サイコ (1960年の映画)
『サイコ』(Psycho)は、1960年のアメリカ合衆国のサイコスリラー映画。監督はアルフレッド・ヒッチコック、出演はアンソニー・パーキンスとジャネット・リーなど。全編モノクローム映像。音楽はバーナード・ハーマン。
サイコ | |
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Psycho | |
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監督 | アルフレッド・ヒッチコック |
脚本 | ジョセフ・ステファノ |
原作 | ロバート・ブロック |
製作 | アルフレッド・ヒッチコック |
出演者 |
アンソニー・パーキンス ヴェラ・マイルズ ジョン・ギャヴィン マーティン・バルサム ジョン・マッキンタイア ジャネット・リー |
音楽 | バーナード・ハーマン |
撮影 | ジョン・L・ラッセル |
編集 | ジョージ・トマシーニ |
製作会社 | シャムリー・プロダクションズ |
配給 | パラマウント映画 |
公開 |
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上映時間 | 109分 |
製作国 |
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言語 | 英語 |
製作費 | $806,947[1] |
興行収入 |
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配給収入 |
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次作 | サイコ2 |
概要 編集
ヒッチコック監督の前作『北北西に進路を取れ』に引き続き、タイトルデザインをソール・バスが担当。脚本はジョセフ・ステファノ、作家ロバート・ブロックがエド・ゲインの犯罪にヒントを得て執筆した小説『サイコ』が原作。撮影はユニバーサル映画のスタジオ。配給はパラマウント映画。
1992年に「文化的、歴史的、美学的に重要な作品」としてアメリカ国立フィルム登録簿に登録[4]された。
ストーリー 編集
金曜日の昼休みに、アリゾナ州フェニックスのホテルで、地元の不動産会社のOLのマリオンは恋人のサムと情事にふけっている。カリフォルニアで雑貨店を営むサムは、経済的な理由でマリオンとの再婚に踏み切れずにいる。職場に戻ったマリオンは、客が払った代金4万ドルを、まだ営業時間内であった銀行まで運ぶことになるが、彼女は札束を持ったまま、車でサムのいる町へ向かってしまう。途中で警官や中古車店の店主に不審の目を向けられるが、彼女の持ち逃げは表沙汰になっておらず、それ以上のことは起こらない。
夜になってマリオンはベイツモーテルという小さな宿に泊まることにする。そこはノーマンという青年が1人で切り盛りする小さな宿で、彼は隣接した丘の上に建つ屋敷に母と2人で住んでいるということだった。応接室でノーマンと話をしながら夕食をとったあと、客室に戻ったマリオンがシャワーを浴びていると何者かが入ってきて彼女を刺殺し、出ていく。丘の上の屋敷から「母さん、血まみれじゃないか」と叫ぶノーマンの声が響く。直後に飛び込んできたノーマンは殺人を隠蔽するために浴室を清掃し、死体と所持品を彼女の車のトランクに押し込み、近くの沼まで運ぶ。車はマリオンの死体と4万ドルを乗せて沼に沈む。
マリオンの妹のライラは、金を返してくれれば警察沙汰にはしないという不動産屋の社長の言葉を姉に伝えようとサムのもとを訪ねるが、マリオンが来ていないことを知り、2人でマリオンを探すことになる。そこに、社長に雇われた私立探偵のアーボガストも加わる。ベイツモーテルを訪れたアーボガストはノーマンに不審を抱き、そのことを電話でライラに伝えたのち、丘の上の屋敷に上がり込むが、部屋から飛び出して来たノーマンの母親らしき人物に殺されてしまう。
一方、サムとライラは地元の副保安官を訪ねるが、助けを得ることはできない。副保安官は2人に「ノーマンの母親は10年前に死んだ」と告げる。
