上伊那地域

赤い部分が上伊那地域。

上伊那地域(かみいなちいき)は、長野県南信地方伊那市を中心とした地域のことを指す名称で、県を10地域に分けるときに用いられる。上伊那地方と呼ばれることもある。

上伊那広域連合の範囲に一致する。人口は193,209人(2005年8月1日現在)。

目次

該当市町村編集

以下は長野県の定義である。

方言編集

方言の位置編集

上伊那は、東西方言の接触地域である。上伊那の属する長野県方言は、東条操氏の区画によると、東日本方言の中のナヤシ方言に含まれている。しかしこれは大体の観察であり、画然と区画されないまま、南に下るにつれ東日本方言の特徴が薄れ、西日本方言的になって行く。特に、後述の太田切川を境として大きく変わっているという[1]。畑美義氏は、『上伊那方言集』で太田切川が東西方言の境界線であると主張しており[2]、『市報こまがね ふるさとの歴史8』や、『飯田線ものがたり』でも太田切川が東西文化を分ける川として紹介されている[3][4]。また、福沢武一氏は、『長野県上伊那郡における東西方言の境界線』で東西方言の境界を太田切川に求めた[5]が、のちに『上伊那の方言 ずくなし』で「上伊那の北部系方言と南部系方言の境界をただちに東西方言の境界とはしかねる」と述べている[6]

地域差と方言区画編集

上伊那の方言は南北二系列に大別される[7]が、太田切川分杭峠の南北で分ける場合と、宮田村駒ヶ根市東部を中間地帯とする場合がある。

太田切川-分杭峠の南北で分ける場合編集

上伊那の方言は、太田切川-分杭峠によって大きく2つに分けられることが多い。例えば、馬瀬良雄氏による長野県の方言区画では、太田切川-分杭峠以南の地域は地域は木曽・下伊那地域と同じ南信方言に、以北の地域は諏訪・松本地域と同じ中信方言に含まれている[8]。また、守屋新助氏は、東海東山方言を東海道方言と東山道方言に分けるとするなら、太田切川以南を東海道方言、以北を東山道方言と区画すべきであると述べている[9]

『上伊那方言集』では、飯田付近の方言が上伊那にどうのように入りこんでいるかを調査すると、その使用率は、中川村89%、飯島町77%、駒ヶ根市赤穂66%、宮田村19%、伊那市5%という割合であり、逆に、伊那附近に使用されていて太田切川以南に少ない語の使用状態を調べてみると、伊那市100%、宮田村88%、駒ヶ根市赤穂21%、飯島町10%であったという[2]。 また、『上下伊那方言の境界線』では、飯田で使われているが伊那で使われていない方言について調べると、語法では飯島町以南100%、駒ヶ根市赤穂80%、宮田村40%、伊那市西春近20%、伊那市伊那0%で、語彙では中川村片桐・飯島町七久保64%、飯島町飯島68%、駒ヶ根市赤穂55%、宮田村11%、伊那市西春近5%、伊那市伊那0%であったという[9]。ほかに、三河式の手作り花火照葉樹林帯の北限も太田切川である[10]

太田切川を境として変わる方言の一例[11]

太田切川以北(宮田) 太田切川以南(駒ヶ根市赤穂)
正座 おすわり おかしま
お手玉 おてんこ おたま
どぶ いけ
小石 (言葉なし) いしなご
土間 とおり にわ

『飯島町誌 下巻 現代 民俗編』によると、太田切川以南の地域は上伊那に属しながら、伊那方言より下伊那飯田方言と共通点が多い[12]

飯田方言と伊那方言[12]
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
飯田
飯島
赤穂[13]
宮田
伊那
  •   飯田方言
  •   伊那方言

太田切川の南北で方言に違いが認められる理由については、太田切川は流れが急で水量が多く、水難事故が多かったため交通の難所であった[3]、伊那谷随一の「暴れ川」として古来から伊那谷を南北に分断してきた[11]という自然的要因と、太田切川は昔から政治上の境界で、大体太田切川以南は関西方面の領主、以北は関東方面の領主の領土であった場合が多かったため、言語、風習等も太田切川を境として長い間に次第に変って来た[2]のだという人為的要因がある。

宮田村・駒ヶ根市東部を中間地帯とする場合編集

福沢武一氏は、北部系・南部系の明らかな使用語を地点ごとに集計すると、太田切川・分杭峠以南を南部系、伊那市以北を北部系、その間の宮田村駒ヶ根市東伊那・中沢地区を中間地帯とすることができ、伊那市西春近南部もこれに準ずるという[7][6]。地点ごとの具体的な使用語数は明らかでないが、伊那宮田間の落差が比較的大きい。『伊那市史 現代編』『上伊那の方言 ずくなし 上巻』に方言地域別語数分布のグラフが載っており、そちらを参照されたい。

方言区画編集

上伊那の方言をさらに細分する場合、『上伊那郡誌 民族編 下』では「分布の型」を以下の4つに分類している[14]

  • 北部型:辰野町
  • 中部型:箕輪町、南箕輪村、伊那市(旧高遠町、旧長谷村除く)、宮田村
  • 東部型:旧高遠町、旧長谷村
  • 南部型:駒ヶ根市、飯島町、中川村

また、『知っておきたい ふるさと伊那』では以下のように分類している[15]

  • 北部:辰野町、箕輪町。ソードー、ダメドーと言ったように「…だよ」の意味で「…ドー」を用いるのが特徴である。
  • 中部:南箕輪村、伊那市、宮田村。イカッシ、シラッシ、ヤラッシ、座ラッシ等「…なさい」に「…(ラ)ッシ」を用いるのが特徴。
    • 中部
    • 東部
  • 南部:駒ヶ根市、飯島町、中川村。「いらっしゃい」を「オイナ」、「そうですか」を「ソーケー」、「行ってみませんか」を「イッテミンケ」などと言い、居るを「オル」、勧誘に「…マイ、…マイカ」を用いるのが特徴。また、高年層ではことばの終わりに「…ナム」、「…ナー」をつけるのが特徴である。

『上伊那方言集』は地形、政治的区画、同一語の比較的多く用いられている地域などを勘案して、次の10地域に細分している[2]

  • 太田切川-分杭峠以北
    • (1):辰野町小野・川島
    • (2):辰野町辰野・朝日
    • (3):箕輪町
    • (4):南箕輪村、伊那市西箕輪・手良・伊那・美篶
    • (5):伊那市西春近・東春近・富県、宮田村、駒ヶ根市東伊那・中沢
    • (6):伊那市高遠町
    • (7):伊那市長谷
  • 太田切川-分杭峠以南
    • (1):駒ヶ根市赤穂
    • (2):飯島町
    • (3):中川村

