言われ[4]、この概念は混合物と区別することを意図している。純粋な化学物質の一般的な例は純水で、河川から単離されたものであっても、実験室で作られたものであっても、同じ性質を持ち、水素(H+)と酸素(O2-)の比率も同じである。純粋な形でよく目にする他の化学物質には、ダイヤモンド(炭素、C)、(Au)、食塩(塩化ナトリウム、NaCl)、砂糖スクロース、C12H22O11)などがある。しかし実際には、完全に純粋な物質ということはなく、化学物質の純度は、その化学物質の用途に応じて規定される。

化学物質は、固体液体気体プラズマなどのさまざまな状態で存在しており、温度圧力時間の変化によって、これらの物質のの間を行き来することがある。化学物質は、化学反応によって結合したり、他の物質に変換することができる。

定義 編集

 
さまざまな溶媒中における単一化学物質(ナイルレッド)の可視光および紫外光下での色。化学物質が溶媒環境とどのように動的に相互作用するかを示している。

一般化学の教科書には、化学物質とは「明確な化学組成を持つあらゆる物質 (en:英語版」と定義しているものがある[5][要ページ番号]。この定義によれば、化学物質は純粋な化学元素か、純粋な化合物かのどちらかである。しかし、この定義には例外もあり、純物質は、明確な組成と明確な特性の両方を持つ物質の一形態として定義することもできる[6]CAS(アメリカ化学会の一部門)が公表している化学物質索引には、組成が不確かな合金もいくつか含まれている[7]。また、非化学量論的化合物は、(無機化学において)一定組成の法則に反する特殊なケースであり、水素化パラジウム英語版の場合のように、混合物と化合物との間に境界線を引くのが難しい場合がある。化学品(chemicals)または化学物質(chemical substances)のより広義の定義として、たとえば、米国TSCA英語版による『「化学物質」という用語は、特定の分子的同一性を持つ有機または無機の物質(化学反応の結果または自然界に存在するこれらの物質の全部または一部の組み合わせを含む)、および元素または結合していないラジカル。』がある[8]

地質学 編集

地質学では、均一な組成の物質を鉱物といい、複数の鉱物(異なる物質)の物理的混合物(集合岩英語版)を岩石と定義する。しかし、多くの鉱物は互いに溶け合って固溶体を形成するため、化学量論的には混合物であるが、一つの岩石は均一な物質である。長石はその代表例で、アノーソクレースはアルカリアルミニウム珪酸塩であり、アルカリ金属はナトリウムまたはカリウムのいずれかである。

法規則 編集

法規制上の「化学物質」の定義には、純粋な物質と、組成または製造工程が規定された混合物の両方が含まれることがある。たとえば、EUREACH規則では、「単一成分物質」、「多成分物質」、「組成が未知または変動する物質」を定義している。後者2つは複数の化学物質から構成されているが、その同一性は、直接的な化学分析によるか、または単一の製造工程を参照して確認することができる。たとえば、木炭は非常に複雑な部分的重合型の混合物であるため、その製造工程によって定義される。したがって、正確な化学的同一性は未知であるが、同定は十分な精度で行うことができる。CAS索引は混合物も対象としている。

ポリマーはほとんどの場合、モル質量が異なる分子の混合物として現れ、それぞれが個別の化学物質とみなされる。しかし、ポリマーは、既知の前駆体または反応、およびモル質量分布英語版によって定義することができる。たとえば、ポリエチレンは、 -CH2- 反復単位の非常に長い鎖の混合物であり、一般にLDPEMDPE英語版HDPEUHMWPEなどのいくつかのモル質量分布で販売されている。

日本の法令による定義 編集

歴史 編集

「化学物質」という概念は、化学者ジョゼフ・プルースト塩基性炭酸銅などの純粋な化合物の組成についての研究に続き、18世紀後半に確立した[9]。彼は、「ある化合物のサンプルはすべて同じ組成を持つ。つまり、すべてのサンプルは、その化合物中に存在する元素の質量比が同じである」と推論した。現在、これは一定組成の法則(定比例の法則)として知られている[10]。その後、特に有機化学の領域で化学合成の方法が進歩し、多くの化学元素が発見され、化学物質から元素や化合物を単離・精製する分析化学の領域で新しい技術が確立されて、現代化学の確立に到ったことで、この概念はほとんどの化学の教科書で説明されているように定義されるようになった。しかし、この定義については、化学文献で報告されている多数の化学物質を索引化する必要があるという理由で、いくつかの論点がある。

