ターボ・エレクトリック方式
ターボ・エレクトリック方式(ターボエレクトリックほうしき、turbo-electric)とは、艦船(軍艦・船舶)の推進動力伝達方式の一つ。タービンエンジンで回す発電機(タービン発電機)からの電力で電動機とそれに直結されたプロペラ(スクリュープロペラ、スクリュー)を回して船を推進する方式を指す。
また、その他の乗り物では、ガス・エレクトリック方式やディーゼル・エレクトリック方式と呼ばれる電気式動力車の原動機をガスタービンエンジンに置き換えた物がこれにあたる。
概要編集
この方式は、20世紀初頭から主にアメリカ合衆国で研究・開発されており、同国海軍のニューメキシコ級戦艦では推進効率の比較のため、「ミシシッピ」、「アイダホ」に従来のギアードタービン(蒸気タービンエンジン)方式を採用し、1番艦「ニューメキシコ」のみがターボ・エレクトリック方式とされ、遠距離航海に出て燃費を比較した。結果として目を見張るような差はなかったが、その後もいくつかの軍艦で採用事例があり、完成時は世界最大の航空母艦であったレキシントン級もこの推進形式である。
ターボ・エレクトリック方式の利点は、減速歯車を廃止する事でボイラーからの蒸気によって回る蒸気タービンを効率が良い高速回転で常時運転できること、およびプロペラの回転数制御をかさばるギアボックスではなく簡易な配電盤で行えることである。一方で推進機関が冗長な構成になり、艦船の動力部が大きくなる欠点を持つ。この方式のもう一つの利点は、動力部のレイアウトが比較的自由に行える点である。蒸気タービン方式では、タービン、減速機、プロペラシャフトはほぼ直線で並んでいなければならないが、ターボ・エレクトリック方式なら、タービン発電機と電動機の間は電力配線なので、比較的自由に配置できる。
最近の艦船ではガスタービンエンジンの採用例が多いが、ガスタービンエンジンも低出力時の燃費効率が悪いという弱点がある。そのため低速用の低出力ディーゼルエンジンと併用する場合がある。ただし、ガスタービンエンジンとディーゼルエンジンでは回転数や出力特性が違いすぎるため、ギアで接続して使用するとギアボックスの設計が複雑になる(CODAG方式)か、低速時と高速時で切り替えて使用する事となる(CODOG方式)。しかし、ガスタービンエンジンとディーゼルエンジン両方で推進用電力を作る統合電気推進方式や、低速用のディーゼルエンジンは発電用とするCODLAG方式であればエンジン回転数の違いは全く関係無く、双方のエンジンとも高効率となる回転域で運転でき同時使用も可能である。また、COGLAG方式では低速・巡航時はガスタービンエンジンによる電気推進、高速時には高速用ガスタービンエンジンを併用する。
最近の客船の例では、デッキ上の飾り煙突(ファンネル)の中にガスタービンエンジンと発電機を配置し、船底部のプロペラポッドへ電力を供給して推進する形式を取った物(例「ダイヤモンド・プリンセス」など)があるが、この場合は発電機と電動機が上下に、かつ船殻を隔てて配置されている。これにより抗堪性が向上する。また船内配置の自由度の向上や、ガスタービン採用による排気対策の簡易化といったメリットも大きい。また客船の場合、「客船らしい」大きな煙突を持つことで見栄え向上にもつながる。
原子力潜水艦への応用編集
蒸気発生源が原子炉の場合、別名を原子力ターボ・エレクトリック方式といい原子炉から得た蒸気によりタービンを回し、発電機により発電し、その電力で電動機を回してプロペラを駆動する。ターボ・エレクトリック方式では、電流等の制御により自由に回転数を可変させることが出来るうえ、減速機のような歯車がないため騒音を著しく軽減できる利点があるため、静寂性に劣る原子力潜水艦(原潜)への応用が試みられてきた。
原潜におけるターボ・エレクトリック採用は、やはりアメリカ海軍の初期の原潜であるタリビーが最初である。当時からすでに問題になっていた推進機関からの放射雑音を抑えるべく、主な騒音源である減速ギアを廃止する事を目的にしていた。しかしながら、主機をラフトに載せて音響的に隔離するなど、騒音抑制の技術が進んだ事もあり、グレナード・P・リプスコムで再度試用されはしたものの、以後のアメリカ海軍での採用例は無い。
ターボ・エレクトリック方式を採用している現用原潜は非常に少なく、フランス海軍だけがすべての原潜に採用している。また、中国海軍の漢型でも採用されている。ロシア海軍では、すでに老朽化し解体されたアルファ型のみがターボ・エレクトリック方式を採用していた。アメリカ・イギリス海軍の現用原潜は、全てタービン直接駆動の減速機方式である。
鉄道車両への応用編集
発電に用いる原動機がガスタービンエンジンであること以外、速度制御方式や駆動方式はその他の電気駆動式内燃車両と変わりはない[要出典]。
ガスタービンエンジンの回転力をそのまま変速機に取り込んで駆動力とするターボシャフト式に比べて構造や速度制御、総括制御が簡単であるにも関わらず、ガスタービンの燃料消費率の高さ(燃費の悪さ)や騒音の大きさから試作車や試験運行の域を出ず、営業用として実用化された例は非常に少ない。営業用に投入された車両も、石油価格の上昇に伴う経済性の悪化を理由にすでに運行を終えている。
主なものとしては、スイス連邦鉄道 Am 4/6形 1101号機、カナディアン・ナショナル鉄道とニューヘイブン鉄道が導入したUAC ターボトレイン、フランス国鉄のターボトレイン(チュルボ・トラン)とその流れをくむアムトラック向けのターボライナー、ユニオン・パシフィック鉄道の電気式ガスタービン機関車などがある。
ソビエト連邦では1954年から電気式ガスタービン機関車の開発を初め、1960年代中頃まで続けられていたようである。ロシアとなって以降は、財政危機を脱した直後からの貨物輸送の急増に対応すべく、自国内で豊富に産出する天然ガスを燃料とし、環境に配慮した電気式ガスタービン機関車GT1-001(ロシア語版)の開発が2005年より初まったが、国内経済の不安定さや、ガス充填設備の建設が進まないことなどから2012年には中止されている。その直後から本格的な量産を目指したGT1h-002の開発も始まっているが、現在まで量産には至っていない。
日本では2004年(平成16年)に日本車輌製造が、鉄道車両の動力源としは世界初となるマイクロガスタービンを用いたハイブリッド牽引車(産業・工事用小型電気式ガスタービン機関車)を開発した[1]。この車両のマイクロガスタービンはトヨタタービンアンドシステム(現・トヨタエナジーソリューションズ)、電気品は東洋電機製造が納入している[2]。
脚注編集
- ^ “鉄道系では世界初!ハイブリッド牽引車(マイクロガスタービン機関車)を開発”. 日本車輌製造 (2004年11月). 2021年5月12日閲覧。
- ^ “世界初の「マイクロガスタービン杯ブリッド車両」用電気品を開発” (PDF). 東洋電機製造 (2004年12月). 2021年5月12日閲覧。
関連項目編集
- 電気推進 (船舶)
- 汽力発電
- ガス・エレクトリック方式
- ディーゼル・エレクトリック方式
- 電気式トランスミッション
- コンバインドサイクル発電
- 電気式ガスタービン機関車
- ズムウォルト級ミサイル駆逐艦 - 主推進動力を含むエネルギーの全てをガスタービン発電機が作る電気によって得る統合電気推進