比較表編集

上伊那郡下各地の方言比較表[16][14][17][18][5][9][19][6][20]
太田切川以北 太田切川以南
辰野 伊那 長谷 赤穂 中川
居る いる、おる(新しい) おる
否定 …ねえ、…ん …ん
命令 …ろ …よ
軽い命令・勧誘 …(ら)っしー
…ない × × ×
…か、…かね …かや
…かえ
…かい × ×
…かな × × ×
…け × ×
…ねえ …なえ ×
…なむ、…なん等 × × ×
…のう × × ×
疲れた えらい
ごしたい
こんきい × × ×
たいげ(ぎ)だ × × ×
どんど焼き どんどやき
せーのかみ ×
おんべ × ×
ほんやり × × ×
めーだまやき × × ×
まつやき × × ×
正座 おつくべ、おつんぶ × × ×
おかしま × ×
おしゃんこ ×
ひざまずく × × × ×
あぐらをかく あずくみをかく × ×
どっすわる

文法編集

特に断り書きのない場合はほぼ全域で用いられている。

推量表現編集

…ズラ
動詞、形容詞に接続する場合、北部では「…ズラ」、南部では「…ンズラ」[14]。例.行くだろう → イクズラ(北部)、イクンズラ(南部)
…ダラ
動詞、形容詞に接続する場合は「…ンダラ」となる[14]。1949年の『上下両伊那方言の境界線』や1980年の『上伊那方言集(改訂版)』では、太田切川以南(=駒ヶ根市赤穂以南)でのみ使われるとされていたが、その後北上を続け、1999年の調査では北端部、塩尻市との境まで分布が確認された[21]。例.イクンダラ(行くんだろうね)
…ラ
動詞と形容詞のみに接続する。南部では「…ズラ」よりも確実性が強いとされているが、北部では確実性による使い分けはないという[14][21]。例.イーラ(いいだろう)

意志表現編集

…ズ、…ズイ
例.イッテ ミテ コズ(行ってみてこよう)[14]

勧誘表現編集

…マイカ
名古屋方面に勢力をもつもので、上伊那方言では融合して「…メーカ」となることが多い。積極的な勧誘である。北部ではA型動詞には終止-連体形で接続するが、南部では全ての動詞およびそれに準ずる助動詞未然形に接続する。例.行こうじゃないか → イクメーカ(北部)、イカメーカ(南部)。また、南部では「カ」を省略した「…マイ」「…メー」も用いられる[14]
…ネーカ
北部に多い。
…ンカ
南部に多い。
その他
「…ズ」「…ザー」「…ジャー」「…ジャン」なども用いられる[14]が、上伊那では僅かに用いられる程度[20]

打ち消しの表現編集

現在形(…ない)
上伊那は東日本方言の「…ナイ(ネー)」と西日本方言の「…ン」の雑居地であり、広い地域で併用されているが、南部では「…ン」を、北部では「…ナイ(ネー)」を多用する傾向がある(分布の詳細は『東西方言の語法上の対立と上伊那方言』を参照)。

また、太田切川以南、すなわち駒ヶ根市赤穂以南の地域には、婉曲的な打消表現として「…セン」(例.買やーせん)という表現がある。これは、近畿方言の「…ヘン」同類のものである[19](近畿方言の「…ヘン」は「…セン」の変化したものであり[22]、上伊那方言の方がより原形に近い)。

過去形(…なかった)
過去否定には「…ナンダ」を用いる[14]
順接条件(…なければ)
順接条件には「…ネバ」の変形「…ニャー」が広く用いられるが、「…ジャー」という表現もある。北部では「…ネーケリャー」「…ンケリャー」「…ナケリャ」「…ナキャ」などのナケレバ系も用いる。また、南部では「…なければならない」には「…ンナラン」も用いる[14]
逆説条件(…なくても)
逆説条件には「…ナンデモ」「…ンデモ」「…デモ」「…ドモ」などを用いる[14]
中止形(…ずに)
中止形には「…ズニ」「…ッコ」が用いられる。駒ヶ根市赤穂以南の地域では、「…ナシ二」という表現も用いる。例.ガッコーエモ イカナシニ アスンデバッカ オルンダニ(学校へも行かずに遊んでばかりいるんですよ)[9][14]
反語(決して…ない)
…ズカ」「…ズケ」が用いられている。例.ソンナ コトカ° アラズケ(そんなことがあろうか、いやあるはずがない)[14]

指定・断定の表現編集

指定・断定の表現には「…ダ」が広く用いられている[14]が、伊那市西春近以南では、「…ナ」という表現もある[9]。東部の谷では、旧長谷村南部で多少用いられているという[14]。例.ソーナ(そうだ)

理由・原因編集

…二
例.アミャー フルニ カサー セーテケ(雨が降るから傘をさして行け)[14]
…デ
例.ジキ オワルデ マチョ(じきに終わるから待て)[14]
…モンデ、…モンダデ
共通語の「ものだから」にあたる。例.シラネー モンデ ブチャッチマッタ(知らないものだから捨ててしまった)[14]
…ダニヨッテ
例.コーダニヨッテ コリャー ケール ワケニャー イカン(こうだからこれは変えるわけにはいかない)[14]

尊敬の表現編集

「いらっしゃる」の意味で「ミエル(メール)」「オイデル」が用いられる[14][16][6]。また、宮田村以南には「オ…ル」という敬語表現がある[8]。例.オ見ル(否定形=オ見ン、過去形=オ見タ)、オ帰リル(否定形=オ帰リン、過去形=オ帰リタ)

敬意をこめた親愛余情表現編集

…エ
例.ソーダナエ(そうですね)[14]
…ナムシ、…ナモシ、…ナーシ、…ナム、…ナン等
「…ネエ」の意。南部で用いられる。例.ソーダナム(そうですね)。

この語の本拠地は名古屋で、長野県では飯田方面に色濃く、また木曽南部でも用いられる[6]。上伊那では南部で用いられるが、語形によって分布に多少の差があり、語形別の分布状況を以下の表に示す。文献の(1)〜(5)はそれぞれ、

  • (1) 長野県上伊那郡における東西方言の境界線
  • (2) 上下両伊那方言の境界線
  • (3) 上伊那の方言 ずくなし 上・下
  • (4) 上伊那方言集
  • (5) 上伊那郡誌 民俗編 下(言語地図)

とし、語形もしくは地域が調査対象となっていないものは空欄とする。西春近北部以北にはいずれの語形も分布していない。

語形 文献 使用地域
西春近南部 宮田 中沢 赤穂 飯島 中川
…ナーシ、…ナシ (1) × × × ×
(2)
(3)
(4) × × ×
(5)
…ナム (1)
(2)
(3) ×
(4) × × ×
(5) × × × ×
…ナムシ (1)
(2) × × × ×
(3)
(4)
(5)
…ナムホイ (1)
(2)
(3) × × × ×
(4) × × ×
(5)
…ナモシ (1)
(2)
(3) × ×
(4) × × ×
(5)
…ナンシ (1)
(2)
(3) × × ×
(4) × × ×
(5)
…ニ、…ニー
「…ヨ」の意。福沢武一氏は、「伊那谷の代表語と言って過言ではない」と述べている[6]。例.ソーダニ(そうですよ)
…ジ
北端部で用いられる[6]。例.ソーダジ(そうだぞ)
…ンネ、…イネ
北端部で用いられる[6]。例.ソーダンネ(そうなんですよ)
…ナ
南部で用いられる。例.オアリンカナ(ありませんか)[14][6]

