巨大数(きょだいすう)とは、日常生活において使用される数よりも巨大な実数)のことである。非常に巨大な数は、数学天文学宇宙論暗号理論インターネットコンピュータなどの分野でしばしば登場する。天文学的数字(てんもんがくてきすうじ)と呼ばれることもある。

巨大数論 (googology) というものがあり、天文学的数字を大きく上回る数を研究する学問である。天文学的数字も巨大数と呼ばれるが、巨大数論では特殊な表記を使用することでより大きな数を表現する。

なお、巨大数に対して、0ではないが0に限りなく近い正の実数のことを微小数(びしょうすう)という。

後述のように、巨大な数(や微小な数)を処理するために特殊な数学記号が使われている。

巨大数の使用例編集

巨大数は、例えば以下のような使用例がある。

「天文学的」な巨大数編集

巨大数は、天文学の分野にも登場する。

天文学に登場する巨大数は、上のように指数部が2桁であることが多いが、稀に次のように指数部が3桁以上の数や、指数タワーオーダーの数が登場することもある。

MD5のハッシュキーの長さは128ビットであり、2128 (約 3.402×1038 )通りのハッシュ値をとる。これは非常に良好なハッシュ関数であり、あるドキュメントが特定のハッシュ値をとる確率は 2-128 となっている。これは実質的にはゼロに等しい値である(ただし、誕生日のパラドックスに注意)。しかしながらこの数は、地球上に存在する原子の総数と比較するとまだまだ小さな数であり、観測可能な宇宙に存在する原子の総数よりも遥かに小さい数といえる。

組合せ論的数編集

組合せ数学において、組合せの場合の数などは急激に大きくなる数で、組合せ爆発といった語もある。たとえば、一意な要素の集合についての順列の数である階乗関数は、非常に急速に発散する関数である。それを拡張したものとして、超階乗も考えられている。

組合せ関数は、統計力学で扱われる巨大数を生成するために使われることがある。統計力学の分野で使用される数は、一般に対数を用いて表される。

日常の用語として使われる「天文学的 (数)」に対し、(あまり一般的ではないが)「組合せ論的 (数)」という語がある。

名前の付いた・あるいは有名な巨大数の例編集

計算不可能な手続による巨大数の構成編集

ビジービーバー関数 Σ は、あらゆる計算可能関数よりも速く増大する関数の一例である。ビジービーバー関数自身は計算不可能である。引数が比較的小さな値であっても巨大な値を返す。n = 1, 2, 3, 4 に対して、Σ(n) の値はそれぞれ 1, 4, 6, 13 である。Σ(5) は未知であるが、4098以上の値をとる。Σ(6) は少なくとも 1.29×10865 である。また解析によるとΣ(23)がグラハム数を超えることが分かっている。

無限数編集

上述の数はすべて非常に巨大な数であるが、それでも有限である。数学の一部の分野では、無限大超限数という定義をしている数がある。

  • アレフ0 ( ) は、整数集合濃度である。
  • アレフ1 ( ) は、アレフ0 の次に大きい濃度である。
  • アレフ ( ) あるいは   は、実数の濃度である。命題   は、連続体仮説として知られている。
  • 巨大基数は、ZFCではその存在が証明できないような大きな基数である。例えば、(弱・強)到達不可能基数、マーロ基数、(弱・強)コンパクト基数、可測基数等がある。

巨大数を表現するための表記法及び関数編集

巨大数の大きさは一般に指数を用いて表され、多くの現実的な目的においてはそれで十分である。しかし、モーザー数やグラハム数などは「10の10乗の10乗の…」を宇宙の果てまで続けても追い付かないほどのとてつもなく巨大な数であり、指数では表現しきれない。そのような超巨大な数を表現するために、多くの数学者が独特の表記法及び関数を考え出した。