異性体はまったく同じ組成を持つが、原子の配置(配列)が異なるため、初期の研究者たちは大いに驚いた。たとえば、ベンゼンの化学的同一性については、フリードリヒ・アウグスト・ケクレによって正しい構造が説明されるまで、多くの憶測があった。同様に、原子は堅固な三次元構造を持ち、そのため三次元配置のみが異なる異性体を形成できるという立体異性体という考え方も、異なる化学物質という概念を理解する上で重要な一歩となった。たとえば、酒石酸には3つの異なる異性体があり、1つのジアステレオマーが2つのエナンチオマーを形成する一対のジアステレオマーである。

化学元素 編集

 
天然の硫黄結晶。硫黄は元素状硫黄として、硫化物硫酸塩鉱物として、また硫化水素として天然に存在する。

化学元素chemical element、元素)は特定の種類の原子から構成される化学物質であるため、化学反応によって分解したり、別の元素に変換することはできないが、原子核反応によって別の元素に変換することはできる。これは、ある元素のサンプルに含まれる原子はすべて同じ数の陽子を持つが、中性子の数が異なる同位体である可能性があるためである。

2019年現在、既知の元素は118種類あり、そのうち約80種類は安定元素で、放射性崩壊によって他の元素に変化することはない。元素の中には、複数の化学物質(同素体)で存在するものがある。たとえば、酸素は二原子酸素(O2)としても、オゾン(O3)としても存在する。元素の過半数は金属に分類される。金属は、など、特徴的な光沢を持つ元素である。典型的な金属は電気や熱をよく伝導し、展性延性がある[11]炭素窒素酸素など約14-21種類の元素は非金属に分類される[12]。非金属は前述のような金属的な性質は持たないが、電気陰性度が高く、陰イオンを形成する傾向がある。ケイ素のような特定の元素は、金属に似ていることもあれば、非金属に似ていることもあり、半金属元素(メタロイド)と呼ばれている。

化合物 編集

 
フェリシアン化カリウムは、カリウム、鉄、炭素、窒素の化合物である。シアン化物陰イオンを含むが、それを放出することはなく、毒性を示さない。

化合物とは、特定の原子イオンの集合から構成される化学物質である。2種類以上の元素が化学反応によって1つの物質に結合したものが化合物である。すべての化合物は物質であるが、すべての物質が化合物というわけではない。

化合物には、原子どうしが結合して分子を形成しているものと、原子、分子、またはイオンが結晶格子を形成した結晶がある。炭素原子と水素原子を主な成分とする化合物を有機化合物といい、それ以外は無機化合物という。炭素と金属の結合を含む化合物は有機金属化合物という。

各原子が電子を共有する化合物は共有結合化合物という。逆電荷を帯びたイオンどうしからなる化合物はイオン化合物またはという。

配位錯体(はいいさくたい)は、共有結合やイオン結合がなくても、配位結合によって物質が結合している化合物である。配位錯体は、単純な混合物とは異なる、明確な性質を持つ物質である。典型的には、銅イオンなどの金属が中心にあり、アンモニア分子の窒素や水中の水分子の酸素のような非金属原子が金属中心に配位結合を形成する(例:硫酸テトラアンミン銅(II)水和物英語版、[Cu(NH3)4]SO4·H2O)。この金属を「金属中心」といい、配位する物質は「配位子」(リガンド)という。しかし、三フッ化ホウ素エーテラート英語版 BF3OEt2 の例に示されるように、中心が金属である必要はなく、ここでは強ルイス酸性であるが、非金属のホウ素中心が「金属」の役割を果たす。配位子が複数の原子で金属中心と結合している場合、その錯体はキレートと呼ばれる。

有機化学では、同じ組成と分子量を持ちつつ、互いに異なる化合物が存在することがある。一般にこれらを異性体という。通常、異性体どうしの化学的性質はほぼ異なり、多くの場合、自発的な相互変換をすることなしに単離することができる。グルコースフルクトースは、よく比較される例で、前者はアルデヒド、後者はケトンである。これらの相互変換には、酵素または酸塩基触媒のいずれかが必要である。