軽い敬意と親愛の気持ちをこめて勧める表現編集

…(ラ)ッシー
主に伊那市以北で用いる[5][18]が、分布は複雑であるとされる[14]。語形によって分布に差もあり、「行カッシ」のような形は全域で用いられているが、「食ベラッシ」「見ラッシ」のような形は南部では用いられない[6]。例.イカッシー(お行きなさい)
…ナンショ、…ナイショ
例.オヤスミナンショ(お休みなさい)[14]
オ…テ
宮田村もしくは駒ヶ根市赤穂以南で用いられる。これは「オ…ル」という敬語形式が…テに接続したものである[14]。例.オヨリテ(お寄りなさい)
オ…テ オクンナンショ
南部で用いられる。相手に命令する場合の最高位の敬語表現[14]

その他の敬語表現編集

…アリマス
…ございますの意。南部で用いられる。例.ハールカブリデ アリマスナムシ(久しぶりでございますね)[14]
オイイ
「良い」を丁寧に言うときに用いる。宮田村以南で用いられる[14]

自称編集

  • 対等以上:ワシ
  • 対等以下:オレ、オラ、オラー

対象編集

  • 対等以上:オメサマ、オメーサマ、オメサン、オメーサン
  • 対等以下:オメー、オミャー、テメー、ワレ、ウヌ、キコー

東西方言の語法上の対立と上伊那方言編集

断定「ジャ、ヤ(西)」と「ダ(東)」
「ダ」を用いる。南部では「…ナ」とも言う[14]
否定「…ン(西)」と「…ナイ(東)」
上伊那は「…ネー」と「…ン」の雑居地であり、広い地域で併用されているが、その分布状況は資料・文献によって若干異なる。以下、上伊那での分布状況を文献別に示す。
  • 1952年の『上伊那方言集』では、「…ン」の使用地域を上伊那全域としながら、「…ンは南部に最も多く、伊那町(現伊那市)付近では…ネーと混合している」と述べられている[2]
  • 同じく1952年の『信州における方言の分布』では、太田切川分杭峠を結んだ線より北(宮田村、旧長谷村以北)を「…ナイ(ネー)」を用いる地域、南(駒ヶ根市赤穂以南)を「…ン」を用いる地域としている[23]
  • 1954年の『長野県上伊那郡における東西方言の境界線』では、太田切川と分杭峠を結んだ線より北を「…ネー」と「…ン」を併用する地域、南を「…ン」を用いる地域としている[5]
  • 1969年の『東西方言の境界』では50才以上の人の言い方では上伊那全域が「ンに少しくナイを混用」地帯となっており、高等学校生の言い方では北部が「ナイ、ン等分に混用」、中南部が「ンに少しくナイを混用」地帯となっている[19]
  • 1960年代末から1970年代前半にかけて行われた調査(上伊那郡誌 民族編 下)では、以下のような分布となっている。
「行かない」と言うとき何と言うか[14]
地域 行かない
イカネー[24] イカネー
イカン
イカン
辰野町小野・川島 7 0 0
辰野町辰野・朝日 9 3 0
箕輪町 12 1 0
南箕輪村 4 1 0
伊那市
(旧高遠町・長谷村除く)
14 19 4
旧高遠町 10 10 1
旧長谷村 1 12 4
宮田村 0 3 4
駒ヶ根市中沢・東伊那 0 7 6
駒ヶ根市赤穂 0 3 5
飯島町 0 1 11
中川村 1 2 14
  • 1980年の『上伊那の方言 ずくなし』では、「…ネー」も「…ン」も全域で用いられることになっているが、「しないか・しようよ」(勧誘)では「シンカ」が全域で用いられているのに対し、「シネーカ」は伊那市以北となっている[6]
  • 1983年の『宮田村誌 下巻』は、「…ン」を用いる地域を−、「…ネエ」を用いる地域を+、「…ン」と「…ネエ」を併用する地域を±すると、以下の通りになるとしている[25]。辰野町北端部の小野から伊那市富県までは距離があるが、『宮田村誌 下』にはその間の記述がない。
辰野町小野 伊那市富県 伊那市長谷非持山 宮田村田中 駒ヶ根市赤穂 中川村片桐
+ ± ± ±
  • 2010年から2015年にかけて行われた調査(長野県伊那諏訪地方言語地図)では、以下のような分布となっている。
「行かない」と言うとき何と言うか[20]
地域 行かない
イカネー[24] イカネー
イカン
イカン
辰野町小野・川島 4 0 0
辰野町辰野・朝日 16 6 0
箕輪町 8 1 1
南箕輪村 3 1 0
伊那市
(旧高遠町・長谷村除く)
18 8 1
旧高遠町 7 6 5
旧長谷村 2 4 4
宮田村 5 1 0
駒ヶ根市中沢・東伊那 2 1 3
駒ヶ根市赤穂 1 2 2
飯島町 2 1 5
中川村 2 2 5
過去否定「…ナンダ(西)」と「…ナカッタ(東)」
「…ナンダ」を用いる[14]
順接仮定条件「…ネバ(西)」と「…ナケレバ(東)」
全域で「…ネバ(ニャー)」を用いるが、伊那市以北では「…ナケレバ(ナケリャ、ナキャ)と併用する[25]
命令「…ヨ(西)」と「…ロ(東)」
「起きる」「見る」など一段型動詞の命令形の多くは、中川村飯島町南部、駒ヶ根市山間部などで「…ヨ」と「…ロ」が併用され、そのほかの地域では「…ロ」となる。ただし、「見せる」「貸せる」「くれる」など一部の動詞の命令形は、全域で「…ヨ」となる[14]
サ行イ音便の有(西)と無(東)
全域でイ音便がある。しかし現在では衰退しており、昭和40年代の調査で消滅寸前の地域も複数あった[14]。2010年から2015年にかけて行われた調査では、山間部でわずかに用いられている程度である[20]
ワ行五段活用動詞のウ音便(西)と促音便(東)
全域で促音便形をとる[14]
形容詞連用形のウ音便の有(西)と無(東)
「白く」、「赤く」など多くの語は全域で「シロー」、「アコー」と言ったようなウ音便を取らないが、「早く」ではウ音便形「ハヨー」が不連続的に分布するようになり、「よく(来た)」ではウ音便形「ヨー」が駒ヶ根市以南の地域に色濃い分布を見せている[14]
継続態と結果態の区別の有(西)と無(東)
全域で区別を持たず、郡北部では継続態・結果態とも「…テル」、南部では「…トル」となる。「…トル」を用いるのは語彙の点では西日本方言的である[14]

イルとオル編集

イルとオルは語彙的に東西を分かつ指標として有名であるが、上伊那はイルとオルの雑居地である。1960年代末から1970年代前半にかけて行われた調査(上伊那郡誌 民族編 下)では、以下のような分布となっており、北部ではイル、南部ではオルが主に用いられている。伊那市以北ではイルが優勢であるが、「イルは昔から使い、最近はオルも使われるようになった」と言ったような情報もあったという[14]

