上伊那地域

赤い部分が上伊那地域。

上伊那地域(かみいなちいき)は、長野県南信地方伊那市を中心とした地域のことを指す名称で、県を10地域に分けるときに用いられる。上伊那地方と呼ばれることもある。

上伊那広域連合の範囲に一致する。人口は193,209人(2005年8月1日現在)。

目次

該当市町村編集

以下は長野県の定義である。

方言編集

方言の位置編集

上伊那は、東西方言の接触地域である。上伊那の属する長野県方言は、東条操氏の区画によると、東日本方言の中のナヤシ方言に含まれている。しかしこれは大体の観察であり、画然と区画されないまま、南に下るにつれ東日本方言の特徴が薄れ、西日本方言的になって行く。特に、後述の太田切川を境として大きく変わっているという[1]。畑美義氏は、『上伊那方言集』で太田切川が東西方言の境界線であると主張しており[2]、『市報こまがね ふるさとの歴史8』や、『飯田線ものがたり』でも太田切川が東西文化を分ける川として紹介されている[3][4]。また、福沢武一氏は、『長野県上伊那郡における東西方言の境界線』で東西方言の境界を太田切川に求めた[5]が、のちに『上伊那の方言 ずくなし』で「上伊那の北部系方言と南部系方言の境界をただちに東西方言の境界とはしかねる」と述べている[6]

地域差と方言区画編集

上伊那の方言は、太田切川によって大きく2つに分けられる。馬瀬良雄氏の区画では、太田切川以北の地域は諏訪・松本地域と同じ長野県中信方言に、太田切川以南の地域は木曽・下伊那地域と同じ長野県南信方言に含まれている[7]。また、守屋新助氏は、東海東山方言を東海道方言と東山道方言に分けるとするなら、太田切川以南を東海道方言、以北を東山道方言と区画すべきであると述べている[8]

上伊那方言を二分する太田切川編集

伊那谷の竜西側の河川は「暴れ川」と言われており、中でも太田切川は、古来から伊那谷を南北に分断してきた[9]。水難事故が多かったので、「人取り川」とも呼れていたという[3]。また、太田切川は昔から政治上の境界で、大体太田切川以南は関西方面の領主、以北は関東方面の領主の領土であった場合が多かった。そのため、言語、風習等も太田切川を境として長い間に次第に変って来たのだという[2]

太田切川を境として変わる方言の一例[9]

太田切川以北(宮田) 太田切川以南(駒ヶ根市赤穂)
正座 おすわり おかしま
お手玉 おてんこ おたま
どぶ いけ
小石 (言葉なし) いしなご
土間 とおり にわ

太田切川以南の地域は上伊那に属しながら、伊那方言より下伊那飯田方言と共通点が多い[10]

飯田方言と伊那方言[10]
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
飯田
飯島
赤穂[11]
宮田
伊那
  •   飯田方言
  •   伊那方言

方言区画編集

  • 『上伊那郡誌 民族編 下』による分類[12]
    • 北部型:辰野町
    • 中部型:箕輪町、南箕輪村、伊那市(旧高遠町、旧長谷村除く)、宮田村
    • 東部型:旧高遠町、旧長谷村
    • 南部型:駒ヶ根市、飯島町、中川村
  • 『上伊那方言集』による分類[2]
    • 太田切川以北
      • (1):辰野町小野・川島
      • (2):辰野町朝日・伊那富
      • (3):箕輪町
      • (4):南箕輪村、伊那市西箕輪・手良・伊那・美篶
      • (5):伊那市西春近・東春近・富県、宮田村、駒ヶ根市東伊那・中沢
      • (6):伊那市高遠町
      • (7):伊那市長谷
    • 太田切川以南
      • (1):駒ヶ根市赤穂
      • (2):飯島町
      • (3):中川村

比較表編集

上伊那郡下各地の方言比較表[13][12][14] [15][5][8][16][6][17]
太田切川以北 太田切川以南
辰野 伊那 長谷 赤穂 中川
打ち消し「…へん」の類 × × ×
…どー × × × ×
お…る、お…て × × ×
…な(断定) ×
…ま、…ちゃ × × ×
…ぞい、…ぞえ × × ×
虹がたつ × × × ×
…あります × × ×
そーえ × × ×
居る いる × ×
おる [18] [18] [18]
しない(否定) しねえ × ×
しん ×
せん × × ×
しろ(命令) しろ ×
せろ × × ×
せよ × × × ×
しょー × × × ×
軽い命令・勧誘 …(ら)っしー
…ない × × ×
…か、…かね …かや
…かえ
…かい × ×
…かな × × ×
…け × ×
…ねえ …なえ ×
…なむ、…なん等 × × ×
…のう × × ×
疲れた えらい
ごしたい
こんきい × × ×
たいげ(ぎ)だ × × ×
どんど焼き どんどやき
せーのかみ ×
おんべ × ×
ほんやり × × ×
めーだまやき × × ×
まつやき × × ×
正座 おつくべ、おつんぶ × × ×
おかしま × ×
おしゃんこ ×
ひざまずく × × × ×
あぐらをかく あずくみをかく × ×
どっすわる