ただし、互変異性体は例外で、異性化は通常の条件下で自発的に起こるため、たとえ純粋な物質を分光学的に同定し、特殊な条件下で単離できたとしても、互変異性体を分離することはできない。一般的な例はグルコースで、グルコースには鎖状体と環状体がある。グルコースは自発的にヘミアセタール体に環化するため、純粋な開鎖型グルコースを製造することはできない。

物質と混合物 編集

 
クランベリーガラス英語版は均質に見えるが、実際にはガラスと直径約40 nmのコロイド金粒子からなる混合物(mixture)であり、赤色を呈する。

すべての物質はさまざまな元素や化合物から構成されているが、それらはしばしば緊密に混ざり合っている。混合物には複数の化学物質が含まれており、その組成は一定ではない。原理的には、純粋に機械的な処理によって構成物質に分離することができる。バター土壌木材は混合物の一般的な例である。

灰色の金属鉄と黄色の硫黄はどちらも化学元素であり、任意の割合で混合して黄灰色の混合物を作ることができる。このとき化学的な反応は起こらず、磁石を使用して鉄を硫黄から引き離すなどの機械的な処理によって硫黄と鉄を分離できることから、この物質が混合物であると見分けることができる。

一方、鉄と硫黄を一定の割合(硫黄1原子に対して鉄1原子、または重量比で硫黄32グラム(1モル)に対して鉄56グラム(1モル))で一緒に加熱すると化学反応が起こり、化学式 FeS で表される硫化鉄(II)という化合物が新たに生成する。生じた化合物は化学物質のすべての性質を備えており、混合物ではない。硫化鉄(II)は融点溶解度など独自の特性を持っており、2つの元素を通常の機械的な処理で分離することはできない。この化合物中には金属鉄が存在しないため、磁石で鉄を回収することはできない。

化学品と化学物質 編集

 
メスシリンダーとビーカーに入った化学品。

「化学物質」(chemical substance)という用語は正確な専門用語であり、化学者にとっては「化学品」(chemical)と同義語であるが、化学品という言葉は、一般的には(純粋な)化学物質や混合物(しばしば化合物と呼ばれる)の両方を指し[13]、特に実験室や工業プロセスで製造または精製されたものに使われる[14][15][16]。言い換えれば、たとえば果物や野菜などに自然に含まれる化学物質は、一般的な用法では「化学品」とは呼ばれない。製品の成分表示を義務付けている国では、表示される「化学品」は工業的に製造された「化学物質」である。また、「化学品」という言葉は、中毒性、麻薬性、向精神性のある薬物を指す場合にもよく使用される[14][15]

化学業界では、製造された「化学品」は化学物質であり、製造量によってバルクケミカル、ファインケミカル、研究用ケミカルに分類される。

  • バルクケミカルは非常に大量に製造され、通常は高度に最適化された連続プロセスで比較的安価に作られる。
  • ファインケミカルは、殺生物剤、医薬品、技術用途の特殊化学品などの特殊な少量用途向けに、高コストで少量生産される。
  • 研究用ケミカル英語版は、合成経路の探索や薬理活性物質のスクリーニングなど、研究のために個別に製造される。事実上、販売されることはなく、グラム単価は非常に高い。

こうした製造量の違いは、化学品の分子構造の複雑さに起因する。バルクケミカルは、一般的にそれほど複雑ではない。ファインケミカルは、もっと複雑かもしれないが、その多くは、前述のような単一用途を目的とした、より複雑な分子を合成する際の「構成要素」として販売できる程度に単純である。化学品の製造工程には、その合成だけでなく、合成の際に生じた副生成物や不純物を除去するための精製も含まれる。製造の最終段階では、化学品のバッチロット英語版を分析し、化学品の買い手のために不純物を特定し割合を定量化する必要がある。要求される純度や分析は用途によって異なるが、バルクケミカルの製造では通常、不純物に対する許容度は高くなる。従って、米国では化学品を使用する際に、不純物の含有量が高いバルクまたは「工業グレード(technical grade)」か、より純度の高い「医薬品グレード(pharmaceutical grade)」(米国薬局方英語版のUSP表示)のどちらかを選択することになる。商業的および法的な意味での「化学品」には、特定の化学物質ではなく、技術的な仕様に基づいて製造された製品であるため、組成が大きく変化する混合物が含まれることがある。たとえば、ガソリンは単一の化合物でも特定の混合物でもない。「ガソリン」は主に供給源、特性、オクタン価によって定義されるため、異なるガソリンは化学組成が大きく異なる可能性がある。