「居る」[14]
地域 居る
イル[26] イル
オル
オル[27]
辰野町小野・川島 7 0 0
辰野町辰野・朝日 10 2 0
箕輪町 13 0 0
南箕輪村 5 0 0
伊那市
(旧高遠町・長谷村除く)
34 2 1
旧高遠町 20 1 0
旧長谷村 17 0 0
宮田村 0 3 4
駒ヶ根市中沢・東伊那 1 4 8
駒ヶ根市赤穂 0 1 7
飯島町 0 0 12
中川村 0 2 15

その後の2010年から2015年にかけて行われた調査(長野県伊那諏訪地方言語地図)では、以下のような分布となっており、『長野県伊那諏訪地方言語地図』の筆者は、「上伊那北部や旧高遠町でもオルが使われるようになった」と分析している。

「居る」[20]
地域 居る
イル イル
オル
オル
辰野町小野・川島 2 2 0
辰野町辰野・朝日 19 3 0
箕輪町 9 1 0
南箕輪村 2 2 0
伊那市
(旧高遠町・長谷村除く)
20 7 0
旧高遠町 14 4 0
旧長谷村 10 1 0
宮田村 2 0 4
駒ヶ根市中沢・東伊那 0 1 5
駒ヶ根市赤穂 0 0 4
飯島町 0 3 5
中川村 1 2 6

語彙編集

広域編集

参考文献:[28][6][29][30]

あいく
歩く
あいさ
あいそしい
可愛らしい
あかる
容器が転倒して中のものがこぼれ出る
あかん
良くない
あげ
油揚げ
あすぶ
遊ぶ
あたける
暴れる、悪ふざけする
あっこ、あすこ
あそこ
あばよ、あんばよ、あばな、あんば
別れるときの挨拶
あびる、あべる
泳ぐ
あらける
かきちらす
あわさりめ
重なり目
あんじゃない
心配いらない
いかつい
立派な
いかん
ダメ、いけない。北部では「いけん」とも。
いかんに
いけませんよ、ダメだよ
いこ、えこ
あまり
いきあう
遭遇する
いける
埋める
いしがけ
石垣
いただきました
ご馳走さま
いってきました
ただいま
いのく
動く
いびくる
もてあそぶ
いぶる
揺さぶる
いぼう、いぼる
傷口が化膿する
いやんばい
程よい状態
いらんこと
余計なこと
いりのや(入野谷)
高遠からさらに南アルプスの山麓へ入った谷(旧長谷村)。
いろむ
色づく
いんね
いいえ
うだる
茹だる
うつかる、うっつかる
背をもたれかかる
うとい
バカだ
うとんぽ
空洞
うます
蒸す
うめる
薄める
えーよ、えーよー
ぜいたく
えらい、ごしたい
疲れた
おいさん
おじさん
おいでな
おいでなさい
おいでる
いらっしゃる
おいでん
いらっしゃらない
おいはん
夕飯
おいび
行きましょう
おいや
食べたくない
おーけん、どえんけん、どーえんけん
大略
おかたしけ、おかたじけ
ありがとう
おこた、おこたつ
こたつ
おごっつぉー
ごちそう
おさんまくな
ご粗末な
おしょる
折る
おぞい
品質が悪い
おちゃ
間食
おつかいな
お疲れ様
おっかい、おっかない
恐ろしい
おっさま
お坊さん
おとつい、おっとい
一昨日
おなし、おんなし
同じ
おはずけ
漬かった漬け菜
おみゃー
お前 (卑語)
おもしい
面白い
おやげない、おやいない
気の毒な、かわいそう
おらほ
おれの方
おりいろ
紺色
おる
居る。全域で用いられているが、南部での使用頻度が高い。
おるすぎ
お留守番
おろのく
間引く
おんもり
思う存分
かう
閉める
かけじ、おかけじ
掛け軸
かしょ
かせ
かんしょ
堪忍して下さい
かんちょろりん
痩せた人
かんな、かんね
ごめんね
きいない
黄色い
きさんじい
立派な、見事な
ぎすい
滑りが悪い
きび
(1)トウモロコシ、(2)気味
きびしょ
急須
きんのう、きんにょー
昨日
くすがる
刺さる
くねっぽい
年よりませてみえる
くべる
燃やす
くます
くずす
くむ
(1)崩れる、(2)交換する
くりょ
くれ
くるいっこ、くりっこ
戯のとっくみあい
くろ
けーど
けれども
げーもない
無益な
けしくりからん
よろしくない
けっからかす
蹴飛ばす
けやす
消す
…っこ
…するはずがない
ごうがわく
腹が立つ
こく
言う
こける
転ぶ
こしょー、なんばん
唐辛子
こすい
ずるい
こずむ
沈殿する
ごまくら、ごまごま
しきりと人を欺く手管を使うこと
ごまくらかす
ごまかす
ころましい
見事な
こわい
硬い
こんだ
今度
…さ
…さん
さいなら
さようなら
ささらほーさら
さんざんな状態
さっきに、いつに
とっくに
さぶい
寒い
…さら
…ごと
しあさって、しなあさって、しのあさって
明々後日。東京中心部を除く東日本では明々後日のことを「やのあさって」、明々々後日のことを「しあさって」と言い、西日本や東京中心部では明々後日のことを「しあさって」、明々々後日のことを「やのあさって」と言う[31]が、上伊那では西日本系のしあさって類を用いる。ただし北端部の辰野町小野では東日本系の「やのあさって」と混用されている[6]。また、南部では「しがさって」とも。
しくる
しくじる
しこる
じっとしている
しじつ
手術
しとる
している。全域で用いられているが、南部での使用頻度が高い。
…しな
…ながら
しにゃー、せにゃー
しなければ。北部では「しねーけりゃー」とも。
しみ
寒気
しみる
寒気が激しい
…じゃん
…じゃないかの意。上伊那へは静岡県西部から伝わったとされており[8]、『長野県方言辞典』の言語地図では、上伊那地域は長野県内で唯一、全地点で「昔から使う」と回答している[21]
しん
しない。北部では「しねえ」、南部では「せん」とも。
しんぜる
神仏に供える
しんとう
物の中心
…ず
…しよう (意思)
すい
酸っぱい
ずく
ことをする気力
すべくる
つるりと滑る
…ずら、…だら、…ら
…だろう、…でしょうの意。このうち「…だら」は、1949年の『上下両伊那方言の境界線』や1980年の『上伊那方言集(改訂版)』では、太田切川以南(=駒ヶ根市赤穂以南)でのみ使われるとされていたが、その後北上を続け、1999年の調査では北端部、塩尻市との境まで分布が確認された[21]
ずるい
遅い
すれる
仲が悪くなる
ぞぜーる
(1)甘える、(2)ふざける、(3)わがままを言う。南部では「どぜーる」とも。
そのまんま
そのまま
たける、たきる
獸類が発情して騒ぎ立てる
だだくさもない
必要以上に大量にあるさま
たたっからかす
めちゃくちゃ叩く
たたった
建った
(戸や障子を)たつ
(戸や障子を)閉める
(虹が)たつ、ふく
(虹が)出るの意。この表現は箕輪、伊那、旧高遠町三義、駒ヶ根市中沢、飯島などに散らばって分布する[6]
…だに
…だよ
だまかす(1)
なだめる
だまかす(2)、だまくらかす
欺く
ためる
狙う
たるい、たるっこい
怠い
たるくさい
とろい
たわけ、たーけ
ばか者
たわけた、たーけた
愚かな
ちぎ
秤(はかり)
ちびる
大小便を少し漏らす
ちゃっと
すぐに
…ちゅー
…という
ちんじゅう
縮れ毛
つく
浸水する
つくなる
力尽きてしゃがみこむ
つまい
窮屈だ
…(だ)で、…(だ)もんで
…(だ)から
どいれー、どえれー
非常に
どういて
どうして
とーととと
鶏を呼び寄せる声
とがめる
治療すべきところを化膿させ、悪化させる
とぎる
尖る
とぶ
走る
どべ
最下位
とろい
弱い
どやす
(1)腕ずくで強打する、(2)大声で叱りとばす
どろぼーぐさ
ヌスビトハギ
なから
だいたい
なききる
泣きに泣いて声も立たなくなる
なぜる、なぜくる
撫でる
なめくる
舐める
ならかす
ならす
なるい
(1)勾配が弱い、(2)寒さが穏やかだ、(3)感覚的に温和である
…なんしょ、…ないしょ
…なさい
…なんだ
…なかった
…に
(1)…よ、(2)…のに、(3)…から
にすい
未熟である
にどいも
馬鈴薯
…にゃ、…な、…にゃあ
…なければ
ぬくとい
暖かい
ねっから
ろくに、まるで
のせ
傾斜
のり
傾斜面
はーるか
久しく
はーるかぶり
久しぶり
はずむ
大小便を催し堪え切れなくなる
ばっか
ばかり
はつる
剃り落とす
はなーる
始まる
はならかす
離す
ばばい
汚い
はやいとこ
早く
ばら
野茨
ばらんけん
いい加減
ひーてー
一日中の意。南部ではやや使用頻度が低く、「ひーとい」とも言う[6]
びしょったい
汚らしい
ひずこく、ひずーこく
苦労する
びちゃ(ー)る、ぶちゃ(ー)る、ぱいする、ほーる(1)、ほかす(1)
捨てるの意。北部では「ふてる」とも。
ひとなる、しとなる
成長する
ひどろっこい
眩しい
ひやかす
浸す
ひる
用をたす、大小便を排泄するの意。北部では「まる」とも。
ぶるくる
吊り下げる
へえ
もう。南部では「はい」とも。
へつる
こっそり抜き取る
へぼい
程度が低い
へら
へりこじえる
過度の空腹で変調子になる、腹が減りすぎてかえって食欲を失ってしまう・もう何もする気力もなくなっている
ほーる(2)、ほかす(2)
投げる
ほきだす
吐き出す
ぽこぺん
かくれんぼの一種
ほっそく
山奥
ほとーる
熱を持つ
ほんなら
それなら
…まいか
…しませんか(勧誘)
まえで
前方
まぜくる
混ぜ合わす
まっと
もっと
ままやく
吃る
まめ
丈夫
まるかる
丸まる
…まるけ
…だらけ
みやましい
体裁が良い
みい
見ろ
みえる
いらっしゃる
みして
見せて
みしょ
見せろ
みやく
磨く
みやましい
(1)甲斐甲斐しい、(2)体裁が良い
むらう
貰う
めこじき
ものもらい
もうる
漏れる
もちーいく
取りに行く
やーこい、やっこい
柔らかい
やいやい
おいおい
やえる
重複する
やっぱ、やっぱし
やっぱり
ゆいつける
結びつける、縛りつける
ゆう
言う
ゆって
言って
よせる
(洗濯物を)取り込む
よたっこ
乱暴者
よど
よだれ
よばる
呼ぶ、招待する
よりあう
協力する
らくになる
死ぬ
わきゃーない
容易だ
わぐむ、わごむ
歪む
…ん
…ない(否定)
…んならん
…なければならない

