陳列室の恐怖』(ちんれつしつのきょうふ、原題:: The Horror in the Gallery、旧題・「ゾス=オムモグ」)超時間の恐怖英語版は、アメリカ合衆国小説家リン・カーター1976年に発表した短編小説。クトゥルフ神話の一つ。

特に、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの『永劫より』と、オーガスト・ダーレスの『暗黒の儀式』の2作に大きく関連する。

概要編集

ゾス神話の確立編集

アメリカ大陸の西海岸と東海岸を往来する。西海岸カリフォルニア州サンティアゴ[注 1]のサンボーン太平洋古代遺物研究所にまつわる連作の一つ。未解決殺人事件の捜査ファイルという体裁をとっており、容疑者=主人公ホジキンスの証言文書である。真実を知った主人公が、社会では信頼できない語り手とみなされる。1929年を舞台としており、先行作家達の作品の後日談という設定で、作中では『ダニッチの怪』のアーミティッジ博士をはじめとする先行作家たちのキャラクターが多数登場する[注 2]

この連作はゾスの神話Xothic legend cycleである。クトゥルフの故郷を暗黒星ゾスと新設定し、クトゥルフ一族の三兄弟「ガタノソアイソグサゾス=オムモグ」を創ってキャラ付けした。作中では、太古の南太平洋で崇拝された信仰の資料をコープランド教授が集めてブレイン博士が整理したということになっている。本短編の主役はゾス=オムモグである。

本作は、題名が二転三転しており、執筆当初は仮題『陳列室の恐怖』、改題されて『超時間の恐怖』The Terror Out of Timeとされ、1976年の発表時には『ゾス=オムモグ』Zoth-Ommogになった後、最初のタイトルに戻った。本短編は『超時間の恐怖』という連作の一つに位置付けられ、中途タイトルが連作のタイトルになった。日本では2014年に刊行された単行本『クトゥルーの子供たち』に収録されている。

後続作品への影響編集

1970年代の作品であるが、邦訳されず日本では長らく見過ごされており、2014年にようやく刊行された。リン・カーターの設定と言えば青心社文庫1・2巻収録の「既存の用語集」(1957年ごろ執筆、1989年邦訳刊行)とされ、知識がアップデートされていなかった。1957年時点の設定と、1976年執筆の本作品では、内容が大きく異なる。20年かけてカーターがアマからプロになっているので、スタンスが既存まとめから新創造へとシフトしている。

新設定が大量に追加されており、ほとんどがあらすじには関わらない小言及的なものだが、他作品への影響度合は非常に大きく、1980・90年代以降のTRPGなどでみられる設定の大部分が、本作品に準拠している。中でも特徴的な新設定としては、無名祭祀書への記述が大幅に追加され、ウボ=サスラが「地球を元の宇宙から今の太陽系に次元移動させてきた」とされたことや、グレートオールドワンに下位の小神カテゴリ「レッサーオールドワン」ができたことなどが挙げられる。後にカーターは、カーター版「ネクロノミコン」などを作り、体系化をさらに推し進めることになる。

あらすじ編集

1928-29年、カリフォルニア州サンボーン太平洋古代遺物研究所の職員ホジキンスは、ブレイン博士の休職に伴い、故コープランド教授の遺贈物整理の仕事を引き継ぐ。ホジキンスは悪夢にうなされるようになり、遺贈物の一つである「ポナペの小像」の危険性を察する。コープランド教授とブレイン博士の資料には、ネクロノミコンの指定箇所を参照するよう書付があった。

研究所の理事達は小像を一般公開しようと言い出す。ホジキンスは非公開にすべきと提言するが、理由がほぼ迷信なので根拠とならない。ホジキンスは東海岸のアーカムにあるミスカトニック大学に赴き、ネクロノミコンを閲覧する。ネクロノミコンには「旧支配者は偶像を仲介して影響力を及ぼす」「偶像は人間には壊せない」「旧神の印を使えば壊せるが、一つ間違えれば身を滅ぼす」と書かれていた。アーミティッジ博士は、ホジキンスに<旧き印>=旧神の護り石を授ける。ホジキンスは新聞記事を通じてサンボーンで邪神像が一般公開されることを知り、急遽アーカムを発つ。

