バラオ級潜水艦(バラオきゅうせんすいかん、Balao class submarine)は、アメリカ海軍潜水艦の艦級。本級はガトー級潜水艦の改良型であり、第二次世界大戦において運用された艦級の中でも成功した設計の艦級であった。

バラオ級潜水艦
USS バラオ
USS バラオ
基本情報
艦種 攻撃型潜水艦
命名基準 魚名
建造所
運用者
建造期間 1942年 - 1946年
就役期間 1943年 - 現役(中華民国海軍のみ)
計画数 182
建造数 120
前級 ガトー級潜水艦
次級 テンチ級潜水艦
要目
排水量 1,526 トン
水中排水量 2,424 トン
全長 311フィート9インチ (95.02 m)
最大幅 27フィート3インチ (8.31 m)
吃水 15フィート3インチ (4.6 m)
機関方式 ディーゼル・エレクトリック方式
主機 ゼネラルモーターズ278A 16気筒ディーゼルエンジン×4基
推進器 スクリュープロペラ×2軸
出力 5,400馬力 (4.0 MW)
電力 2,740馬力 (2.0 MW)
最大速力 水上:20.25 ノット
水中:8.75 ノット
航続距離 11,000 海里/10ノット時
航海日数 潜航2ノット時48時間、哨戒活動75日間
潜航深度 試験時:400フィート (120 m)
乗員 80 - 85名
兵装
テンプレートを表示

概要 編集

1941年度と、その直後に緊急追加して建造されたガトー級は、1942年度にも引き続いて建造される方向で検討されていた。しかし、艦隊サイドでは対潜攻撃の進歩を予測して、先手を打ってより深く潜航できる潜水艦の建造を望んでいた。折りしも、潜水艦建造にも使える高張力鋼が開発されたこともあり、それを使用した潜水艦の設計を進めることとなった。

当初は1943年度以降に新設計した上で建造の予定であったが、ガトー級の設計図を微修正した上で船体構造材に高張力鋼を使用した潜水艦の試案の方が戦力に早く寄与できるということもあり、予定を早めて1942年度艦をこの新設計の潜水艦として建造することに決定した。これが、バラオ級潜水艦である。

バラオ級は1941年度の追加予算で23隻、次いで1942年度予算で127隻の建造が認められたが、この内12隻がガトー級(4隻)やテンチ級潜水艦(8隻)に振り替えられた他、H.O.Rエンジン搭載のユニコーン(SS-429)、ヴェンダース(SS-430)など18隻が建造をキャンセルし、計120隻が1943年から1947年にかけてバラオ級として就役し、著しく建造が遅れた造船所の建造艦(後述)を除いた101隻が実戦に参加した。

1973年に台湾に売却されたタスクは、2017年現在も現役として稼働している[1]

船体と兵装 編集

前項で述べたとおり、ガトー級とバラオ級の相違は高張力鋼採用により試験深度が120mに増加し、1944年に深度600ft(180m)で運転できるグールド遠心ポンプを採択して潜航深度が深くなった。重量増に伴う一部構造の修正という部分が最大の相違であり、その他の点では余り変わりがない。艦橋は初めから凸型艦橋である。

兵装に関しても、ガトー級では途中から改正された水上兵装が、バラオ級では初めからの標準兵装となっており、艦によって兵装が様々な所や、次第に重兵装していく点もガトー級と一緒である。

建造所について 編集

ガトー級同様、エレクトリック・ボート社マニトワック造船の民間造船所、ポーツマスメア・アイランドの両海軍造船所で建造されたが、建造数がガトー級以上に増加するのは明らかだったため、クランプ社が新たに建造所として追加された。

しかし、クランプ社の工員の腕がいまひとつだったのか、クランプ社建造のバラオ級は総じて工期が伸び伸びであり、しかも工作が不良の艦もあった。おまけに一部艤装を海軍造船所でやる羽目となり、担当官に「一度ばらして作り直した方が早い」と言われる始末であった。同造船所で建造されたバラオ級の一例を挙げると、ランセットフィッシュ (USS Lancetfish, SS-296) は起工から進水まで11ヶ月、その後就役まで18ヶ月かかり、就役後約1ヶ月で事故沈没。引き揚げ後14年間放置された上でスクラップされている。

