アレビツァعَرَبٖىڄا)とは、ボスニア語(بۉسانسقٖى يەزٖىق)を表すためにボスニア人によって用いられているアラビア文字の変種である[1]。主に15世紀から19世紀にかけて用いられ、しばしばアルハミヤー文学の一部として分類される。第一次世界大戦以前にはラテン文字キリル文字同様にこのアレビツァをボスニア語第三の正書法にしようとする努力がボスニアのムスリムの間でなされたものの失敗に終わっている。

アレビツァ
類型: アルファベット (アラビア文字由来)
言語: ボスニア語
時期: 8世紀-20世紀
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アレビツァ
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グラゴル文字
初期キリル文字
1バナト方言を含む
アレビツァによって記述されたボスニアの作家・詩人アブドゥルヴェハブ・イルハミヤ英語版による手引書『ボスニア語行動科学書[訳語疑問点]』。

文学以外の場においてはアレビツァはマドラサや行政において使われる事もあったものの、他の表記法に比べてはるかに使用頻度は低かった。

起源 編集

アレビツァはオスマン帝国で用いられていたペルシア文字をもとに、アラビア語ペルシア語およびオスマン語のいずれの言語にも存在しない/t͡s//ʎ//ɲ/の各発音を示す文字を追加して成立した。後にアレビツァには母音用の文字が追加され、アブジャドからアルファベットへと変化した(同様の例としてクルド語ウイグル語のアラビア文字表記がある)。

アレビツァの最終版は19世紀末にメフメド・ジェマルディン・チャウシェヴィチ英語版によって考案された。彼が考案した表記法は、マトゥフォビツァマトゥフォバチャメクテヴィツァなどと呼ばれている。

現代における使用 編集

1941年以降の64年間において最初に出版されたアレビツァによる著作物として、漫画『ハジ・シェフコとハジ・メフコ(Hadži Šefko i hadži Mefko)』(アミール・アル=ズビ、メリハ・チチャク=アル=ズビ 著)が2005年に出版されている。この作品の著者は、アレビツァに多少の改変を施している。

初めてISBNの付加されたアレビツァによる書籍は、2013年4月にベオグラードでアルディン・ムスタフィチによって執筆された『アラブとアレビツァについての音声学的考察の時代[訳語疑問点]Epohe fonetske misli kod Arapa i arebica)』である[2]。この中でムスタフィチはチャウシェヴィチによる表記法の補完を行っており、高等教育における教科書ともなっている。

文字 編集

以下、チャウシェヴィチによる表記法に基づいて記す。

ラテン文字 キリル文字 アレビツァ
文中での形 独立形
語末形 語中形 語頭形
A a А а ـآ آ
B b Б б ـب ـبـ بـ ب
C c Ц ц ـڄ ـڄـ ڄـ ڄ
Č č Ч ч ـچ ـچـ چـ چ
Ć ć Ћ ћ         [※ 1]
D d Д д ـد د
Dž dž Џ џ ـج ـجـ جـ ج [※ 2]
Đ đ Ђ ђ
E e Е е ـە ە
F f Ф ф ـف ـفـ فـ ف
G g Г г ـغ ـغـ غـ غ
H h Х х ـح ـحـ حـ ح
I i И и ـاٖى
ـٖى
ـاٖىـ
ـٖىـ
اٖىـ اٖى [※ 3]
J j Ј ј ـي ـيـ يـ ي
K k К к ـق ـقـ قـ ق
L l Л л ـل ـلـ لـ ل
Lj lj Љ љ ـڵ ـڵـ ڵـ ڵ
M m М м ـم ـمـ مـ م
N n Н н ـن ـنـ نـ ن
Nj nj Њ њ ـںٛ ـٮٛـ ٮٛـ ںٛ [※ 1]
O o О о ـۉ ۉ
P p П п ـپ ـپـ پـ پ
R r Р р ـر ر
S s С с ـس ـسـ سـ س
Š š Ш ш ـش ـشـ شـ ش
T t Т т ـت ـتـ تـ ت
U u У у ـۆ ۆ
V v В в ـو و
Z z З з ـز ز
Ž ž Ж ж ـژ ژ

注釈

  1. ^ a b ムスタフィチはĆ ć/Ћ ћを表す文字として の代わりにڃを、Nj nj/Њ њを表す文字として の代わりݩを、それぞれ用いている。
  2. ^ チャウシェヴィチによる表記法ではDž dž/Џ џとĐ đ/Ђ ђを区別しないが、ムスタフィチはݗを、アル=ズビおよびチチャク=アル=ズビはڠをĐ đ/Ђ ђを表す文字としてجに代えて用いている。
  3. ^ 例中ではاの下に小アリフٖが付加されているが、直前に別の文字が来る場合についてはاの代わりにその文字の下に小アリフを付加しىを続けて書く事によって表現する。

合字 編集

標準的なアラビア文字同様、الまたはڵの後に続く場合に専用の合字が用いられる。

ラテン文字 キリル文字 アレビツァ
文中での形 独立形
語末形 語中形 語頭形
la ла ـلا لا
lja ља ـڵا ڵا

文例 編集

世界人権宣言第1条 編集

ボスニア語(アレビツァ): سوا ڵۆدسقا بٖىڃا راݗايۆ سە سلۉبۉدنا وٖ يەدناقا ۆ دۉستۉيانستوۆ وٖ پراوىما. ۉنا سۆ ۉبدارەنا رازۆمۉم وٖ سوۀشڃۆ وٖ ترەبا دا يەدنۉ پرەما درۆغۉمە پۉستۆپايۆ ۆ دۆحۆ براتستوا.
ボスニア語(ラテン文字): Sva ljudska bića rađaju se slobodna i jednaka u dostojanstvu i pravima. Ona su obdarena razumom i sviješću i treba da jedno prema drugome postupaju u duhu bratstva.
英語: All human beings are born free and equal in dignity and rights. They are endowed with reason and conscience and should act towards one another in a spirit of brotherhood.

テヘランについて 編集

ボスニア語(アレビツァ): تَهْرَان يە غلاونٖى وٖ نايوەڃٖى غراد إِيرَانا، سەدٖىشتە تَهْرَانسقە پۉقرايٖىنە وٖ يەدان ۉد نايوەڃٖىح غرادۉوا سوۀتا.
ボスニア語(ラテン文字): Teheran je glavni i najveći grad Irana, sjedište Teheranske pokrajine i jedan od najvećih gradova svijeta.
英語: Tehran is the capital and largest city of Iran, capital of Tehran Province and one of the largest cities in the world.

関連項目 編集

外部リンク 編集

出典 編集

  1. ^ Keith Brown, ed (2005). Hindi. Encyclopedia of Language and Linguistics (2 ed.). Elsevier. ISBN 0-08-044299-4 
  2. ^ Foreword to "The Age of Phonetic Thought of Arabs and Arebica" by Aldin Mustafić
  • Enciklopedija leksikografskog zavoda, entry: Arabica. Jugoslavenski leksikografski zavod, Zagreb, 1966