博物館の恐怖』(はくぶつかんのきょうふ、原題:: The Horror of the Museum)は、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトヘイゼル・ヒールドのために代作した短編小説。執筆された時期は1932年10月と推測され、初出は『ウィアード・テイルズ』1933年7月号である。

ラヴクラフトがヒールド名義で書いた他の作品と同様に石化を題材とし、またクトゥルフ神話の世界観に基づく設定がほのめかされている。ストーリーには影響しないものの、ヨグ=ソトースの像が虹色の球体の集積物として登場し、ラヴクラフトがこの神の姿を作中で具体的に描写した唯一の例として知られている。またラヴクラフトは本作にて、若年のダーレスが書いた『潜伏するもの』の内容も輸入している。

あらすじ編集

ロンドンのサウスウォーク・ストリートの地下にある、ロジャーズ博物館の特別室は、冒涜の神々の不快きわまりない蝋人形が展示されている場所であった。オカルトマニアのジョーンズは、館長のロジャーズと親しくなる。ある日、ジョーンズがロジャーズの話をデタラメと笑い飛ばしたところ、ロジャーズは機嫌を悪くする。彼は展示品の一部は人工物ではないとし、「自分は禁断の書物を調べ、北極の地下で眠る神を発見して持ち帰った」と主張し、遺跡の写真や、無惨に血を吸い取られた犬の死骸や、己が持ち帰ったという邪神像を見せる。やがて彼は神の神官を自称し始め、制止しようとしたジョーンズを臆病と煽る。そして2人は「ジョーンズが博物館で一晩逃げ出さずに過ごせるか」という賭けをする。

夜、博物館を訪れたジョーンズは、ロジャーズに不意打ちで失神させられ、神への生贄にされそうになる。だが、目を覚ましたジョーンズは無我夢中で反撃し、ロジャーズを縛り上げる。そのとき、邪神像が動き出してロジャーズに襲い掛かり、ジョーンズは死に物狂いで博物館から逃げ帰る。

2週間後、再び博物館を訪れたジョーンズを出迎えた助手のオラボーナは、ロジャーズが海外出張中であると回答する。さらに、オラボーナは、そのおぞましさから失神する見学者が続出して警察から展示を禁じられているという、新作『ラーン=テゴスの生贄』を開示する。ジョーンズは、その神像の足元の犠牲者の頬にあの夜の乱闘でロジャーズが負ったものと同じ傷跡を見つけ、オラボーナがロジャーズの残骸を展示しているという事実を理解し、失神する。

主な登場人物編集

  • スティーヴン・ジョーンズ - 語り手。オカルトマニア。
  • ジョージ・ロジャーズ - 蝋人形師。もともとはマダム・タッソー館に勤務していたが、何らかの問題を起こして解雇された。その後、私設博物館を開き、幾つもの奇怪な蝋人形を展示している。後半では妄言と暴挙が甚だしく、完全に発狂している。
  • オラボーナ - ロジャーズの助手。浅黒い肌の男。神像を目覚めさせることには反対しており、ロジャーズからは疎まれている。
  • ラーン=テゴス - 高さ10フィート(3メートル)ほどの神像であり、体毛から吸血する。アラスカの石造都市で仮死状態となっていたところを、ロジャーズとオラボーナによってロンドンへと運ばれた。

収録編集

評価編集

東雅夫は『クトゥルー神話事典』にて、「邪神たちのリアルの像が並ぶ蝋人形館という舞台が醸しだす異様なムードが、邪神復活の狂おしい雰囲気を高めている。どこぞのテーマパークで実現させてもらいたい趣向ではある」と解説している[1]

『クトゥルフ神話ガイドブック』では、「(『ピックマンのモデル』など)クトゥルフ神話の一典型と言える堕落芸術家物」とした上で、「佳作」「実に素晴らしい出来栄え」と評されている。さらに本書はこの作品の注目ポイントとして「当時、ラヴクラフトの中で進行していたクトゥルフ神話統合化の波を象徴する」と述べている。他人の作品への添削であるという見方を重視すると、邪神ラーン=テゴスの描写は「まさに、今までラヴクラフトが生み出してきた外宇宙神格の集大成である」[注 1]と言い、続けて「セルフ・パロディであり、設定の共通性よりも恐ろしさと遊び心を優先したラヴクラフト的クトゥルフ神話の在り方を象徴するものである」と解説している[2]

関連作品編集

脚注編集

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注釈編集

  1. ^ この神性はロングチャウグナル・ファウグンに等しいと言い、さらに海中生物を思わせるところはクトゥルフユゴス星や蟹の手はミ=ゴ、南極で繁栄したのは<古のもの>だ。

出典編集

  1. ^ 学習研究社『クトゥルー神話事典第四版』341ページ
  2. ^ 新紀元社『クトゥルフ神話ガイドブック』144、145ページ。