ジョルジュ・レイグ級駆逐艦

ジョルジュ・レイグ級駆逐艦 (フランス語: La frégate anti-sous-marine Georges Leygues) はフランス海軍駆逐艦の艦級[1][2][2]対潜戦を重視しており、計画艦型番号は、当初はコルベット(Corvette)と称されていたことからC-70ASWとされていたが、1988年6月6日にフリゲート(Frégate)に変更されたことからF-70ASWとなった[3]。なお北大西洋条約機構(NATO)によるペナント・ナンバーでは、一貫して駆逐艦を意味する「D」の艦種記号を付されており、ジェーン海軍年鑑やアメリカ海軍協会(USNI)でも駆逐艦として扱われている[1][2]

ジョルジュ・レイグ級駆逐艦
(F-70型フリゲート)
3番艦 モンカルム (D 642)
3番艦 モンカルム (D 642)
基本情報
艦種 対潜フリゲート (Frégate anti-sous-marine)
命名基準 18~19世紀フランスの人物
前級 トゥールヴィル級駆逐艦
準同型艦 カサール級駆逐艦
次級 アキテーヌ級駆逐艦
要目
基準排水量 3,880 t(前期)/4,100 t(後期)
満載排水量 4,830 t(前期)/4,910 t(後期)
全長 139.00 m
最大幅 15.00 m
吃水 5.6 m (プロペラまで5.96 m)
機関方式 CODOG方式
主機
推進器 スクリュープロペラ×2軸
出力
  • 52,000 shp (ガスタービン)
  • 10,400 bhp (ディーゼル)
電源 発電機 (出力850 kW)×4基
速力
  • 30 kt (ガスタービン)
  • 21 kt (ディーゼル)
航続距離
  • 1,000海里 (30kt巡航時)
  • 10,000海里 (15kt巡航・ディーゼル使用時)
  • 乗員 298名
    兵装
    搭載機 リンクス哨戒ヘリコプター×2機
    C4ISTAR SENIT-4戦術情報処理装置
    レーダー
    • DRBV-26 対空捜索用
    • DRBV-51/15 対空対水上用
    • DRBC-32/33 射撃指揮用
    • DRBN-32 航海用×2基
    ソナー
  • DUBV-23/24 艦首装備式
  • DUBV-43 可変深度式
  • 電子戦
    対抗手段
  • ARBR-16/17 電波探知装置
  • ARBB-36/32 電波妨害装置
  • DAGAIE Mk.2デコイ発射機×2基
  • AN/SLQ-25 対魚雷デコイ装置
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    来歴 編集

    フランス海軍が1940年代末から1950年代にかけて建造した第二次世界大戦後第1世代の駆逐艦は、艦隊護衛艦(Escorteurs d'escadre)と称される対空・対水上兵装主体の艦であった。その後、第二次大戦後の潜水艦脅威の深刻化を受けて、まず1956年度計画で、艦隊護衛艦をもとに対潜戦を重視して装備を変更した「ラ・ガリソニエール」(T-56型)が建造された[3]

    その後、T-56型の実績も踏まえて対潜戦重視の大型護衛艦(コルベット)の建造が計画され、まず1965年度計画で「アコニト」(C-65型)が建造されたのち、1967年度計画より、これを発展させたトゥールヴィル級(C-67型)が建造された[3]

    これに続く1972年のブルー計画(15ヶ年計画)で、艦隊護衛艦(T-47型およびT-53型)の更新用として、共通の船体設計に基づく対潜型コルベット18隻と対空型コルベット6隻の整備が計画された。しかし財政上の制約から、対潜型が1971年度から1983年度にかけて計7隻、防空型が1978年度・1979年度に1隻ずつの計2隻が建造されるのみに留まった。このうち、対潜型として建造されたのが本級である。なおターター・システムを搭載した防空型として建造されたのがカサール級であった[3]

