パパ・ヘミングウェイ』(PAPA HEMINGWAY)は、1979年10月25日に発売された加藤和彦の5枚目のソロ・アルバムである。 加藤のワーナー・パイオニア移籍第1弾作品で、安井かずみとのコンビによるコンセプト・アルバム『ヨーロッパ三部作[1]の1作目としてバハママイアミでレコーディングされた。

パパ・ヘミングウェイ
加藤和彦スタジオ・アルバム
リリース
録音 1979年7月 (1979-07) - 8月
コンパス・ポイント・スタジオ
クライテリア・スタジオ
一口坂スタジオ
ジャンル タンゴ
カリプソ
AOR
時間
レーベル ワーナー・パイオニア
プロデュース 加藤和彦
チャート最高順位
加藤和彦 アルバム 年表
ガーディニア
1978年
パパ・ヘミングウェイ
1979年
うたかたのオペラ
1980年
『パパ・ヘミングウェイ』収録のシングル
  1. アラウンド・ザ・ワールド
    リリース: 1979年10月21日 (1979-10-21)
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解説編集

『パパ・ヘミングウェイ』は、アーネスト・ヘミングウェイの生涯をテーマにしたアルバムである。以前からヘミングウェイの作品を愛読していた[2]加藤と安井は、ヘミングウェイが生きた時代の世界観を表現するため、多数の資料にあたって時代考証の正確さを期すべく準備を重ねたうえで楽曲を作り[3]、作家ゆかりの地であるナッソーコンパス・ポイント・スタジオと、マイアミのクライテリア・スタジオ[4]でレコーディングを行なった。当時、海外レコーディングといえば現地のミュージシャンを起用することが通例だったが、加藤はサディスティック・ミカ・バンドからの朋友である小原礼高橋幸宏、前作『ガーディニア』にも参加した坂本龍一、そして高橋と坂本が所属するYMOのツアーサポートメンバーとなる大村憲司を海外に同行させて合宿によるレコーディング[5]を敢行し、ミュージシャンが日常生活から解き放たれ、現地の空気に触れることで生まれるテンションの高まりをアルバム制作に活かそうとした[6]。レコーディング・スケジュールは、日本から持参した楽曲をもとにバハマで詞を書き、同地でリズム体を収録し、マイアミでストリングス、ホーン、キーボードなどを加え[7][8]、東京で最終的なオーバーダビングが行われた。なお、本作のレコーディングではヴォーカルやストリングス、ホーンなどの収録にダブルトラックが多用されている。

アートワーク編集

アート・ディレクションは奥村靫正が手がけ、フロント・カバーは礼服をモチーフにデザインされた。バック・カバーと歌詞カードにはトシ矢嶋が撮影した海外滞在時のスナップや南国をイメージしたイラストなどがコラージュされ、ライナーノーツには今野雄二失われた世代などに言及した解説を寄せている[9]。これらは1988年に本作が初めてCD化された際に金子國義デザイン[10]のものに変更されたが、2004年のリイシューで再び元のデザインに戻されている。なお、初発売時のレコード帯には、以下のキャッチコピーが記載されていた。

日本のロック・シーンに於いて最先端を行く男、加藤和彦のワーナー・ブラザーズ[11]移籍第1弾!!
洒落たセンスと色彩感溢れる音創り、最高にポップなアルバムがこれだ。

リミックス編集

『ヨーロッパ三部作』のリリースが完結した翌年の1982年、三部作から選ばれた曲にデジタル・リミックスを施したコンピレーション・アルバムアメリカン・バー』がワーナー・パイオニアから発売された。これは全体の音像、イントロ、ヴォーカルなどにオリジナル・ミックスと異同が見られるもので、一例としては、本作から選曲された「レイジー・ガール」に入っていた佐藤奈々子のヴォーカルがカットされている点が挙げられる。このリミックス音源は加藤がソニー移籍後の1985年に発売されたコンピレーション・アルバム『Le Bar Tango』や、1988年と2004年の『ヨーロッパ三部作』リイシューでも用いられたが、2014年に初出時のオリジナル音源が初めてCD化された。

