M242 ブッシュマスターは、アメリカ軍をはじめとするNATO加盟国によって使用されている25mm機関砲チェーンガン)である。

M242 ブッシュマスター
種類 機関砲
原開発国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
運用史
配備期間 1972年-現在
開発史
開発者 マクドネル・ダグラス
製造業者 アライアント・テックシステムズ
(現・ノースロップ・グラマン・イノベーション・システムズ
製造数 10,000門以上
諸元
重量 110kg
銃身 2,175 mm (85.6 in)

口径 25x137mm弾
作動方式 チェーンガン方式
発射速度 最大 225rpm(調整可能)
初速 1,100 m/s (3,600 ft/s)
有効射程 3,000メートル (9,800 ft)
最大射程 6,800メートル (22,300 ft)
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概要 編集

M242は、他の自動作動するや砲と異なり、発射ガスや反動を砲弾の装填・排莢に用いず、機関部に設置された1馬力直流電動機チェーンと給弾機構を動かすチェーンガン方式を採っている。そのため、後述のように弾詰まりが非常に少ない。砲弾メタルリンクに繋がれた状態で装填される。

M242は、軽装甲車ヘリコプター、低空を低速で飛行している航空機などに対して使用される他、敵陣地制圧などにも使用される。発射速度は最大200発/分。有効射程は使用される砲弾によるが、最大2,000-3,000mにおよぶ。

作りがシンプルであり、ジャム(弾詰まり)を起こす頻度は22,000発に1回であり、他方式の機関砲と比べて弾詰まりしにくい。その高い信頼性が評価され、世界で10,500門が使用されている。この成功を基に多くのバリエーション(後述)が開発されている。

砲身・装填装置・機関部の3つの主要パーツから構成され、全体で110kgの重量があるが、1人で組み立て・撤去が可能である。同クラスの機関砲と比べ軽量コンパクトな部類だが、発射速度(連射)が遅いため航空機関砲対空機関砲にはやや不向きで、空軍は同じ25mm弾でも発射速度が高いガトリング砲GAU-12 イコライザーを運用している。また外部動力式の都合上、車載ないし艦載での運用が主体である。

M242は、ヒューズ・エアクラフトによって1972年から開発が始まり、1981年アメリカ軍M2ブラッドレー歩兵戦闘車と共に初めて制式採用された。その後M242を含むチェーンガンの事業はマクドネル・ダグラスに買収、さらに後にボーイングに吸収合併され、さらにアリゾナ州メサに本拠を構えるアライアント・テックシステムズ(ATK)に生産が移り、現在はATKとオービタル・サイエンシズの合併によって設立されたオービタルATK(現ノースロップ・グラマン・イノベーション・システムズ)に引き継がれている。

操作及び運用 編集

M242は、手動および電動によって発射コントロールができ、セミオート、低速連射、高速連射の3タイプの発射速度調整が可能である。 また、内蔵ギアをクラッチ機構によって繋ぎ変えることで給弾を変更でき(ダブルフィード、二重装填機構装備)、航空機には焼夷榴弾装甲車には徹甲弾を使い分けるといった柔軟な運用が可能である。

セミオートでは、発射桿を連続で握ると速射することが可能である。低速連射では100発/分、高速連射では200発±25発/分の射撃が可能である。

 
M2ブラッドレーの搭載砲

現在M242は、アメリカ陸軍M2歩兵戦闘車M3騎兵戦闘車アメリカ海兵隊LAV-25装輪装甲車に搭載されている他、海軍海兵隊沿岸警備隊)、ノルウェー陸軍)、スイス陸軍)、カナダ陸軍)、フィンランド陸軍)、オーストラリア陸軍海軍)などの歩兵戦闘車の他、艦艇に搭載されている。

砲弾 編集

エリコンKBA用に開発されたこの25x137mm弾は、ブッシュマスターの他にもフランスGIAT M811やGAU-12 イコライザーでも使用され、数多くの種類の砲弾が開発されており、25mm口径弾でのデファクトスタンダードとなっている。

軽装甲車や、一部の(旧世代の)戦車などをほとんど撃破できる他、ヘリコプターや低速飛行中の固定翼機に対しても有効であるが、最新の装甲車両は、逆にこの25mm弾に耐えうる事が抗堪性の1つの指標になっている。

