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シュテファン・エッガートの「歩く人」、ミュンヘンのシュバービングにある公共アート。

歩行(ほこう)とは、)を持つ動物が行う、足による移動のうち、比較的低速のものを言う。急いで移動する場合は走ると言う。厳密に区別する場合は、すべての足が同時に地面から離れる瞬間を持たない動作を言い、例えば競歩においてはこちらの定義が用いられる。

概説編集

 
サントドミンゴの道路を歩く人達。

「足による移動」とは、全体を支える部位で、接地している複数の足の一部(例えば2本のうち1本)から荷重を除き、その足を進行方向に移動させて接地してから再び荷重させる動作と、その動作に伴って(同時に又は荷重後に)全体の重心を移動する事を言う。これを繰り返して、足の届く範囲以上の移動が可能となる。重力ないし慣性力の働かない環境下や、それを打ち消すほどの浮力がある環境下では歩けない。

海中においても節足動物は歩行を行う。タコやヒレが変化した魚類にも歩行に類似した動作が見られる。

陸上動物の歩行編集

 
歩く女性と(四足歩行)

脚を交互に動かし比較的低速で進行するのが歩行で、急ぐ場合には全ての脚が接地しない動作が混じり、走行となる。なお、脚が突出していないナメクジカタツムリなどは這うと言う。

ヒトと近縁の種では類人猿は前足を地面につけて四足歩行するが、その際指を軽く握り込み、地面には指関節の外側をつける。これをナックル・ウォークと言う。

歩行できない動物もあり、例としては飛行に特化して脚をあまり動かせないトンボツバメハチドリがある。これらの動物では脚は体の支持に用いられ、移動の際は短い距離でも飛行する。もう少し脚がしっかりした小鳥では、歩くのではなく小さく跳躍して移動する。

樹上生活に特化した中にも、歩行が殆ど苦手な動物がいる。皮膜を発達させたムササビニホンモモンガヒヨケザル、それに木から木へと跳躍するのが得意な原猿亜目ベローシファカなどは、地上では跳躍して移動する。

地上での跳躍に特化したために歩行できない動物もいる。カエルは、あまり歩かず連続した跳躍で前進する。ヒキガエル科の構成種は逆にあまり跳躍せず、歩行に適した頑丈な四肢を持つ。

ヒトと歩行編集

ヒトの歩行動作
 
歩行のアニメーション

ヒトの特徴に直立二足歩行がありヒトの進化と密接に関連しているといわれる。歩行はヒトの基本動作でスポーツ科学などでは研究対象にもなっている[1]

基本動作編集

片側のかかとが設置してから再び同じほうのかかとが設置するまでを1歩行周期という[1]

1歩行周期を一方の脚についてみたとき、足部が地面に接地している時期を立脚相、足部が地面から離れている時期を遊脚相という[1]。立脚相は、かかとが接地する踵接地(しょうせっち)、足底まで接地する足底接地、全体重が支持脚を通して足底にかかる立脚中期、かかとが地面から離れる踵離地(しょうりち)、足の指まで地面から離れる足趾離地(爪先離地)の5つのサイクルからなる[1]。つづく遊脚相は、脚の位置により、体幹の後方にある加速期、体幹の直下にある遊脚中期、体幹の前方に振り出す減速期の3つのサイクルからなる[1]

また、両方の脚についてみたとき、両脚が地面に接地している時期を両脚支持期、片脚のみが地面に接地している時期を片脚支持期という[1]

歩行に関するパラメータには以下のようなものがある。

  • 歩行率(ほこうりつ、walking rate) - 時間単位当たりの歩数のことであり単位は歩/分または歩/秒である[1]。歩行率は身長、年齢、性別等の影響を受ける[1]。ケイデンスまたは歩調ともいう[1]
  • 歩幅(ほはば、step length) - 片脚が接地し他方の片脚が接地するまでの1歩当たりの踵間の距離のこと[1]。単位はメートルやセンチメートルなどを用いる。
  • 重複歩(ストライド、stride) - 片脚が接地しさらに他方の片脚が接地するまでの踵間の距離のこと[1]
  • 歩行比(ほこうひ) - 歩幅と単位時間当たりの歩数との比のこと。歩幅を歩行率で割ることで求める。
  • 歩行速度(ほこうそくど) - 歩行によって移動した時の移動速度のこと。なお、歩幅と歩行率との積は、歩行速度を分速で計算した時の値と一致する。日本の不動産業の広告などでは「XXまで徒歩○○分」などの、最寄駅からの所要時間を示す宣伝文句がよく見受けられる。この不動産物件からその最寄駅までの徒歩の所要時間は、不動産公正取引協議会の表示規約により、「徒歩所要時間」として、1分=80mとして計算するように基準が設けられている。なお、1分未満の端数については切り上げる事とされている。
  • 歩隔(ほかく、stride width) - 歩行時の左右の足の両踵間の幅のこと[2]。歩幅とは異なる。単位はセンチメートルなどを用いる。

静歩行と動歩行編集

ヒトの成人の重心は仙骨の前面付近にあり、歩行の際は体幹上部と体幹下部で逆方向の回旋運動を行うことで振幅を抑え歩行の速度を調整している[1]

2本足で歩く際に「足を接地して荷重してから全体の重心を移動する」場合を特に静歩行といい、また「足を進行方向に移動させると同時に全体の重心を移動する」場合を動歩行という。それぞれ静的歩行と動的歩行と呼ばれることもある。

