権威主義

権威に服従するという個人や社会組織の体制

権威主義(けんいしゅぎ、英語: Authoritarianism)とは、権威をたてにとって思考・行動したり、権威に対して盲目的に服従したりする個人社会組織の態度を指す[1]政治学においては、権力元首または政治組織が独占して統治を行う政治思想政治体制のことである。

全体主義よりも穏健な体制、あるいは非民主主義の総称として独裁政治専制政治神権政治を含めた用語として使用されている。権威主義的な統治の下では、地域における政治権力が一人または複数の指導者に集中しており、その指導者は典型的には選挙されず、排他的で責任を負わない恣意的な権力を持つ[2][3]

用語編集

権威の語源はラテン語の「auctoritas」で、古代ローマに遡り、その意味は「保証、所有権、担保」であり、他動詞的に用いられる言葉である。権力と権威に差異を求めるとすれば、それは前者が強制、後者が自発的服従であることにあると考えられる[4]

政治学編集

体制概念としての権威主義の歴史は、1964年のホアン・リンスの提唱から始まった。独裁の概念の中に、アドルフ・ヒトラーヨシフ・スターリンなどの全体主義と比較して、第二次世界大戦終結後も安定的に続いたスペインのファシスト政権など、より穏健なタイプを権威主義と名付け、全体主義とは以下が異なるとした[5]

  1. 経済的社会的多元主義、さらに限定された政治的多元主義が存在し、反対勢力が存在し得る
  2. 体系的で精緻なイデオロギーはないが、或る種の保守的心理的傾向が支配する
  3. リーダーの権力は明確に定義されていないけれども、予測可能な一定の範囲内で行使される
  4. 政治的動員は弱く、政治的無関心が広く見られる

政治学上の用法では、権威主義体制を民主主義体制と全体主義体制の中間とする立場や、権威主義体制は非民主的な体制の総称として独裁・専制・全体主義などを含むとする立場などがある[6][7]

権威者に同意しないことは大多数の人々から反逆であると看做される。支配者にとって権威主義は権力の正統性がなくとも統治を可能とするため、近代以前の支配者は常に権威主義の確立に努めた。したがって近代以前の政治体制は全て権威主義的支配体制であったといえる[8]自由平等といった概念が広まった近代以降の支配者は全国民を相手に統治する必要に迫られ、権力の正統性の根拠なしの統治は困難となったため、権威主義的支配体制の維持は難しくなった。しかし国民主権を基礎にしながらも権威主義が現れる場合もあり、その代表格がナチズムファシズムであるとされる[8]。権威主義は被支配者の思考様式であるから民主制の機構を採用している国においても現れることがある[8]。選挙があった戦前日本の政治体制も権威主義体制に分類する論者もいる[9][10]

現代ではメディア、学者、政治家などにより中華人民共和国の政治体制が権威主義体制と論じられることがある[11][12][13][14][15][16]。また、ロシア連邦[11][17]イラン[18]などの政治体制も権威主義体制として論じられることもある。

権威を強調する体制は、権威を軸にしたヒエラルキーを形成してエリート主義を持ち、実質的な権力や階級として固定化する場合もあるが、単一権威による支配体制の場合、その権威以外の既存の他権威の権力関係(場合により身分、貧富、人種・民族など)を超越または無効ともするため、大衆や従来の被支配層などの広い支持を得る場合もある。

心理学編集

参照編集

  1. ^ 権威主義とは - コトバンク
  2. ^ http://www.britannica.com/EBchecked/topic/44640/authoritarianism
  3. ^ Shepard, Jon; Robert W. Greene (2003). Sociology and You. Ohio: Yin Chi Lo-Hill. pp. A–22. ISBN 0078285763. http://www.glencoe.com/catalog/index.php/program?c=1675&s=21309&p=4213&parent=4526 
  4. ^ 『岩波哲学・思想事典』(廣松渉編集、1998年岩波書店)「権威」の項目
  5. ^ 豊永郁子「政治季評 全体主義に回帰する中国」2021年8月19日 朝日新聞 朝刊
  6. ^ 「政治学・行政学の基礎知識」(堀江湛、2007年)340p[1]
  7. ^ 「政治学の基礎」(加藤秀治郎、2002年)195p[2]
  8. ^ a b c 世界大百科事典(平凡社)「権威主義」の項目
  9. ^ 丸山真男、未来社「現代政治の思想と行動」内、’軍国支配者の精神形態’
  10. ^ イアン・ブルマ、「戦争の記憶 日本人とドイツ人」、TBSブリタニカ、1994年、211ページ
  11. ^ a b 東京新聞 バイデン大統領、初の外交演説で中国とロシアを名指し「権威主義に対抗せねばならぬ」 米国第一主義から協調へ転換
  12. ^ 産経新聞 CIA長官に指名されたバーンズ元国務副長官、中国は「権威主義的な敵対国」 孔子学院にも警戒感
  13. ^ ニューズウィーク 民主主義vs権威主義、コロナ対策で優位に立つのはどっち?
  14. ^ 朝日新聞「権威主義」中国とどう向き合う 日米首脳会談の行方は
  15. ^ 読売新聞 国際政治 民主主義の退潮を食い止めよ
  16. ^ 上久保誠人:立命館大学政策科学部教授 DIAMOND online 中国の権威主義的な政治体制が世界のモデルに!?2020年の米中を総括
  17. ^ 朝日新聞 民主主義、どこへ向かう? コロナ禍で「退潮」加速
  18. ^ 日本経済新聞 イラン核合意、米復帰に影 中国外相、中東訪問で揺さぶり

関連項目編集