ジャッリカットゥ 牛の怒り

2019年のインドのマラヤーラム語インディペンデントアクション映画

ジャッリカットゥ 牛の怒り』(ジャッリカットゥ うしのいかり、Jallikattu)は、2019年インドマラヤーラム語インディペンデントアクション映画。監督はリジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ英語版、脚本はS・ハリーシュ英語版とR・ジャヤクマールが務め、S・ハリーシュの短編『マオイスト』を原作としている[2]。主要キャストにはアントニ・ヴァルギース英語版チェンバン・ヴィノード・ジョーズ英語版サーブモーン・アブドゥサマド英語版シャーンティ・バーラクリシュナン英語版が起用された。ケーララ州にある辺境の村を舞台に、屠殺される寸前の牛が逃げ出したことで巻き起こる騒動を描いている[3][4]

ジャッリカットゥ 牛の怒り
Jallikattu
監督 リジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ英語版
脚本 S・ハリーシュ英語版
R・ジャヤクマール
原作 S・ハリーシュ
『マオイスト』
製作 O・トーマス・パニッカル
スニール・シン
アントン・アントニー
製作総指揮 サラフディン・ナウシャド
出演者 アントニ・ヴァルギース英語版
チェンバン・ヴィノード・ジョーズ英語版
サーブモーン・アブドゥサマド英語版
シャーンティ・バーラクリシュナン英語版
音楽 プラシャーント・ピッライ英語版
撮影 ギリーシュ・ガンガダーラン英語版
編集 ディープ・ジョゼフ
製作会社 オーパス・ペンタ
配給 インドの旗 フライデー・フィルムハウス英語版
日本の旗 ダゲレオ出版(イメージフォーラム・フィルム・シリーズ)
公開 インドの旗 2019年10月4日
日本の旗 2021年7月17日
上映時間 91分
製作国 インドの旗 インド
言語 マラヤーラム語
興行収入 $248,800[1]
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2019年10月4日からケーララ州で公開された[5][6]。『ジャッリカットゥ 牛の怒り』は高く評価され、ペッリシェーリは第50回インド国際映画祭英語版で最優秀監督賞を受賞した他[7]第93回アカデミー賞国際長編映画賞インド代表作品に選ばれたものの、ノミネートはされなかった[8][9]。マラヤーラム語映画がインド代表作品に選ばれたのは、『Guru』『アブ、アダムの息子英語版』に次いで3作品目となる[10]

ストーリー 編集

カーラン・ヴァルキはケーララ州の小さな村で唯一の肉屋を営んでおり、店員のアントニと共にいつも夜明け前に水牛を屠殺して市場に卸す牛肉を準備していた。しかし、いつものようにアントニが屠殺しようとした水牛が怒り狂って脱走して丘陵のジャングルに逃げ込み、その後、山積みになっていた干し草に火がつき、村人たちが目を覚ます。消火後、水牛が逃げ出したことを知った村人たちは全員で水牛の捜索を始める。やがて、村の農園や銀行、商店などが水牛に襲われ破壊されるようになると、村人たちは事態の責任をヴァルキとアントニに求め、反感を抱くようになる。騒ぎを聞きつけた警察が村に駆け付けるが、「牛を殺すことは法に反する」として対処せず、村人たちに水牛が捕獲されるまで自宅にいるように指示する。

警察が頼りにならないことを知った村人たちは、かつて村の教会で盗みを犯して村を追放されたクッタッチャンに助けを求めたが、アントニは彼の帰村に狼狽する。アントニは恋人ソフィをクッタッチャンと取り合った恋敵であり、盗みの罪を密告した過去があった。クッタッチャンが猟銃の用意をする一方、ソフィに愛想を尽かされていたアントニは水牛を捕獲して汚名返上しようと考え、村人たちはどちらが水牛を仕留めるのか噂するようになる。水牛狩りが進む中、村では次第に村人同士が抱えていた問題が顕在化し、破壊行為を行うなど秩序が崩壊し始める。村の富豪クリアッチャンは娘の結婚式用の牛肉が手に入らず、代わりに鶏肉を用意しようと出かけるが、途中で労働者たちに身ぐるみ剥がされ、狩りに連れ出されてしまう。一方、娘は望まぬ結婚から逃れようと飛び出すが、途中で隣人たちに見つかり罰を受ける。秩序が崩壊した村では男たちが妻たちに暴力を振るい、酒浸りになっていた。

