枝豆
枝豆(えだまめ)は、大豆を未成熟で緑色のうちに枝ごと収穫し、ゆでて食用にするもの。そのため豆類に分類されず、緑黄色野菜に分類される。
概要編集
ダイズ(大豆)の未成熟の果実を若採りしたものを枝豆という[1]。ダイズには日長が短くなると花芽ができる短日性の秋ダイズと、日長には影響を受けない夏ダイズがあり、枝豆は夏ダイズに属する[1]。品種としては、実りが秋までかかる晩生種を成熟させて大豆として収穫するのに対し、早生種の未成熟な果実を夏場に枝豆として収穫する[2]。日本においては主力品種である「錦秋」などに加えて、収量が多い、豆の粒が大きい、食味が良いといった方向性で新しい品種の開発が行われている(秋田県農業試験場「あきたのほのか」、サカタのタネ「とびきり」など)[3]。枝豆向きの品種を成熟させて大豆として収穫することは、種子を得る場合を除き、通常は行われない。
大豆の起源は東アジアといわれ[4]、日本や中国では大豆の代表的な食べ方の一つである。日本で枝豆が食べられるようになったのは17世紀ごろといわれている[4]。主な旬は夏6 - 9月で、大豆と野菜の両方の栄養をあわせて摂ることができ、大豆にはないビタミンCを多く含んでいるのが特徴である[4]。サヤの緑色が濃く、ふっくらとして産毛が密生しているものが良品とされる[4][2]。サヤの膨らみがないものは実が未熟で、サヤが黄色いものは熟しすぎで食味は落ちる[4]。種子(豆)が成熟すると特有の風味をもたらす香気成分や甘みの成分である還元糖、アミノ酸、アスコルビン酸などが減少することが報告されている[5][6]。収穫後の品質保持には低温貯蔵が有効とされている[6]。
歴史編集
原産地は東アジア[1]、中国といわれている[2]。奈良・平安時代には既に現在の形で食されていたとされている[要出典]。鎌倉時代の僧、日蓮が寄進を受けた信徒に宛てた礼状「松野殿女房御返事」には「(略)、枝大豆・ゑびね、旁の物給び候ひぬ」とある。江戸時代には夏になると路上に枝豆売りの姿があったという。現在のように枝から鞘を外した状態ではなく、枝についたままの状態で茹でたものが売られており、当時はその状態で食べ歩いていることから現代のファストフードのような存在だった。この状態のものを「枝付き豆」または「枝成り豆」と呼び、それが「枝豆」の名前の由来とされている。
栄養素編集
100 gあたりの栄養価 | |
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エネルギー | 460 kJ (110 kcal) |
8.58 g | |
糖類 | 2.48 g |
食物繊維 | 4.8 g |
4.73 g | |
10.25 g | |
トリプトファン | 0.115 g |
トレオニン | 0.305 g |
イソロイシン | 0.27 g |
ロイシン | 0.68 g |
リシン | 0.69 g |
メチオニン | 0.13 g |
シスチン | 0.105 g |
フェニルアラニン | 0.445 g |
チロシン | 0.305 g |
バリン | 0.295 g |
アルギニン | 0.66 g |
ヒスチジン | 0.25 g |
アラニン | 0.42 g |
アスパラギン酸 | 1.235 g |
グルタミン酸 | 1.835 g |
グリシン | 0.4 g |
プロリン | 0.605 g |
セリン | 0.61 g |
ビタミン | |
チアミン (B1) |
(13%) 0.15 mg |
リボフラビン (B2) |
(22%) 0.265 mg |
ナイアシン (B3) |
(6%) 0.925 mg |
パントテン酸 (B5) |
(11%) 0.535 mg |
ビタミンB6 |
(10%) 0.135 mg |
葉酸 (B9) |
(76%) 303 µg |
コリン |
(11%) 56 mg |
ビタミンC |
(12%) 9.7 mg |
ビタミンE |
(5%) 0.72 mg |
ビタミンK |
(30%) 31.4 µg |
ミネラル | |
ナトリウム |
(0%) 6 mg |
カリウム |
(10%) 482 mg |
カルシウム |
(6%) 60 mg |
マグネシウム |
(17%) 61 mg |
リン |
