ノルド・ストリーム
ノルド・ストリーム(Nord Stream)とは、バルト海底を経由してロシア・ドイツ間をつないだ天然ガスのパイプラインのことである。2005年、ウラジーミル・プーチン大統領がドイツを訪問した際に結ばれた協定をもとにして、海底部に74億ユーロ(約8000億円)、陸部に約60億ユーロ(約6500億円)、の総工費約134億ユーロ(約1兆4500億円)、の費用を投下して、2011年11月8日に稼働を開始した[1]。
ノルド・ストリーム | |
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![]() ノルド・ストリームの地図 | |
位置 | |
国 | ロシア, ドイツ |
起点 | ヴィボルグ, ロシア |
経由地 | バルト海 |
終点 | グライフスヴァルト, ドイツ |
一般情報 | |
輸送 | 天然ガス |
出資者 | Gazprom, E.ON, Wintershall, Gasunie |
運営者 | Nord Stream AG |
完成予定 | 2012 |
技術的情報 | |
全長 | 1,222 km (759 mi) |
最大流量 | 550億立方メートル |
口径 | 1,220 mm (48 in) |
圧縮ステーション数 | 1 |
圧縮ステーション | ヴィボルグ |
ロシア国営企業ガスプロムとドイツ、フランスなどの企業が出資する新たなパイプライン「ノルド・ストリーム2」が、2019年完工を目指して建設中である[2]。
概要編集
ヴィボルグ(ロシア連邦レニングラード州)からグライフスヴァルト(ドイツ)までの予定線は1200キロメートルに及び、地下のパイプラインとしては最長になる。
計画の主な特徴としては以下の2点が挙げられる。
- 輸送量は年間550億立方メートル(2系列)
- パイプが敷設される海の最大水深は210メートル
建設費用はおよそ9000億円。主に西シベリアのユジノルスコエガス田から「ノルド・ストリーム」によって移送される天然ガスは、ヨーロッパにおける需要の3割をまかなうと推計されている。2012年完成予定。
事業主体である「ノルド・ストリームAG」には露ガスプロムが51%を出資し、そのほかにドイツや オランダなどの企業も参加している[3]。ガスプロムの事実上の子会社である「ノルド・ストリームAG」にシュレーダー元首相が役員として加わったことで話題となった[4]。
背景編集
2005年の時点で3300億立方メートルの天然ガスを輸入していたヨーロッパは、2015年までにさらに2000億立方メートルの上積みが必要となると予想されていた[5]。
豊富な天然ガスを産出するロシアは、ヨーロッパへの天然ガス供給の経由国でありながらたびたび問題を起こしていたウクライナ(「ロシア・ウクライナガス紛争」を参照)とベラルーシを迂回するルートを求めていた[6]。それは安定した天然ガスの供給を求めるヨーロッパにとっても同じだった。一方でポーランドのラダスラフ・シコルスキー外相のように、公然と環境問題やエネルギーの対露依存を危惧する声もあった[7]。
しかし脱原発をはかっていたドイツにとってロシアの天然ガスは重要なものであった。2005年の協定では、独大手のBASFと露ガスプロムとの提携強化や、ユジノルスコエの天然ガス田開発への参加が盛り込まれるなど、エネルギー問題において密接な独露関係が目指されている。
エネルギーの対露依存度を下げたいEUが主導しているラインである「ナブッコ・パイプライン」のガスの供給元探しが難航しているのに対して、ロシアの国営企業であるガスプロムが推進した「ノルド・ストリーム」は2011年11月8日に稼働を開始し、EUへの天然ガスの供給が始まった。
進捗状況編集
沿岸5カ国のうち最後まで着工許可を出していなかったフィンランドが2010年2月12日に計画へ合意、2010年4月実際にスタートし、2011年11月8日に天然ガスの供給を開始し稼働した[8]。
このパイプラインの2系列目に使用する鋼管は日本の住友金属が受注した[9]。
批判編集
2018年7月11日、アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領は、北大西洋条約機構事務総長との朝食会の場でノルド・ストリーム2計画について触れ、アメリカがドイツを守るために数十億ドルも払っているというのに、ドイツはロシアに(ガス代として)数十億ドルをロシアに支払っていると批判。その場に居なかったドイツのアンゲラ・メルケル首相は、別途、ドイツは独立して決断を下しているとしてトランプ大統領の批判に反論した[10]。
脚注編集
- ^ “独露のノルド・ストリームの開通 ―― その背景と駆け引き 廣瀬陽子 / 旧ソ連地域研究” 2011年11月16日閲覧。
- ^ “米・対露制裁法、EU懸念も 天然ガス依存への影響で”. 『毎日新聞』朝刊. (2017年8月4日)
- ^ “Shareholders”. Nord Stream AG 2010年8月24日閲覧。
- ^ “Schroeder Accepts Russian Pipeline Job”. Washington Post 2010年8月24日閲覧。
- ^ “Gazprom acts to reassure Europe on natural gas”. Newyork Times 2010年8月26日閲覧。
- ^ ウクライナが輸送量の7割、ベラルーシが3割を占めていた
“ロシアとベラルーシ、ガス紛争再燃か 納金巡りトラブル”. asahi.com 2010年8月26日閲覧。 - ^ “Nord Stream 'a waste of money', says Poland”. Euractive 2010年8月26日閲覧。
- ^ “EUの天然ガス調達戦略”. asahi.com 2010年8月24日閲覧。
- ^ “Nord Streamパイプライン向け大径溶接鋼管を受注内定”. 住友商事 2010年8月24日閲覧。
- ^ “トランプ氏、独はロシアの「捕らわれの身」と批判 メルケル氏は反論”. AFP (2018年7月11日). 2018年7月11日閲覧。