カキフライ

牡蠣を主たる食材としたフライ

カキフライ表記揺れ: 牡蠣フライかきフライ)とは、牡蠣(カキ)を主たる食材としたフライ洋食日本生まれの西洋風料理[注 1])の一種であり、日本の揚げ物料理の一種、料理の一種である。

カキフライ
茶色いのがカキフライ。レモン一片ひとかけ)、キャベツ繊切タルタルソースが添えられている。

主にマガキ(真牡蠣、学名: Crassostrea gigas)が用いられ、初秋から初春にかけて[2](別資料では、晩秋から夏にかけて[3])がである。一方で、イワガキ(岩牡蠣、イワガキ学名: genus Saccostrea〉、英名: rock oyster)は、5月から8月にかけて[2](春から夏にかけて[4])旬を迎える。そのため、日本では年間を通して食べることができる。

歴史 編集

カキフライが初めて作られた時期については諸説あってはっきりしないが、比較的有力な情報として以下の2つがある。

一つには、日刊新聞時事新報』の家庭向けレシピ欄である『何にしよう子(ね)』の1893年明治26年)10月6日付け記事であり、ここには、メリケン粉玉子パン粉を使ったカキフライの作り方がすでに掲載されている[5]。今一つには、1895年(明治28年)に創業した東京銀座の洋食店「煉瓦亭」であって、豚カツを始めとする数多くの揚げ物料理を考案して普及させているこの店で、1901年(明治34年)ごろにカキフライもメニューに入っている[6]

カキフライは登場以来長らく洋食店だけのメニューであったが、やがて一般家庭にも普及してゆき、日本の家庭料理のメニューにも加わった。また、カキフライ定食などの形で和食店や喫茶店で供されることも多くなっていった。

なお、西洋の場合、古代ローマにおいてカキは生食せいしょく)するものであり、この食文化を引き継ぐ形で世界中に拡散している欧米文化圏フランスを中心に、イタリアアメリカオーストラリアなども含む[7])でも、カキは生食するものであって、フライで供する料理は見当たらない。

関連する料理 編集

カキフライにもう一つ手を加えた料理もある。

カキフライ丼(カキフライどん) / 牡蠣フライ丼は、カツ丼のように玉葱(たまねぎなど他の具材とカキフライを割下で煮た後、鶏卵とじご飯の上に載せた料理である[8][9][10]鎌倉丼は、鎌倉市内の特定地域のご当地料理であるが、ここではカキフライ丼もバリエーションの一つになっている。

また、カキフライが他の料理の具材になっているケースもある。

カレーの場合、カツカレーカツと同様、カキフライがトッピング具材として利用されることがある。愛知県では、あんかけスパゲッティのトッピング具材の一つにもなっている。

三重県鳥羽市の与吉屋は、ご当地バーガーの「とばーがー」として、カキフライを挟んだホットドッグ浦村かきドッグ」を提供している[11]

駅弁の具材としては、JR広島駅構内で販売されている「しゃもじかきめし」にカキフライを添えているメニューがある[12][13]ほか、洋風弁当に入れられる例もある。

衛生面 編集

厚生労働省は、2013年(平成25年)10月6日に改正した「大量調理施設衛生管理マニュアル」で、加熱調理食品は、中心部が 75°Cで 1分以上(二枚貝など、ノロウイルス汚染の怖れがある食品の場合は、85~90°Cで 90秒以上。)、または、これと同等以上まで加熱されていることを確認するよう指導している[14][15]

食生活学者・畑江敬子は、ノロウイルスによる食中毒を発生させない中心部温度が 85°Cの条件を超えるためには 3分30秒以上の加熱が必要[16]としている。一般財団法人 環境文化創造研究所は、小山田則孝ら 食品衛生研究、Vol.53 (2003) を出典として、油温 170°C以上で 3分以上揚げるという注意喚起している[15]北海道オホーツク総合振興局は、油温 180°C以上で 4分以上揚げるのを目安としている[17]。なお、「4分以上」というのは、冷凍された牡蠣の身を十分に解凍しないまま揚げる場合があることを考慮した数値である[15]。翻して言えば、解凍あるいは冷蔵しておいたカキの身でここまで長く揚げてしまうと、フライの表面が焦げてしまって美味しくは仕上げられない[15]