収録曲編集

全曲作詞:安井かずみ、作編曲:加藤和彦
アナログ・レコードでは#1から#4までがA面に、#5から#9までがB面に収録されている。
楽曲の時間表記は初出アナログ・レコードに基づく。

  1. スモール・キャフェ (SMALL CAFÉ) - (5:09)
    タンゴ風の楽曲。加藤によれば、この曲はヨーロッパ三部作を作るきっかけになった作品で、バハマでのセッションの最後に偶然できた唯一のヨーロッパ的な曲だという[3]
  2. メモリーズ (MEMORIES) - (5:16)
    この楽曲と#8に入っているスティールパンの演奏は、加藤と安井がバハマ滞在時に宿泊していたホテルに所属していたミュージシャンによるもので、エグゼクティブ・プロデューサーの折田育造によれば、加藤がホテルのアトラクションでの演奏を気に入り、交渉の末レコーディングに参加してもらったという[12]
  3. アドリアーナ (ADRIANA) - (4:53)
    ヘミングウェイと親交があったイタリア人女性、アドリアーナ・イヴァンチッチ[13]をモデルにした楽曲。
  4. サン・サルヴァドール (SAN SALVADOR) - (3:41)
    サン・サルバドル島を舞台にした楽曲。
  5. ジョージタウン (GEORGETOWN) - (4:42)
    ガイアナの港町を舞台にした楽曲。
  6. レイジー・ガール (LAZY GIRL) - (5:25)
  7. アラウンド・ザ・ワールド (AROUND THE WORLD) - (4:25)
    この楽曲は加藤のワーナー移籍第1弾シングルとして、#5との両A面扱いでリリースされた。
  8. アンティルの日 (THE DAY OF ANTILLES) - (2:22)
    アンティル諸島を舞台にしたカリプソ風のインストゥルメンタル
  9. メモリーズ (リプライズ) (MEMORIES-REPRISE) - (1:48)
    #2のアウトロにあたるインストゥルメンタル。原曲とはミキシングが異なっている。

ボーナス・トラック編集

2014年にリットーミュージックから発売されたCD付き書籍『バハマ・ベルリン・パリ ヨーロッパ3部作』の当該CD(RMKS-005)には以下のボーナス・トラックが2曲追加されている。
時間表記は前記CDに基づく。

  1. ソルティ・ドッグ (SALTY DOG) - (4:18)
    加藤がザ・ベンチャーズに提供した楽曲のセルフカバーで、『パパ・ヘミングウェイ』発表後に録音され、#6とのカップリングでシングルのみリリースされた。
  2. アラウンド・ザ・ワールド - ダブ・ヴァージョン (AROUND THE WORLD - DUB VERSION) - (3:54)
    #7のダブ・ミックス。次作アルバム『うたかたのオペラ』の初回プレス分に7インチEP盤で封入された。

クレジット編集

  • All Songs Written, Arranged, Sung & Produced by Kazuhiko Kato
  • Lyrics by Kazumi Yasui
  • Strings & Horns Arranged by Ryuichi Sakamoto
  • Strings & Horns Coordinated by Mike Lewis
  • Executive Producer - Ikuzo Orita
  • Special Production Collaboration by Yoshiaki Nitta, Music Unlimited Ltd.
  • Album Recorded
    • Compass Point Studios, Nassau, Bahamas
    • Criteria Recording Studios, Miami, Florida. U.S.A
    • Hitokuchizaka Studios, Tokyo, Japan
  • Engineers
    • Jack Nuber & Steve Stanley (Compass Point)
    • Jerry Masters (Criteria)
    • Kazuo Shima (Hitokuchizaka)
  • Assistant Engineers
    • Cass Rigby & Horace Pierre (Compass Point)
    • Sam Tayler (Criteria)
    • Masayoshi Okawa & Masato Kitagawa (Hitokuchizaka)
  • Album Remixed at Hitokuchizaka Studios, Tokyo
    • Engineers - Kazuo Shima & Kazuhiko Kato
    • Assistant Engineer - Masato Kitagawa
  • Mastered at Hitokuchizaka Studios, Tokyo
    • Engineer - Kazuo Shima
  • Cover & Inside Liner Designed by Yukimasa Okumura/THE STUDIO
    • Photos by Toshi Yajima

