ジャレド・ダイアモンド

ジャレド・メイスン・ダイアモンド(Jared Mason Diamond, 1937年9月10日 - )は、アメリカ合衆国進化生物学者、生理学者、生物地理学者、ノンフィクション作家。現在、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)社会科学部地理学科の教授

ジャレド・ダイアモンド
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生誕 ジャレド・メイスン・ダイアモンド
(1937-09-10) 1937年9月10日(83歳)
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国マサチューセッツ州 ボストン
居住 アメリカ合衆国
研究分野 生理学
生物物理学
鳥類学
生態学
地理学
進化生物学
人類学
研究機関 カリフォルニア大学ロサンゼルス校
出身校 ハーバード・カレッジ
ケンブリッジ大学
主な受賞歴 ピューリッツァー賞 (1998)
アメリカ国家科学賞 (1999)
ウルフ賞農業部門 (2013)
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経歴編集

1937年ボストンベッサラビア出身のユダヤ系の両親の間に生まれる。1958年ハーバード大学で生物学の学士号を取得後、1961年にケンブリッジ大学で生理学の博士号を取得した。その後、生理学者として分子生理学の研究を続けながら、平行して進化生物学・生物地理学の研究も進め、特に鳥類に興味を持ち、ニューギニアなどでのフィールドワークを行なった。そこでニューギニアの人々との交流から人類の発展について興味を持ち、その研究の成果の一部が『銃・病原菌・鉄』として結実した。近著として、マヤ文明など、文明が消滅した原因を考察し、未来への警鐘を鳴らした『文明崩壊』がある。福島原発事故後の2012年1月の朝日新聞のインタビュー記事[1]で、「温暖化のほうが深刻、原発を手放すな」と主張し、原発肯定の姿勢を取った。また、アメリカのトランプ大統領が、気候変動を抑制するために定められたパリ協定を離脱したことについて、批判している[2]

銃・病原菌・鉄編集

ダイアモンドは、一般向けの書籍『銃・病原菌・鉄』の著者として知られるようになった。この著作は、あるニューギニア人との対話から起こった「なぜヨーロッパ人がニューギニア人を征服し、ニューギニア人がヨーロッパ人を征服することにならなかったのか?」という疑問に対し、1つの答えとして書かれたという。ダイアモンドは、これに対して「単なる地理的な要因」(例えば、ユーラシア大陸の文明がアメリカ大陸の文明よりも高くなったのは大陸が東西に広がっていたためだから等)という仮説を提示し、「ヨーロッパ人が優秀だったから」という根強い人種差別的な偏見に対して反論を投げかけ、大きな反響を呼んだ。この著作は各国語に翻訳され、世界的なベストセラーとなった。日本でも朝日新聞「ゼロ年代の50冊」1位[3]、「平成の30冊」7位[4]に選ばれるなどした。

文明崩壊編集

ダイアモンドは、2005年の自著「文明崩壊」の中で、一度は高度な社会を築きながらも、その後、文明が崩壊した事例を記しており、北米アナサジ中米マヤポリネシアイースター島ピトケアン島などを取り上げている。この中で、ダイアモンドはイースター島の文明崩壊の原因として、モアイ製造を推し進めた結果、モアイの運搬に大量の木材を消費してしまった事をあげている。イースター島では、木材を消費し尽くした結果、島全体のが消え、食料となる野生動物もいなくなり、やがて部族抗争が起きて人口が激減、人肉食が起きるほど、文明は後退したとの説を唱えている[5]。なお、この説そのものは、ダイアモンドの新説というわけではなく、従来からあった通説である。それが、ダイアモンドの著作で紹介された事により、「人が科学技術を過信し、自然を破壊すると、やがて人類の文明に悪影響を及ぼす」との教訓めいた話として、人口に膾炙していった[6]

しかし、2020年現在、この説には誤りがあるとの研究がいくつかある[7][8]。従来の説は、モアイを運ぶために、木製のを作り、さらに木の軌条を作ってその上を滑らせるため、多くの木材を費やしたというものであった。しかし、モアイを立てた状態で、縄で左右に揺らしながら、歩かせるように前に進める方法でも可能である事が、実験で確かめられている。この様子は、イースター島に伝わる「モアイは自分で歩いた」との伝説にも合致する[9]。また当時の遺骨には争った形跡がほとんどど無いことから、抗争は無かったとの説が出てきている。この説によれば、イースター島の住民が激減したのは、西洋人による奴隷狩りが主な原因とされる[10]。ただ、この「イースター島の住民自身の行動が文明崩壊を引き起こしたわけではなかった」との説には、反証もいくつか出ており、やはり従来の通説通り、文明崩壊は起きたと主張する学者もいる[5]

