ゴーイング、ゴーイング、ゴーン
『ゴーイング、ゴーイング、ゴーン』(Going, Going, Gone)は、ジャック・ウォマックの長篇小説。2000年発行。ウォマックによる「アンビエント」シリーズ(「ドライコ」シリーズとも呼ばれる)の第6作。日本では未訳。
ゴーイング、ゴーイング、ゴーン Going, Going, Gone | ||
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著者 | ジャック・ウォマック | |
発行日 | 2000年 | |
発行元 | Grove Press | |
ジャンル | スペキュレーティブ・フィクション、ディストピア、風刺、歴史改変小説 | |
国 | ||
言語 | 英語 | |
形態 | ハードカバー、ペーパーバック | |
ページ数 | 218(Grove Press版ペーパーバック) | |
前作 | ランダム・アクツ・オブ・センスレス・ヴァイオレンス | |
コード | ISBN | |
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概要
編集語り手は、1968年のニューヨークに暮らす青年となる。アンダーグラウンドカルチャーを好みつつ政府のもとで働く語り手の奇怪な体験が、シリーズ全体の結末へと繋がっていく。
ウォマックの言語へのこだわりは、過去のアメリカでクールとされたヒップスターなどの言葉遣いを登場人物にしゃべらせる点に現れている。語り手は、こった言い回しや冗談を多用し、これまでの作品とは打って変わった印象を与える。しかし、人種差別、暗殺など政治にからむ陰謀、圧政、冷戦、ヴェトナム戦争などが進行中であり、ときに語り手の身をも危うくする。
時系列において最後に当たる作品。最初にあたる『ランダム・アクツ・オブ・センスレス・ヴァイオレンス』は1998年が舞台であり、その約49年後が想定されている。
キーワード
編集- ケネディ家
- ジョセフ・ケネディ1世の時代から、ナチスと親密な関係を結んでいる。大統領選挙では負け続けており、ロバート・ケネディが次の候補に有力視されている。
- パーソナリティ・ダイナモ(Personality Dynamo)
- 新興宗教。自己啓発的な集会を開いており、薬物や催眠を用いる。幹部たちはリングリーダーと呼ばれる。"Max Your Po!"(Poはポテンシャルの意味)というキャッチ・フレーズを用いている。
主な登場人物
編集- ウォルター・ブリット(Walter Bullitt)
- 本作品の語り手。29歳。常に軽口を忘れないプレイボーイで、シアトル生まれのブラックアイリッシュ。フリーランサーとしてアメリカ政府で働く一方、ドラッグにも造詣が深い。レコード・コレクターで、ジャズやブルーズなど廃盤となった黒人音楽(Race record)を聴きあさっている。仕事では、スミス(Smith)という名を用いる。
- ユーラリア・バックス(Eulalia Bax)
- 奇妙な言葉遣いをする美女。通称ユーリイ(Eulie)。モッズ風のファッションで現れ、ウォルターに付きまとわれる。自らを調査員だと語るが、仕事の内容や身の上を詳しく明かそうとしない。ときおり非常識な行動をとり、ウォルターを驚かせる。
- クロエ・ジョセフィン(Chloe Josefyn)
- ユーリイのボディガードである大柄の女性。通称クロージョウ(Chlojo)。ユーリイと同じく変わった言葉を話し、仕事を妨げる人間はためらわずに殺す。ジャマイカ系とスウェーデン系のハーフと語る。
- トリッシュ(Trish)
- ウォルターのガールフレンド。暇を見てはウォルターを連れ歩く。
- マーティン(Martin)
- アメリカ政府の職員。ウォルターの先輩格で、彼を今の仕事にスカウトした。その後もウォルターに助言をし、面倒を見ている。
- ハミルトン(Hamilton)
- 司法省の人間。ロバート・ケネディを次期大統領にするための工作を進めており、その手駒としてジェイムズ・ケネディとウォルターを選ぶ。
- ハーマン・サートリアス(Hermann Sartorius)
- ハミルトンの同僚であるドイツ人。ナチであり、ユーリイやクロージョウの血統を疑う。
- ジェイムズ・ケネディ(James Kennedy)
- ロバート・ケネディの兄。一族の中では日陰者扱いで、政治には関わりを持たずにレコード店主をしている。客として来たウォルターと親しくなり、ダコタ・ハウスの自宅に招待する。
- クルーイ・ルー(Crewy Lou)
- 新興宗教パーソナリティ・ダイナモの幹部。トリッシュやウォルターを集会へ誘う。
- ルー、ケール、ニコ、アンガス(Lou, Cale, Nico, Angus)
- ミュージシャン。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのメンバー。ウォルター行きつけのナイトクラブ《マクシス・カンサス・シティ》でライヴを行なう。
- 幽霊(ghost)
- ウォルターに助けを訴えてくる存在。彼の部屋をはじめ、行く先々に出没するようになる。
あらすじ