参考文献 編集

書籍、ムック
  • 菊池武顕『あのメニューが生まれた日』平凡社〈コロナ・ブック 186〉、2013年11月13日、29頁。 ISBN 4-582-63486-9ISBN 978-4-582-63486-0OCLC 870403239
  • 山本紀久雄『世界の牡蠣事情 : 世界14カ国、あなたの知らない牡蠣のすべて : 2005-2010』マルト水産、小学館スクウェア、2010年9月1日。 ISBN 4-7979-8730-8ISBN 978-4-7979-8730-0OCLC 666231611
  • 近代食文化研究会『お好み焼きの物語─執念の調査が解き明かす新戦前史』新紀元社、2019年1月29日、157頁。 ISBN 4-7753-1667-2ISBN 978-4-7753-1667-2OCLC 1086188108
雑誌、広報、論文、ほか

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 「洋食」という語は、「西洋料理」を意味する場合と、日本で生み出された「西洋風料理」を意味する場合があるが[1]、ここでは後者を指す。

出典 編集

  1. ^ 日立デジタル平凡社世界大百科事典』第2版、ほか. “洋食”. コトバンク. 2021年3月18日閲覧。
  2. ^ a b 高橋大善 (2020年2月26日更新). “牡蠣の旬を徹底解説!お魚屋さんが教える本当に美味しい時期とは”. お魚 WEB-mag(相馬のおんちゃま 魚のWEBマガジン). 株式会社センシン食品 [1]. 2021年3月20日閲覧。
  3. ^ マガキ”. ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑. ぼうずコンニャク株式会社. 2021年3月20日閲覧。
  4. ^ イワガキ”. ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑. ぼうずコンニャク株式会社. 2021年3月20日閲覧。
  5. ^ 『お好み焼きの物語』 (2019), p. 157.
  6. ^ 菊池 (2013), p. 29.
  7. ^ 山本紀久雄(マルト水産・顧問) (2013年). “世界のオイスターバーを訪ねて”. 株式会社 マルト水産. 2021年3月18日閲覧。
  8. ^ カキフライ丼”. 三重県. 2021年3月18日閲覧。
  9. ^ 簡単かきフライ丼 < おいしいレシピ”. エバラ. エバラ食品工業株式会社. 2021年3月18日閲覧。
  10. ^ ナベコ (2019年10月31日). “なか卯、大粒カキフライと卵の「牡蠣とじ丼」”. アスキーグルメ. 株式会社角川アスキー総合研究所. 2021年3月18日閲覧。
  11. ^ 鳥羽市 観光課. “ラインナップ”. 公式ウェブサイト. とばーがー. 鳥羽市. 2021年3月20日閲覧。
  12. ^ 広島市 経済観光局 産業振興部 商業振興課 (2020年9月28日更新). “しゃもじかきめし < ザ・広島ブランド”. 広島市. 2021年3月18日閲覧。
  13. ^ 駅弁の女王 小林しのぶの一度は食べたい!この駅弁 「しゃもじかきめし」”. みちしる(『新日本風土記』アーカイブス). NHK (2019年11月11日). 2021年3月18日閲覧。
  14. ^ 厚生労働省 医薬・生活衛生局 生活衛生・食品安全部 (2013年6月16日). “「大量調理施設衛生管理マニュアル」の改正について” (PDF). 厚生労働省. p. 3/31コマ. 2021年3月23日閲覧。
  15. ^ a b c d 矢野一好(首都大学東京〈現・東京都立大学〉客員教授:執筆当時) (2016年2月号掲載). “カキフライを作るときは < 家庭でできるノロウイルス対策”. 一般財団法人 環境文化創造研究所. 2021年3月23日閲覧。
  16. ^ 畑江 2010 [要ページ番号]
  17. ^ ノロウイルス (SRSV) による胃腸炎の予防について”. 北海道オホーツク総合振興局 (2017年11月27日更新). 2021年3月23日閲覧。

関連項目 編集

外部リンク 編集

クラシル
料理テレビ番組・コーナー関連
その他