二足歩行ロボットの研究では、ホンダASIMOでは動歩行のみならず走行まで出来るようになっている。

歩容(正常歩行と異常歩行)編集

歩く様子のことを歩容(ほよう)という。歩容は物理量ではない。詳しくは歩容解析を参照のこと。

ヒトの歩行は正常歩行と異常歩行に分けられるが、正常でない歩行のすべてが疾病によるわけではなく歩行は年齢や身体的特徴、精神状態などの影響を受けるため歩き方に特徴(歩き方のくせ)がはっきりとみられることも多い[3]

  • 船乗り歩行 - 腰椎の前弯が強い人などに見られる歩容で左右の足の間隔の広い歩行[3]
  • 前かがみ歩行 - ヒールの高い靴を履いた人などに見られる歩容で腰を過伸展し膝を屈曲した歩幅の短い歩行[3]

など

一方、異常歩行は神経筋疾患、運動器疾患、加齢などが原因で引き起こされる[4]。このほか異常歩行は外傷(ねんざ等)、下肢長差、筋疾患、疼痛などでも引き起こされる[5]

  • すくみ足(frozen gait) - すくみ足は中枢神経疾患にみられる症状で下肢の屈筋と伸筋が同時収縮する現象をいう[6]
  • 小刻み歩行(brachybasia) - 小刻み歩行は血管障害性対麻痺、脳卒中、パーキンソン患者に見られる歩容で、前屈姿勢で足底をこするような歩行をいう[6]
  • 失調性歩行(gait ataxia)
  • 動揺性歩行(動揺歩行、waddling gait) - 進行性筋ジストロフィーの症状で腰椎の弯曲の増強により下肢の内旋と尖足を伴った左右の揺れの大きい歩行をいう[5]
  • 間欠性跛行(間欠性歩行困難症、Intermittent claudication) - 下肢の動脈の閉塞や狭窄などが原因で見られる歩行[5]

など

歩行とスポーツ・レクリエーション編集

歩行そのものを競うスポーツがある。

また、格闘技武術においては、多くの場合に足運びは重要なものと見なされている。様々な特殊な歩き方、それに対する用語がある。

  • アヒル歩き:レスリングなど格闘技の鍛錬の練習法としての歩き方。
  • 摺り足(すり足):や、剣道相撲など武道の歩き方。
  • 継ぎ足:剣道で前の右足に後ろの左足を追いつかせる歩き。
  • 歩み足:剣術柔道空手道などに用いられる日本武術の歩き。
  • 膝行(しっこう):本来は武士が城内で主君の面前(御式内)や神道の禰宜などが正面を向いて膝を曲げたまま体の上下左右のぶれなく進む歩き。後退は膝退(しったい)という。
  • 無足:一部剣術・柔術流派の蹴らず重心を体の前方に直進させ前進する歩き。
  • 這(はい):中国武術の大成拳(意拳)の鍛錬の歩き。
  • 禹歩(うほ、ただしくは反閇(へんばい)):陰陽道呪術北斗七星となるような歩き。
  • ナンバ歩き:手をほとんど振らず右手と右足、左手と左足をそろえて歩行する。甲野善紀が紹介し有名となった。
  • 足甲歩き:忍者が鍛錬のために行ったと伝えられている、足の甲で立って行う歩行。

このほか歩行がレクリエーションの手段となる場合がある。

歩行と健康編集

歩行は重病人や一部の障害者を除き問題なく実践できる行為であり、しかも現代人の多くが増えている病気や不健康状態を予防あるいは改善する効果がある。とくに動脈硬化に関連する病気や死亡に対する効果が期待されている[7]日本での研究では、40-79歳の27738人をプロスペクティブに13年間調査したところ、年齢や疾患などで調整した場合においても、1日に1時間以上歩く群は、1日1時間未満しか歩かない群と比べて長生きであった[8]

馬の歩行・歩法編集

水中動物の歩行編集

魚などは、水底にいても、移動の際泳ぐ事が多い。水中で歩行する動物は、1つは貝殻や頑丈な甲羅を持ち体が重いものがあり、アワビサザエイセエビなどはこちらに該当する。

一般の魚は水中を遊泳するために対鰭のうちの胸びれが側面に位置し、歩行はできない。ポリプテルスなどの古代魚には腹面に対鰭を持つものがあり、それらは水底を這うように歩行できる。

脚注編集

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l 竹井仁 監修『ビジュアル版 筋肉と関節のしくみがわかる事典』2013年、142頁
  2. ^ 竹井仁 監修『ビジュアル版 筋肉と関節のしくみがわかる事典』2013年、143頁
  3. ^ a b c 竹井仁 監修『ビジュアル版 筋肉と関節のしくみがわかる事典』2013年、146頁
  4. ^ 竹井仁 監修『ビジュアル版 筋肉と関節のしくみがわかる事典』2013年、147頁
  5. ^ a b c 竹井仁 監修『ビジュアル版 筋肉と関節のしくみがわかる事典』2013年、150頁
  6. ^ a b 竹井仁 監修『ビジュアル版 筋肉と関節のしくみがわかる事典』2013年、149頁
  7. ^ 商品の説明 内容紹介 - Amazon.co.jp
  8. ^ BMJ Open. 2011 Jan 1;1(2):e000240.

関連項目編集