ウェステルマン肺吸虫

肺吸虫科の吸虫

ウェステルマン肺吸虫(うぇすてるまんはいきゅうちゅう、学名:Paragonimus westermani)とは、肺吸虫科 Paragonimus 属に属する吸虫の1種。

ウェステルマン肺吸虫
成体の染色画像
分類
: 動物界 Animalia
: 扁形動物門 Platyhelminthes
: 吸虫綱 Trematoda
亜綱 : 二生亜綱 Digenea
: 斜睾吸虫目 Plagiorchiida
亜目 : 住胞吸虫亜目 Troglotremata
上科 : 住胞吸虫上科 Troglotrematoidea
: 肺吸虫科 Paragonimidae
: Paragonimus
: ウェステルマン肺吸虫 Paragonimus westermanii
学名
Paragonimus westetrmanii (Kerbert, 1878) Braun, 1899[1]
和名
ウェステルマン肺吸虫

解説 編集

ウェステルマン肺吸虫は1877年にオランダにおいて、死亡した動物園のトラから発見されたもので、1878年に動物園長のピーター・ウェステルマンに献名されDistoma Westermaniとされたものであった。その後にDistoma属は巨大であるため新属Paragonimusを分離し、この種はParagonimus Westermaniとされた。人間への感染は、1878年、東京にて、ベルツによりの喀血患者の喀痰内から虫卵が発見されたものが最初であるが、この時点ではグレガリナ(Gregarina pulmonalis)として1880年に発表された。1879年、リンジャーにより、台湾にて人体より成体が発見され、パトリック・マンソンスペンサー・コボルドにより、1880年にDistoma Ringeriと分類され、後にParagonimus pulmonalisと同定された[2][3]。ヒトにおいては、サワガニ、モクズガニの生食によるメタセルカリアの摂取、または待機宿主であるイノシシ肉及びシカ肉[4]の生食によって感染する。

2倍体個体と3倍体個体が存在し、2倍体個体の染色体数は2n=22で両性生殖を行うが、3倍体個体の染色体数は3n=33で単為生殖のみを行う。なお、3倍体個体は別種のベルツ肺吸虫 P. pulmonalis として扱うこともある。虫卵は黄金色の左右不対称、一端は丸みを帯び小蓋を有し他端はやや尖っている。第一中間宿主カワニナ、第二中間宿主は2倍体個体群ではサワガニ、3倍体個体群ではモクズガニ待機宿主イノシシネズミなど、終宿主ヒトイヌネコタヌキキツネイタチテンなど。

生活環 編集

 
生活環の模式図

ウェステルマン肺吸虫の虫卵は気管、消化を経て糞便とともに排出あるいは喀痰とともに排出される。虫卵は水中で発育してミラシジウムとなり、ミラシジウムは第一中間宿主である貝の体表から侵入し、体内でスポロシストレジアセルカリアへと発育する。第一中間宿主の体内から脱出したセルカリアが第二中間宿主であるカニの関節部の体表から侵入することで体内へ移行し、セルカリアからメタセルカリアへと発育する。終宿主がサワガニ、モクズガニなどの第二中間宿主を摂取することにより終宿主の小腸へ移行し、小腸で脱嚢、腹壁を穿孔して、横隔膜を通り、胸腔をへて肺に移動し、ペアを形成して虫嚢を作る。

症状 編集

胸部肺吸虫症
チョコレート色の血痰、咳、胸痛、息切れ
脳肺吸虫症
頭痛、嘔吐、麻痺など。生命にかかわりうる。
皮下肺吸虫症
移動性限局性腫瘤

診断 編集

問診
サワガニ、モクズガニ、イノシシ肉の生食の有無、咳、喀痰
虫卵検査
喀痰、糞便中の虫卵検出。
胸部X線画像
右中下肺野に境界明瞭な銭形陰影coin lesionを認める。
脳肺吸虫症では頭部X線画像で石灰化像を認めることがある。

治療 編集

治療にはプラジカンテルが有効である。

参考画像 編集

脚注 編集

  1. ^ 日本寄生虫学会用語委員会 「暫定新寄生虫和名表」 2008年5月22日
  2. ^ P.H. Manson-Bahr. Notes on Some Landmarks in Tropical Medicine. (pdf) Proceedings of the Royal Society of Medicine (1937) Aug; 30(10): 1181–1184.
  3. ^ Max Braun. Animal Parasites of Man (pdf) (1906) 161-163
  4. ^ [1] 国立感染症研究所 シカ肉を介したウェステルマン肺吸虫症の感染リスク

関連項目 編集

参考文献 編集