文法編集

特に断り書きのない場合はほぼ全域で用いられている。

  • 推量表現[12][19]
    • 「…ズラ」:動詞、形容詞に接続する場合、北部では「…ズラ」、南部では「…ンズラ」。例.行くだろう → イクズラ(北部)、イクンズラ(南部)
    • 「…ダラ」:動詞、形容詞に接続する場合は「…ンダラ」となる。例.イクンダラ(行くんだろうね)
    • 「…ラ」:動詞と形容詞のみに接続する。南部では「…ズラ」よりも確実性が強いとされているが、北部では確実性による使い分けはないという。例.イーラ(いいだろう)
  • 意志表現[12]
    • 「…ズ、…ズイ」:例.イッテ ミテ コズ(行ってみてこよう)
  • 勧誘表現[12]
    • 「…マイカ」:名古屋方面に勢力をもつもので、上伊那方言では融合して「…メーカ」となることが多い。積極的な勧誘である。北部ではA型動詞には終止-連体形で接続するが、南部では全ての動詞およびそれに準ずる助動詞未然形に接続する。例.行こうじゃないか → イクメーカ(北部)、イカメーカ(南部)。また、南部では「カ」を省略した「…マイ」「…メー」も用いられる。
    • 「…ネーカ」:北部に多い。標準語の「…ないか」と同じ。
    • 「…ンカ」:南部に多い。標準語の「…ないか」と意味は同じ。
    • そのほか、「…ズ」「…ザー」「…ジャー」「…ジャン」なども用いられるが少ない[17]
  • 打ち消しの表現[12]
    • 現在形(…ない)
      • 「…ネー」:北部に多い
      • 「…ン」:南部に多い
      • 詳細は『東西方言の語法上の対立と上伊那方言』を参照。
    • 近畿的な打ち消し「…ヘン」の類
      • 牛山初男氏の『東西方言の境界』によると、太田切川以南、すなわち駒ヶ根市赤穂以南に、近畿方言である打ち消し表現「…ヘン」の類が色濃く分布している。尤も、「買わない」を例にとれば「買ワヘン」という形で用いられることはなく、「買ヤーセン」などといった形で用いられることが多いが、牛山氏によるとこれらは同類のものであるという[16]
    • 過去形(…なかった)
      • 「…ナンダ」
    • 順接条件(…なければ)
      • 「…ニャー」
      • 「…ジャー」
      • 「…ネーケリャー」「…ンケリャー」「…ナケリャ」「…ナキャ」:南部では使わない
      • 「…なければ(ならない)」には「…ン(ナラン)」も用いられる。
    • 逆説条件(…なくても)
      • 「…ナンデモ」
      • 「…ンデモ」
      • 「…デモ」「…ドモ」
    • 中止形(…ずに)
      • 「…ズニ」
      • 「…ナシ二」:駒ヶ根市赤穂以南で用いられる[8]。例.ガッコーエモ イカナシニ アスンデバッカ オルンダニ(学校へも行かずに遊んでばかりいるんですよ)
      • 「…ッコ」
    • 反語(決して…ない)
      • 「…ズカ、…ズケ」:例.ソンナ コトカ° アラズケ(そんなことがあろうか、いやあるはずがない)
  • 指定の表現
    • 「…ダ」
    • 「…ナ」:伊那市西春近以南では、「…ナ」も用いられる[8]。東部の谷では、旧長谷村南部で多少用いられているという[12]。例.ソーナ(そうだ)
  • 理由・原因[12]
    • 「…二」:例.アミャー フルニ カサー セーテケ(雨が降るから傘をさして行け)
    • 「…デ」:例.ジキ オワルデ マチョ(じきに終わるから待て)
    • 「…モンデ、…モンダデ」:共通語の「ものだから」にあたる。例.シラネー モンデ ブチャッチマッタ(知らないものだから捨ててしまった)
    • 「…ダニヨッテ」:例.コーダニヨッテ コリャー ケール ワケニャー イカン(こうだからこれは変えるわけにはいかない)
  • 敬語表現[12][13][7]
    • 尊敬の表現
      • 「…ミエル」:いらっしゃるの意
      • 「…オイデル」:いらっしゃるの意
      • 「オ…ル」:宮田村以南で用いられる。例.オ見ル(否定形=オ見ン、過去形=オ見タ)、オ帰リル(否定形=オ帰リン、過去形=オ帰リタ)
      • いずれの表現も、下伊那や愛知県三河でも広く使われ、連続性が指摘される。
    • 敬意をこめた親愛余情表現
      • 「…エ」:例.ソーダナエ(そうですね)