北部系編集

参考文献:[18][28][5][6]

使用地域は以上の文献に従ったが、文献によってその地域での使用を認めるものと認めないもののある語は△とした。
語彙 意味 使用地域
小野 辰野 箕輪 伊那 宮田 高遠 長谷 赤穂 飯島 中川
あかす 誘う × × × × × ×
あけくずすようだ 雨が烈しく降るさま × × × ×
あずくみ、あずきみ あぐら × × ×
あらこ 開墾地 × × ×
い? え?(聞き返し) × × × × × × × ×
いーつける 結びつける、縛りつける × × × × ×
いくずす 住んでいるうちに家屋を汚す
住んでいるうちに家屋を痛める
× × × × ×
いけん ダメ × × × × ×
いしっかてー 非常に意志が固い × × × ×
いちまき 血統、一族 × × × × × ×
いつく 泥が固化する × × × ×
いぬご、いのご、えのご リンパ腺炎 × × ×
いぼおつる、いぼつる すねる × × × × ×
うしんぼ × × × ×
うっつい 美しい × × × ×
うぶめし 出産直後に祝う飯 × × ×
うんでんさま 個人または同族の守り神 × × × × × ×
うんね いいえ × × × × × × ×
えーしくる かまう、相手になる × × × × × ×
えせみ 嫉妬 × ×
えぶる ゆする × × × ×
えもぐさい 布類の焼ける匂い × × ×
おいしさそう 美味しそう × × × × × ×
おえー 本家 × × × × × ×
おーたば 大柄な言葉 × × × ×
おーまくらい、おーまくり 大食家 × × × ×
おくみ、おくめ 人見知り × × × × × ×
おこと 2月8日 × × × ×
おさんど、おさんどん 炊事 × × × × ×
おつくべ、おつんぶ 正座 × × × ×
おっさま おじさん × × × × ×
おてんこ お手玉 ×
おんなしょ × × × ×
おんなしょー 女衆 × × ×
…かい …か
かかしらう、かかしろー からかう × × × ×
かもー いじめる × × × ×
かんます かき回す × × ×
きっきと(働く) 休みなく(働く) × × ×
きのうな きのう × × × × ×
くせ 農業の病気 × × × × ×
ぐやぐや 数多く集まったさま × × ×
くわずみ 桑の実 × × ×
けたくる、けったくる けりつける × × ×
げーに 強く、きつく × × ×
げす 肥やし水 × × × ×
ごーまく 嵩ばること × × × × × × ×
こが、みずこが 大きい深い水おけ × × ×
ごまい 悪がしこい
ごんばな、ごっぱな たくさんな鼻汁
太い鼻汁
× × × × ×
こんまい 小さい × × × ×
さなげる 探す × × ×
さらける 捨てる × × × × × ×
さわさわ 落ち着きのないさま × × × × × ×
さんげーち 竹馬 × × × × × ×
さんじ 通知 × × ×
さんぱーて、さんばーて 俵の小口へあてるもの × × ×
…し …なさい
…じ …ぞ × × × × × × ×
しーなびる しおれる、ちぢむ × × ×
しぶい 滑りが悪い × × ×
しょっぺー 塩辛い × × × ×
しらしら こちょこちょするさま × × ×
しんのぶい 図々しい × × × ×
せこーかう けしかける[32] × × × ×
…ぞい …ぞ × × × × × ×
そーえ そうですね × × × × × ×
…ぞよ …のだよ × × × × × × × ×
ちがしぬ 内出血 × × ×
ちょーらかす じゃらす × × ×
つとっこ ふくらはぎ × × × × ×
でかばちもねー ひどく大きい × × × × × ×
てんぽーせん(天保銭) マヌケ、愚か者 × × ×
…どー …だよ × × × × × × ×
どん、どんけ 最下位 × × ×
…ない …ね、…ねえ × × × ×
…なけりゃ、…なきゃ[33] …なければ × × × ×
なんたらず 何ともありはしないのだ × × ×
なんちょ なんで × × ×
のーなし 怠け者 × × × × ×
のくとい 暖かい × × × × × ×
はぞ 稲架 × × ×
はそん 修繕
はちあがる 登る × × ×
ばらざくれ 点々と続いている浅い傷 × × ×
ひじろ いろり
ひのぬき 真昼間 × × × ×
ふえふき スズメノテッポウ × × × ×
ふえふきぐさ スズメノテッポウ
ぶっこむ 混ぜる × ×
ふてー、ずぶてー 図々しい × × × ×
ふてる 捨てる × × × × ×
べーさ 丸太 × × × × × ×
ほーぐい 副食物なしで飯を食うこと × × × ×
ほける 成長する
ほろける 寝ぼける
もうろくする
× × × ×
まーこ、まーま おんぶ × × × × ×
まちる 待つ × × × × × ×
まる 便をする × × ×
みぐさい 見苦しい × × ×
みねぞう いちい × × ×
もごい かわいそう
もごっちねー いたましい × × ×
やくなげ 厄落とし × × × × ×
やだこと いやなこと × × × ×
やのあさって 明々後日 × × × × × × × × ×
わにる、わにわにする(しる) ふざける

