ことわざ

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ことわざ英語:proverb、ラテン語:proverbium)とは、鋭い風刺や教訓・知識などを含んだ、世代から世代へと言い伝えられてきた簡潔な言葉のことである。俚諺(りげん)ともいう。

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概要編集

ことわざは、観察と経験そして知識の共有によって、長い時間をかけて形成されたものである。その多くは簡潔で覚えやすく、言い得て妙であり、ある一面の真実を鋭く言い当てている。そのため、詳細な説明の代わりとして、あるいは、説明や主張に説得力を持たせる効果的手段として用いられることが多い。

慣用句と重なる部分もあるが、一般のの中でその一部として用いられるものを慣用句といい、文の形をとるか、または簡潔ながら文に相当する意味を表すものをことわざというのが普通である。

ことわざの基本構造が「AはB」「AのB」「AよりB」といった偶数構造であることは、多くの研究者によって指摘されている[1]。たとえば、折口信夫とことわざの分かれ目を、歌が奇数律であり、ことわざが偶数律である点に着目した。また、池田弥三郎俳句川柳が偶数仕立てに短縮されてことわざに変化することに着目し、文芸とことわざの違いを説明している。

偶数構造を持つことわざに共通する点は2つあり、ひとつは、2つのものを対照させて提示することで、お互いを際立たせるレトリックとして機能するとともに、物事を弁証法的に見る点にある。もうひとつは、極限まで切り詰めた表現であることわざは、拠って立つ論理すら省略されている点にある[1]

アラン・ダンダスは、ことわざがことわざとして機能するには少なくとも1つの主題(topic)と1つの叙述(comment)を備えていなければならないと述べた。たとえば「紺屋の白袴」の場合、紺屋が主題で白袴が叙述である。1組の主題と叙述で命題を構成する必要があるため、1語文のことわざは論理的に成立しえない[1]

地域と文化編集

ことわざは、その文化に属する者の思考に、意識的あるいは無意識的な影響を及ぼす。ヨーロッパのそれぞれの文化のことわざは非常に似通っている。一方、異なる文化の間でも同等の意味を持つことわざ・慣用句があることも多い。例えば、「船頭多くして船山に登る」と "Too many cooks spoil the broth."(コックが多すぎてスープが出来損なう)、「覆水盆に返らず」(中国語: 覆水難收)と "It is no use crying over spilt milk." (こぼれたについて泣いても無駄である)、「日光を見ずして結構と言う勿れ」と"See Naples and then die."(ナポリを見てから死ね)、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」(中国語: 不入虎穴,焉得虎子[2][3])と"No pain no gain. "(痛みを受けずに得る物なし)などの例である。

一方で、「女房は新しい方がいい」という特殊な価値観を示すようなものもある。

ことわざの中にはしばしば、反対の意味を示すものがある。例えば、「三人寄れば文殊の知恵」と「船頭多くして船山に登る」、「蛙の子は蛙」「瓜のつるには茄子はならぬ」と「氏より育ち」あるいは「とんびが鷹を産む」、「縁の下の力持ち」「縁の下の土竜もち」がある。前掲のことわざにも「女房味噌は古い方がいい」という例がある。

また、同じことわざでも文化の背景が異なることによって、まったく別の意味に受け取られるものも少数ではあるが存在する。例えば、"A rolling stone gathers no moss."(転がる石はコケむさない)は、イギリスや日本では「落ち着きなく動き回っているものには能力は身につかない」という意味である。一方、アメリカでは「いつも活動的に動き回っている人は持っている能力を錆び付かせることはない」という意味になる。これは、コケを否定的に捉えるか肯定的に捉えるか、に由来する違いである。

日本においても、たとえば「情けは人の為ならず」は、しばしば本来の因果応報という意味で理解されず、誤解されることが多い。背景には古語と現代語の文法の違いなどがある。典型的な誤解釈としては「人に情けをかけてはいけない」というものがあるが、近年では双方の意味が併記される辞書もある。岡林春雄は、特に若者に誤解されがちな「ことわざ」として、「お茶を濁す」や「河童の川流れ」、「かわいい子には旅をさせよ」などを挙げている[4]

ことわざは一字一句、固定しているように見えるが、実際には短くなったり長くなったり、異なる表現になったり、変化がある。また、消長もある[5]

その他編集

  • 読売新聞は創刊135周年を記念し、「ポケモンといっしょにおぼえよう! ことわざ大百科」と題したコラム2009年3月16日から朝刊日曜を除く毎日掲載し活字に親しみ、親子でことわざを学ぼうとする企画を始めた。コラムは毎日違ったページに掲載され、それを探し出すことで子供が新聞を広げる習慣を持たせることや活字離れを未然に防ぐことを意図している[6]
  • 古事記』など古代日本の書物の中にもことわざは度々記述されている。例として、垂仁朝、沙本毘子(サホヒコ)の反乱を述べた記載の中に「諺に地(ところ)得ぬ玉作と曰うなり」とあり、玉造の人々は土地を持たない(一定の場所で玉を加工しない)という意。

脚注編集

  1. ^ a b c 武田勝昭、福田晃真鍋昌弘常光徹(編)、2003、「諺の仕組み:諺における推論のプロセス」、『口頭伝承<トナエ・ウタ・コトワザ>の世界』9、 三弥井書店〈講座 日本の伝承文学〉 ISBN 4838231229
  2. ^ 後漢書·班超伝』:「超曰:『不入虎穴、不得虎子。』」
  3. ^ ·羅貫中三国演義』第七十回:「忠曰:『不入虎穴、焉得虎子?』」
  4. ^ 岡林春雄「若者のことわざ解釈について : 誤解釈の背景」日本教育心理学会総会発表論文集51号、2009年
  5. ^ 例えば、時田昌瑞(『辞書から消えたことわざ』角川SSC新書 ■2014年)など。
  6. ^ 「ポケモンといっしょにおぼえよう! ことわざ大百科」スタート”. 読売新聞 (2009年3月16日). 2009年4月1日閲覧。

関連項目編集

外部リンク編集