M791
装弾筒付き徹甲弾"APDS"(曳光弾)。現在までに570万発が製造された。APDS-Tは、軽装甲車両自走榴弾砲撃破に使用される。
M792
焼夷榴弾自爆可能な曳光弾)。敵対戦車ミサイル発射陣地や、敵分隊の制圧に使用する。射程は最大で3,000m。
M793
訓練用教習弾(曳光弾)。1,150万発が製造された。M792と同じ砲弾特性を持ち、着弾と同時に破裂する教練弾。トレーサー火薬は2,000m以上燃え続けるが、M793の有効射程は1,600m。
M910
装弾筒付き教練弾(曳光弾)。M791と同様の砲弾飛行特性を持つ教練弾。装弾筒付き砲弾の砲撃練習に使用される。
MK210
焼夷榴弾(曳光弾)。22万8,000発が製造された。アメリカ海軍Mk.38海軍艦艇搭載武器システム(後述)に使用される。
M919
装弾筒付き翼安定型徹甲弾"APFSDS"(曳光弾)。基本的にM791と同様の目標撃破に使用される。違いは、安定翼がついている点。

派生型 編集

シリーズの砲は、口径・威力が異なっても車内側占有容積に大差が生じないように配慮されており、既存砲塔の換装や砲塔のバリエーション展開を容易にしている。

イギリスとフランス共同開発の40mm口径テレスコープ弾CTAI英語版機関砲も重量サイズがブッシュマスターに近いものに設計されており需要に食い込もうとの意図が見える。

改良型25mm砲 編集

1990年から、M242の改良がスタートした。砲身クロムメッキをかけることに始まり、給弾機構の改良、機関部の改良が行われた。また、より効果的なフラッシュサプレッサー、発射弾数計測計、補強型撃針クラッチ機構などの開発、改良も施された。M2ブラッドレー歩兵戦闘車の第三世代であるM2A3から搭載が開始された。

海軍型 編集

 
艦載のMk.38システム

1977年アメリカ海軍は、それまで使用していたエリコン・コントラヴェスのMk.16 20mm機関砲の更新が必要であると考えるようになった。1986年には、この要求に基づいてMk.38 Mod 0が導入された。

Mk.38はM242の派生型であり、砲本体とマウントから構成されている。艦艇から海上の敵(自爆攻撃ボート、警備艇、機雷、沿岸の敵など)に対して自衛、制圧砲撃を加えられる。

また、発射速度を上昇させたMk.46 Mod 0というタイプがRAMICS(Rapid Airborne Mine Clearance System:空中からMH-60S ナイトホークヘリコプターを用いて機雷を探知・撃破するシステム)計画に使用される。

近年ではMk.38 Mod 2と呼ばれる更に給弾機構を改良し、電子照準装置測距装置を備えた新しい改良型機関砲が艦艇に搭載され始めている。

M230 編集

M230機関砲は、30x113mm弾を使用する派生型。M242とほぼ同時期に開発されたが採用配備はこちらが先行した。M242より口径は大きいが、初速が低く反動が小さいためより小型軽量になっている。AH-64 アパッチの機体下部に搭載されている他、近年では主にRWS(遠隔操作銃架)に対応する車載型も登場している。

Mk 44 ブッシュマスター II 編集

Mk 44 ブッシュマスター IIは、30x173mm弾仕様型。M242の純粋な拡大強化型に当たり、火力は50%向上しているとされる。米海兵隊のEFV(遠征戦闘車)に採用予定だったが、車両は開発中止。その後、ストライカー装甲車の新たなバージョンである歩兵戦闘車型(ICVD)の他、各国の歩兵戦闘車に採用が進んでおり25mmの次のデファクトスタンダードとなりつつある。艦載型もイギリス海軍や、日本の海上保安庁巡視船などに採用が進んでいる。

ブッシュマスターIII 編集

ブッシュマスターIII35mm×228弾仕様型。アメリカ軍ではこの弾薬自体が採用されていないが、CV90歩兵戦闘車のバリエーションにこれを採用したものがある。

ブッシュマスターIV 編集

ブッシュマスター IV英語版40 × 365 mm R弾仕様型。

XM913 編集

XM913英語版は米陸軍のロケット弾、迫撃砲弾などの迎撃システム(Counter-RAM)研究開発過程で生まれた、新規格の50mm口径弾仕様型。弾薬の占有容積が既存の35mmとほぼ同じで、その換装の選択肢として期待できる他、ジェネラル・ダイナミクス・ランドシステムが開発中のグリフィンⅢ歩兵戦闘車に搭載された他、CV90歩兵戦闘車の新バージョン砲塔への搭載オプションの1つとして発表される等、売込みが強化されている。

関連項目 編集