ナズナ、学名:Capsella bursa-pastoris)とは、アブラナ科ナズナ属越年草。別名、ペンペングサ(ぺんぺん草)、シャミセングサ(三味線草)。田畑や荒れ地、道端など至るところに生え、春から夏にかけて白い花と三角形の果実をつける。春の七草の一つで、若葉は食用にもなる。ムギ栽培の伝来と共に日本に渡来した史前帰化植物と考えられている[3]

ナズナ
ナズナ
撮影地:神奈川県川崎市
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : バラ類 Rosids
: アブラナ目 Brassicales
: アブラナ科 Brassicaceae
: ナズナ属 Capsella
: ナズナ C. bursa-pastoris
学名
Capsella bursa-pastoris (L.) Medik.
和名
ナズナ
英名
shepherd's purse
なずな 葉 生[1]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 151 kJ (36 kcal)
7.0 g
食物繊維 5.4 g
0.1 g
4.3 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(54%)
430 µg
(48%)
5200 µg
チアミン (B1)
(13%)
0.15 mg
リボフラビン (B2)
(23%)
0.27 mg
ナイアシン (B3)
(3%)
0.5 mg
パントテン酸 (B5)
(22%)
1.10 mg
ビタミンB6
(25%)
0.32 mg
葉酸 (B9)
(45%)
180 µg
ビタミンC
(133%)
110 mg
ビタミンE
(17%)
2.5 mg
ビタミンK
(314%)
330 µg
ミネラル
ナトリウム
(0%)
3 mg
カリウム
(9%)
440 mg
カルシウム
(29%)
290 mg
マグネシウム
(10%)
34 mg
リン
(13%)
92 mg
鉄分
(18%)
2.4 mg
亜鉛
(7%)
0.7 mg
(8%)
0.16 mg
他の成分
水分 86.8 g
水溶性食物繊維 0.5 g
不溶性食物繊維 4.9 g
硝酸イオン 0.1 g

ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[2]。別名: ぺんぺんぐさ、三味線草。廃棄部位: 株元
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。

名称編集

和名ナズナの由来は諸説あり、早春に開花して夏になると枯れることから「夏無き菜」、つまり夏無(なつな)から変化したという説[4][5]、撫でたいほど小さく可愛い花(菜)の意味から、「撫で菜(なでな)」から転訛したという説[4][6][7]、あるいは朝鮮古語のナジから「ナジ菜」となり変化したなどの説がある[4][8]

ペンペングサ(ぺんぺん草)[4]やシャミセングサ[9]という別名がよく知られ、ビンボウグサ[6]などの呼び名もある。「ペンペン」は三味線を弾く擬音語で、花の下に付いている果実の形が、三味線の撥(バチ)によく似ていることから名付けられている[10][11][12]。また、シャミセングサの由来も同様に、果実が三味線のバチの形に似ることによる[13]

英名の Shepherd's purse は「羊飼いの財布」の意味で、学名の種小名の語義も同じである。中国植物名(漢名)では、薺(せい)[12]、薺菜(せいさい)[10]と書かれる。

花言葉は、「すべてを君に捧げる」である[9]

特徴編集

北半球に広く分布する[12]。日本では北海道から九州まで分布する[11]草原野原土手荒れ地や、各地の郊外の道端のすみなどに自生する[10][11]

越年生の草本二年草)。草丈は10 - 50センチメートル (cm) で[12]、春の終わりごろには50 cm近くに生長する[6]。冬越しの根生葉は地面に接して放射状に広がる[11][9]。これをロゼットといい、早春の弱い日光を少しでも多く受け取ろうとする性質と考えられている[13]。株元にあるの長さは10 cmで、ダイコンの葉のような切れ込みがあり羽状に裂けて、裂片は尖り、先は大きめになる[11][14][12][15]につく葉は小さめで、無柄で基部は茎を抱き、切れ込みは無い[11][14]。茎の上部につく葉は楕円形で、先は尖る[13]

花期は春から夏(3 - 7月)ころで[4][14]、越冬するので背の低いうちから咲き始める[6]花茎を伸ばして分枝する茎先に総状花序を出して、有柄で十字形に4枚の白い花弁を持つ直径3ミリメートル (mm) ほどの小さな花を多数、花穂に付ける[11][14]。下から上へと次々に花を咲かせる無限花序で、下の方で花が終わって種子が形成される間も、先端部では次々とつぼみを形成して開花していく。

果実は特徴のある軍配形の倒三角形で、左右2室に分かれていて、それぞれの室に5 - 6個の種子が入っている[6]。実は次第に膨らんで2室に割れて種子を散布する。こぼれ落ちた種子は秋に芽生え、ロゼットで冬を越すが、春に芽を出すこともある、越年草、または一年草である。

人との関わり編集

 
ナズナの種子

雑草扱いされることが多いが、有用植物として日本では昔から人々に利用されている[6]。日本では正月7日の七草がゆには欠かせない食材として、若葉は食用に用いられている[4]。若苗のころの若葉に含まれるミネラル中には鉄分マンガンも多く、常食すれば補血に役立つものと考えられている[4]

薬用にも用いられていて、開花期の全草にコリンアセチルコリンフマル酸パルミチ酸ビルビ酸スルファニル酸シュウ酸酒石酸リンゴ酸クエン酸アルギニンメチオニンなどのアミノ酸ショ糖ソルボスなどの炭水化物フラボノイドなどの成分を含んでいる[4]。アセチルコリン、コリンなどは副交感神経に対する刺激作用があると言われ、唾液胃液の分泌を促し、血圧降下の作用もあるといわれている[4]