      • 「…ナムシ、…ナモシ、…ナーシ、…ナム、…ナン」等:南部で用いられる。分布については、概ね飯島町以南とする文献と駒ヶ根市赤穂以南とする文献があるが、『上伊那の方言 ずくなし』では、重ねた呼びかけ「…ナムホイ」は飯島町以南で用いられているのに対し「…ナモシ」等は駒ヶ根市赤穂・中沢でも用いられており、「ナーシ」に至っては西春近南部まで分布している[6]ことから、同類の語でも分布に差があると思われる。例.ソーダナム(そうですね)
      • 「…ニ、…ニー」:福沢武一氏は、「伊那谷の代表語と言って過言ではない」と述べている[6]。例.ソーダニ(そうですよ)
      • 「…ジ」:松本平と接する辰野町小野で用いられる。例.ソーダジ(そうだぞ)
      • 「…ンネ、…イネ」:松本平と接する辰野町小野で用いられる。例.ソーダンネ(そうなんですよ)
      • 「…ナ」:南部で用いられる。例.オアリンカナ(ありませんか)
    • 軽い敬意と親愛の気持ちをこめて勧める表現
      • 「…(ラ)ッシー」:主に伊那市以北で用いる[5][15]が、分布は複雑であるとされる。語形によって分布に差もあり、「行カッシ」のような形は全郡的に用いられているが、「食ベラッシ」「見ラッシ」のような形は南部では用いられない[6]。例.イカッシー(お行きなさい)
      • 「…ナンショ、…ナイショ」:例.オヤスミナンショ(お休みなさい)
      • 「オ…テ」:宮田村もしくは駒ヶ根市赤穂以南で用いられる。これは「オ…ル」という敬語形式が…テに接続したものである。例.オヨリテ(お寄りなさい)
      • 「オ…テ オクンナンショ」:南部で用いられる。相手に命令する場合の最高位の敬語表現。
    • その他
      • 「…アリマス」:ございますの意。南部で用いられる。例.ハールカブリデ アリマスナムシ(久しぶりでございますね)
      • 「オイイ」:「良い」を丁寧に言うときに用いる。宮田村以南で用いられる。
  • 自称[12]
    • 対等以上:ワシ
    • 対等以下:オレ、オラ、オラー
  • 対象
    • 対等以上:オメサマ、オメーサマ、オメサン、オメーサン
    • 対等以下:オメー、オミャー、テメー、ワレ、ウヌ、キコー
  • 東西方言の語法上の対立と上伊那方言[12][19][13]
    • 断定「ジャ、ヤ(西)」と「ダ(東)」:「ダ」を用いる。
    • 否定「…ン(西)」と「…ナイ(東)」:南部では「…ン」を、北部では「…ナイ(ネエ)」を多く用いるが、広い地域で併用されている。2016年の『長野県伊那諏訪地方言語地図』では、『上伊那郡誌 民族編 下』の言語地図に比べて、北部で「…ン」が増加している。「…ン」を用いる地域を−、「…ネエ」を用いる地域を+、「…ン」と「…ネエ」を併用する地域を±すると、以下の通りになる[20]。辰野町北端部の小野から伊那市富県までは距離があるが、『宮田村誌 下』にはその間の記述がない。
辰野町小野 伊那市富県 伊那市長谷非持山 宮田村田中 駒ヶ根市赤穂 中川村片桐
+ ± ± ±
    • 過去否定「…ナンダ(西)」と「…ナカッタ(東)」:「…ナンダ」を用いる。
    • 順接仮定条件「…ネバ(西)」と「…ナケレバ(東)」:郡の全域で「…ネバ(ニャー)」を用いるが、伊那市以北では「…ナケレバ(ナケリャ、ナキャ)と併用する。
    • 命令「…ヨ(西)」と「…ロ(東)」:「起きる」「見る」など一段型動詞の命令形の多くは、中川村飯島町南部、駒ヶ根市山間部などで「…ヨ」と「…ロ」が併用され、そのほかの地域では「…ロ」となる。ただし、「見せる」「貸せる」「くれる」など一部の動詞の命令形は、郡の全域で「…ヨ」となる。
    • サ行イ音便の有(西)と無(東):全域でイ音便がある。しかし現在では衰退しており、昭和40年代の調査で消滅寸前の地域も複数あった。
    • ワ行五段活用動詞のウ音便(西)と促音便(東):郡の全域で促音便形をとる。
    • 形容詞連用形のウ音便の有(西)と無(東):「白く」、「赤く」などは郡の全域で「シロー」、「アコー」と言ったようなウ音便を取らないが、「早く」ではウ音便形「ハヨー」が郡の南部を中心にあちこちに点在するようになり、「よく(来た)」ではウ音便形「ヨー」が駒ヶ根市以南の地域に色濃い分布を見せている。
    • 継続態と結果態の区別の有(西)と無(東):郡の全域で区別を持たず、郡北部では継続態・結果態とも「…テル」、南部では「…トル」となる。「…トル」を用いるのは語彙の点では西日本方言的である。
  • イルとオル[12]
    • イルとオルは語彙的に東西を分かつ指標として有名であるが、『上伊那郡誌 民族編 下』の言語地図では伊那市以北ではイル、駒ヶ根市以南ではオルがそれぞれ極めて優勢で、間の宮田村では両者が混用されている。しかし近年は伊那市以北の地域でもオルが用いられるようになった。