ミュージシャン編集

発売履歴編集

形態 発売日 レーベル 品番 アートワーク 解説 リマスタリング 初出/再発 備考
LP 1979年10月25日 ワーナー・パイオニア K-10019W 奥村靫正 今野雄二 なし 初出 A式ジャケット
LP 1983年09月21日 CBS/SONY 28AH1651 奥村靫正 今野雄二 なし 再発 E式ジャケット 真空パッケージ
CT 1979年10月25日 ワーナー・パイオニア LKF-5032 奥村靫正 なし なし 初出 ドルビーシステム仕様
CT 1983年09月21日 CBS/SONY 28KH1357 奥村靫正 なし なし 再発 ドルビーシステム仕様
CD 1988年04月06日 EASTWORLD CT32-5164 金子國義 なし 加藤和彦 初出 デジタル・リミックス
CD 2004年10月20日 オーマガトキ (卸販売:CME) OMCA-1032 奥村靫正 今野雄二/岩本晃市郎/加藤和彦 加藤和彦 再発 デジタル・リミックス/紙ジャケット
CD 2014年03月20日 リットーミュージック RMKS-005 奥村靫正 今野雄二/折田育造/牧村憲一/大川正義 大川正義 再発 ボーナストラック2曲/CD付き書籍
CD 2015年05月20日 日本コロムビア COCP-39094 奥村靫正 今野雄二/立川直樹 大川正義 再発

参考文献編集

  • 海野弘『四都市物語 ‐ ヨーロッパ・1920年代』冬樹社、1979年10月。
  • POPEYE no.72. 1980年2月10日号』平凡出版、1980年2月。
  • BRUTUS no.4. 1980年9月15日号』平凡出版、1980年9月。
  • 『加藤和彦スタイルブック あの頃、マリー・ローランサン』CBSソニー出版、1983年11月。ISBN 978-4-78-970111-2
  • 安井かずみ・加藤和彦『ワーキングカップル事情』新潮社、1986年3月、文庫版。ISBN 978-4-10-145101-5
  • ジャネット・フラナー (著) 宮脇俊文 (訳)『パリ・イエスタデイ』白水社、1997年10月。ISBN 978-4-56-004640-1
  • 石一郎『ヘミングウェイと女たち』南雲堂、2003年2月。ISBN 978-4-52-326413-2
  • ミュージック・マガジン 2004年6月号』株式会社ミュージック・マガジン、2004年6月。
  • 『金子國義の世界 (コロナ・ブックス)』平地勲 (編)、平凡社、2008年7月。ISBN 978-4-58-263439-6
  • 『ミュージック・マガジン 2009年12月号』株式会社ミュージック・マガジン、2009年12月。
  • 『加藤和彦 ラスト・メッセージ』松木直也 (聞き手・構成)、文藝春秋、2009年12月。ISBN 978-4-16-372280-1
  • 『加藤和彦 あの素晴しい音をもう一度』文藝別冊 (編)、河出書房新社、2010年2月。ISBN 978-4-30-997731-7
  • 『エゴ〜加藤和彦、加藤和彦を語る』前田祥丈 (聞き手・構成)、スペースシャワーネットワーク、2013年7月。ISBN 978-4-90-670088-2
  • 『バハマ・ベルリン・パリ〜加藤和彦 ヨーロッパ3部作』牧村憲一 (監)、リットーミュージック、2014年3月。ISBN 978-4-84-562367-9
  • 今村盾夫・真鍋晶子『ヘミングウェイとパウンドのヴェネツィア』彩流社、2015年1月。ISBN 978-4-77-917026-3
  • 高橋健太郎『スタジオの音が聴こえる 名盤を生んだスタジオ、コンソール&エンジニア』DU BOOKS、2015年6月。ISBN 978-4-90-758351-4
  • 『大村憲司のギターが聴こえる』ギター・マガジン (編)、リットーミュージック、2017年2月。ISBN 978-4-84-562991-6