    設計 編集

    大量建造を想定して、C-67型よりも小型化が図られた[3]。船型は船首楼型とされており、抗堪性向上のため、NBC防護にも配慮したシタデル構造が導入されている。居住区は女性の乗艦にも配慮されており、また「ド・グラース」と同様に居住性向上に意が払われた結果、初期設計と比して艦全長にして5メートル、排水量にして150トンの大型化となった[4]。後期建造艦(5〜7番艦)では航海艦橋が1甲板分高くなっており、外見上の識別点となっている。堪航性向上のため、デニー・ブラウン社製で翼面積21.5 m2フィンスタビライザーが装備されている。なお艦齢半ばにもかかわらず船体に亀裂が見つかったことから、2002年から2003年にかけて船体の強化工事が行われた。これにより、120トンに及ぶ鋼板が取り付けられ、これによる重心上昇を補うために210トンの固定バラストが搭載された[2]

    本級では、イギリス海軍オランダ海軍の影響を受けてガスタービン主機関が導入されている。当初は両国と同じロールス・ロイス タインオリンパスによるCOGOG機関の導入が検討されたが、タインでは十分な巡航速度が確保できないと判断されたことから、SEMT ピルスティク16PA6 V280ディーゼルエンジンを巡航機とするCODOG方式に変更された[5]。ガスタービンエンジンを用いた場合、停止状態から3分で最大戦速を発揮できる。またディーゼルエンジンを用いて、かつDUBV-43可変深度ソナーを吊下していた場合の速力は最大で19ノットとなる[2]

    機関区画は4室に区分されているが、両舷の機関を並べて配置するパラレル配置とされており、艦首側から、補機室、タービン室、ディーゼル室、減速機室と並んでいる。また機関制御は集中制御方式とされており、省力化に益している。機関科は士官3名、下士官23名、水兵24名とされている[2]

    装備 編集

    C4ISR 編集

    戦闘システムの中核となる戦術情報処理装置としては、SENIT-4が搭載された。また衛星通信装置としてシラキューズIIおよび商用のインマルサットが搭載されているほか、2〜4番艦では、OPSMER/SEAO指揮支援システムが後日装備されている[2]

    センサー面では、当初はおおむねC-67型が踏襲されていたが、後期建造艦では下表の通りに更新された[2][5]。またデコイ発射機も、当初はサイレクスが搭載されていたが、4番艦以降ではDAGAIEに変更され[4]、後に1〜3番艦にもバックフィットされた[2]

    前期建造艦
    (1〜4番艦)
    後期建造艦
    (5〜7番艦)
    レーダー 対空捜索用 DRBV-26
    目標捕捉用 DRBV-51C DRBV-15
    ソナー 艦首装備式 DUBV-23B DUBV-24C
    可変深度式 DUBV-43B DUBV-43C
    (DSBV-61曳航アレイ
    追加可能)
    電子戦 電子戦支援 ARBR-16
    (DR-2000S)
    ARBR-17
    (DR-4000)
    電子攻撃 ARBB-36A ARBB-32B

    更に、前期建造艦を対象として、1990年代後半より対艦ミサイル防御(ASMD)能力向上を目的としたOP3A(Opération d'Amélionration de l'Autodéfense Anti-missiles)改修が行われた。これにより、SENIT-4とインターフェースを取ったうえでSENIT-8.01情報処理装置が搭載されるとともに、目標捕捉および射撃指揮のため、DIBC-2A光学方位盤(SAGEM VIGY-105のフランス海軍仕様)も設置された[2]

    武器システム 編集

    主砲としては55口径100mm単装速射砲(Mle.68 CADAM)を艦首甲板に搭載し、艦橋構造物上にDRBC-32E砲射撃指揮装置を設置した。個艦防空ミサイル・システムとしてはクロタルを採用し、火器管制レーダーと一体化した8連装発射機を後部上部構造物上に設置した。ミサイルは、発射機に装填された8発のほか予備弾18発を搭載した。後期建造艦では改良型のクロタルEDIRに更新している。また前期建造艦では、上記のOP3A改修の際に近接防空用としてミストラルのSIMBAD連装発射機とマウザーMK 30 30mm機関砲の無人砲塔(20mm機関砲 F2と換装)が搭載された[2]