(23%) 161 mg |
鉄分 |
(16%) 2.11 mg |
亜鉛 |
(14%) 1.32 mg |
マンガン |
(48%) 1.01 mg |
他の成分 | |
水分 | 75.17 g |
| |
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 出典: USDA栄養データベース(英語) |
生の枝豆には可食部100グラム (g) あたり、熱量は135キロカロリー (kcal) 、水分は約71%含まれ、残りはタンパク質11.7 g、炭水化物8.8 g、脂質6.2 g、灰分1.6 gが含まれる[7]。大豆と同様に栄養価が高く、植物性タンパク質や脂質、ビタミンE、食物繊維、カルシウム、鉄分に富むことに加え、ビタミンB1・B2は野菜の中では特に多く、大豆にはないカロテン、ビタミンC、カリウムも豊富に含まれている[4][7]。サヤごと茹でることによって、これら栄養素の流出を防ぐことができる[4]。新鮮なうちにサヤごと塩ゆでにしておけば、枝豆が本来持つ旨さや栄養を維持できる[8]。ビタミンB1を多く含んでいるため、新陳代謝を活発にして夏バテを防ぎ、アルコールの分解を促進して悪酔いを軽減して肝臓を守る働きもする[7]。枝豆に含まれるアミノ酸の一種であるメオチニンもアルコールから肝臓や腎臓を守る働きがある[7]。
大豆の未熟果には、他の野菜ではあまり見られないサポニンやレシチン、イソフラボンなどの大豆特有の成分を持っている[4][7]。サポニンは血液中のコレステロール値を下げ、レシチンは細胞の活性化に役立ち、内臓や神経を若々しく保つのに必要な成分といわれている[4][7]。イソフラボンは女性ホルモンに似た働きをすることが知られている[4][7]。
代表的な種類編集
日本には、各地で在来種が栽培されており、枝豆の品種が400以上あるといわれている[4][2]。特に東北地方では、地方ごとに独自の品種が栽培されており、有名なところでは山形県の「だだちゃ豆」、福島県の「かおり枝豆」、岩手県の「におい豆」、新潟県の「くろさき茶豆」「いうなよ」などが知られる[4][7]。変わったものでは、丹波地方の黒豆の枝豆や、10月ごろに収穫される秋田県の「十月豆」などがある[4]。品種によって味わいが多少異なり、だだちゃ豆や茶豆はゆでるととうもろこしに似た香りが強くなる[7]。
栽培編集
春(4 - 6月)から種を播き、夏から秋にかけて収穫する[10]。枝豆として収穫する場合は、春に種をまいて80日前後で収穫できる早生種、初夏にまいて秋に収穫する晩生種がある[11]。種まきの時期を数回に分けてずらして栽培すると、収穫時期もずれて新鮮な枝豆を長い間楽しめる[10]。栽培適温は20 - 25度とされ[10]、インゲンマメなどよりも低温に強く、やや早蒔きすることができる[1]。連作は不可で、2 - 3年ほどマメ科作物を作っていない日当たりの良い畑で育てる[10]。家庭でも作りやすく、深いコンテナ(プランター)などを使って鉢植えでも育てられる[10]。他のマメ科同様に直根が発達するので、移植は行わない[1]。なお、枝豆(未熟果)を収穫せずにサヤが枯れるまで待つと、大豆として収穫できる[11]。
枝豆にするダイズは、夏の暑さを感じると花を咲かせて結実する夏ダイズで、葉は3枚の丸形の小葉からなる複葉で、花は白色から紫色のごく小さな蝶形をしている[1]。多くのマメ科同様に自家受粉で結実する[1]。開花期が高温すぎても開花しにくく、30度以上になると受精できず、開花しても花が落ちてしまう[1]。開花期から結実期は十分な水分や強い光が必要で、足りないとサヤがついても実がスカスカになる[1]。
畑は深く耕して堆肥をすき込み、根粒菌が共生するため元肥は窒素肥料を控えめにする[10][1]。種は株間を25 - 30 cmほどあけて1か所に3 - 4粒ずつ播き、軽く覆土する[10][12]。覆土が浅すぎたり押さえ方が足りなかったりすると、芽が正常に展開できない[1]。発芽までの間は、ハトやカラスなどの鳥に播いた種が食べられてしまう鳥害があるため、芽が出るまでは不織布などをかけて保護すると良い[10][11]。本葉が5 - 6枚になったところで、生長が悪い芽を抜き取らずに根元から切り取って1本だけ残し、芽の先端を摘芯してわき芽を出させて育てていく[10][11]。種まきから80 - 90日で花が咲くまでに、チッソ分控えめの追肥と、倒伏防止のため土寄せを数回行い、開花後1か月ほどでサヤが膨らみ収穫期となる[10]。早生種では6月ごろから収穫が始まる[10]。サヤを軽く押して実が入っていることを確かめ、豆がやわらかいうちに株ごと引き抜いて収穫する[10]。