南部系編集

参考文献:[28][5][9][34][6][35]

使用地域は以上の文献に従ったが、文献によってその地域での使用を認めるものと認めないもののある語は△とした。
語彙 意味 使用地域
小野 辰野 箕輪 伊那 高遠 長谷 宮田 赤穂 飯島 中川
あごた あご × × × ×
あおたく あおむく、ぼんやりしている × × × × × × ×
あくと かかと × × × × × × ×
あさっぱち 早朝 × × × × × ×
あっぱ 終わり × × × × × × ×
あにーま、にーま × × × × × × ×
あねーま、ねーま × × × × × × ×
…あります …ございます × × × × × ×
いかき ざる × × × × × ×
いきみ 陣痛 × × × × × × ×
いぎれ、えぎれ 夏の赤切れ × × × × × ×
いきれる 調子づく × × × × × × ×
いぐる 睡眠中に体を動かす × × × × × × × ×
いしけない 食いしん坊だ
口がむさい
× × × × × ×
いせる、えせる 自分の行動をわざと見せる
あくどいことをする
× × × × ×
いちゃつく 子供などが調子づいて騒ぐ × × × × × × ×
いどむ 妬む × × × × × ×
うっそり、うっそれ 馬鹿 × × × × × ×
うばれる 赤ん坊が背負われる × × × × × × ×
うまかりそう うまそう[36] × × × × × ×
うら 後ろ × × × × × × ×
えんばな 家の上り口 × × × × ×
おいな いらっしゃい × × × × × ×
おかしま 正座 × × × × ×
おしろもの 年ごろの娘 × × × × × × × ×
おたぐり 動物のはらわたを煮た料理 × × × × × × × ×
おたま お手玉 × × ×
おたりんさ 低脳な人 × × × × × ×
おったて 霜柱 × × × × × × ×
おまちて お待ち下さい × × × × × ×
およりて お寄りください × × × × × ×
おわえる 追いかける × × × × × × × ×
おんべ どんど焼き × × × × ×
かきやす かき回す × × ×
がせー かさ、分量 × × × × × × ×
…かな …か、…かね × × × × × ×
がなる どなる × × × × × × ×
かまける 愚痴を言う
心配する
引け目を感じ、いじける
× × × × × ×
かわらんべ、かーらんべ 河童 × × × × × × ×
きぶる 機嫌悪く振る舞う ×
きまめだ かいがいしい × × × × ×
ぎゃらしい いやらしい × × × × ×
ぎょうさん たくさん × × × × × × ×
きりばん まな板 × × × × × × ×
くぎ 稲架 × × × × × × ×
ぐざる 悪口を言う × × × ×
くろじに 内出血 × × × × ×
…け …か × × × ×
けつける つまずく × × × × × × ×
けなぶる 馬鹿にする × × × × × × × ×
けなるい 羨ましい × × × × × × ×
こーと 柄の地味 × × × × × ×
ごかき 熊手 × × × × × × × × ×
こっぺい ひどい目
こんきい 息苦しい × × × × × × ×
さむさいぼ 鳥肌が立つ × × × × × × ×
しがさって 明明後日 × × × × × × ×
すがき 熟蚕 × × × × × ×
すこやか 立派なこと × × × × × × ×
すびる しなびる × × × × × × ×
せなし しないで × × × × × × ×
せまい しよう × × × × × × ×
せめ 仕事の終わり × × × × × × ×
せろ しろ × × × × × × ×
せん しない × × × × × × ×
…せん 婉曲打消表現 × × × × × × ×
そびえる、そべーる ふざける × × × × × × × ×
たいぎ、たいげ 疲労 × × × × × × ×
だちゃあかん、だちかん ダメだ、らちがあかない
ちにくる、ちねくる つねくる × × × × × × × ×
ちんぎる ちぎる × × × × × ×
つる 持ち上げて運ぶ
とー 早く × × × × × × ×
…な (1) …だ × × × × × ×
(2) …の × × × × × × ×
…ない、…なえ …なさい × × × × × × ×
名古屋ナモシ …なーし、…なし …なあ、…ねえ × × × × × ×
…なむ × × × × × ×
…なむし × × × × × × × ×
…なむほい × × × × × × ×
…なもし × × × × × × ×
…なんし × × × × × × ×
なめ 地面の凍っているところ × × × × × ×
なんしょかんしょ 何でもかんでも
何しろかにしろ
にごし 白水 × × × × ×
にすい 弱い × × × × × ×
にわ 土間 × × × × ×
ねぶる なめる × × × × ×
のす 登る × × × × × ×
はい もう × × × × × × ×
はばえる 葉がしおれる × × × × × ×
ひーとい 一日中 × × × × × ×
びーどろ ガラス製のおはじき × × × × × × ×
ひび × × × × ×
ひょーる ボールなどが弾む × × × × × × × ×
ふたぐ 塞ぐ × × × × × × ×
ほっこりしない(しん、せん) 病状がはかばかしくない × × × × × ×
ほた × × × × × × ×
ほんやり どんど焼き × × × × × ×
…ま …様 × × × × × ×
…まい …しませんか(勧誘) × × × ×
まんだ まだ × × ×
みしる むしる × × × × × ×
めだか トノサマガエル × × × × × ×
もえきじり 燃え残り × × × × × × ×
やぐい か弱い × × × × × × × ×
やや 赤ん坊、女の赤ん坊 × × × × × × ×
ややける あわてる × × × × × ×
ゆるり いろり × × × × × ×
よいだれ 宵っ張り × × × × × ×
よー よく × × × × × × ×
よそも 冬青 × × × × × × ×
よどろ 竹の枝 × × × × × ×
らくだいも 長芋 × × × ×
らんごく 乱雑なさま × × × ×
わや 幼児がぐずる × × × × × × ×