2人は手がかりを求めてベイツモーテルに乗り込む。サムがノーマンを引き留めている間に屋敷に忍び込んだライラは、地下室でノーマンの母親の干からびた死体を見つける。その瞬間、女装したノーマンが刃物を振りかざして襲いかかってくるが、追いかけてきたサムに取り押さえられる。
精神科医が拘禁中のノーマンを診察し、関係者の前でその結果を説明する[注 1]。
母親とノーマンは2人だけの世界で長く暮らしてきたが、10年前に母親が恋人を作るとノーマンは自分が見捨てられたと感じ、母親と恋人を密かに殺害していたのだった。それ以来ノーマンの心の半分は彼の母親に占められ、彼は自分自身と母親の2人の人格を持って生きてきたのである。息子を女性から遠ざけようとする母親の人格がマリオンを殺したのだった。
その頃、留置場でじっと座っているノーマンの心は完全に母親に乗っ取られていた。
キャスト 編集
役名 | 俳優 | 日本語吹替 | |||
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東京12ch版 | フジテレビ版 | TBS版 | ソフト版 | ||
ノーマン・ベイツ | アンソニー・パーキンス | 西沢利明 | 辻谷耕史 | ||
マリオン・クレイン | ジャネット・リー | 山東昭子 | 武藤礼子 | 佐々木優子 | |
ライラ・クレイン(マリオンの妹) | ヴェラ・マイルズ | 幸田弘子 | 鈴木弘子 | 相沢恵子 | |
サム・ルーミス(マリオンの恋人) | ジョン・ギャヴィン | 広川太一郎 | 川合伸旺 | 神谷和夫 | 小山力也 |
ミルトン・アーボガスト(私立探偵) | マーティン・バルサム | 島宇志夫 | 渡部猛 | 有本欽隆 | |
アル・チェンバース(副保安官) | ジョン・マッキンタイア | 雨森雅司 | 八奈見乗児 | 飯塚昭三 | |
フレッド・リッチモンド(精神科医) | サイモン・オークランド | 岡部政明 | 加藤正之 | 稲葉実 | |
トム・キャシディ(金持ちの経営者) | フランク・アルバートソン | 雨森雅司 | |||
チェンバース(保安官)夫人 | ルリーン・タトル | 鈴木れい子 | |||
キャロライン(マリオンの同僚) | パット・ヒッチコック | 吉田理保子 | 榊原良子 | ||
ジョージ・ロウリー(不動産会社の社長) | ヴォーン・テイラー | 北村弘一 | |||
チャーリー(中古車店の店主) | ジョン・アンダーソン | 村松康雄 | 掛川裕彦 | ||
ハイウェイパトロールの警官 | モート・ミルズ | 木原正二郎 | 郷里大輔 | ||
ノーマ・ベイツ(ノーマンの母親)の声 | バージニア・グレッグ ポール・ジャスミン ジャネット・ノーラン |
京田尚子 | 磯辺万沙子 | ||
その他 | 西川幾雄 屋良有作 好村俊子 大方斐紗子 |
伊藤和晃 吉沢希梨 火野カチコ 長克巳 倉持良子 佐藤晴男 斉藤次郎 | |||
演出 | 山田悦司 | 岩浪美和 | |||
翻訳 | 榎あきら | 森みさ | 前田美由紀 | ||
効果 | 赤塚不二夫 | ||||
調整 | 栗林秀年 | ||||
制作 | グロービジョン | 東北新社 | |||
解説 | |||||
初回放送 | 1968年5月9日 『木曜洋画劇場』 |
1975年9月5日 『ゴールデン洋画劇場』[5] |
1983年6月16日 『名作洋画ノーカット10週』 |
受賞・ノミネート歴 編集
受賞
- 第18回ゴールデングローブ賞 助演女優賞:ジャネット・リー
- エドガー賞 映画脚本部門 1961年最優秀賞:ジョセフ・ステファノ
ノミネート
- 第33回アカデミー賞(1960年) 4部門
- 全米監督協会賞:アルフレッド・ヒッチコック
製作エピソード 編集
- ヒッチコックは、原作の映画化権をわずか9,000ドルで匿名で買い取った。また事前に内容が知られるのを防ぐため、スタッフは市場に出回っていた原作を可能な限り買い占めた。もっともロバート・ブロックの原作は既に広く読まれていて、当時すでに日本語訳も出ていた。
- ベイツ・モーテルは、アンソニー・パーキンスが大きく見えるよう、一般的な大きさより少し小さめに作った。
- シャワー・シーンで流れたのは、赤くないチョコレートソースだった。
- 寝室のジャネット・リーを覗くアンソニー・パーキンスの目の大写しでは、眼の検診で使用する医学用ライトが用いられた。
