エゾフウロ

フウロソウ科の種
イブキフウロから転送)

エゾフウロ(蝦夷風露、学名: Geranium yesoense var. yesoense)は、フウロソウ科フウロソウ属多年草[2][3][4][5]

エゾフウロ
青森県下北半島 2019年6月下旬
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : バラ上類 Superrosids
階級なし : バラ類 Rosids
階級なし : アオイ類 Malvids
: フウロソウ目 Geraniales
: フウロソウ科 Geraniaceae
: フウロソウ属 Geranium
: エゾフウロ G. yesoense
学名
Geranium yesoense Franch. et Sav. (1878) var. yesoense[1]
和名
エゾフウロ(蝦夷風露)[2]

特徴 編集

は高さ30-80cmになり、よく分枝して茂みをつくる。茎や葉柄に斜め下向きの粗い毛が密生する。茎は対生し、葉身は掌状に5-7深裂し[注釈 1]、裂片はさらに細かく切れ込み、終裂片は線形になる。葉の両面に粗い毛が多く生える。托葉は質は薄くて褐色、長さ5-10mmになり、2個が基部で離生または合生する[2][3][4][5]

花期は7-8月。は紅紫色で径2.5-3cm、茎先または枝先に2個ずつつき、花序柄と花柄に開出毛が密生する。片は5個あり、縦に5-7脈があり、先端は状にとがり、外面の脈上に白い開出した長い毛が密生する。花弁は5個あり、花弁どうしがすき間なく重なりあい、濃紅色の脈が目立つ。花弁下部の脈上と花弁基部の縁には白毛が生える。雄蕊は10個、雌蕊は1個で、心皮は5個、花柱分枝は5個。果実は5個の分果となる。染色体数は2n=28[2][3][4][5][6]

分布と生育環境 編集

千島列島シムシル島以南、北海道、本州の東北地方に分布し、山地や海岸の草原に生育する[5]タイプ標本の採集地は、北海道渡島半島函館で、幕末に来日したフランス人の医師・植物学者であるリュドヴィク・サヴァティエによる[1]

名前の由来 編集

和名エゾフウロは、「蝦夷風露」の意で、北海道に産することによる[2]

種小名(種形容語)yesoense は、「北海道の」「蝦夷の」の意味[7]

種の保全状況評価 編集

国(環境省)のレッドデータブックレッドリストでの選定はない。
都道府県のレッドデータ、レッドリストの選定状況は次の通り[6][8]。岩手県-Cランク、福井県-県域準絶滅危惧、岐阜県-絶滅危惧II類、滋賀県-分布上重要種、京都府-絶滅種。

ギャラリー 編集

下位分類 編集

  • シロバナエゾフウロ Geranium yesoense Franch. et Sav. var. yesoense f. albiflorum Tatew. (1936)[9] - エゾフウロの白花品種[5]
  • フギレエゾフウロ Geranium yesoense Franch. et Sav. f. lobatodentatum (Takeda) Tatew. (1936)[10] - エゾフウロのうち、花弁の先端が浅く切れ込むものを品種として区別することがある。北海道の根室市釧路市からの報告がある[5][注釈 2]

種内分類 編集

本種を基本変種とする3変種を次に示す。ただし、花柄や萼片に生える毛の性質や量の多少に中間型が出現し、区別が困難な場合があるという[5]

ハクサンフウロ 編集

ハクサンフウロ(白山風露)Geranium yesoense Franch. et Sav. var. nipponicum Nakai (1912)[11] - 茎や葉柄に下向きの粗い毛が生える。茎葉は掌状に5深裂し、表面に短い伏毛が、裏面葉脈と縁に粗い毛が密生する。花柄と花序柄に下向き屈毛が密に生える。萼片の外面に伏毛が生える。花は紅紫色で、花弁の基部に白色の軟毛が密生する。本州の中部地方以北に分布し、山地帯から高山帯の草地に生育する。白花品をシロバナハクサンフウロ f. ochroleucum Okuyama (1955)[12]という[5]

ハマフウロ 編集

ハマフウロ Geranium yesoense Franch. et Sav. var. pseudopratense Nakai (1909)[13][注釈 3] - エゾフウロに似るが、植物体全体に毛が少ない。茎葉は掌状に5中裂し、葉の切れこみは浅い。花柄に開出毛が生え、萼片の開出毛はエゾフウロに比べて少ない。北海道、本州の東北地方北部の主に日本海側に分布し、海岸草原に生育する[3][5]。白花品をシロバナハマフウロ f. leucanthum Tatew. (1936)[14]という。また、秋田県男鹿半島に分布し、ハマフウロの萼片の外面に伏毛があるものを、品種オガフウロ f. intermedium H.Hara (1948)[15][16]という[5]

イブキフウロ 編集

イブキフウロ(伊吹風露)Geranium yesoense Franch. et Sav. var. hidaense auct. non (Makino) H.Hara (1954)[17][注釈 4] - 別名、ヒダフウロ、サクラザキフウロソウ。ハクサンフウロに似るが、植物体全体に毛が少なく、萼片に開出毛が生えるが、その密度が低いもの。本州の群馬県長野県岐阜県滋賀県に分布する。伊吹山に生育するものは花弁の先端が3浅裂するが、他の産地のものは花弁の縁が全縁になる。しばしば本変種に近くに毛の多いハクサンフウロが見られることがある[4][5]

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 門田裕一 (2016) は、『改訂新版 日本の野生植物 3』のなかで、本種を基本変種とする変種であるハクサンフウロ var. nippnnicum と比べ、本種は、「葉の裂片がより深く切れ込む」としている[5]が、米倉浩司 (2021) は、YList において、「Kadota (2016)は本変種の葉の裂片がハクサンフウロよりも深く切れ込むとあるが,基準標本ではそのようなことはない」としている[1]
  2. ^ YList においては、フギレエゾフウロはエゾフウロのシノニムとしている[10]
  3. ^ YList においては、ハマフウロはエゾフウロのシノニムとしている[13]
  4. ^ YList においては、イブキフウロはハクサンフウロのシノニムとしている[17]

出典 編集

  1. ^ a b c エゾフウロ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  2. ^ a b c d e 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.748
  3. ^ a b c d 『新北海道の花』p.257
  4. ^ a b c d 『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』p.295
  5. ^ a b c d e f g h i j k l 門田裕一 (2016)「フウロソウ科」『改訂新版 日本の野生植物 3』pp.252-253
  6. ^ a b エゾフウロ, いわてレッドデータブック
  7. ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1520
  8. ^ エゾフウロ、日本のレッドデータ検索システム、2022年12月11日閲覧
  9. ^ シロバナエゾフウロ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  10. ^ a b エゾフウロ(別名、フギレエゾフウロ) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  11. ^ ハクサンフウロ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  12. ^ シロバナハクサンフウロ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  13. ^ a b エゾフウロ(別名、ハマフウロ) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  14. ^ シロバナエゾフウロ(別名、シロバナハマフウロ) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  15. ^ オガフウロ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  16. ^ 原寛、「日本産フウロサウ屬抜き書」、The Journal of Japanese Botany, 『植物研究雑誌』, Vol.22, No.10-12, p.171, (1948).
  17. ^ a b ハクサンフウロ(別名、イブキフウロ、 サクラザキフウロソウ) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)

参考文献 編集