こうした経緯からか、クランプ社に発注されたバラオ・テンチ級潜水艦は多くが、確認できるだけで以下の6隻が建造を中止、発注をキャンセルされている。

  • SS-429 ユニコーン (1944年7月29日建造中止)
  • SS-430 ヴェンダース (同上)
  • SS-431 ウォルラス (同上)
  • SS-432 ホワイトフィッシュ (同上)
  • SS-433 ホィッティング (同上)
  • SS-434 ウルフフィッシュ(同上)

戦歴 編集

バラオ級もガトー級やそれ以前に就役した潜水艦同様、通商破壊を行って戦略物資の輸送を滞らせ、戦争勝利への陰の立役者となった。また、通商破壊の傍ら輸送船だけでなく日本海軍の戦闘艦も脅かした。従前の使用法である艦隊作戦への協力は、就役年がやや戦争中期や後期にシフトしたものの、マリアナ沖海戦レイテ沖海戦に参加した。この他、人命救助や物資運搬、スパイ潜入なども幅広く実施したのもガトー級などと同様である。

バラオ級の、艦船に対する主だった戦果(撃沈に限る)

その他、「タング」(SS-306)は名艦長リチャード・オカーンを得て、撃沈隻数の順位で第2位(24隻)にランクインしている。もっとも、バラオ級のうち遅く竣工した艦(終戦間際に完成などを除く)の何隻かは極端に小さな戦果を挙げただけに終わり、また複数回哨戒任務に就きながらも、ついに戦果を挙げることなく終戦を迎えた艦もいる。「カペリン」、「シスコ」、「エスカラー」、「タング」、「シャーク」、「バーベル」、「ブルヘッド」、「ケート」、「ラガート」の9隻が戦没している。

なお、詳細な戦歴は各艦の項を参照されたい。

戦後 編集

ガトー級同様に戦後、各艦は訓練艦や標的艦として使用され、一部は他国へ供与されていった。コチーノ(SS-345)は1949年8月26日バレンツ海で監視作戦に従事中、爆発事故を起こし沈没した。また、前述のランセットフィッシュと1958年4月29日スティクルバック(SS-415)が事故で沈没している。

他国に供与されたバラオ級

アルゼンチンに売却されたキャットフィッシュは「サンタフェ」と改名、フォークランド紛争で損傷放棄されイギリス軍によって海没処分された。またペルーに売却されたアトゥルは「パコーチャ」と改名して使用されたが、1988年8月26日カヤオ港外で三重県の遠洋マグロ漁船第8共和丸と衝突して沈没。引き揚げ後ハルクとして使用された。スポットの後身「シンプソン」は、1980年公開の深作欣二監督の映画『復活の日』に「出演」している。供与先としてはトルコが目立つ。

記念艦となったバラオ級と保存形態

参考文献 編集

  • 高須廣一「米潜水艦のウエポン・システム」『世界の艦船No.446 特集・アメリカの潜水艦』海人社、1992年。
  • 秋山信雄「米潜水艦の戦歴 草創期から第2次大戦まで」『世界の艦船No.446 特集・アメリカの潜水艦』海人社、1992年。
  • 世界の艦船編集部『世界の艦船2000年4月号増刊No.567 アメリカ潜水艦史』海人社、2000年
  • 大塚好古「米海軍「艦隊型潜水艦」の完成型シリーズ」「太平洋戦争時の米潜の戦時改装と新登場の艦隊型」「米潜水艦の兵装と諸装備」『歴史群像太平洋戦史シリーズ63 徹底比較 日米潜水艦』学習研究社、2008年、ISBN 978-4-05-605004-2
  • Robert C. Stern "Gato-Class Submarines in action(Warships Number 28)" Squadron Signal Publications. ISBN 0-89747-509-7
  • Steve Wiper "Gato Type Fleet Submarines(Warships Pictorial #28)" Classic Warships Publishing. ISBN 0-9745687-7-5

脚注 編集

  1. ^ 就役から71年 海軍の米製潜水艦、報道陣に公開/台湾 フォーカス台湾(2017年1月19日)2017年3月18日閲覧

外部リンク 編集