馬場紀寿

日本の仏教学者

馬場 紀寿(ばば のりひさ、1973年[2] - )は、日本仏教学者、東京大学東洋文化研究所教授[3][4]

馬場紀寿
生誕 1973年(50 - 51歳)
日本の旗 日本青森県十和田市[1](旧十和田湖町
研究分野 仏教学
研究機関 東京大学東洋文化研究所
出身校 花園大学東京大学
博士課程
指導教員
下田正弘
主な受賞歴 日本学術振興会賞
プロジェクト:人物伝
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経歴 編集

青森県出身[2][5]。1996年、花園大学文学部卒[2]。2000年、東京大学文学部[2]。2006年、東京大学大学院人文社会学系研究科博士課程修了、博士(文学)取得[2]

2006年、東京大学東洋文化研究所助手[2]。2007年、同助教[2]。2010年、同准教授[2]。2019年、同教授[3]東京大学研究倫理推進室室員を兼任[4]

在外研究として、2006年ケンブリッジ大学ダーウィンカレッジリサーチアソシエイト、2009年スタンフォード大学何家基金仏教学センター客員研究員[2][6]

研究 編集

研究分野は古代インド仏教および上座部仏教[7]

博士論文は「三明説の伝承史的研究:部派仏教における仏伝の変容と修行論の成立」で、2006年に東京大学より博士(文学)の学位を取得した[8]。主査は下田正弘、副査は斎藤明丘山新佐々木閑森祖道[8]

在外研究中に博論の内容を発展させ、2008年に最初の単著『上座部仏教の思想形成-ブッダからブッダゴーサへ』を出版した[6]。同書により、2009年日本南アジア学会賞や、2018年日本学術振興会賞[2]を受賞した。同書において、仏教史におけるブッダゴーサの新たな位置づけを提唱した[9][10]

アカハラ問題 編集

2016年より、馬場はブッダゴーサの仏教史における位置づけを巡って、清水俊史と論争を行っていた[9][10]

2021年、大蔵出版のウェブサイト上で、清水の著書『上座部仏教における聖典論の研究』の出版に際し、「さる先生」が清水に研究不正があるとして清水および大蔵出版に出版停止を求める動きがあったが、第三者委員会で検討した結果不正はなかった、という声明が出された[11]。大蔵出版によれば、「さる先生」は「出版したら書評で清水を潰す。大蔵出版の姿勢も叩く」「清水君が出版をあきらめれば、彼の就職を応援する」という脅迫的ハラスメントを行っていたという[11]

2022年、佐々木閑が論争を整理する評論を出し、「さる先生」が馬場であることを示唆し、2017年に行われた日本印度学仏教学会においてもハラスメントがあったことを証言した[9]。佐々木によれば、大蔵出版の声明後、全国紙からの取材もあったが、清水および大蔵出版は大きな動きに出ず[9]、清水は一時学界でも行方知れずという状況にあったという[10]

2023年12月、清水は著書『ブッダという男』(ちくま新書)を刊行した。同書のあとがきで、馬場とその恩師である森祖道から当時圧力を受けたこと、全国紙から取材もあったが馬場や森、および馬場の指導教官だった下田正弘は取材を拒否したこと、清水自身は断筆するほど憔悴したが他の学者や出版人の後押しを受け復帰したこと、などを明かした[12][13]

2024年2月、馬場はresearchmapにおいて、清水の2016年の論文に研究倫理上の問題があるため、論文発行元の佛教大学仏教学会に追補するよう請求したと発表し、加えて清水が主張するような出版妨害や圧力をかけてはいないと述べた[14]。これに対し清水も、同じくresearchmapにおいて、馬場への反論を発表し、馬場の請求が不当なものであること、出版妨害やアカハラはあったことを述べた[15]。同月末、佛教大学仏教学会は、清水の主張を認め、馬場の請求を却下した[16]

2024年3月26日、清水は、佛教大学仏教学会より、馬場からの追補の請求を棄却する旨の正式回答が届いたことを報告した[17]。一方、佛教大学仏教学会(会長・松田和信)は、当初の発言を撤回して、紀要に研究倫理上の問題があると指摘を受けているにもかかわらず「その真否について調査義務を負うものではないとの考えを持つに至った」と通告した。これについて清水は、松田和信(佛教大学教授)と山極伸之(佛教大学教授)が過去に馬場とともに「清水は研究不正している」と吹聴していたことを明かし、にもかかわらずその松田と山極が今回の申入を受けても調査を行わず追補の請求を棄却したことから、「裏で陰口として言えても、表で堂々と言えるようなものではない。私の不戦勝です」と述べた[18][19]