命名と索引 編集

すべての化学物質には1つ以上の組織名(体系名、系統名)があり、通常はIUPAC命名規則に従って命名している。代替規則としてChemical Abstracts Service(CAS)がある。

多くの化合物は、より一般的で単純な名前でも呼ばれており、その多くは組織名よりも古くから使われているものである。たとえば、古くから知られているグルコースというは、現在では 6-(ヒドロキシメチル)オキサン-2,3,4,5-テトロール と体系的に命名されている。天然物医薬品にも、より単純な名前が付けられている。たとえば、軽度な鎮痛剤であるナプロキセンは、化合物 (S)-2-(6-メトキシ-2-ナフチル)プロパン酸 の一般名である。

化学者は、化合物について言及するために、化学式や化合物の分子構造を使うことが多い。世界中の専門的な化学者によって合成(または単離)され、科学文献英語版に報告される化合物の数は驚異的に増加している[17]。既知の化学元素を化合させることにより、膨大な数の化合物が可能になる。2021年2月現在、約1億7,700万種類(配列定義生体高分子の6,800万種類を含む)の有機および無機物質が科学文献に掲載され、公的データベースに登録されている[18]。これらの化合物の多くは慣用名を持たないことが多く、正確に覚えるのも引用するのも容易ではない。また、文献でそれらを追跡することも困難である。IUPACやCASなどのいくつかの国際機関は、このような作業を容易にするための措置を展開している。CASは、化学文献の抄録サービスを提供し、化学文献(化学雑誌英語版特許など)で報告された各化学物質にCAS登録番号という数値識別子を割り当てている。この情報はデータベースとしてまとめられ、化学物質索引として広く知られている。化学物質情報のために開発された、他のコンピュータ対応の表記体系には、 SMILES国際化学物質識別子(InChI)がある。

代表的な化学物質の識別
一般名 組織名 化学式 化学構造 CAS登録番号 InChI
アルコールまたはエチルアルコール エタノール C2H5OH
 
[64-17-5] 1/C2H6O/c1-2-3/h3H,2H2,1H3

単離、精製、特性評価、および同定 編集

混合物から純粋な物質を単離しなければならないことは多く、たとえば天然資源(多くの化学物質が混在することが多い)や化学反応後(化学物質の混合物が生成されることが多い)に行われる。

測定 編集

 
メタン燃焼反応の化学量論図

化学量論(かがくりょうろん、: stoichiometry)とは、化学反応の前、反応中、反応後における反応物生成物の質量どうしの関係である。

化学量論は、反応物の総質量は生成物の総質量に等しいという質量保存の法則に基づいており、反応物生成物の量の関係は、一般に正の整数比になるという洞察につながる。このことは、それぞれの反応物の量が既知であれば、生成物の量を計算できることを意味する。逆に、ある反応物の量が既知で、生成物の量が経験的に決定できる場合は、他の反応物の量も計算できる。

これを上の図で説明すると、平衡化学式(balanced equation) は次のとおりである。

CH
4
+ 2 O
2
→ CO
2
+ 2 H
2
O

ここで、メタン1分子酸素ガス2分子と反応して、二酸化炭素1分子と2分子を生成する。この化学式は完全燃焼の一例である。化学量論はこのような量的関係を測定し、ある反応において生成される、あるいは必要とされる生成物と反応物の量を決定するために使用される。反応化学量論(reaction stoichiometry)は、化学反応に関与する物質間の量的関係を記述することを扱う。上記の例の場合、反応化学量論では、メタンと酸素が反応して二酸化炭素と水を生成する際の量的な関係を測定する。

モル原子量との関係はよく理解されているため、化学量論によって得られる比率を利用して、平衡化学式で記述された反応における質量による量を決定することができる。これは、組成化学量論(composition stoichiometry)という。