食用編集

ナズナは春の七草の一つで、七草粥にして、古くから茎が立たないロゼット状の若苗を食用にする[11][13]。特に秋の若苗は、柔らかで香味がよいと評されている[11]。食べるときは、3 - 4月ころに採取した伸び始める前の若苗を、2 cmほどに刻んで軽く塩ゆでして、水にさらして固く絞り[4]お浸し和え物、汁の実にしたり、軽く塩揉みして漬物にしたりする[13]

かつては冬季の貴重な野菜であった[6]。日本の七草粥と同様に、朝鮮でもナズナの若葉を粥に入れて食する習慣が古くからあったといわれる[16]貝原益軒は『大和本草』での詩人蘇軾を引用し「『天生此物為幽人山居之為』コレ味ヨキ故也」(大意:「天は世を捨て暮らしている人の為にナズナを生じた」これは味が良いためである)と書いている。七草粥の頃には春の七草がセットで販売されるが、それにナズナと称してタネツケバナが入っている例がある。

薬用編集

開花期の全草を引き抜いて天日乾燥したものが生薬になり、(せい)・薺菜(せいさい)と称されている[10][11]民間薬として陰干ししたのちに煎じたり、煮詰めたり、黒焼きするなどしたものは解熱・下痢便秘止血生理不順・子宮出血・利尿・慢性腎炎・むくみ・目の充血や痛みに効くとされ、各種薬効に優れた薬草として用いられる[11]民間療法では、全草1日量5 - 10グラムを水500 - 600 ccで半量になるまで煎じ、3回に分けて服用する用法が知られている[10][11]。ただし、胃腸に熱がある人に対しては効果が薄いともいわれている[10]。高血圧や便秘には、1日量20グラムを煎じて用いるとよいと言われている[4]。目の充血や痛みなどには、冷ました煎液で洗うとよいとされる[10][11]

風習編集

江戸時代には、旧暦4月8日に、糸で束ねて行灯の下に吊るし、虫除けのまじないにする習俗が広くあった[17]

このほか、子供のおもちゃとしての利用もある。果実が付いた花茎を折り取り、果実の柄を持って下に引くと、柄がちぎれて皮でぶら下がった状態になる。このように多数の果実をぶら下げた状態にして、花茎を持ってくるくる回す(でんでん太鼓を鳴らすように)と、果実が触れ合ってちゃらちゃらと小さな音がするのを楽しむ、というものである。

文化編集

慣用句編集

ぺんぺん草が生える
ナズナが荒廃した土壌であっても生育することから、荒れ果てた様子を指す。
ぺんぺん草も生えない
荒廃した場所で育つナズナでさえも生育しない様子から、転じて何も残っていない状態、一切合財が残らない状態を揶揄した表現で、「○○が通った後はぺんぺん草も生えない」のように用いる。

家紋編集

  • 八薺(やつなずな) - ロゼット状に広がったナズナの8枚の葉を図案化した家紋[14]

近縁種編集

近縁種にイヌナズナマメグンバイナズナなどがあり、姿は似ているが、ナズナは花色と果実の形が異なり、花が白くて、果実が三角形であることが特徴である[9]

脚注編集

[脚注の使い方]
  1. ^ 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)
  2. ^ 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)
  3. ^ 琵琶湖博物館外来生物図 琵琶湖博物館
  4. ^ a b c d e f g h i j k 田中孝治 1995, p. 100.
  5. ^ 深津正 2000, p. 204.
  6. ^ a b c d e f g 亀田龍吉 2019, p. 16.
  7. ^ 深津正 2000, p. 203.
  8. ^ 深津正 2000, pp. 204–205.
  9. ^ a b c d e f 主婦と生活社編 2007, p. 48.
  10. ^ a b c d e f g 貝津好孝 1995, p. 52.
  11. ^ a b c d e f g h i j k l m 馬場篤 1996, p. 81.
  12. ^ a b c d e 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著 2010, p. 160.
  13. ^ a b c d e 川原勝征 2015, p. 19.
  14. ^ a b c d e 大嶋敏昭監修 2002, p. 297.
  15. ^ 久志博信『「山野草の名前」1000がよくわかる図鑑』主婦と生活社、2010年、19ページ、ISBN 978-4-391-13849-8
  16. ^ 深津正 2000, p. 205.
  17. ^ 高橋幹夫『江戸あじわい図譜』215頁。

参考文献編集

  • 大嶋敏昭監修『花色でひける山野草・高山植物』成美堂出版〈ポケット図鑑〉、2002年5月20日、297頁。ISBN 4-415-01906-4
  • 貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、52頁。ISBN 4-09-208016-6
  • 亀田龍吉『ルーペで発見! 雑草観察ブック』世界文化社、2019年3月15日、16 - 17頁。ISBN 978-4-418-19203-8
  • 川原勝征『食べる野草と薬草』南方新社、2015年11月10日、19頁。ISBN 978-4-86124-327-1
  • 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著『花と葉で見わける野草』小学館、2010年4月10日、160頁。ISBN 978-4-09-208303-5
  • 主婦と生活社編『野山で見つける草花ガイド』主婦と生活社、2007年5月1日、48頁。ISBN 978-4-391-13425-4
  • 高橋幹夫『江戸あじわい図譜』青蛙房、1995年。ISBN 4-7905-0861-7
  • 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、100頁。ISBN 4-06-195372-9
  • 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、81頁。ISBN 4-416-49618-4
  • 深津正『植物和名の語源探究』八坂書房、2000年4月25日、203 - 206頁。ISBN 4-89694-452-6

関連項目編集

外部リンク編集