学術賞歴 編集

著書 編集

単著 編集

その他 編集

  • 『神話世界と古代帝国』〈アジア人物史 1〉集英社、2023年、ISBN 9784081571017(執筆担当:第4章「ブッダ - 〈所有〉と〈再生産〉の社会に現れた覚者」259-274頁)

脚注 編集

  1. ^ 広報とわだ2008年6月号”. 2023年12月11日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k 第15回(平成30年度)日本学術振興会賞の受賞者決定』(プレスリリース)独立行政法人日本学術振興会、2018年12月27日、21頁http://www.zinbun.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2018/12/%E5%A0%B1%E9%81%93%E7%99%BA%E8%A1%A8%E7%AC%AC15%E5%9B%9E%EF%BC%88%E5%B9%B3%E6%88%9030%E5%B9%B4%E5%BA%A6%EF%BC%89%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%AD%A6%E8%A1%93%E6%8C%AF%E8%88%88%E4%BC%9A%E8%B3%9E%E3%81%AE%E5%8F%97%E8%B3%9E%E8%80%85%E6%B1%BA%E5%AE%9A.pdf2024年1月7日閲覧 
  3. ^ a b 馬場 紀寿”. KAKEN. 2023年12月11日閲覧。
  4. ^ a b 令和5年度研究倫理セミナーを開催”. 東京大学 (2024年1月29日). 2024年3月2日閲覧。
  5. ^ 馬場紀寿(インタビュアー:岩波新書編集部)「馬場紀寿さん『初期仏教 ブッダの思想をたどる』インタビュー」『Web岩波新書』、岩波書店、2018年10月14日https://www.iwanamishinsho80.com/post/_baba2024年1月7日閲覧 
  6. ^ a b 「仏教を科学する」をモットーに、仏教の歴史と思想的源泉を探る。”. 東京大学. UTOKYO VOICES 054 (2019年3月28日). 2023年12月11日閲覧。
  7. ^ 馬場 紀寿(ばば のりひさ)”. 東京大学東洋文化研究所. 2018年10月19日閲覧。
  8. ^ a b 学位論文要旨詳細”. gakui.dl.itc.u-tokyo.ac.jp. 2023年12月11日閲覧。
  9. ^ a b c d 佐々木閑ブッダゴーサの歴史的位置づけをめぐる馬場紀寿氏と清水俊史氏の論争(1)序言」『禪學研究 = Studies in Zen Buddhism = The "Zengaku kenkyū"』第100号、禪學研究會、2022年3月、123–138頁、CRID 1520292572087775744 
  10. ^ a b c 佐々木閑ブッダゴーサの歴史的位置づけをめぐる馬場紀寿氏と清水俊史氏の論争(2)」『禪學研究 = Studies in Zen Buddhism = The "Zengaku kenkyū"』第101巻、禪學研究會、2023年、55-73頁、CRID 1520296841731419008 
  11. ^ a b 『上座部仏教における聖典論の研究』に関する声明”. 大蔵出版 (2021年1月28日). 2023年12月9日閲覧。
  12. ^ 清水俊史『ブッダという男 初期仏典を読みとく』筑摩書房〈ちくま新書〉、2023年。ISBN 978-4480075949 219f頁。
  13. ^ 清水俊史 [@AKBhVis] (2023年12月8日). "拙著『ブッダという男』では、馬場紀寿氏から受けたアカハラについて書きましたが、実際には、❶関係各位に私を誹謗中傷するメールを送る、❷学会懇親会などで私を悪口を叫ぶ、❸「絶対に就職できないようにしてやる」などと周囲に示唆・威圧するといった行為が複数に関係者に現認されています。". X(旧Twitter)より2023年12月9日閲覧
  14. ^ 馬場 紀寿 (Norihisa Baba) - 資料公開 - researchmap”. researchmap.jp. 2024年2月7日閲覧。
  15. ^ 馬場紀寿「佛教大学仏教学会への申入書」について”. 2024年2月10日閲覧。
  16. ^ 【ご報告】馬場紀寿による研究倫理上の指摘について”. 2024年2月29日閲覧。
  17. ^ 佛教大学より正式回答”. 2024年3月26日閲覧。
  18. ^ 【ご報告】馬場紀寿(東大教授)より研究倫理違犯の告発と追補の請求を受けておりましたが、本日、佛教大学仏教学会より「馬場教授からの追補の請求を棄却する」旨の連絡を正式にいただきました。 はっきり言って私の不戦勝です。馬場氏がこれに不満であれば、民事訴訟を佛大相手に起こすでしょう。”. 2024年3月26日閲覧。
  19. ^ 佛教大学より正式回答”. 2024-03-29閲覧。

外部リンク 編集