音韻編集

母音の特徴編集

参考文献:[14]

  • 「ウ」は極度の平唇であり、東京方言より非円唇、平唇の程度はかなり著しい。
  • 唇には若干の緊張があり、東京方言よりも後ろよりの発音である。
  • 「エ」、「オ」の具体音声は東京方言のそれより若干広い。
  • 共通語の「エ」にあたるところに、場合によって「ウェ」があらわれる。
  • 共通語の「オ」にあたるところに、場合によって「ウォ」があらわれる。
  • 助詞「を」はいかなる場合でも文字通り「ヲ」と発音し、「オ」とは明確に区別される。
  • 共通語の「…エオ」にあたるところに「…ウィョ」、「…エワ」にあたるところに「…ウィャ」があらわれることがある。
  • 方向を表す「へ」は、「イェ」と発音されることが多く、「ウェ」や「ウィェ」と発音される場合もある。
  • 共通語にはない「ĩ」という音素がある。

子音の特徴編集

参考文献:[14]

  • 破裂音[g]と鼻濁音[ŋ]とが区別される。
  • 「ソ」が「ホ」となる傾向がある(例.それでは→ほいじゃー)。

東西方言の音韻上の対立と上伊那方言編集

上伊那方言の音韻は、東日本方言の特徴を持ちながら、なお西日本方言的特徴をも合わせ持っている[14]

(1) 連母音の融合編集

東日本方言では連母音の融合が一般に盛んである。上伊那地域では、[ai]、[ae]→[ee](例.ない→ねー、はい→へー)といったような融合は活発であるが、他の連母音では必ずしも盛んではない[14]

  • [oi]、[oe]→[ee](例.すごい→すげー、どこへ→どけー)
    • 上伊那北部:語によって融合するものとしないものがある。
    • 上伊那南部:一般に融合しない。
  • [ui]→[ii](例.あかるい→あかりー)
    • 一般に融合しない。
  • [ie]→[ee](例.ひえ→へー)
    • 融合する場合がやや多い。
  • [au]、[ou]→[oo](例.ちがう→ちごー、ひろう→ひろー)
    • 上伊那北部:融合する場合がやや多い。
    • 上伊那南部:一般に融合しない。
(2) 母音の無声化現象編集

東日本方言では母音無声化が一般に盛んであるが、上伊那地域では母音の無声化は東京と比べると非常に少なく、長野県内では最も少ないものの一つである。それは特に南部へ行くほど顕著である[14]

(3) もともと促音のないところに促音を入れる現象編集

東日本方言ではもともと促音のないところに促音を入れる現象が一般に盛んであるが、この現象は上伊那地域でも多く認められる。ただし上伊那でも若干地域差があり、北部ほど盛んで、南に下るとやや減じる[14]

アクセント編集

上伊那方言のアクセントは有アクセントの中輪東京式アクセントに属し、共通語との差はさほど大きくないとされるが、異なる点も認められる[14]

名詞編集

二拍名詞では、共通語と異なるアクセントを持つ語に以下のようなものがあるほかに、若年層では「熊」「底」「匙」をそれぞれ「ま」「こ」「じ」と発音する場合があるが、これには地域差や個人差もある[17]

[14][37][17]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
あれ
北部
汽車 しゃ しゃ
これ
南部
それ
百舌
中北部で「も
南部で「も

三拍名詞では、「朝日・油・命・姿・涙・柱・火ばし・眼」など、第5類に属する語を上伊那方言では「あひ」のように中高型とする傾向が強い。しかし「鰈」は中北部で「かれい」、「枕」は南部で「ま」と発音される。また、「青葉・落ち葉・きのこ・去年・トマト・花火・めがね・わかめ」など類に属さない三拍名詞も、上伊那方言では「あば」のように中高型が多いが、このうち「去年」「トマト」「花火」「めがね」は「きょねん」のように平板型となる場合もある(共通語ではいずれも頭高型)。そのほか、「鎧」を中北部で「ろい」、「二十歳」を中北部で「はたち」、南部で「は」という[14]

四拍名詞は、東京では尾高型の語は3拍目にアクセント核を置く中高型に移行している(例.としよ→としより)が、上伊那方言ではこの現象が認められず、依然として尾高型が多い[14]

疑問詞編集

上伊那では頭高型をとるものが多く、下伊那と接する中川村飯島町南部では頭高型をとるものが非常に多い。ただし駒ヶ根市赤穂を中心とした小地域では、平板型が非常に多い[17]

疑問詞 辰野 伊那 長谷 赤穂 中川
名詞 幾つ くつ くつ くつ
幾ら くら
どこ
どっち っち っち っち
どれ
なに
連体詞 どの
どんな んな んな
副詞 いつ
なぜ

動詞編集

二拍動詞では、「着く」「吹く」「伏す」「付く」などは共通語では「つ」のように尾高型のアクセントを持つが、上伊那方言ではいずれも「く」のように頭高型のみになる。これは母音の無声化が起こらず、アクセントの山が移動しないためである。また、「切る」「食う」「降る」「来る」が付属語「て」「た」をともなう場合、共通語では「き」のように尾高型を持つが、上伊那方言では「って」のように頭高型のみである。そのほか、「織る」は共通語では「る」だが、上伊那方言では「お[14]

三拍動詞では、「帰る」「返す」「入る」「参る」などは共通語では「える」のように頭高型だが、上伊那方言では「かる」のように中高型に発音される場合が多い[14][37]。そのほか、個別的な共通語との差異としては、以下が見られる。

[37][14]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
怒る かる
(かばんなどを)さげる げる
悟る とる 上伊那郡誌方言編では「さとる
縋る がる
気取る どる
失くす くす くす
守る もる
見知る しる しる

複合動詞は、起伏型+平板型、起伏型+起伏型ともに共通語では平板型となるが、上伊那方言では前節部の山が消えず、以下のようになる[14]