枝豆の食べ方の例編集
一般に塩ゆでにして食べられている[7]。塩ゆで以外でも、かき揚げ、炒め物、煮物にするほか[7]、産地では潰して和え物にしたり、サヤごと甘辛く煮て食べたりしている[4]。
枝豆は、収穫後は鮮度とともに味が落ちるのが早い[8]。袋入りで売られているものもあるが、枝つきで売られているもののほうが鮮度が良く、茹でる前にサヤを傷つけないようにヘタの先端で枝から外す[8]。サヤに傷がついてしまうと、茹でるときにサヤの中に水が入って、茹で上がりが水っぽくなり、風味を損ねる原因となる[8]。収穫の翌日までに食べきることが望ましいが、保存するときは生で保存せずに、できるだけ早くかために茹でて、よく冷ましてから冷凍する[8][2]。冷凍品を食べるときは、熱湯にくぐらせて解凍してから食べる[8]。
塩茹で編集
最も典型的な調理法である。枝豆本来の風味が引き出される調理法であるが、実の大きさや収穫時期によって茹で時間は異なる[8]。ふつう2 - 5分ほど茹でてから1つ取り出して、食べてゆで加減を確認してみて、実がかたかったらさらに1 - 2分ほど茹でる[8][2]。旬の終わりごろや、実が大きく育っている枝豆は、より長い時間をかけてやわらかく茹で上げる[8]。
調理は極めて簡単で、枝豆のサヤをボウルに入れて塩揉みして、表面の産毛を落としてから水洗いして水気を切り、塩少々が入ったたっぷりの熱湯で茹で上げ、ザルに上げて湯を切り、好みの加減で塩を振り、広げて冷ます[8][2]。
また、1980年代からは調理後冷凍した商品も出回っており[13]、小売店の冷凍食品売り場などで目にすることができる。
枝豆の塩ゆでは、酒、特にビールのつまみの定番として知られる。大豆に豊富に含まれる蛋白質などはアルコールの分解を助ける働きがあり、「枝豆をつまみにするのは理にかなっている」と言われる。また、冷凍食品としては鞘から取り出した豆の部分だけのものもみられる。
焼き枝豆や漬物編集
生のままでは硬い枝豆を食べやすくする調理法としては、焙ったり煎ったりした「焼き枝豆」[14]や漬物[15]などもある。
ずんだ編集
茹でた枝豆を潰して餡状にしたもの。ずんだを餅にまぶした「ずんだ餅」は主に宮城県・山形県・秋田県・岩手県など東北地方の名物の一つになっている。
その他の加工品編集
子供にも人気のある食材であることからスナック菓子の材料としても用いられるほか、すり潰してスープにしたり、餅に入れたり、煮物などの具材として利用されたりすることもある。また地域おこしの題材として枝豆を使ったお酒が作られた例もある。
郷土料理編集
兵庫県丹波篠山市や三田市、和歌山県紀の川市鞆渕地区においては、黒豆の未熟なものを「黒枝豆」として食べることがある。茹でる前も茹でた後も、一般の枝豆ではお馴染みな鮮やかな緑色ではなく、茹で上がり後ですら鞘の中の豆は黒みがかった緑色である。
異質な見た目に反して味は極めて良い。その見た目の異質さと味の良さから様々なメディアで取り上げられたこともあり、枝豆愛好者などへの知名度も高い。ただし同地域のものは毎年10月第2週前後に出荷されており、流通する期間が限られることもあって入手は比較的難しく、それ以前に流通しているものは別品種の可能性がある。
日本以外編集
近年の健康志向にともなう日本料理ブームの影響もあり、枝豆でも特に塩茹でなど簡単な調理法のものは、2000年頃から次第に北米・ヨーロッパなどの日本以外でも食べられるようになっている。
イギリスなど英語圏では枝豆は「green soy beans」または「edamame」[16]と呼ばれ、ニューヨークなどの日本風の居酒屋では、定番のアペタイザーとして振る舞われ、オーガニックフード店やアジア食材を置く店でも気軽に入手することが出来る。
また、アメリカンフットボールやメジャーリーグベースボールを観戦しながらつまむ食べ物として、競技場内の売店でも買うことが出来るところもある。中華料理では「毛豆」と呼ばれ[17]、豆干毛豆炒黄瓜などの食材としても広く使われている。