夜になり井戸の底から水牛が発見され、アントニは「井戸に追い込むのは自分が立てた計画だった」と手柄を主張する。クッタッチャンは水牛を射殺しようとするが、アントニは牛肉として販売するため、射殺する前に井戸から引き上げるように求める。村人たちが言い争う中、ヴァルキは関心を持たずに近くの木の下で居眠りしていた。アントニは水牛を引き上げるため井戸にロープを降ろすが、直後に大雨が降り始め、地上に吊り上げた水牛が逃げ出し、村人が井戸に突き落とされて死んでしまう。水牛は再びジャングルに逃げ込み、村人たちは死者が出たことでアントニを糾弾する。一方、怒りの矛先は事態を放置する警察にも向けられ、警察の車両が放火される。村人たちは個別にグループを作り「自分たちが水牛を殺す」といきり立ち、村の周囲に罠を張り巡らして事態をますます混乱させていく。アントニとクッタッチャンは暗闇のジャングルで遭遇し、闘いを始める。クッタッチャンはアントニを殺そうとするが、そこに水牛が現れたため闘いは中断される。クッタッチャンは水牛の角を掴んで動きを止め、アントニに水牛の足を掴むように告げるが、彼はクッタッチャンを刺して致命傷を与え、その隙に水牛が逃げ出してしまう。アントニは村人たちと合流して水牛が逃げた川に向かうが、水牛は泥にはまって動けなくなっていた。アントニは水牛を刺して自分の手柄を主張し、それをきっかけに数十人の村人たちが水牛に襲いかかる。その後、槍を手にした先史時代の男たちが牛を狩りながら競い合っている姿が映し出され、物語は幕を閉じる。

キャスト 編集

製作 編集

物語に登場する水牛はアニマトロニクスを使用しており、美術監督のA・V・ゴークル・ダースが手掛けている。彼は『ジョーズ』『ジュラシック・パーク』を鑑賞してアニマトロニクスの仕組みを学び、25人のスタッフが40日間かけて水牛のアニマトロニクスを製作した[11]。アニマトロニクスは予備も含めて合計で5頭作られ、遠隔操作可能なタイプとスタッフが内部に入って操作するタイプ、頭部と足だけのタイプが製作されている[11]。水牛の皮膚は繊維とシリコンを組み合わせて作られており、シリコンはドイツから輸入する予定だったが、必要な量が多く費用がかさみ、最終的にアニマトロニクスの製作に200万ルピーの費用がかかった[11]。スタッフが内部から操作するタイプは、外の様子を確認するため内部にモニターが搭載されていたが、外の様子を確認するのが難しく事故が多発したため、操作スタッフは撮影終了後に定期的に健康診断を受けていた[11]

公開 編集

2019年9月6日に第44回トロント国際映画祭でプレミア上映され[12][13][14]、高い評価を受けた[15][16]。また、第24回釜山国際映画祭英語版の「A Window on Asian Cinema部門」にも正式出品されている[17]。同月28日にはフライデー・フィルムハウス英語版からオフィシャルトレーラーが公開された[18]。10月4日からケーララ州で劇場公開された[5]

2020年2月4日にAmazon Prime Videoでの配信が始まり[19]、同時にアハ英語版からテルグ語吹替版の配信も開始された[20]

評価 編集

興行収入 編集

ケーララ州では公開初週の興行収入が7300万ルピーを記録し、興行的な成功を収めた[21]

批評 編集

 
リジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ

Rotten Tomatoesでは25件の批評が寄せられ支持率96%、平均評価7.42/10となっており、「『ジャッリカットゥ 牛の怒り』は人間と動物の暴力的な衝突を舞台に、視覚的にも暗示的にも魅力的なストーリーを展開します」と批評している[22]。サジェシュ・モハンはOnmanoramaに寄稿し、「『Ee.Ma.Yau.』公開後、リジョー・ジョーズ・ペッリシェーリは再び人間に生来から存在する歪んだ性質の中を歩き回ることを選択した」と指摘し、「この映画の技術的な素晴らしさは、今後長い間モリウッドが誇りとすべきです」と批評している[23]

フィルム・コーポレーション・サウスのバラドワジ・ランガンは「言い換えると、『ジャッリカットゥ 牛の怒り』は地元の特色と歴史を普遍的で根源的なものに変えようとしているのです。それがたとえ、より大きなポイントが繰り返されることになったとしても、この映画では常に満足感が得られます。脚本は基本的にヴィネットの連続であり、そのいくつかは堪らないくらい面白い」と批評している[24]

