時の密室』(ときのみっしつ)は、芦辺拓による日本推理小説作品。

時の密室
著者 芦辺拓
発行日 2001年3月
発行元 立風書房
ジャンル 推理小説
日本の旗 日本
言語 日本語
前作 和時計の館の殺人
次作 赤死病の館の殺人
コード ISBN 4-651-66081-9
ウィキポータル 文学
[ ウィキデータ項目を編集 ]
テンプレートを表示

概要

編集

森江春策の事件簿シリーズ」の10作目(長編としては9作目)のミステリー。

1996年に発表された『時の誘拐』の姉妹編に当たる物語(但し、ストーリーは独立した全くの別物)。

世紀を隔てた3つの密室事件が主軸となっている。

書籍情報

編集

事件概要

編集

河畔の密室

編集

明治9年(1876年)7月、大阪川口外国人居留地福井三国から仕事の関係で、一時大阪へ帰ってきたお雇い外国人エッセルは、貿易商のベームラーと間違われ、襲われた。

安治川橋を渡り、居留地内のどこかの洋館らしき建物に連れて来られたエッセルは、しかし、そこでベームラー本人の死体を目の当たりにする。その後、ベームラー商会から火の手が上がり、エッセルは救出されたものの、ベームラーの死体は跡形もなく消えていた。居留地の造り上、現場は大きな密室状態であることが判明する。

水底の密室

編集

1970年夏、医大生の氷倉寛一は、高校時代の同級生・宇堂とその友人ら4人と夜遅くまで飲んでいた。宇堂に起こされ、時計を見ると午前1時半、2時から始まるラジオ番組「チャチャ・ヤング」をどうしても聞きたかった氷倉は、宇堂に見送られ安治川河底トンネルを通って帰途に着く。間もなく出口、というところで、つい先程まで一緒に飲んでいた仲間の一人の死体を発見する。そしてその直後、氷倉自身も何者かに後頭部を殴られ気絶してしまう。

彼の前にも後ろにも誰もいなかった、そして見送った宇堂以外の2人にはアリバイがあった。

水上の密室

編集

そして、2001年森江春策は、ある事件の身代金として、エッシャー版画を運ばされることになった。犯人が受け渡し方法に指定してきたのは、水上バスアクアライナー。近づくことも逃げることもできない水上の密室で、犯人はどのようにして身代金を奪うつもりなのか。

登場人物

編集

明治の事件

編集
ゲオルギ・アルノルド・エッセル
オランダハーグ出身。王立アカデミーで道路建設と治水を学んだお雇い外国人大阪湾の港築造の治水技師として来日。ファン・ドールンにより、一等工師に抜擢された。主に、淀川の改修に取り組む。
フランク・メジャー
イギリス人。委託売買をしながら、神戸外国人居留地で発行されている英字新聞「兵庫ニュース」の通信員を副業としている。エッセルが苦手とする人物。
ファン・ドールン
エッセルの知人で、エッセルより一足先に主任技師として来日していた。増員が必要となり、エッセルを推薦した。二等工師リンドウと共に、首都で利根川などの治水を手掛けた。
ヨハネス・デレーケ
叩き上げの技師で、エッセルよりはるかに有能だが、学歴がないために軽く扱われる。四等工師。
ハンス・ベームラー
自称・貿易商。詐欺まがいの商法で荒稼ぎをしていると噂される。
日向 六郎太(ひゅうが ろくろうた)
大阪府警察の四等巡査。詐欺師・仙田輪吉を追っている時に、エッセルに助けられ恩義を感じる。
赤城 彦馬(あかぎ ひこま)
六郎太の上司。七等警部。東町奉行所同心の家の生まれ。維新の影響で警察官に。
仙田 輪吉(せんだ わきち)
通称・壺算の輪吉。名うての詐欺師。
ドール
イギリス人。居留地の警察官。治外法権を振りかざす乱暴者。
おまつ
日本人女性。本名・杉本ふさ。エッセルの現地妻。エッセルに日本語を教え、自分は英語オランダ語を学び、時には通訳もした。
クリスチャン・J・エルメリンス
大阪府病院で主任医師として勤務する。エッセルより2歳年上の医学博士。同じオランダ出身で、来日後間もなく友人になった。

昭和・平成の事件

編集
森江 春策(もりえ しゅんさく)
本職は刑事専門の弁護士。勤め人から弁護士へ転職した。職業や性別、趣味嗜好、世代などで人間を色分けすることを好まない。方向音痴気味で味覚が子どもっぽい。
新島 ともか(にいじま ともか)
森江の助手兼秘書。
宇堂 祥吉(うどう しょうきち)
ウドー・ファイナンスという消費者金融の社長。帰宅途中、何者かに絞殺される。
早船 光太郎(はやふね こうたろう)
商社マン。宇堂と同じ大学出身。福井県出身。仲間内では一番の出世頭。
大輪 洋(おおわ ひろし)
喫茶店「異人街」を経営する。宇堂と同じ大学出身。
氷倉 寛一(ひくら かんいち)
開業医。宇堂とは高校の同級生だが、早船・大輪らとも親交があった。昭和45年の事件の遠見の遺体の第一発見者。
遠見 高明(とおみ たかあき)
宇堂と同じ大学出身。昭和45年に安治川河底トンネルで何者かに殺された。他の3人に比べると、普段から物静かな性格だったと氷倉は語る。
汐路 茂(しおじ しげる)
51歳。無職。富田林市在住。宇堂殺しの容疑者。森江が弁護を担当する。
若い頃、機動隊員として学生紛争に駆り出され、当時学生だった宇堂・早船・大輪・遠見らに袋叩きにされ、体が不自由になってしまった。
山松 信之(やままつ のぶゆき)
自室から宇堂殺しを目撃する。浪人生。
早船 綾音(はやふね あやね)
早船光太郎の娘。高校生。美少女。父親のことが大好き。
世良 彩子(せら さいこ)
大輪の前妻。エスニック料理店「ラテルナ・マジカ」を経営する。
来崎 四郎(きざき しろう)
仮名文字新聞の記者。