  • クヌースの矢印表記(タワー表記)は、指数の積み重なりである指数タワーを記述するための、非常に単純な表記法である。
  • ハイパー演算子は、加法の繰り返しで乗法、乗法の繰り返しで冪乗を作ることを発展し、新たな演算を作っていくものであり、本質的にはタワー表記の別表記である。
  • コンウェイのチェーン表記は、タワー表記の「矢印の増加」そのものの繰り返し、『「矢印の増加」に繰り返しを入れること』の繰り返しなどを表現できるようにし、さらに巨大な数を表せるようにしたものである。
  • スタインハウス・モーザーの多角形表記は、巨大数を示すために多角形を使用している。
  • 白アスター表記は多角形表記を拡張したものである。
  • 超階乗階乗を拡張したものである。
  • アッカーマン関数は、与える数が大きくなると急激に増大する関数である。それを拡張した多変数アッカーマン関数は、通常のアッカーマン関数よりも更に巨大な数を作ることができ、現在の日本でのチェーン表記レベルを超える主流の表記法の一つとなっている。
  • ピーター・ハーフォードによる拡張チェーン表記および回転矢印表記は、チェーン表記の更に拡張版で、非拡張チェーン表記よりも遥かに巨大な数を表記できるようにしたものである。ただし近年ではチェーン表記の拡張としては定義がシンプルな前者が主流である。
  • 配列表記はチェーン表記およびその拡張表記よりも効率的に数の大きさを爆発させることができるようにした記法であり、多変数アッカーマン関数と同程度の増加速度である。その拡張の最終形態にはBEAFバードの配列表記がある。BEAFやバードの配列表記は現代の巨大数界のかなりの範囲をカバーできるものとして想定されたが、前者は定義が未完成であり、2021年現在数学的に意味を持つように定義できているのはテトレーション配列のレベルまでである。
  • ハイパーE表記はSbiis Saibian氏が開発した表記法で、クヌースの矢印表記と同程度の増加速度だが、拡張ハイパーE表記、連鎖E表記、拡張連鎖E表記という拡張段階を踏んで発展させることにより、バードの配列表記やBEAFにも匹敵する増加速度を持つようになる。
  • 超階乗配列表記はLawrence Hollom氏が開発した階乗をベースとした配列表記で、従来の階乗や超階乗より遥かに大きな増加速度を持つ。急増加関数の解析によると増加速度はバードの配列表記やBEAFと同程度である。
  • 強配列表記はHyp cos氏が開発した表記法で、その基礎となる線形配列表記の段階ではBEAFの元になる配列表記や多変数アッカーマン関数と同程度の増加速度で、4変数の場合にチェーン表記に完全一致する形で変換できるのが特徴的である。拡張配列表記・膨張配列表記・多重膨張配列表記・第1配列降下表記・第2配列降下表記・配列降下表記という拡張段階を踏んで発展させることにより、現代の巨大数界のかなりの範囲をカバーできるようになる。
  • ヴェブレン関数はオズワルド・ヴェブレンが開発した関数及び表記法で急増加関数でζ_0以上の大きさを持ち、小ヴェブレン関数と大ヴェブレン関数があり、現代の巨大数のかなり上位までカバーできる。さらに大きな数を生成するには順序数崩壊関数が必要となる。
  • 急成長階層(急増加関数)は、順序数を用いて定義された巨大数の物差しの一つで、本来は巨大関数の物差しという意味合いの方が強いが、巨大数のおおよその大きさを見積もる事も可能である。巨大な順序数を用いれば現代の巨大数界のかなりの範囲をカバーできる。
  • バシク行列システムはバシク氏が2014年に考案した巨大数を生み出すアルゴリズムで、急成長階層の添字に対応する順序数が知られていないほど強いと考えられている。

これらの表記法・関数で表されるような巨大数の逆数を取れば、「10のマイナス何乗」といった通常の指数では現実的に表現しきれないような微小数を表記することができる。

以上の巨大数表記法・関数をレベル順にまとめると次のようになる。

  • クヌースの矢印表記=ハイパー演算子=コンウェイのチェーン表記(3変数)=3変数配列表記≒多角形表記≒ピックオーバーの超階乗≒アッカーマン関数(非拡張)≒非拡張ハイパーE表記
  • コンウェイのチェーン表記≒4変数配列表記≒3変数アッカーマン関数≒白アスター表記
  • 5変数配列表記≒4変数アッカーマン関数≒ハーフォードの拡張チェーン表記≒回転矢印表記
  • BEAFの配列表記≒多変数アッカーマン関数≒拡張ハイパーE表記≒強配列表記の線形配列表記
  • BEAF(テトレーション配列まで)≒連鎖E表記
  • BEAF(想定)・バードの配列表記・拡張連鎖E表記・超階乗配列表記・強配列表記・ヴェブレン関数・順序数崩壊関数・急成長階層・バシク行列システム(現代の巨大数界のかなりの範囲をカバーできる)