『ジャッリカットゥ 牛の怒り』はザ・ヒンドゥー英語版の「過去10年間のマラヤーラム語映画トップ25」に選ばれ、ニュー・ジェネレーション映画を代表する作品の一つとして広く認識されている[25]

受賞・ノミネート 編集

映画賞 部門 対象 結果 出典
第14回アジア・フィルム・アワード英語版 撮影賞 ギリーシュ・ガンガダーラン英語版 ノミネート [26]
サウンドトラック賞 プラシャーント・ピッライ英語版
ゴールデン・リール賞英語版 音響編集賞 (外国語映画部門)英語版 レンガナート・ラヴィー英語版、スレージト・スリーニヴァサン、ボニ・M・ジョイ、アルン・ラーマ・ヴァルマ、アマンディープ・シン、モハマド・イクバール・パラトワダ [27]
第50回インド国際映画祭英語版 監督賞 リジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ 受賞 [28]
第50回ケーララ州映画賞英語版 監督賞英語版 [29]
録音賞 カンナン・ガナパティ
第67回国家映画賞英語版 撮影賞英語版 ギリーシュ・ガンガダーラン [30]
第25回サテライト賞英語版 外国語映画賞英語版 ジャッリカットゥ 牛の怒り ノミネート [31]
第9回南インド国際映画賞英語版 マラヤーラム語作品賞
監督賞 リジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ 受賞
撮影賞 ギリーシュ・ガンガダーラン ノミネート
悪役賞 サーブモーン・アブドゥサマド