帰還したホジキンスは、早朝の研究所の陳列室で警備員の遺体を見つける。陳列室では邪神像が邪悪な波動を発しており、人外種族が一人、邪神像を崇めている。彼はホジキンスに気づくと拳銃を取り出し、ホジキンスはとっさに星石を投げつける。邪神像と星石がぶつかると、相殺し合うことで激しく消滅を起こし、さらにエネルギーの余波で稲妻が走り、人外種族を焼き尽くす。ホジキンスも気を失う。

ホジキンスは、警備員殺害・小像盗難・放火の容疑で逮捕され、精神病棟送りとなる。警察は小像の場所や放火の動機などを尋問するが、ホジキンスは人外種族の遺体について主張するばかりで、話がかみ合わない。結局、サンボーン陳列室で発生した殺人事件は未解決事件となり、ゴシップ新聞は「邪神像の呪い」として取り上げる。

主な登場人物編集

ハロルド・ハドリー・コープランド教授
過去作の人物。考古学の権威であり、1926年に死去。コレクションと記述資料が、サンボーン研究所に遺贈される。遺贈物は「ポナペの小像」や無名祭祀書を含む。
ヘンリー・スティーヴンスン・ブレイン博士
サンボーン研究所の職員。過去作『時代より』の主人公であり、消耗して療養生活の身となる。ホジキンスに小像を一般公開しないように頼む。
クトゥルフの呼び声』のエインジェル教授(1926年死去)の弟子にあたる。
アーサー・ウィルコックス・ホジキンス
主人公。29歳。サンボーン研究所の職員。悪夢にうなされ、邪神像の危険性を知る。最終的に邪神像破壊に成功するも、誰にも信じてもらえずバッドエンドを迎える。
ヘンリー・アーミティッジ博士
ミスカトニック大学の大博士。70歳以上。『ダニッチの怪』(1928年の事件)を経験している。ホジキンスにネクロノミコンの閲覧を許可し、さらに旧神の護り石を授ける。
セネカ・ラファム博士
ミスカトニック大学の人類学者。『暗黒の儀式』(1924年)を経験している。
ウィンフィールド・フィリップス
ラファム博士の助手の青年で、共に『暗黒の儀式』(1924年)を経験している。本作では脇役だが、次作『ウィンフィールドの遺産』では主人公となる。
エミリアーノ・ゴンザレス
サンボーン研究所の夜間警備員。60歳ほど。陳列室で撲殺される。
人外の崇拝者
陳列室で邪神像を崇めていた。夜警のゴンザレスを殺し、ホジキンスも殺そうとするが、邪神像消滅のエネルギーに巻き込まれて絶命する。死体はゼリーのように液状化し、火災の熱で完全に蒸発して消える。
ポナペの小像
高さ19インチ(48センチ)の翡翠像。旧支配者ゾス=オムモグの偶像。海底のルルイエに眠るゾス=オムモグが、夢思念を送るための中継器である。

収録編集

  • 『クトゥルーの子供たち』KADOKAWAエンターブレイン、森瀬繚立花圭一訳「陳列室の恐怖」

関連作品編集

クトゥルーの子供たち(超時間の恐怖)編集

全て『クトゥルーの子供たち』に収録。当単行本収録の8作品は全て関連する。

他作家作品編集

関連項目編集

脚注編集

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注釈編集

  1. ^ 架空の地名で、実在のサンディエゴとは異なる。
  2. ^ ミスカトニック大学のシーンにて、顔見せ脇役として大量に登場するが、主な登場人物とはいえないので本記事では省略した。
  3. ^ シリーズで本短編のみ、『墳墓の主』の邦題で先行して日本語翻訳され、1984年に国書刊行会の『真ク・リトル・リトル神話大系9』、および2008年の新装版『新編真ク5』に収録されていた。

出典編集

  1. ^ 単行本422ページ。ロバート・M・プライスによる解説。