語彙 共通語 上伊那方言 備考
はき出す きだす きだす
逃げ出す げだす げだす
考え込む んがえこむ んがえこむ
思い巡らす もいめぐらす いめぐらす

自立語に付属語が続くときのアクセント編集

自立語に付属語が続くとき、上伊那方言では複合の度合いが弱いため、共通語とアクセントが異なるものが多い[14]。その一部を以下に示す。

  • 起伏型動詞+助動詞「ない」 は、共通語では「な」の直前まで高いが、上伊那方言では語幹から「な」にアクセント[14]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
見ない ない
出来ない ない きな
  • 平板型形容詞+活用語尾「かっ」+助動詞「た」は、共通語では「か」の直前まで高いが、上伊那方言では語幹から「か」にアクセント[14]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
遅かった かった そかった
赤かった かった かかった
  • 平板型用言+助詞「けれど」は、共通語ではアクセント核は「け」より前だが、上伊那方言では語幹から「け」にアクセント[14]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
言うけれど けれど うけれど
枯れるけれど れるけれど れるけれど
  • 平板型用言+助詞「のに」「ので」は、共通語ではアクセント核は「の」より前だが、上伊那方言では語幹から「の」にアクセント[14]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
行くのに のに くの
変わるのに わるのに わるの
  • 平板型動詞+助詞「な(禁止)」は、共通語では「な」の直前まで高いが、上伊那方言南部では平板型[14]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
死ぬな ぬな 南部
消えるな える えるな 南部

管内の特別地方公共団体編集

広域連合編集

一部事務組合編集

  • 伊那中央行政組合 - 伊那市、箕輪町、南箕輪村で構成。伊那中央病院や、し尿処理施設等の運営を共同で行う。
  • 伊南行政組合 - 駒ヶ根市、飯島町、中川村、宮田村で構成。火葬場や昭和伊南総合病院、し尿処理施設等の運営を共同で行う。

脚注編集

  1. ^ 南箕輪村誌編纂委員会(1984年)『南箕輪村誌 上巻』南箕輪村誌刊行委員会
  2. ^ a b c d e 畑美義(1952年)『上伊那方言集』
  3. ^ a b 小木曽伸一(2017年)東西文化を分ける太田切川
  4. ^ 太田朋子 神川靖子(2017年)『飯田線ものがたり』
  5. ^ a b c d e f 福沢武一(1954年)『長野県上伊那郡における東西方言の境界線』
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 福沢武一(1980、83年)『上伊那の方言 ずくなし 上・下』
  7. ^ a b 伊那市史編纂委員会(方言の執筆は福沢武一氏)(1982年)『伊那市史 現代編』
  8. ^ a b c 馬瀬良雄(2003年)『信州のことば』
  9. ^ a b c d e f 守屋新助(1949年)『上下両伊那方言の境界線』
  10. ^ 市川健夫(1998年)『信州学入門』
  11. ^ a b 駒ヶ根市誌編纂委員会(2007年)『駒ヶ根市誌 自然編2』
  12. ^ a b 飯島町誌編纂刊行委員会 (1993年) 『飯島町誌 下巻 現代 民俗編』
  13. ^ 駒ヶ根市の中心部
  14. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am an ao ap aq ar as at au av aw ax ay az ba bb bc bd be bf 馬瀬良雄(1980年)『上伊那郡誌 民俗編 下(方言編)』
  15. ^ 伊那市有線放送農業協同組合『知っておきたい ふるさと伊那 <第二集>』
  16. ^ a b 馬瀬良雄『信州の方言』
  17. ^ a b c d 『長野県史 方言編』
  18. ^ a b c 福沢武一(1957年)『信州方言風物誌 二』
  19. ^ a b c 牛山初男(1969年)『東西方言の境界』
  20. ^ a b c d e 大西拓一郎(2016年)長野県伊那諏訪地方言語地図
  21. ^ a b c d 馬瀬良雄(2010年)『長野県方言辞典』
  22. ^ 上野誠治(2003年)『関西方言における「へん否定」について』
  23. ^ 浅川清栄(1952年)『信州における方言の分布』
  24. ^ a b イカナイ、イカネ等もこれに含む
  25. ^ a b 宮田村誌編纂委員会(1983年)『宮田村誌 下巻』宮田村誌刊行会
  26. ^ オルも使うが、イルに比べて稀であるか少ない、または丁寧な場面で用いるという回答含む
  27. ^ イルも使うが、オルに比べて稀であるか少ない、または丁寧な場面で用いるという回答含む
  28. ^ a b c 畑美義・藪原繁里協力(1980年)『上伊那方言集(改訂版)』
  29. ^ 湯澤敏(2003年)『おらが知ってる伊那の方言』
  30. ^ 根津芦丈(1966年)『方言集(上伊那を中心に)-俚言・訛-』
  31. ^ 徳川宗賢(1979年)日本の方言地図
  32. ^ 「入れ知恵する」の意味で使う地域もある
  33. ^ 共通語に近いが、南部では基底方言としては「…にゃあ」等ネバ系のみ用いる。
  34. ^ 中川村方言カルタ制作普及委員会 (2013年)『中川村方言ノート』
  35. ^ 中川村誌編纂刊行委員会(2005年)『中川村誌 下巻 近代・現代民俗編』
  36. ^ 『上伊那の方言 ずくなし』によると、南部では「…あります」を用い、「うもうございますよ」を「うまくありますに」などと言うが、「うまかり」はその「うまくあり」がつづまったものである
  37. ^ a b c 青木千代吉(1948年)『信州方言読本 第四編』

参考文献編集

  • 南箕輪村誌編纂委員会(1984年)『南箕輪村誌 上巻』南箕輪村誌刊行委員会
  • 畑美義(1952年)『上伊那方言集』
  • 畑美義・藪原繁里協力(1980年)『上伊那方言集(改訂版)』
  • 小木曽伸一(2017年)東西文化を分ける太田切川
  • 太田朋子 神川靖子(2017年)『飯田線ものがたり』
  • 福沢武一(1954年)『長野県上伊那郡における東西方言の境界線』
  • 福沢武一(1980、83年)『上伊那の方言 ずくなし 上・下』
  • 馬瀬良雄(2003年)『信州のことば』
  • 守屋新助『上下両伊那方言の境界線』
  • 駒ヶ根市誌編纂委員会(2007年)『駒ヶ根市誌 自然編2』
  • 飯島町誌編纂刊行委員会 (1993年) 『飯島町誌 下巻 現代 民俗編』
  • 馬瀬良雄(1980年)『上伊那郡誌 民俗編 下(方言編)』
  • 馬瀬良雄(1971年)『信州の方言』
  • 馬瀬良雄(1992年)『長野県史 方言編』
  • 福沢武一(1957年)『信州方言風物誌 二』
  • 牛山初男(1969年)『東西方言の境界』
  • 大西拓一郎(2016年)長野県伊那諏訪地方言語地図
  • 馬瀬良雄(2010年)『長野県方言辞典』
  • 上野誠治(2003年)『関西方言における「へん否定」について』
  • 宮田村誌編纂委員会(1983年)『宮田村誌 下巻』宮田村誌刊行会
  • 中川村方言カルタ制作普及委員会 (2013年)『中川村方言ノート』
  • 青木千代吉(1948年)『信州方言読本 第四編』