現実的な計算が不可能な巨大数の取り扱いについて編集

通常の十進表記で現実的に(整数部分が)正確に計算可能、あるいはA×10Bのような指数・仮数表記による十進表記の下位桁の省略による近似で現実的に計算可能な数の限界は、現在円周率がコンピュータによって数十兆桁まで計算されていることも考えると、前者は101014、後者は 程度となるであろう。ちなみにA×10Bのような指数・仮数表記を行う場合、どんなに巨大な数であっても、指数Bが一の位まで全ての桁が明らかにならない限り、仮数Aは意味がないことになる。

ここでは上に示した 程度の限界を超えた巨大数を便宜的に「現実的計算不可能レベル」(計算可能性理論における「計算可能」「計算不可能」とは異なる)、その限界以内の数を「現実的計算可能レベル」(日常的な数や天文学で頻出するレベルの巨大数などがこれに当たる)と称し、現実的計算不可能レベルの巨大数の特徴や取り扱いについて以下に示す。

  • 上に示したように、計算によって十進展開による全ての桁を求めることはもちろん、指数・仮数表記をしようとしても、A×10BのBの全ての桁を求めることも現実的に不可能である。
  • 理論的には可能な十進展開における下位桁は数学的な考え方から求められる場合も多いが、上位桁を求めることは大抵の場合事実上不可能であり、それが現実的に可能なのは特殊な場合しかない。
  • 2つの数による計算では、一方または両方が現実的計算不可能レベルであった場合、大抵の加減乗除では小さい方の数が巨大数的近似に吸収されてしまう。加減乗除によって厳密に示すことに意味があるのも特殊な場合に限られる。
    • すなわち、AとBがいずれも正で、A>Bで少なくともAが現実的計算不可能レベルであった場合は、大抵の場合はA+B≒A、A-B≒A、A×B≒A、A÷B≒Aとなる。
    • AとBがいずれも正で、A<Bで少なくともBが現実的計算不可能レベルであった場合は、大抵の場合はA-B≒-B、A÷B≒1/Bとなる。
    • 指数タワーオーダー同士の数の冪乗の場合は、指数タワーが1段増える程度の効果はあるにせよ、それを超えるオーダー(クヌースの矢印表記で↑が3本以上のオーダー、あるいはチェーン表記のオーダーなど)の巨大数になると、冪乗も近似に吸収されてしまう。
  • 現実的計算不可能レベルの巨大数における計算や大小比較、本質的に大きくする方法などは、現実的計算可能レベルの数とは全く異なり、そのオーダーに適する表記法の特徴や、定義に用いる関数の性質などに従って行うことになる。
  • 現実的計算不可能レベルの巨大数における近似の取り扱いも、現実的計算可能レベルの数とは異なり、必ずしも差が0に近いことを意味するわけではなく、巨大数の表記的に限りなく近くなることを意味する。
    • (例) 
    • このケースにおいては、256257<<256256257と、この2つの数の大きさに圧倒的な違いがあるので、次のように大雑把に近似できる。
    •  
    • しかし実際には下の式から明らかなように、絶対的な差は非常に大きい。
    •  
    • 現実的計算不可能レベルの巨大数における近似では、このように通常の感覚だと近いどころか雲泥の差であるような違いまでもが、表記的に近似に吸収されてしまい、巨大数論的な近似として成立する例が多い。指数タワーオーダーの数の場合、このような現象を「指数タワーパラドックス」と呼ぶ。
  • 長さや時間などの単位付きの値に関しても、それが現実的計算不可能レベル(現実的計算可能レベルであっても数千桁以上)の場合、単位間の違いも無視できる、すなわち単位も近似に吸収されてしまう。その場合、例えば長さではプランク長・メートル・光年などいずれでも近似するし、時間ではプランク時間・秒・年などいずれでも近似する。

脚注編集

[脚注の使い方]

注釈編集

出典編集

  1. ^ ZIMBABWE: Inflation at 6.5 quindecillion novemdecillion percent 2009年1月21日、Forbes ASIA、2019年1月26日閲覧
  2. ^ "Susskind's Challenge to the Hartle-Hawking No-Boundary Proposal and Possible Resolutions"
  3. ^ フィッシュ『巨大数論 第2版』インプレス R&D、東京、2017年。ISBN 9784802093194

関連項目編集

外部リンク編集