気体化学量論(gas stoichiometry)は、気体が既知の温度、圧力、体積にあって、理想気体であると仮定できる気体を含む反応を扱う。気体の場合、理想気体の法則によって体積比は理想的に同じになるが、一つの反応の質量比は反応物と生成物の分子質量から計算しなければならない。実際には、同位体が存在するため、質量比を計算する際にはモル質量が代用される。

化学物質と危険性 編集

現在、世の中に存在する化学物質は何十万種とあり、市場で広く出回っているものだけでも数万の物質がある[19]

一般に化学物質と言うと危険というイメージが広がっている。確かに化学物質は使用方法によっては有害なものもある一方で、昔から人間が生活で用いてきたものも多い[20]。そういったものとしては、例えばアルコール染料などが挙げられる。市場で出回っている化学物質の中で有害とされてきた物質は1割ほどではないかとも言われている。ただし、従来「安全」とされてきた物質であっても使いかたによっては健康に悪い影響を与えることがあることも徐々に判明してきている。また同様に、家屋の密閉度が高くなったことで、今まで見過ごされていた化学物質がシックハウス症候群といった症状を引き起こすようなケースも現れてきている[19]

化学物質は固体液体気体ガス)、ミスト等々の状態で我々の周りに存在している。固体が特に問題となるのは状になっている場合である。口の中やの穴にとどまることになる。一部は咳とともに体外へと排出されるが、人間の鼻や口からは絶えず粘液が流れ出ており、その多くが胃へと流れてゆく。つまり呼吸により鼻や口へと入った粉は、気管に溜まったり、やがて、などの消化器系へと移動してしまう可能性が高い。気体の化学物質は主としてから吸収される。一部は肺以外の粘膜を通して血液中へと移動する[19]

危険性の態様 編集

作業者リスク
化学物質を取り扱う作業者が化学物質を吸い込んだり触れることで生じる作業者の健康リスク[21]
製品経由リスク
製品に含まれる化学物質によって人や環境中の生物に生じるリスク[21]
環境経由リスク
大気や水などの環境中に排出された化学物質によって人や環境中の生物に生じるリスク[21]
フィジカルリスク
事故によって生じる設備や建物、人や環境中の生物に生じるリスク[21]

危険性の高い化学物質から身を守る方法 編集

日常生活や一般の仕事の場で、危険性の高い化学物質から身を守る方法としては次のようなことが挙げられている[22]

  • 口に入れない、唇に接触させない。
  • においを嗅がない。吸い込まない。
  • 素肌・素手で触れない。
  • 化学物質どうしを近づけない。
  • やむを得ず扱う時は換気を確保し、風上に身を置く。
  • 保管は屋外の離れた場所にする。

有害な化学物質への職業ばく露を防止するためには、有害な化学物質の代替化、装置の密閉化や局所排気装置等の設置、適切な管理や取扱い、保護具の着用などが重要である。このうち、もっとも効果が高いのは有害な化学物質の代替化であるが、安易な代替化はかえって危険性を増大させるという指摘もある[23]。また、保護具の着用も適切なものを選択し、適切に管理・使用しなければならない。

化学物質による食中毒 編集

食中毒の中でも、何らかの原因によってヒ素などの無機物質PCBメチルアルコールなどの有機化合物などの化学物質が食品中に混入し人を侵襲して起きる食中毒は「化学物質による食中毒」と定義されている[24]

日本で起きた「化学物質による食中毒」事件で特に知られた件に限っても、今までに以下のような事件が起きている[24]

化学物質が人の口を通して健康に被害をもたらす例として、ヒ素による中毒が挙げられる。日本では、茨城県で高濃度のヒ素が井戸水から検出され健康への影響が出ているとされており、他国ではバングラデシュ中国ネパールベトナムカンボジアなどのアジア諸国においてヒ素による中毒が広がっているという[24]

食中毒には様々な原因のものがあるが、他の原因の食中毒であれば消費者の側で予防することができる場合があるのに対して、化学物質による食中毒というのは消費者の側で予防することは困難だということが言える[24]

