懲戒請求

弁護士会・懲戒請求事案処理状況(2000-2009)
弁護士懲戒請求の除斥期間は3年とされており、さらに申立てが委員会に付されるまでの間に期間満了(時効)となる場合がある
単位弁護士会懲戒委員会が審査の対象としなかった事実主張を、日本弁護士連合会懲戒委員会委員が審査しなかったことは懲戒事由とならないとした単位弁護士会の議決が存在する

懲戒請求(ちょうかいせいきゅう)とは、司法警察職員弁護士司法書士などの資格者に対する懲戒処分を請求する手続である。このページでは、主に弁護士法第58条に規定されている弁護士の懲戒請求について解説する。

目次

弁護士懲戒制度の沿革編集

1890年から1947年までは、裁判所構成法・旧弁護士法に基づき、控訴院が弁護士の懲戒を行っていた。

現在の制度は、1949年の弁護士法全部改正によって新設されたものであり、法曹・学識経験者による非公開の審理で弁護士を律するという、不可視の弁護士自治の一部を担っている。

2005年4月には、弁護士の職務の行動指針または努力目標を定めたものとして弁護士職務基本規程が施行された[1]

日弁連新聞によれば、2011年には「成年後見人に選任された会員による重大な不祥事が相次いで明らかになり、弁護士後見人に対する市民の信頼を揺るがす事態」となり、また同時期に、過払金返還請求事件における不祥事の多発を受け、債務整理事件処理に関する規制も行われることとなった[2][3]

しかし単位弁護士会の懲戒手続規則などは原則的に非公開であり、お手盛りの審査や制度の政治的な利用に対する批判も多く、懲戒審査における懲戒委員会委員や綱紀委員会委員の弁護士の遺脱した行為に対する懲戒請求も行われている[4]

弁護士懲戒請求の手続編集

懲戒請求は誰でも行うことができ、窓口は懲戒請求の対象弁護士または対象弁護士法人の所属する弁護士会である(弁護士法第58条)。

申立て後に準備書面書証の送付など、裁判制度に類似した手続を求められる場合があり(東京弁護士会第二東京弁護士会等)、事実関係を客観的に明らかにするために普段から保管しておいた関連する書類や録音記録などの証拠などを使用することが望ましい。また既存の懲戒事例や判例、文献などを引用して主張することも可能である[5]弁護士法民法民事訴訟法、日本弁護士連合会規定等を参照することも望ましい[6]

単位弁護士会綱紀委員会には、日本弁護士連合会綱紀委員会、日本弁護士連合会綱紀審査会などの上位機関があり、この綱紀委員会の議決内容に不服がある場合は、日弁連綱紀委員会への異議申立ができるとされている。

日本弁護士連合会における手続では準備書面等のやり取りや聴取は行われないが、対象弁護士の主張について閲覧謄写の申請を行うことはできるとされている。

また、処分を附された弁護士は高等裁判所に処分取消請求裁判を提起することができ、日本弁護士連合会は原則的に懲戒請求者の裁判参加を認めていない。

弁護士懲戒請求の懲戒率編集

単位弁護士会における懲戒請求の申立に対する懲戒の割合は、わずか平均2.3パーセントであり、懲戒委員会そのものが申立人から提訴された例も複数ある[7]。単位弁護士会が懲戒をしなかった場合は、日本弁護士連合会(日弁連)が異議申立てを受理するが、ここで再審査に至る割合もまたわずか平均1.2パーセントである[7]

ただし、これはいわゆる「言いがかり」や「事実に乏しい」の請求も含まれている。[要出典]

弁護士懲戒請求に関する裁判編集

懲戒請求は請求の数によって判断が変わるものではなく、署名とは質を異にする。後述の光市母子殺害事件弁護団懲戒請求事件の 最高裁判決でも、須藤正彦最高裁判事の補足意見として「懲戒事由の存否は冷静かつ客観的に判断されるものである以上、弁護士会の懲戒制度の運用や結論に不満があるからといって、衆を恃んで懲戒請求を行って数の圧力を手段として弁護士会の姿勢を改めさせようとするのであれば、それはやはり制度の利用として正しくないというべきである」と明言されている[8]

光市母子殺害事件弁護団懲戒請求事件では、橋下徹弁護士が業務妨害を行ったとして、弁護団から橋下弁護士に対して起こされた損害賠償の訴えは最高裁判所で棄却された。ただし、この判決は橋下弁護士の促し行為に対する損害賠償請求についての判断であり、インターネット上に掲載されているテンプレート(それに類する内容)を利用するといった根拠に乏しい請求や嫌がらせ目的等の請求については、前述の弁護士業務妨害による損害賠償請求の対象や虚偽告訴罪(刑法172条)にもなり得る。

根拠のない懲戒請求は不法行為として懲戒請求者が損害賠償義務を負うことがある。最高裁判所判例によれば、懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠き、また請求者がそのことを知りながら又は普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのにあえて懲戒を請求するなど、懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと裁判所が認めれば、違法な懲戒請求としての不法行為となる[9]

弁護士以外の懲戒請求編集

司法警察職員編集

刑事訴訟法第百九十四条に基く懲戒処分に関する法律第1条にもとづき、司法警察職員については、次の区分に応じて懲戒請求をすることができる。

司法書士編集

司法書士法第49条1項にもとづき、司法書士について懲戒請求をすることができる。司法書士の場合、懲戒権者は「その主たる事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長」(同法48条1項)と規定されており、弁護士の場合と異なり、行政官庁が懲戒処分を行う。

関連項目編集

脚注編集

  1. ^ 日本弁護士連合会『弁護士職務基本規程』
  2. ^ 日弁連新聞『弁護士後見人の不祥事:防止・対応策取りまとめ、弁護士会に要請』
  3. ^ 日本弁護士連合会『債務整理事件処理の規律を定める規程の概要』
  4. ^ 武本夕香子『弁護士と懲戒制度』。「懲戒制度が今後も政治的に使われる危険は多分にある」。
  5. ^ 長野県弁護士会 『説明責任―その理論と実務』 ぎょうせい、2010年2月、巻末。ISBN 4324077002
  6. ^ 日本弁護士連合会『弁護士法・会則・会規等』
  7. ^ a b 日本弁護士連合会『懲戒請求事案集計報告』
  8. ^ 最高裁判所第2小法廷『光市母子殺害事件弁護団懲戒請求事件判決(平成23年7月15日)』、15頁。
  9. ^ 最高裁判所第3小法廷『平成19年4月24日判決』。最高裁判所は、懲戒請求者と懲戒請求代理人弁護士の双方に損害賠償の支払を命じた。