- 殺された人間が頭から階段を転がり落ちるカットでは、俳優と階段を別に撮影し合成した。
- ヒッチコックは、マリオンが事務所に出勤した際、事務所の外でウェスタンハットをかぶっている通行人としてカメオ出演した。
評価 編集
映画の前半では、マリオンの犯した横領をめぐる心理的葛藤を描くクライム・サスペンスの様相を呈し、「車を購入する際の不自然な挙動」や「それを不審に思う警官」など、不安定な心理状態と緊迫感が丁寧に演出される。ところが、彼女は何の前ぶれもなく刺殺される(『シャワー・シーン』)。モノクロでも凄惨な映像と音楽は、後に多くの他の映画作品において模倣やパロディーが繰り返された。細かなカットについて、タイトル・シーケンスも手がけたソール・バスは、「自分が絵コンテを描いた」と主張している。
後半では、マリオンの妹と探偵らによるマリオン探しが主眼になり、謎とサスペンスは次第にベイツ・モーテルへと集中していく。探偵殺害シーンでは“カメラが人物の背後からはるか頭上へ1カットで急速に移動する”など、多くの映像テクニックが駆使されている。最後にマザーコンプレックスのノーマンがかばう母親の正体が明らかになり、物語は「この世にいないはずの人物によるモノローグ」という大胆かつ実験的な終結を迎える。
本作は同時期に公開された映画『血を吸うカメラ』と、異常殺人というモチーフの重なりや、その主題へのアプローチの差異などで比較されることもある。[要出典]
公開当時のキネマ旬報ベスト10では35位だった。
備考 編集
- ヒッチコック自身が本編の部分は使わず、舞台を案内する予告編があった。DVDなどの付録になっていることがあるが、北島明弘『クラシック名画のトリビア的楽しみ方』(近代映画社)には「前代未聞の驚くべき予告編」という項目によれば、「ヒッチコックがカーテンを開けると叫ぶ女性は、リーがいなかったのでライラを演じたヴェラ・マイルズが代演している」という。
- 公開当時、ヒッチコックが「途中入場の禁止」「ストーリーの口外禁止」を観客に訴える録音メッセージが劇場で流された[6]。途中入場を禁止したのは、途中入場した観客が「主役(ジャネット・リー)が出演していない」と騒ぐ可能性があったためである[7]。
- 声ばかりが聞こえ、最後に少しだけ顔を見せる「母親」の名前はノーマ。ライラに襲い掛かる場面で「私がノーマ・ベイツ」と名乗っているが日本版ビデオでは字幕が出ないため判りにくい。声はヴァージニア・グレッグ、ポール・ジャスミン、ジャネット・ノーランという3人の女優が担当した。
- 続編の劇場映画2本(『サイコ2』『サイコ3/怨霊の囁き』)とテレビ映画1本(『サイコ4』)、および同タイトルのリメイク作品が製作されている。なお、小説にも続編があるが、映画とは全く別の物語である。
- 脚本のジョセフ・ステファノは、その後テレビシリーズ『アウター・リミッツ』の脚本家・プロデューサーとなった。
- 映画の中でトイレが出てくる(しかも水まで流している)のはこの映画が初である[8]。
- マリオンの同僚キャロライン役を演じている女性はパトリシア・ヒッチコック(ヒッチコック監督の娘)で、父親から直々にキャスティングされた[9]。
- 有名なシャワーシーンの撮影にはジャネット・リーの全撮影日数3週間のうちの3分の1を占める7日間を要した。また、ヌードシーンではヌードモデルのマルリ・レンフロが起用されている。また、ナイフが刺さる音はメロンにナイフを突き刺す音を使用している[10]。
- 登場する自動車はすべてフォード・モーター製である。これは同社がTVシリーズ『ヒッチコック劇場』の主要スポンサーであったためである[11]。
- モーテル内の剥製や壁掛けの絵など「鳥」が象徴的に登場するが、実は町(フェニックス)や登場人物(マリオン・クレインのクレイン=鶴)の名前にも鳥が隠されている。ヒッチコック作品の中では「鳥」が登場するシーンはいつも大きな変化の予兆として描かれている[11]。
- 劇中でノーマンは5歳の時に父親を亡くしたという設定だが、ノーマン役を演じたアンソニー・パーキンスも実際に5歳の時に父親を亡くしている[12]。
脚注 編集
注釈 編集
- ^ 精神科医リッチモンドの説明は、ウィキクォート Psycho (1960 film)に台詞の全文がある。
出典 編集
- ^ “Psycho” (英語). Box Office Mojo. 2021年5月12日閲覧。
