水不足(みずぶそく、: Water scarcity) とは、水資源が物理的もしくは経済的に十分でなく、水利用が十分に行えなくなること。水不足が起こることで、食糧危機、工場停止、安全な飲料水を確保できず水系感染症が蔓延するなどが起こる。水不足が深刻化した場合を渇水という。

枯れた水源から水を汲む女性(タンザニア
世界における2019年のウォーターストレス
川の上流などでの利用を考慮した図
世界の年間降水量。雨水は多くの動植物を養える量が降っているが、その分布は国によって不平等となっている。
世界の水消費量1900〜 2025年

概要 編集

地球上の淡水は、地球上の水の2.5%程度に過ぎず、さらに淡水の70%が氷河などの氷や雪の形であり、加えて地下水のように直接取り出せない形ともなるため人類が利用できる水の量は多くない。

人類が活用しやすい地下水や表流水も、水道法等に定められたヒ素などの有害物質基準を超えたり、病原菌が存在する場合は直接使用できない。水にヒ素が多いインドバングラデシュでは水監視員を配置して水中有害物質についての周知と井戸のヒ素除去装置の動作確認を行っている。

また、地下水にも限りがあり、過剰に取水すると地盤沈下などが起きて、やがて尽きる。降水量が少ない地域では古代からの降水や水の流入で帯水層へ溜まった化石水英語版という地下水が使われるが、この水は一度尽きてしまうと降水量も無いため回復することがない[1]

ウオーターストレス(水ストレス) 編集

水問題について研究している水文学マリン・ファルケンマークは年間の給水量が1人あたり年間1,700立方メートルを下回るとウオーターストレスが起きていると提唱し、逼迫度を示すファルケンマーク指標(FI:Falkenmark Index)を導入した[2]

こういった考え方は植物にも適用できる。

原因と対策 編集

原因
対策

各国の状況と対策 編集

日本 編集

日本では、旱魃などにより発生し、農業用水の取水制限水道水の給水制限などが行われる。河川が少ない離島(一例として、硫黄島自衛隊基地など[7])や降水量の少ない瀬戸内海沿岸地域、人口が急増した福岡市などが慢性的に悩まされる問題である。

著名な渇水

アジア 編集

中国
世界最大規模の水源チベット高原を持ち、ディチュ河メコン河サルウィン川(怒江)、インダス川ガンジス川などに水を供給することから世界の給水塔と呼ばれる。この上流に中国がダムを建設しており、ライフラインともいえる水を握られた川の下流のインドなどの国と国際問題となっている[8][9]
台湾
水を大量に使用する半導体工場が密集している地域で水不足が発生し、半導体会社が自ら給水車を手配して余裕のある水源から輸送して乗り切った[10]
旧ソビエト連邦
灌漑によってアラル海に流入する水が減少し環境破壊が引き起こされた。
イラン
灌漑などの開発によりオルーミーイェ湖に流れ込む淡水の量が減少し、かつてはカスピ海に次ぐ巨大な湖も消滅の危機を迎えていた。水を消費しない作物や農法の奨励により改善している[11]

中南米 編集

水を多く必要とするアボカドの価格高騰により、農家がこぞって栽培し水不足が発生している[12]
ガリンペイロ(ポルトガル語:garimpeiro )と呼ばれる金の違法採掘者が使用する水銀によって水質も悪化している[13][14]

アフリカ 編集

  • ケニアの水不足英語版
  • チャド湖、砂漠化に近い地域で灌漑により縮小がみられた。農業・放牧などの効率化などで改善
  • コンゴ盆地、世界で2番目に大きな流域となっている。チャド盆地など水が不足する地域に水をひく計画などが提案されている。

戦略による水断ち 編集

自然的な水不足とは異なり、籠城をしている敵軍の水源を断ち(包囲戦)、人為的に水不足にさせ、自軍の戦力を削らず、相手方の降伏を誘うために行われる(例として、野洲河原の戦いなど)。限定的空間に閉じ込められている相手に行われ、海上戦であっても、船舶に搭載されている水が枯渇するような状況を作られれば(例として、船を陸に近づけさせず、水を補給させない)、水不足となる。時間的に余裕がある状況で用いられる戦略である。

脚注 編集

  1. ^ 水不足のサウジ、ナイル川上流を買収? ナショナルジオグラフィック 更新日:2012.12.21 参照日:2021.9.5
  2. ^ Falkenmark and Lindh 1976, quoted in UNEP/WMO. “Climate Change 2001: Working Group II: Impacts, Adaptation and Vulnerability”. UNEP. 2015年6月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年2月3日閲覧。
  3. ^ 1.7 Water conveyance by marine vessels”. www.oas.org. 2022年4月4日閲覧。
  4. ^ 日本と世界における水輸送の課題と可能性 著:植村 哲士、宇都 正哲、松岡 未季
  5. ^ 渇水時の「取水制限」と「給水制限」 違いは(THE PAGE)”. Yahoo!ニュース. 2022年9月29日閲覧。
  6. ^ 図録番号150 タイトル:渇水期の水汲み 山本作兵衛コレクション サイト:福岡県田川市
  7. ^ 朝日新聞2011年8月7日付、記事参考。
  8. ^ 中国とインドの「水利権奪取」に向けたダムが生むヒマラヤ地方の生態系の危機ダライ・ラマ法王日本代表部事務所
  9. ^ “チベット自治区最大の水力発電所が稼働開始、中国”. AFPBB. (2014年11月25日). https://www.afpbb.com/articles/-/3032619 2019年7月27日閲覧。 
  10. ^ 台湾、取水制限強化を見送り 半導体生産への影響回避 出版者:日本経済新聞、更新日:2021年5月31日 参照日:2021年6月22日
  11. ^ The return of a once-dying lakeBBC
  12. ^ Running Dry Is our love of avocados fuelling Chile's drought?( Running Dry〜) - YouTube 出典: Thomson Reuters Foundation(情報企業トムソン・ロイターの慈善事業部門)
  13. ^ Garimpo Lexico - acessado em 3 de outubro de 2015
  14. ^ The elite soldiers protecting the Amazon rainforest(BBC)

関連項目 編集