労働契約法

労働契約法(ろうどうけいやくほう、平成19年12月5日法律第128号)は、労働契約に関する基本的な事項を定める日本法律(労働法)。平成19年12月5日公布平成20年3月1日施行

労働契約法
日本国政府国章(準)
日本の法令
法令番号 平成19年12月5日法律第128号
効力 現行法
種類 労働法
主な内容 労働契約に関する基本的事項
関連法令 労働基準法民法
条文リンク 総務省法令データ提供システム
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従来からの判例法理を成文法化することにより、労働に係る民事紛争の解決について予測可能性を高めている。労働基準法が、最低労働基準を定め、罰則をもってこれの履行を担保しているのに対し、本法は個別労働関係紛争を解決するための私法領域の法律である。民法の特別法としての位置づけとしての性格を持つため、履行確保のための労働基準監督官による監督・指導は行われず、刑事罰の定めもない。また行政指導の対象ともならない。

目次

目的編集

この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする(1条)。

定義編集

本法において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいい(2条1項)、「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう(2条2項)。「労働者」の範囲は労働基準法とほぼ同じであるが、労働契約法では家事使用人を適用除外としていない点で労働基準法とは異なる。「使用者」の指すところは労働基準法では「事業主」に相当するものであり(例えば会社であれば会社そのものをいい、会社の代表者を指すわけではない)、労働基準法上の「使用者」よりも範囲が狭い。

労働契約の原則編集

3条には、労働契約の5原則が掲げられている。

労使対等の原則
労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする(1項)。労働基準法2条1項と同趣旨である。
均衡考慮の原則
労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする(2項)。これには、就業の実態が異なる、いわゆる正社員と多様な正社員との間の均衡も含まれる[1]
仕事と生活の調和への配慮の原則
労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする(3項)。これには、いわゆる正社員と多様な正社員との間の転換にもこの原則は及ぶ[1]
信義誠実の原則
労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない(4項)。民法1条2項、労働基準法2条2項と同趣旨である。
権利濫用の禁止の原則
労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない(5項)。民法1条3項と同趣旨である。なお、14条~16条に権利濫用を禁止する規定があるが、権利濫用禁止原則はこの規定以外の場面においても適用される。

安全配慮義務編集

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」(5条)。判例上、使用者は契約上の義務として安全配慮義務を負うとされていた(最判昭和50年2月25日民集29巻2号143頁)が、民法には、その根拠となる明文の規定が存在しなかった。そこで、労働契約に特段の根拠規定がなくとも、労働契約上の付随的義務として、使用者が安全配慮義務を負うことを明確にしたものである。

  • 長時間労働については、企業は労働者の長時間労働を抑制する措置をとることが要請されており、その際、現実に労働者が長時間労働を行っていることを認識し、あるいは容易に認識可能であったにもかかわらず、長時間労働による災害から労働者を守るための適切な措置をとらないことによって災害が発生すれば、安全配慮義務に違反したと評価されることは当然のことである(大庄ほか事件、最判平成25年9月24日)。
  • 精神的健康(いわゆるメンタルヘルス)に関する情報においては、労働者本人からの積極的な申告が期待しがたいことを前提としたうえで、必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要がある(東芝うつ事件、最判平成26年3月24日)。

合意の原則編集

労働契約締結に際しては、「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」とされ(6条)、また、労働契約変更に際しては、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」とされており(8条)、いずれも「合意の原則」に従うべき旨が規定されている。

使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとされ(4条1項)、労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする(4条2項)。勤務地・職務・勤務時間の限定についても、この確認事項に含まれる[1]

合意の原則と就業規則編集

従来明らかでなかった労働契約と就業規則の関係について、労働契約の成立に際しては「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合(労働基準法106条)には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない」(7条)とし、周知させた就業規則は、原則として個別の労働契約に優先する。

労働契約の変更に際しては「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない(9条)」とするが、「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、「労働者の受ける不利益の程度」「労働条件の変更の必要性」「変更後の就業規則の内容の相当性」「労働組合等との交渉の状況」その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする(10条)」とする。つまり、就業規則に定められている労働条件を労働者の不利益に改定する場合であっても、その合意に際して就業規則の変更が必要とされることを除き、異なるものではない。

  • 使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該行為をもって直ちに労働者の同意があったものとみるのは相当でなく、当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである。そうすると、就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である(山梨県民信用組合事件、最判平成28年2月19日)。

ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、その部分は従前の労働条件によるものとされる(10条但書)。その部分については、改めて労働者と合意しない限り、就業規則の変更によって労働者の不利益に変更することはできない。

就業規則で定める基準に達しない労働契約については、その部分が無効となり、その無効となった部分は就業規則で定める基準による(12条)。

権利の濫用編集

出向命令(在籍型出向)が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする(14条)。

使用者による労働者への懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする(15条)。ここでいう「懲戒」は、労働基準法89条9号でいう「制裁」と同義であり、当該事業場に懲戒の定めがある場合には、その種類及び程度について就業規則に記載することが義務付けられる。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする(16条)。

期間の定めのある労働契約編集

期間の定めのある労働契約有期労働契約)の反復更新により、期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は有期労働契約が更新されたものとみなされる。

使用者は有期労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない(17条1項)。「やむを得ない事由」の立証責任は使用者が負う。また、使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない(2項)。

有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす(19条)。

  1. 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
  2. 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない(20条)。20条により不合理とされた労働条件の定めは無効となり、故意・過失による権利侵害、すなわち不法行為として損害賠償が認められ得ると解される。また、無効とされた労働条件については、基本的には、無期契約労働者と同じ労働条件が認められると解される。

無期転換申込権編集

同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約が通算して5年を超える労働者が使用者に対し、現に締結している労働契約の契約期間満了日までに、契約期間満了日の翌日以降期間の定めのない労働契約を申し入れたときは、使用者は当該申し込みを承諾したものとみなされる(無期転換申込権、18条1項)。転換は契約期間のみについて行われるため、転換後の無期労働契約の労働条件は、就業規則等で別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一になる。なお、2以上の有期労働契約の間に6ヶ月以上の空白期間(同一の使用者との契約がない期間)がある場合は、空白期間より前の有期労働契約の期間は通算労働期間に含まない(18条2項)。

以下の者については、特例が設けられている(専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法)。

  • 「5年を超える一定の期間内に完了することが予定されている業務」に就く高度専門的知識等を有する有期雇用労働者
    • 当該業務に就く期間は、無期転換申込権は発生しない(上限10年)。
    • 事業主は、労働者が自らの能力の維持向上を図る機会の付与等の適切な雇用管理を実施しなければならない。
  • 定年後に有期契約で継続雇用される高齢者
    • 定年後引き続き雇用されている期間については、無期転換申込権は発生しない。
    • 事業主は、労働者に対する配置、職務及び職場環境に関する配慮等の適切な雇用管理を実施しなければならない。

適用除外編集

国家公務員地方公務員の労働契約については本法の規定は適用されず(22条1項)、別途、国家公務員法地方公務員法等による。また、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については適用しない(22条2項)。船員法の規定を受ける船員については、12条・17条~20条[2]の規定は適用されない(21条)。

脚注編集

  1. ^ a b c 「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会報告書、平成26年7月
  2. ^ 船員法100条は、労働契約法12条とほぼ同趣旨の内容である。また船員雇入契約の具体的な内容は船員法40条・41条に規定がある。

関連項目編集

外部リンク編集