編集ぼろアパートに暮らすウォルターは、雇い主からの電話で目を覚ます。仕事について嫌々話を聞いてから、いつものようにナイトクラブへ向かうと、見慣れない美女2人組の姿があった。ちょっかいを出したウォルターは殺されかけるが、やがて彼女たちは彼の体験に興味をもつ。最近ウォルターは、幽霊のような声と姿に悩まされていたのだ。ウォルターの部屋を訪れた2人はユーリイにクロージョと名乗り、彼は再会を期待する。
ウォルターの周囲は、大統領選挙をひかえて危険を増しつつあった。新しい仕事は、ロバート・ケネディの兄であるジェイムズに接触することだという。ウォルターの雇い主は、今年の選挙でロバートを大統領にするために動いており、ナチスの人間まで姿を現す。不吉なものを感じつつも、ウォルターは引き受ける。
共通の音楽趣味をもつウォルターとジェイムズは親しくなるが、幽霊の現象も次第に目立つようになる。ユーリイの目的は謎のままで、彼女たちは神出鬼没の行動を続ける。ある日、新興宗教の集会に誘われたウォルターは、冷やかし半分でユーリイとクロージョウを誘うが、彼が想像もしなかった騒動が起きてしまう。
年表
編集以下は、シリーズ6作の記述をもとに本作品の出来事を年表にしたもの。特に1998年以降については、数年のずれが生じている可能性あり。ページ数はGrove press版ペーパーバックによる。
ウォルターが住む世界の出来事
編集- 1840年代?:アイルランドでジャガイモ飢饉
- 1893年?:Mcgurk's Suicide Hallで最初の自殺(p18)
- 1911年?:コニーアイランドにドリームランドが建設される(p86)
- 1914年?:コニーアイランドにルナパークが建設される(p86)
- 1917年:マサイ族のサンボ、ブロンクス動物園へ。のちにドヴラトフ症候群で死亡(p141)
- 1926年:ドナルド・クック誕生パーティ。ハミルトンが出席(p9)
- 1938年9月29日?:ミュンヘン協定?
- 1939年?:"The March of Time"で、駐英大使時代のジョセフ・ケネディ1世が紹介される(p12)
- 1939年?:ヒトラーからジョセフ1世にテープレコーダーが贈られる(p111)
- 1939年:ドイツとハンガリーのユダヤ難民、ロングアイランドへ大量移民(p)
- 1939年:ウォルター・ブリット誕生(p126)
- 1942年?:"Perils of Nyoka"公開(p12)
- 1944年: "Black Harvest Blues" リリース(p108)
- 1940年代後半:現在ウォルターの住んでいるアパートが建てられる(p27)
- 1949年:ソヴィエト連邦、ベルリンに原爆投下。ヨーロッパからアメリカへの大量移民(p62)
- 1951年?:映画『地球の静止する日』公開
- 1954年:ウォルター、カレンとキス(p119)
- 1954年:ジョセフ・ケネディ1世が暗殺される(p96)
- 1950年代後半:ウォルター、シアトルからニューヨークへ来る。2週間後、部屋を見つける(p27)
- 1960年?:映画『サイコ』公開(p6)
- 1960年7月?:NASA、アポロ計画を発表
- 1960年:大統領選挙でジョセフ・ケネディ2世落選(p72)/リチャード・ニクソン勝利
- 1963年:パナマ危機(p94)
- 1963年9月?:ニクソン、ニューオーリンズで暗殺される(p6,72)/オズワルドの犯行(p71,72)/後任の大統領はヘンリー・カボット・ロッジJr.(p13,69)
- 1964年?:ロッジ、大統領に再選
- 1966年8月?:ジェイムズ・ケネディ、ウェストサイド・レコードの店主になる(p72)
- 1967年?:ビートルズ、『サージェント・ペパーズ』発表(p102)
- 1967年?:ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ、1stアルバム発表
- 1967年?:ジェイムズ、クレイジー・ジョージからレコードを買う(p95)
- 1967年?:ブルックリン・ドジャース、ニューヨーク・ヤンキースに勝ちワールドシリーズ優勝(p193)
- 1968年2月13日(火)?:午後6時にベネットの電話(p2)/ウォルター、幽霊の声を聞く(p3)
- 1968年2月14日(水)?:ウォルター、ウィラード・ホテルでベネット達と会う(p7)/《マクシス・カンサスシティ》でトリッシュやボウデンと会う(p19)/ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコのライヴ(p20)/ウォルター、ユーリイ達を目撃(p21)/ナンパ男、殺される(p23)/ウォルター、クロージョウに殺されかける(p23)/ウォルターの部屋で幽霊を目撃(p39)
- 1968年2月15日(木)?:トリッシュと会い、テルミンを聴く(p50)/満月の夜を散歩(p55)
- 1968年3月4日(月)?:ウォルター、マーティンから電話(p56)/3月の家賃を払えると安心(p58)/その週最初の食事(p58)
- 1968年3月5日(火)?:ウォルター、パーソナリティ・ダイナモの集会へ行く(p61)
- 1968年3月6日(水)?:ウォルター、サートリアス達と会う(p68)/クロージョ、イタリア人街で殺人(p80)/ウォルター、マーティンと会う(p85)