参考項目 編集

参考文献 編集

脚注 編集

  1. ^ Hale, Bob (2013-09-19) (英語). Necessary Beings: An Essay on Ontology, Modality, and the Relations Between Them. OUP Oxford. ISBN 9780191648342. オリジナルの2018-01-13時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180113233820/https://books.google.com/books?id=L7poAgAAQBAJ&pg=PA280&dq=chemical+substance+is+a+form+of+matter+having+constant+chemical+composition+and+characteristic+properties&hl=en&sa=X&ved=0ahUKEwi-k_LI_dXUAhUHyWMKHa8vCowQ6AEIMjAC#v=onepage&q=chemical%20substance%20is%20a%20form%20of%20matter%20having%20constant%20chemical%20composition%20and%20characteristic%20properties&f=false 
  2. ^ IUPAC, Compendium of Chemical Terminology, 2nd ed. (the "Gold Book") (1997). オンライン版:  (2006-) "Chemical Substance".
  3. ^ Simples and Compounds”. www.iupac.org (2005年). 2018年5月15日閲覧。
  4. ^ Hunter, Lawrence E. (2012-01-13) (英語). The Processes of Life: An Introduction to Molecular Biology. MIT Press. ISBN 9780262299947. オリジナルの2018-01-13時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180113233819/https://books.google.com/books?id=jNbxCwAAQBAJ&pg=PA50&dq=chemical+substance+cannot+be+separated+into+components+by+physical+separation+method&hl=en&sa=X&ved=0ahUKEwiSrP7Q_NXUAhUH9mMKHdN0DDsQ6AEIMDAB#v=onepage&q=chemical%20substance%20cannot%20be%20separated%20into%20components%20by%20physical%20separation%20method&f=false 
  5. ^ Petrucci, Ralph H.; Herring, F. Geoffrey; Madura, Jeffry D.; Bissonnette, Carey (2011) (英語). General Chemistry: Principles and Modern Applications. Pearson Canada. ISBN 9780137032129. OCLC 967377094. https://books.google.com/books?id=lrRXRwAACAAJ 
  6. ^ Pure Substance – DiracDelta Science & Engineering Encyclopedia”. Diracdelta.co.uk. 2013年5月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年6月6日閲覧。
  7. ^ Appendix IV: Chemical Substance Index Names Archived 2007-12-03 at the Wayback Machine.
  8. ^ About the TSCA Chemical Substance Inventory”. US EPA. 2023年9月22日閲覧。
  9. ^ Hill, J. W.; Petrucci, R. H.; McCreary, T. W.; Perry, S. S. General Chemistry, 4th ed., p37, Pearson Prentice Hall, Upper Saddle River, New Jersey, 2005.
  10. ^ Law of Definite Proportions Archived November 18, 2007, at the Wayback Machine.
  11. ^ Hill, J. W.; Petrucci, R. H.; McCreary, T. W.; Perry, S. S. General Chemistry, 4th ed., pp 45–46, Pearson Prentice Hall, Upper Saddle River, New Jersey, 2005.
  12. ^ The boundary between metalloids and non-metals is imprecise, as explained in the previous reference.
  13. ^ compound Archived 2017-11-07 at the Wayback Machine. in Oxford Online Dictionaries
  14. ^ a b chemical Archived 2017-11-07 at the Wayback Machine. in Oxford Online Dictionaries
  15. ^ a b Random House Unabridged Dictionary Archived 2017-11-07 at the Wayback Machine., 1997
  16. ^ What is a chemical”. Nicnas.gov.au (2005年6月1日). 2013年6月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年6月6日閲覧。
  17. ^ Joachim Schummer. “Coping with the Growth of Chemical Knowledge: Challenges for Chemistry Documentation, Education, and Working Chemists”. Rz.uni-karlsruhe.de. 2013年9月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年6月6日閲覧。
  18. ^ Chemical Abstracts substance count”. Cas.org. 2021年2月15日閲覧。
  19. ^ a b c 亀井太『化学物質取扱いマニュアル』pp. 9–15
  20. ^ 環境コラムVol.26-暮らしの中の化学物質。”. 花王 (2003年9月1日). 2004年7月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年10月24日閲覧。
  21. ^ a b c d 暮らしの中の化学物質(石井 員良)、名古屋市、2019年10月6日閲覧。
  22. ^ 亀井太『化学物質取扱いマニュアル』
  23. ^ 有害な化学物質の代替化はリスクを常に低下させるのか”. 2019年3月21日閲覧。
  24. ^ a b c d 社団法人日本食品衛生協会『食品衛生責任者ハンドブック 第4版』p.86

外部リンク 編集