世界でインターネット検索された『和食キーワードランキング』で「sushi」「ramen」に挟まれ、「edamame」が2位を獲得。健康食として世界に注目される食品になっている。[要出典]
観光や仕事などで来日した外国人が好んで食べる傾向にある。 豆自体が世界各国で食されており、親しみやすい味であること、自ら皮を剥くという変わった食べ方、皮自体も柔らかく食べやすいという理由から食されている。また、子供の食育の一環としても注目されている。野菜を食べたがらない子供が、枝豆が飛び出る姿を面白がり、「遊びながら食べられる」「小さいサイズで口に入れやすい」「軟らかく食べやすい」という利点がある。
脚注編集
- ^ a b c d e f g h i j k 市川啓一郎 2021, p. 82.
- ^ a b c d e f g h i j 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 132.
- ^ 【食材ノート】エダマメに新顔続々 多収量・大粒の品種も『日経MJ』2018年4月30日(フード面)
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 主婦の友社編 2011, p. 114.
- ^ 菅原悦子, 伊東哲雄, 小田切敏 ほか、「枝豆香気成分の成熟に伴う変化」『日本農芸化学会誌』 1988年 62巻 2号 p.149-155, 日本農芸化学会, doi:10.1271/nogeikagaku1924.62.149。
- ^ a b 南出隆久, 畑明美, 「枝豆の品質に及ぼす収穫時期と貯蔵温度の影響(B. 生活科学)」『京都府立大学学術報告. 理学・生活科学』 41巻 p.23-28, 1990-11-19, NAID 110000058143, NAID AN00062300
- ^ a b c d e f g h i j k l 講談社編 2013, p. 55.
- ^ a b c d e f g h i j 主婦の友社編 2011, p. 115.
- ^ 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 93.
- ^ a b c d e f g h i j k l 主婦の友社編 2011, p. 116.
- ^ a b c d e 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 234.
- ^ 市川啓一郎 2021, p. 83.
- ^ 増田亮一, 橋詰和宗, 金子勝芳, 「冷凍枝豆の食味に及ぼす収穫後の貯蔵時間の影響」『日本食品工業学会誌』 1988年 35巻 11号 p.763-770, doi:10.3136/nskkk1962.35.11_763。
- ^ 【クックパッドニュース】フライパンで焼くのが新常識!?「焼き枝豆」の美味しさに、この夏こそ目覚めよう!『毎日新聞』2017年8月18日(2018年5月15日閲覧)
- ^ 【食べ物新日本奇行classic】欧米人も豆が好き フィッシュ&チップスやカレーにも『日本経済新聞』電子版(2017年9月24日)2018年5月15日閲覧
- ^ 『笑顔がごちそう ウチゴハン』食のアレコレ(2009年7月19日放送)より。
- ^ 鞘に生えている微細な毛から、青森県津軽地方で栽培されているブランド枝豆も「毛豆」を名乗っている。毛豆ドットコム(2018年5月15日閲覧)参照。
参考文献編集
- 市川啓一郎 『タネ屋がこっそり教える 野菜づくりの極意』農山漁村文化協会、2021年10月30日、82 - 83頁。ISBN 978-4-540-21109-6。
- 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、132 - 133頁。ISBN 978-4-415-30997-2。
- 講談社編 『からだにやさしい旬の食材 野菜の本』講談社、2013年5月13日、55頁。ISBN 978-4-06-218342-0。
- 主婦の友社編 『野菜まるごと大図鑑』主婦の友社、2011年2月20日、114 - 116頁。ISBN 978-4-07-273608-1。