- ^ “Critics' Corner - Psycho” (英語). TCM.com. 2014年12月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月12日閲覧。
- ^ 『キネマ旬報ベスト・テン85回全史 1924-2011』(キネマ旬報社、2012年)171頁。
- ^ “Diverse pix mix picked”. Variety (1992年12月4日). 2020年8月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年6月4日閲覧。
- ^ 再放送1980年5月4日『日曜洋画劇場/アルフレッド・ヒッチコック追悼放映』※正味95分
- ^ Hitchock, Alfred (Director) (2008). Alfred Hitchock's Psycho (DVD) (English). Universal City, California, U.S.A.: Universal Studios Home Entertainment.
- ^ Robertson,Peggy(Personal Assistant To Mr. Hitchcock) (1997). THE MAKING OF PSYCHO (DVD) (English). Universal City, California, U.S.A.: Universal Studios Home Entertainment.
- ^ Leigh, Janet & Stefano, Joseph (1997). THE MAKING OF PSYCHO (DVD) (English). Universal City, California, U.S.A.: Universal Studios Home Entertainment.
- ^ Hitchock, Pat (1997). THE MAKING OF PSYCHO (DVD) (English). Universal City, California, U.S.A.: Universal Studios Home Entertainment.
- ^ Leigh, Janet (1997). THE MAKING OF PSYCHO (DVD) (English). Universal City, California, U.S.A.: Universal Studios Home Entertainment.
- ^ a b Blu-ray版「サイコ」(2010年発売)スティーブン・レベロ(「アルフレッド・ヒッチコック&ザ・メイキング・オブ・サイコ」著者)による本編音声解説より
- ^ “Osgood Perkins, stage star, dies; Stricken after premiere of Susan and God, in Which He Was Leading Man”. The New York Times. (1937年9月22日) 2020年8月8日閲覧。
関連作品 編集
- ヒッチコック (映画) - 本作の製作舞台裏を描いた2012年のアメリカ映画。
- ベイツ・モーテル (テレビドラマ) (Bates Motel) - 2013年から2017年まで放送されていたアメリカの連続TVドラマ。全5シーズン。少年時代のノーマンやその母が、ベイツ・モーテルに引っ越して来る辺りから始まり、どのようにして彼の人格が形成されてゆくかを描いている。
- 地獄のモーテル - 本作のパロディ的作品。
外部リンク 編集
- サイコ - allcinema
- サイコ - KINENOTE
- Psycho - オールムービー(英語)
- Psycho - IMDb(英語)
- Psycho - Rotten Tomatoes(英語)
- Psycho - Metacritic(英語)
- Psycho - American Film Institute Catalog(英語)
- Psycho - TCM Movie Database(英語)
- Filmsite: Psycho In-depth analysis of the film