脚注編集

  1. ^ 『パパ・ヘミングウェイ』(1979年)、『うたかたのオペラ』(1980年)、『ベル・エキセントリック』(1981年)からなる海外レコーディングによる3枚のアルバム。加藤によれば、自分たちの音楽も結局は戦前のヨーロッパの人たちがやっていたことのコピーに過ぎないとし、これらもあえてそれらと対峙するつもりで作ったもので、当初は三部作としての意図はなかったという。(『加藤和彦コレクション』 CD:OMCX-1032〜34 オーマガトキ 2004年 封入解説書およびフライヤーより)
  2. ^ 『加藤和彦 ラスト・メッセージ』
  3. ^ a b 『エゴ〜加藤和彦、加藤和彦を語る』
  4. ^ このスタジオは本作に先立ち、1976年発表の加藤のソロ・アルバム『それから先のことは…』の録音に使用されている。
  5. ^ 加藤はヨーロッパ三部作の海外レコーディングを「高級合宿」と称していた(『エゴ〜加藤和彦、加藤和彦を語る』)。
  6. ^ 『ワーキングカップル事情』
  7. ^ 加藤はマイアミでストリングスの収録を行なったことについて、彼の地にはオーケストラをリタイアしたプレイヤーが多く居住していて、ストリングスのレコーディングに好都合であることを理由に挙げている(『ミュージック・マガジン』 2004年6月号 p.40)。
  8. ^ マイアミでの収録は波乱含みで進行した。まず、当初参加を要請する予定だったマイアミ在住のスタジオ・ミュージシャンたちが、ビージーズのツアーのために出払ってしまい、一時はレコーディングが危ぶまれたが、加藤のソロ・アルバム『それから先のことは…』の制作にも参加していたサックス奏者のマイク・ルイスが急遽地元のミュージシャンを招集して事なきを得た。また、このセッションでは坂本龍一が編曲を担当したが、譜面をバハマからマイアミへの移動中に仕上げなくてはならず、結局譜面が完成したのはセッション初日の朝だったという(『バハマ・ベルリン・パリ〜加藤和彦 ヨーロッパ3部作』)。
  9. ^ 『四都市物語 ‐ ヨーロッパ・1920年代』
  10. ^ 『金子國義の世界 (コロナ・ブックス) 』p.40
  11. ^ 正式な社名は『ワーナー・ブラザー』だが、帯の表記には濁点が付いている。
  12. ^ 『バハマ・ベルリン・パリ〜加藤和彦 ヨーロッパ3部作』
  13. ^ 『ヘミングウェイと女たち』 / 『ヘミングウェイとパウンドのヴェネツィア』
  14. ^ マイク・ルイス - アメリカのサックス奏者。1970年代にはKC&ザ・サンシャイン・バンドのオリジナル・メンバーとして活動していた。加藤のソロ・アルバム 『それから先のことは…』 のレコーディングにもアレンジャーとして参加している。
  15. ^ マーク・コルビー - アメリカのサックス奏者。リーダー・アルバムとして『Serpentine Fire』(1978年)などを発表したほか、メイナード・ファーガソンのバンドメンバーとしても活動した。ドクター・ジョンビル・ワイマンなどのアルバムにも参加している。

外部リンク編集

日本コロムビア