    対艦兵器としては、1・2番艦ではエグゾセMM38の連装発射筒を両舷に搭載していたが、3番艦以降ではエグゾセMM40の4連装発射筒に変更され[5]、2番艦でも同様に後日換装している[2]

    対潜兵器としてはL5フランス語版魚雷のためのKD-59E 533mm魚雷発射管を備えていたが、5〜7番艦では、MU90用のB515 3連装短魚雷発射管に後日換装している[2]

    艦載機・艇 編集

    後部上部構造物の後端部は、長さ13.5メートル×幅11.4メートル×高さ4.3メートルのハンガーとされており、リンクス哨戒ヘリコプター2機を収容できる。その後方の艦尾甲板は長さ21メートル×幅12.20メートルのヘリコプター甲板とされており、SPHEX(Systéme Pousseur pour Hélicoptére Embarqué EXpérimental)コンパクトII型着艦支援装置を備えている。これはグリッド着艦拘束装置と機体移送軌条2条によって構成されている[2]

    艦載艇として、左舷にアーカー670内火艇を、右舷に9メートル型のVD9内火艇を搭載しているほか、海上治安活動などに用いるため、ゾディアック社製の複合艇2隻も搭載している[2]

    同型艦 編集

    # 艦名 起工 進水 就役 退役 母港
    D640 ジョルジュ・レイグ
    Georges Leygues
    1974年
    9月
    1976年
    12月
    1979年
    12月
    2014年
    3月
    ブレスト
    D641 デュプレクス
    Dupleix
    1975年
    10月
    1978年
    12月
    1981年
    6月
    2015年
    7月
    トゥーロン
    D642 モンカルム
    Montcalm
    1975年
    12月
    1980年
    5月
    1982年
    5月
    2017年
    7月
    D643 ジャン・ド・ヴィエンヌ
    Jean de Vienne
    1979年
    10月
    1981年
    11月
    1984年
    5月
    2019年
    1月
    D644 プリモゲ
    Primauguet
    1981年
    11月
    1984年
    3月
    1986年
    11月
    2019年
    4月
    ブレスト
    D645 ラ・モット=ピケ
    La Motte-Picquet
    1982年
    2月
    1985年
    2月
    1988年
    2月
    2020年
    10月
    D646 ラトゥーシュ=トレヴィル
    Latouche-Tréville
    1985年
    5月
    1988年
    3月
    1990年
    7月
    2022年
    7月

    脚注 編集

    出典 編集

    1. ^ a b Saunders 2009, p. 253.
    2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o Wertheim 2013, pp. 203–204.
    3. ^ a b c d e 阿部 2001.
    4. ^ a b Prezelin 1990, pp. 151–152.
    5. ^ a b c Gardiner 1996, pp. 114–115.

    参考文献 編集

    • Gardiner, Robert (1996). Conway's All the World's Fighting Ships 1947-1995. Naval Institute Press. ISBN 978-1557501325 
    • Prezelin, Bernard (1990). The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World, 1990-1991. Naval Institute Press. ISBN 978-0870212505 
    • Saunders, Stephen (2009). Jane's Fighting Ships 2009-2010. Janes Information Group. ISBN 978-0710628886 
    • Wertheim, Eric (2013). The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World (16th ed.). Naval Institute Press. ISBN 978-1591149545 
    • 阿部安雄「大戦後のフランス/イタリア駆逐艦建造史 (特集・戦後の駆逐艦)」『世界の艦船』第587号、海人社、2001年10月、96-97頁、NAID 40002156169 

    外部リンク 編集