受動素子(じゅどうそし、Passive element、Passive component)は、供給された電力を消費・蓄積・放出する[注釈 1]素子で、増幅・整流などの能動動作を行わないものを言う。

一方、真空管継電器(リレー)やトランジスタ[1]など入力信号として小さな電力電圧または電流を入れて、大きな出力信号として電力、電圧または電流の変化を得られる素子は能動素子(のうどうそし、Active element、Active component)と呼ばれ、その入力と出力の比率を利得という。

受動素子と電源とで構成された電気回路を受動回路という。

受動素子の例

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標準数

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抵抗器・キャパシタなどの受動素子の製品に使用される値には以下のような標準数が使われる。以前は、抵抗であれば2Ωとか5Ωのような日常的な意味での切りのよい値もあったが、今日では(可変抵抗などを除き)まず見ない。このような標準数は一見扱いにくいように見えるかもしれないが、ほぼ[注釈 2]等比数列となっているために[注釈 3]実際にはムラ無く値が揃っているものになっている。標準として国際的にも(日本ではJISで)決められている。一般的にはE3、E6、E12、E24系列程度が頻用される。抵抗器ではE12、E24程度までが多く用いられ部品店の店頭にも常備されている。キャパシタではE3、E6程度である。

規格上はE192まであるが、キャパシタのE12以上や抵抗器のE48以上は、特別に精度が求められる場合以外には使われない(通常の構造のキャパシタなど、そもそもそんな精度の容量安定性が無かったり、抵抗などでも高精度で作るあるいは選別して製品とするコストが現実的ではない)。またこれら以外に、250Ω[注釈 4]や600Ω[注釈 5]など、よく必要になるために作られている値もある。

E3 - E192系列表

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E3 E6 E12 E24 E48 E96 E192
10 10 10 10 100 105 100 102 105 107 100 101 102 104 105 106 107 109
11 110 115 110 113 115 118 110 111 113 114 115 117 118 120
12 12 121 127 121 124 127 130 121 123 124 126 127 129 130 132
13 133 140 133 137 140 143 133 135 137 138 140 142 143 145
15 15 15 147 154 147 150 154 158 147 149 150 152 154 156 158 160
16 162 169 162 165 169 174 162 164 165 167 169 172 174 176
18 18 178 187 178 182 187 191 178 180 182 184 187 189 191 193
20 196 205 196 200 205 210 196 198 200 203 205 208 210 213
22 22 22 22 215 226 215 221 226 232 215 218 221 223 226 229 232 234
24 237 249 237 243 249 255 237 240 243 246 249 252 255 258
27 27 261 274 261 267 274 280 261 264 267 271 274 277 280 284
30 287 301 287 294 301 309 287 291 294 298 301 305 309 312
33 33 33 316 332 316 324 332 340 316 320 324 328 332 336 340 344
36 348 365 348 357 365 374 348 352 357 361 365 370 374 379
39 39 383 402 383 392 402 412 383 388 392 397 402 407 412 417
43 422 442 422 432 442 453 422 427 432 437 442 448 453 459
47 47 47 47 464 487 464 475 487 499 464 470 475 481 487 493 499 505
51 511 536 511 523 536 549 511 517 523 530 536 542 549 556
56 56 562 590 562 576 590 604 562 569 576 583 590 597 604 612
62 619 649 619 634 649 665 619 626 634 642 649 657 665 673
68 68 68 681 715 681 698 715 732 681 690 698 706 715 723 732 741
75 750 787 750 768 787 806 750 759 768 777 787 796 806 816
82 82 825 866 825 845 866 887 825 835 845 856 866 876 887 898
91 909 953 909 931 953 976 909 920 931 942 953 965 976 988
E3 E6 E12 E24 E48 E96 E192

カラーコード

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小さな抵抗器などはその表面に素子の特性(抵抗値、許容差等)を記述するのが難しい。そこで、その特性値を色で表示するようにしたものが、カラーコードである。以下のように、色と値とを結びつける。この表示方法は、国際電気標準会議(IEC) による国際規格 IEC 60062英語版 、およびそれに準拠した日本産業規格(JIS)JIS C 60062 で規定されている。

色記号[注釈 6] 色の例[注釈 7] 有効数字 10のべき乗 許容差(%) 抵抗温度係数(TCR)10−6/K 有効数字の覚え方(語呂合わせ[注釈 8]
なし - - - ±20 -
桃色 PK  - 10−3 - -
銀色 SR  - 10−2 ±10 -
金色 GD  - 10−1 ±5 -
BK  0 1 - ±250 黒いレイ服[2]
茶色 BN  1 101 ±1 ±100
RD  2 102 ±2 ±50 赤いニんじん[2]
だいだい(橙) OG  3 103 ±0.05 ±15
YE  4 104 ±0.02 ±25
GN  5 105 ±0.5 ±20
BU  6 106 ±0.25 ±10
  • ロクでなしの青二才(青二才のロクでなし[2]
  • 青ムし
  • 青緑青(あおろくしょう)
VT  7 107 ±0.1 ±5 むらさきシチぶ(紫式部[2]
灰色 GY  8 108 ±0.01 ±1 はいヤー[2]
WH  9 109 - -

カラーコードは金属皮膜抵抗、酸化金属皮膜抵抗、炭素皮膜抵抗などの抵抗器のほか、キャパシタ、インダクタなど、おもにアキシャルリード型の受動素子の特性値の表示に多く用いられる。また、フラットケーブルなどの多心電線の心線の識別にも用いられる場合がある。なお、表面実装パッケージの受動素子では、一般にカラーコードは使用せず、特性値を数字やアルファベット(RKMコード英語版)で表記する。

FTTHにおける光受動素子

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NTTが使用している光クロージャ
中央の白いトレイが光スプリッタ

光スプリッタ(光カプラ)とも呼ばれ、1本の光ファイバーを分岐させるための素子。FTTHPassive Optical Network (PON)において用いられる。

外部から電源を必要とするActive Optical Network (AON)にて用いられるものは能動素子と呼ばれる。(光収容の項を参照の事。)

脚注

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注釈

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  1. ^ キャパシタインダクタの理想的な動作では電力の消費はない。
  2. ^ 完全な等比数列と比較すると、2:3 の比を作るのに便利にするためとも言われているが、22と33は少し大きめであったり、人為的な調整が入っている。
  3. ^ ベンフォードの法則
  4. ^ プロセス制御で用いられてる、カレントループ英語版4–20 mA1–5 Vに変換するのに用いられる。
  5. ^ 電話平衡接続のインピーダンス。
  6. ^ IEC 60757英語版の規定による。
  7. ^ 理解を助ける為の例示であり、例示された色を忠実に再現しなければならないのではない事に注意。
  8. ^ 「有効数字の覚え方(語呂合わせ)」は規格には含まれない。

出典

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  1. ^ 能動素子の変遷電子情報技術産業協会
  2. ^ a b c d e f g h i j 茨木, 悟、小林, 良夫、海老沢, 徹、斎藤, 正之『アマチュア用通信形受信機の製作(電波科学シリーズ)』日本放送出版協会、1962年12月10日、282頁。doi:10.11501/2497944NCID BA73299974 
  3. ^ 松田, 邦宏「抵抗の選び方と使い方の最新研究」『ラジオ技術 10月臨時増刊号 Audioアンプ部品活用マニュアル'81』第35巻第15号、ラジオ技術社、1981年10月、46-60頁。 

関連項目

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