永劫より(えいごうより、原題:: Out of the Eons)は、アメリカ合衆国のホラー小説家ヘイゼル・ヒールド1935年に発表した短編小説であり、『ウィアード・テイルズ』1935年4月号に掲載された。

本作は、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトが添削しており、クトゥルフ神話ラヴクラフト神話)の一つに含まれる。

本作は博物館の学芸員ジョンスン博士の遺稿という体裁でムー大陸ブームが起きていた1930年代を舞台とする一方、無名祭祀書というアイテムを通じてムー大陸[1]の様子が描かれている。

また、本作には、『銀の鍵の門を越えて』の登場人物であるエティアンヌ=ローラン・ド・マリニーとチャンドラプトゥラ師が登場しており、このうち ド・マリニーは無名祭祀書の知名度を向上させた人物として扱われている。

リン・カーターの連作『超時間の恐怖英語版』は、本作品の影響を大きく受けている。

あらすじ編集

1878年、南太平洋の地図に載っていない島にて、ミイラと、巻物を納めた金属円筒が発見される。現場を調査すべく船を出すも、島は再び沈んで消えていた。ミイラと円筒はボストンのキャボット考古学博物館に収蔵される。キャボット博物館は、世界有数のミイラ展示を誇るようになる。

1931年、ムー文明のオカルトブームを受けた記者が、キャボットのミイラを記事にすれば売れると、誇張たっぷりに記事を書く。博物館は注目を集め、群衆が押し掛けるようになる。神秘家ド・マリニーは、ミイラの由来が古代ムーの神官トヨグと主張する。大衆は熱狂し、翌年にかけて博物館の見学者が激増し、中にはオカルティストや怪しげな外国人もいた。また世界中で異様な宗教団体が摘発される事件が激増する。

1932年9月になると、ミイラを盗み出そうとする者が複数現れ、警備が強化される。さらに不気味にも、展示されたミイラに変質の兆しがみられるようになる。大衆は恐怖のあまりミイラから興味を失い、相対的に不審な見学者が目立つようになる。12月、警備員が殺され、ミイラを盗もうとした侵入者2人も変死体で発見される。一人は恐怖に悶死し、もう一人はミイラと同様に石と化しており、さらにはミイラの目が見開いている。

ミイラは変質崩壊して状態が損なわれつつあったことから、関係者はミイラを解剖調査することを決める。切開したところ、万年の歳月を過ぎているはずの遺体は、外部が石化しているだけであり、内臓も脳も脈をうって生きていた。立ち会った全員が、秘密厳守を確約する。それから数か月の間に、ジョンスン博士ら関係者数名が不審死を遂げる。

主な登場人物編集

現代編集

  • ジョンスン博士 - 語り手。博物館の学芸員。まっとうな科学者であり、ブームの影響で無名祭祀書(削除版)を読むも、不快と一蹴する。事件後に心臓発作を起こし急死する。
  • ウェントワス・ムーア博士 - 博物館の剥製師。事件後に行方不明になる。
  • ウィリアム・マイノット医学博士 - 侵入者怪死事件の検視に立ち会い、ミイラ解剖を主導する。事件後に刺殺される。
  • ステュワート・レイノルズ - 記者。別のミイラの取材をする中で、50年前に南太平洋で見つかっていたミイラに興味を抱き、誇張たっぷりに特集記事を書く。
  • エティアンヌ=ローラン・ド・マリニー - ニューオリンズの有名なオカルティスト・学者。円筒の巻物の文字が無名祭祀書に載っている古代文字と一致し、ミイラの人物は古代ムーの神官トヨグだと主張する。
  • フォン・ユンツト - ドイツのオカルティスト。100年近く前に「無名祭祀書」を著した後に怪死。ガタノトーアの秘密教団と交流があったことをほのめかしている。
  • ミイラ - 1878年に南太平洋で発見された、古代人のミイラ。巻物を所持していた。
  • 侵入者2名 - ビルマ人とフィジー人の邪教徒。展示品とは異なる巻物を所持していた。1人はただ悶死し、もう1人はミイラ同様に石化していた。ミイラの瞳に焼き付いていた邪神の姿を見て絶命する。巻物がダメージを軽減するも、死を回避するには至らなかった。

古代ムー(無名祭祀書)編集

  • 神官イマシュ=モ - 暗黒神ガタノトーアの神官。邪神に生贄を捧げて現世利益を得ていた。トヨグの巻物をすりかえ、破滅させる。
  • 神官トヨグ - シュブ=ニグラスの神官。正義と野心から、対策の巻物を準備して邪神ガタノトーア討伐に赴くも、巻物はすりかえられており、消息を絶つ。
  • ガタノトーア - ヤディス=ゴー山の地下に潜む、暗黒の邪神。荒ぶらぬよう、民と教団は生贄をささげる。おぞましさに、姿を見た者は石と化す。
  • シュブ=ニグラス - 人類に友好的な神々達の太母神。後に息子神達も続く、強大な神。

収録編集

  • 『ラヴクラフト全集 別巻下』東京創元社、、大瀧啓裕
  • 『クトゥルー7』青心社、大瀧啓裕訳
  • 『ク・リトル・リトル神話集』国書刊行会、大野二郎

評価編集

東雅夫は『クトゥルー神話辞典』にて「ラヴクラフト流神話とスミス流神話をミックスしたような味わいのある佳品」と評している[2]。重要な魔道書は、ラヴクラフト作でもスミス作でもなくハワード作の「無名祭祀書」。さらにヘイゼル・ヒールド作品の特徴である「石化[3]も盛り込まれる。

関連作品編集

脚注編集

  1. ^ 20万年前、ハイパーボリアと同時代と説明される。
  2. ^ 学習研究社『クトゥルー神話辞典第四版』344ページ
  3. ^ 学習研究社『クトゥルー神話辞典第四版』477ページ