- 1968年3月7日(木)?:ウォルター、ウェストサイド・レコードでジェイムズ・ケネディと会う(p88)
- 1968年3月9日(土):ウォルター、ジェイムズと会う(p94)
- 1968年3月10日(日)?:ウォルター、トリッシュと会う(p98)/ジェイムズのアパートへ行く(p110)/バーで入店を断られたユーリイと会う(p114)
- 1968年3月11日(月)?:ウォルター、ベネット達と会う(p121)
- 1968年3月12日(火)?:ウォルター、トリッシュと会う(p129)/ジェイムズと会う(p132)/ユーリイ達と会う(p133)/買い物(p137)/自然史博物館でサンボを見る(p140)/パーソナリティ・ダイナモで殺人(p153)/ウォルターとユーリイ達、転移(p157)/ウォルター、転移中に幽霊を見る(p158)
- 1968年3月13日(水)?:ジェイムズ、撃たれる(p198)
- 1968年3月14日(木)?:ウォルター、帰還(p196)/ベネット達と会う(p201)/ジェイク出現(p205)/世界が一つになる(p208)
- 1968年11月:大統領選挙予定(p12)
- 1969年7月?:アポロ宇宙船、月面着陸予定。ナチスが協力(p55,56)
ドライコの世界の出来事
編集- 1840年代:アイルランドでジャガイモ飢饉
- 1893年:Mcgurk's Suicide Hallで最初の自殺
- 1911年:コニーアイランドにドリームランドが建設される(p86)
- 1914年:コニーアイランドにルナパークが建設される(p86)
- 1938年:ローズヴェルト大統領、ジョセフ・ケネディ1世を駐英大使に任命
- 1938年9月29日:ミュンヘン協定
- 1942年?:"Perils of Nyoka"公開(p12)
- 1944年:ジョセフ・ケネディ2世戦死
- 1951年:映画『地球の静止する日』公開
- 1960年:映画『サイコ』公開
- 1960年7月:NASA、アポロ計画を発表
- 1962年10月16日 - 28日:キューバ危機
- 1963年11月23日(土):ジョン・F・ケネディ大統領がダラスで暗殺される。後任はリンドン・ジョンソン。
- 1964年:ジョンソン、大統領に再選
- 1967年:ビートルズ、『サージェント・ペパーズ』発表
- 1967年:ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ、1stアルバム発表
- 1968年6月6日(木):大統領選に出馬したロバート・ケネディが暗殺される
- 1968年7月20日(日):アポロ11号、月面着陸(p185)
- 1968年:リチャード・ニクソン、大統領選挙に勝利
- 1969年:ジョセフ・ケネディ1世死亡
- 1969年8月15日 - 17日:ウッドストック・フェスティバル開催
- 1975年4月30日:サイゴン陥落。ヴェトナム戦争終結
- 2032年:イザベル、娘を出産(p174)
- 2032年?:イズ、死亡(p174)
- 2032年?:ジュディ、イズの死後に娘を引き取る(p174)
- 20??年:ジュディ、オマリイからドライコを継ぐ(p171)
- 20??年:ユーリイの母、自分の臓器を売り、死亡(p184)
- 2045年7月?:アリスに異常発生(p183)
- 2045年11月?:ユーリイ達、転移(p20)
- 2045年11月?:ユーリイ達、帰還(p45)
- 2045年12月?:ユーリイ達、転移(p77)
- 2045年12月?:ユーリイ達、帰還(p79)
- 2045年12月?:ユーリイ、転移(p114)
- 2045年12月?:ユーリイ、帰還(p120)
- 2045年12月?:ユーリイ達、転移(p133)
- 2045年12月?:ユーリイ達、ウォルターを連れ帰還(p157)/クロージョ、死亡(p159)/アリス停止(p183)/ウォルター、倒れる(p163)
- 2045年12月?:ウォルター、マダムと会う(p168)/グランドドウターと会う(p172)/ウォルター、ユーリイの家に泊まる(p187)
- 2045年12月?:ユーリイ、ウォルターを連れ転移(p195)
シリーズの他作品との関連
編集シリーズ作品を時系列に沿って並べると、以下のようになる。
- ランダム・アクツ・オブ・センスレス・ヴァイオレンス(Random Acts of Senseless Violence)
- ヒーザーン(Heathern) - 1.の約半年後
- アンビエント(Ambient) - 2.の約13年後
- テラプレーン(Terraplane) - 3.の約4年後
- ウォルターが生まれた頃、1939年の事件が語られている。
- スターリンの失踪、ニューヨーク万博でのニコラ・テスラの実験、ロバート・ジョンソンのライヴについて語られている。
- エルヴィシー(Elvissey) - 4.の約16年後
- 1954年の事件が語られている。
- 第2次世界大戦の結末、スターリン失踪後のソ連について語られている。
- ゴーイング、ゴーイング、ゴーン(Going, Going, Gone) - 本作品。5.の約14年後