ダイアモンド自身は、2020年に来日した時の産経新聞とのインタビューで「イースター島で起きたことは、過剰な資源収奪がもたらす最悪のシナリオです。この島は太平洋で孤立し、森林伐採など自然を破壊したときに助けを求める社会が他になかった。宇宙では地球も孤立しています。だからイースター島は世界の縮小モデルなのです。人間は自身が依存している資源を破壊してはいけないのです」と答えている[2]

作品編集

  • The Third Chimpanzee: the Evolution and Future of the Human Animal, (HarperCollins, 1992).
長谷川真理子長谷川寿一訳『人間はどこまでチンパンジーか?――人類進化の栄光と翳り』(新曜社, 1993年)
  • Guns, Germs, and Steel: the Fates of Human Societies, (W.W. Norton, 1997).
倉骨彰訳『銃・病原菌・鉄――1万3000年にわたる人類史の謎(上・下)』(草思社, 2000年)
  • Why is Sex Fun?: the Evolution of Human Sexuality, (BasicBooks, 1997).
長谷川寿一訳『セックスはなぜ楽しいか』。(文庫版)『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』(草思社, 1999年)
  • Collapse: How Societies Choose to Fail or Succeed, (Viking, 2005).
楡井浩一訳『文明崩壊――滅亡と存続の命運を分けるもの(上・下)』(草思社, 2005年)
  • The World until Yesterday: What Can We Learn from Traditional Societies? , (Viking Adult, 2012).
倉骨彰訳『昨日までの世界――文明の源流と人類の未来(上・下)』(日本経済新聞出版社, 2013年)
  • The Third Chimpanzee for Young People: On the Evolution and Future of the Human Animal, (Triangle Square, 2015).
秋山勝訳『若い読者のための第三のチンパンジー――人間という動物の進化と未来』(草思社文庫, 2017年)
  • UPHEAVAL:Turning Points for Nations in Crisis
小川敏子川上純子訳『危機と人類(上・下)』(日本経済新聞出版社, 2019年10月29日)

共編著編集

対談記録編集

  • 『知の逆転』(NHK出版新書395, 2012年) ISBN 978-4-14-088395-2。吉成真由美との対談
  • 『NHK スペースシップアースの未来』(NHK出版, 2014年)
  • 『変革の知』(角川新書, 2015年)
  • 『未来を読む――AIと格差は世界を滅ぼすか』(PHP新書, 2018年)

受賞歴編集

出典編集

[脚注の使い方]
  1. ^ http://www.gns.ne.jp/eng/g-ken/doukan/agr_867.gif
  2. ^ a b “【ニュースを疑え】繰り返すなイースター島の悲劇 温暖化対策訴え ジャレド・ダイアモンドUCLA教授”. 産経新聞. (2020年1月26日). https://www.sankei.com/premium/news/200126/prm2001260011-n1.html 2020年11月21日閲覧。 
  3. ^ “ゼロ年代の50冊 2000-2009”. (2010年4月9日) 
  4. ^ 朝日新聞「平成の30冊」を発表 ⑥4-10位を紹介 「震災後」をいかに生きるか”. 朝日新聞. 2019年3月10日閲覧。
  5. ^ a b “イースター島の文明は、通説のようには「崩壊」しなかった:論文が提起した新説が波紋”. WIRED. (2020年6月10日). https://wired.jp/2020/06/10/new-study-challenges-popular-collapse-hypothesis-for-easter-island/ 2020年11月20日閲覧。 
  6. ^ “「モアイは歩いた」、イースター島の伝承と文明崩壊の謎【古代文明、謎の魅力】”. ナショナルジオグラフィック (Yahoo!ニュース). (2020年11月15日). https://news.yahoo.co.jp/articles/d573abd11a62eb12db480cc10ea21c3ede5b548a 2020年11月15日閲覧。 
  7. ^ “イースター島、人殺しの武器を作らなかったと新説”. ナショナルジオグラフィック. (2016年2月25日). http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/022400064/ 2020年11月20日閲覧。 
  8. ^ イースター島の環境崩壊とモアイ”. 国立民族学博物館 (2014年12月1日). 2020年11月20日閲覧。
  9. ^ “モアイ像、ロープで揺らして移動?”. ナショナルジオグラフィック. (2012年6月25日). https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/6283/ 2020年11月21日閲覧。 
  10. ^ “謎の巨石文化、イースター島のモアイ像を作った人々のルーツ”. Forbes. (2017年11月25日). https://forbesjapan.com/articles/detail/18628 2020年11月20日閲覧。 

関連項目編集

外部リンク編集