出典 編集

  1. ^ Jallikattu”. Box Office Mojo. 2021年10月3日閲覧。
  2. ^ Ramnath, Nandini (2019年8月17日). “In Lijo Jose Pellissery’s ‘Jallikattu’, a buffalo runs amok and brings out the beast in humans”. Scroll.in. https://scroll.in/reel/934065/in-lijo-jose-pellisserys-Sallikattu-a-buffalo-runs-amok-and-brings-out-the-beast-in-humans 2019年8月17日閲覧。 
  3. ^ Toronto 2019 Review: In JALLIKATTU, The Line Between Man And Beast Dissolves”. Screen Anarchy. 2021年10月3日閲覧。 “As much a wild action film as an exploration of rural masculinity run amok, Sallikattu takes its audience on an incredible visceral and emotional journey over the course of 90 blood, sweat, and tear-soaked minutes that will leave viewers gasping for breath by the time it reaches its incredible conclusion.”
  4. ^ Busan Film Review: ‘Jallikattu’”. Screendaily (2019年10月4日). 2021年10月3日閲覧。 “While there is a question mark over the appetite in overseas arthouse audiences for Malayalam language action films about a buffalo gone berserk, the picture shares a relentless gung ho energy (if not the technical polish) with martial arts pictures like The Raid. .”
  5. ^ a b News Network, Times (2019年7月25日). “Lijo Jose Pellissery's 'sallikattu' to hit the screens in October?”. The Times of India. https://timesofindia.indiatimes.com/entertainment/malayalam/movies/news/lijo-jose-pellisserys-sallikattu-to-hit-the-screens-in-october/articleshow/70380690.cms 2019年8月17日閲覧。 
  6. ^ സെന്‍സര്‍ പൂര്‍ത്തിയായി ജല്ലിക്കട്ട് ഒക്ടോബര്‍ നാലിന്”. www.thecue.in. 2019年10月2日閲覧。
  7. ^ Sangeeta Nair (2019年11月29日). “IFFI 2019: Full list of winners; Particles wins Best Film, Lijo Jose Pellissery wins Best Director award”. Jagran Prakashan. Jagran Josh. 2020年11月25日閲覧。
  8. ^ Pooja Pillai (2020年11月25日). “Malayalam film sallikattu is India’s entry for Oscars 2021”. Indian Express. 2021年10月3日閲覧。
  9. ^ ‘Jallikattu’, India’s official entry for the Oscars, fails to make the cut” (2021年2月10日). 2021年10月3日閲覧。
  10. ^ Malayalam film sallikattu is India’s entry for 2021 Oscars” (英語). The Indian Express (2020年11月26日). 2020年11月26日閲覧。
  11. ^ a b c d Jallikattu’s Art Director Deconstructs The Making Of That Rs 20-Lakh Animatronic Bull”. Film Companion (2019年11月7日). 2021年10月3日閲覧。
  12. ^ sallikattu”. Toronto International Film Festival. 2019年8月17日閲覧。
  13. ^ Native, Digital (2019年8月14日). “Pics from Lijo Jose Pellissery's 'sallikattu' go viral, film to premiere at Toronto fest”. The News Minute. https://www.thenewsminute.com/article/pics-lijo-jose-pellisserys-sallikattu-go-viral-film-premiere-toronto-fest-107221 2019年8月17日閲覧。 
  14. ^ George, Anjana (2019年8月14日). “Lijo Jose Pellissery's sallikattu and Geethu Mohandas' Moothon to premiere in Toronto International Film Festival”. The Times of India. https://timesofindia.indiatimes.com/entertainment/malayalam/movies/news/lijo-jose-pellisserys-sallikattu-and-geethu-mohandas-moothon-to-premiere-in-toronto-international-film-festival/articleshow/70672717.cms 2019年8月17日閲覧。 
  15. ^ 10 Horror, Sci-Fi, and Genre Films That Blew Minds at TIFF – And Will Be Coming to You Soon”. RottenTomotoes. 2019年9月20日閲覧。
  16. ^ Staff, Onmanorama (2019年9月7日). “Sallikattu opens at TIFF, Lijo and team get wide applauds”. OnManorama. https://english.manoramaonline.com/entertainment/entertainment-news/2019/09/07/sallikattu-screening-at-tiff-lijo-jose-pellissery-team.html 2019年9月20日閲覧。 
  17. ^ A Window on Asian Cinema: Sallikattu”. Busan International Film Festival. 2021年10月3日閲覧。
  18. ^ sallikattu Official Trailer - Lijo Jose Pellissery - Chemban Vinod - Antony Varghese”. YouTube. Friday Film House (2019年9月28日). 2021年10月3日閲覧。
  19. ^ Here's Everything New on Amazon Prime Video in February 2020”. Time. 2021年10月3日閲覧。
  20. ^ Vyas (2020年9月28日). “Sallikattu's World Digital Premiere on aha” (英語). www.thehansindia.com. 2020年12月6日閲覧。
  21. ^ Pillai, Sreedhar (2019年10月14日). “Jallikattu beats Aadyarathri, Vikruthi to top Kerala box office, earns Rs. 7.30 cr in opening week”. Firstpost. https://www.firstpost.com/entertainment/jallikattu-beats-aadyarathri-vikruthi-to-top-kerala-box-office-earns-rs-7-30-cr-in-opening-week-7494111.html 2019年10月14日閲覧。 
  22. ^ JALLIKATTU”. Rotten Tomatoes. Fandango Media. 2019年10月3日閲覧。
  23. ^ Read review of Jallikattu, India's official Oscar entry”. October 5, 2019. Onmanorama (2019年10月3日). 2021年10月3日閲覧。
  24. ^ Jallikattu Movie Review: Lijo Jose Pellissery Gives A Masterclass On How To Make A Movie That’s Both Experimental And Entertaining”. FilmCompanion. 2021年10月3日閲覧。
  25. ^ The 25 best Malayalam films of the decade”. The Hindu (2019年12月19日). 2020年5月29日閲覧。
  26. ^ The 14th Asian Film Awards Nominations Announced”. afa-academy.com (2020年9月8日). 2020年9月10日閲覧。
  27. ^ ‘Sound of Metal,’ ‘Wonder Woman 1984’ and ‘News of the World’ Among Golden Reel Nominees” (2021年3月1日). 2021年10月3日閲覧。
  28. ^ Malayalam film 'sallikattu' is India's official Oscar entry in International Feature Film category”. 2021年10月3日閲覧。
  29. ^ Suraj Venjaramoodu, Kani Kusurthi and Lijo Jose Pellissery win big at 50th Kerala State Film Awards”. The Times of India. 2020年10月13日閲覧。
  30. ^ The Hindu Net Desk (2021年3月22日). “67th National Film Awards: Complete list of winners” (英語). The Hindu. ISSN 0971-751X. https://www.thehindu.com/entertainment/movies/67th-national-film-awards-complete-list-updating/article34131921.ece 2021年3月22日閲覧。 
  31. ^ Van Blaricom, Mirjana (2021年2月1日). “25th Satellite Awards Nominees for Motion Pictures and Television Announced”. International Press Academy. 2021年2月1日閲覧。

関連項目 編集

外部リンク 編集