名刺(めいし、: 名片: Calling Card: Visiting CardBusiness Cardの表記も)は、本人が自らの名前と所属・連絡先等を示すために他人に渡すことを目的とした紙片(カード)。

弁護士の肖像入り名刺(1895年、アメリカ)
ゲーテの名刺
名刺の表裏(2008年、ベトナム)

概要編集

名刺は、自己紹介の一環として交換されたり、職業上の儀礼のために手渡されたりする。一般的に氏名を最も強調し、所属(いわゆる肩書き)、連絡先(電話番号・所在地など)を記載する。中には顔写真や自分自身あるいは自社の紹介、QRコード[1]、ウェブサイトのURLメールアドレスロゴタイプや宣伝したい商品・施設名などを記載しているものもある。保存性・耐久性の点から厚い紙が用いられ、携帯の利便性から人の手よりも小さいサイズの紙製のものがよく使用される。

自分および受け取った他人の名刺を持ち運ぶ名刺入れ、もらった名刺を保管・整理する名刺ホルダーや名刺ファイル、名刺管理ソフトウェアといった関連商品もある。

日本韓国台湾中国などの東アジア圏では、業務上の初対面時に名刺交換を行うことが慣習化している。東南アジア諸国でも一般的である。日本では、名刺交換とその適切な方法がビジネスマナーと考えられており[2]、名刺のストックを切らしたり携帯を忘れたりした時は短時間で印刷を請け負う店舗もある。

名刺のサイズはいわゆる黄金比である。1854年フランスのディスデリという写真家が考案した名刺判写真のサイズ(82mm×57mm)がのちの名刺のサイズに影響を及ぼした[3]平凡社の『日本人の大疑問(9)』(1995年刊 ISBN 4-582-62529-0)の記述するところでは、1854年フランスのディストリという写真家写真入り名刺の特許を取ったとある)。日本の標準サイズは91ミリメートル×55ミリメートル[3]。欧米の標準サイズは3.5インチ×2インチ(89ミリメートル×51ミリメートル)。他に3号サイズ(49ミリ×85ミリ)や小型4号サイズ(70ミリメートル×39ミリメートル)もある。近年ではあえて非定型だったり標準サイズとは違う名刺を使用する会社もある。

小型のものは主に女性用として、特に水商売の女性には四隅を丸く処理したものが好んで用いられる。また、舞妓用として花名刺がある。

東洋での歴史編集

 
裕仁親王(昭和天皇)の名刺。1921年

中国編集

東洋での名刺の起源は紀元前2世紀ごろの中国とされている[3]。紙はまだなく姓名を記した竹木を「刺」といったところからこの名がある[3]

釈名』は後漢末に書かれた漢字の意味を解説する本で、その中に、訪問先に名刺を差し出す習慣にまつわる語が見える。それによれば、姓名を書いて訪問先の家で差し出すものを「謁」という[4]。書いたものを刺ともいい、姓名を書いて奏上することを「画刺」といった。「長刺」とは一行に長く書いたもの、「爵里刺」とは官職と出身地と姓名を書いたもの、である[5]。この「謁」と「刺」が名刺にあたり、「再拝問起居」あるいは「再拝起居」といった、在宅かどうか尋ねる簡単な挨拶を添えたようである[6]

三国時代の武将・朱然の墓が1984年に発見され、発掘された結果、副葬品に彼の「名刺」が発見された。これが現存する最古の名刺とされる。

日本編集

日本でも江戸時代以前に墨書の名刺を使用していた[3]。江戸時代の1778年6月、蝦夷地(現在の北海道)の根室に来航したロシア帝国の通商交渉人に対して、松前藩士が渡した名刺がロシア国立古文書館に現存している[7]

また、日本で初めての印刷された名刺は、1858年日米修好通商条約のとき日本の役人がアメリカの外交官に渡したもので、デザインの多くは家紋の下に名前を書いたものだった[3]

日本国内で使用される名刺は1日約3,000万枚、年間消費量は約100億枚ともいわれており、世界でもっとも名刺を使う国となっている[3]

西洋での歴史編集

ヨーロッパでの名刺の起源は16世紀ドイツで、訪問先が不在だった時、訪問したことを知らせるために置いたことが始まりとされる[3](後述書 p.29)。その後、ヨーロッパに名刺文化が普及していき、17世紀後半にはルイ14世15世の治世のフランスで社交用として使うようになったことが社交用名刺の始まりである(後述書 p.29)。次第に名刺に凝る者も現れ、風景画や自邸の銅版面を入れたものも作られるようになり、19世紀になるとフランスの一写真家によって、写真入り名刺も作られた(後述書)。当時のヨーロッパ社交界で用いられた名刺は華やかなもので形式や使い方にもマナーがあったという[3]

また、アメリカ合衆国でも19世紀後半の南北戦争後の好況期に社交界ではステイタスとして使われていた[3]

しかし、現代の欧米諸国では日本のような名刺交換は行われていない(『雑学実用知識 特装版』 三省堂企画編集部編 第6刷1991年 pp.29 - 30)。

祭礼における名刺編集

祭礼で名刺が使われることがある。

北海道江差町で行われる姥神大神宮渡御祭では、御輿渡御及び山車行列の際、神社関係者や各山車の関係者が沿道と近隣の家・企業などから御祝儀を頂いた時や切り声と呼ばれる民謡を謡った後などに名刺を渡す習慣がある。名刺とは呼ばれているが、1枚の大きさが姥神大神宮の物で136ミリ×297ミリ、各山車の物で100〜115ミリメートル×263〜273ミリメートル[8]あり、姥神大神宮や各山車に関する紹介・説明・歴史が書かれた物で、通常の名刺とは異なる。

脚注編集

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  1. ^ 【新社会人応援講座】名刺の活用術/ひと工夫で印象強く/写真・QRコード■香り付き(日本名刺協会理事 高木芳紀氏)日本経済新聞』2018年10月3日・大学面、2018年12月31日閲覧。
  2. ^ 「名刺マナー」あなたは大丈夫?慣れで無意識NGも/習慣になると無意識にマナー違反も 中堅どころもおさらい日経ウーマンオンライン(2018年9月4日)2018年9月27日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j MONTHLY UP vol.22”. SEZAX. 2020年7月31日閲覧。
  4. ^ 『釈名』釈書契第19。王先謙撰『釈名疏證補』Internet Archiveのリンク先の14枚め
  5. ^ 『釈名』釈書契第19。王先謙撰『釈名疏證補』Internet Archiveのリンク先の19枚め
  6. ^ 大庭脩・編著『木簡 古代からのメッセージ』、41頁。
  7. ^ 鎖国中 松前藩士の名刺/露の通商交渉人に モスクワで発見」『読売新聞』夕刊2018年7月28日(10面)。「奥州松前 新井田第八郎 朝居 蝦夷地 代宦」と記されている。
  8. ^ いずれも実測値。

参考文献編集

関連項目編集