語彙編集

広域 [12][19][2][6]編集

あいく
歩く
あいさ
あっこ、あすこ
あそこ
あすぶ
遊ぶ
あばよ、あんばよ、あばな、あんば
別れるときの挨拶
あびる、あべる
泳ぐ
あんじゃない
心配いらない
いかん
ダメ
いこ、えこ
あまり
いきあう
遭遇する
いただきました
ご馳走さま
いってきました
ただいま
いのく
動く
いびくる
もてあそぶ
いやんばい
程よい状態
いらんこと
余計なこと
いんね
いいえ
うだる
茹だる
うつかる、うっつかる
背をもたれかかる
うとい
バカだ
うとんぽ
空洞
うます
蒸す
うめる
薄める
えらい、ごしたい
疲れた
おいさん
おじさん
おいでる
いらっしゃる
おいや
食べたくない
おかたしけ
ありがとう
おごっつぉー
ごちそう
おしょる
折る
おぞい
品質が悪い
おっさま
お坊さん
おなし、おんなし
同じ
おみゃー
お前 (卑語)
おもしい
面白い
おやげない、おやいない
気の毒な、かわいそう
おるすぎ
お留守番
おらほ
おれの方
おろのく
間引く
かう
閉める
かしょ
かせ
かんしょ
堪忍して下さい
かんな、かんね
ごめんね
きさんじい
立派な、見事な
ぎすい
滑りが悪い
きび
トウモロコシ
きびしょ
急須
きんのう、きんにょー
昨日
くすがる
刺さる
くねっぽい
年よりませてみえる
くます
くずす
くりょ
くれ
くろ
けーど
けれども
げーもない
無益な
けしくりからん
よろしくない
けっからかす
蹴飛ばす
けやす
消す
…っこ
…するはずがない
ごうがわく
腹が立つ
こく
言う
こすい
ずるい
こずむ
沈殿する
ころましい
見事な
こわい
硬い
…さ
…さん
さいなら
さようなら
ささらほーさら
さんざんな状態
…さら
…ごと
しこる
じっとしている
…じゃん
…じゃないかの意。上伊那へは静岡県西部から伝わったとされており[7]、『長野県方言辞典』の言語地図では、上伊那地域は長野県内で唯一、全地点で「昔から使う」と回答している[19]
…ず
…しよう (意思)
すい
酸っぱい
ずく
ことをする気力
…ずら、…だら、…ら
…だろう、…でしょう
ずるい
遅い
すれる
仲が悪くなる
だだくさもない
必要以上に大量にあるさま
たたった
建った
…だに
…だよ
だまかす
なだめる
たるくさい
とろい
たわけ、たーけ
ばか者
たわけた、たーけた
愚かな
ちゃっと
すぐに
つくなる
力尽きてしゃがみこむ
…(だ)で、…(だ)もんで
…(だ)から
どいれー、どえれー
非常に
とぶ
走る
どべ
最下位
どろぼーぐさ
ヌスビトハギ
なめくる
舐める
ならかす
ならす
…なんしょ、…ないしょ
…なさい
…に
…よ
にどいも
馬鈴薯
ぬくとい
暖かい
はーるか
久しく
はーるかぶり
久しぶり
はそんする
修繕する
ばっか
ばかり
はならかす
離す
ばばい
汚い
びしょったい
汚らしい
びちゃる、ぶちゃる
捨てる
ひとなる、しとなる
成長する
ひどろっこい
眩しい
へえ、はい
もう
へぼい
程度が低い
へら
ほーる
投げる
…まいか
…しませんか(勧誘)
まえで
前方
まるかる
丸まる
…まるけ
…だらけ
みやましい
体裁が良い
みい
見ろ
みえる
いらっしゃる
みして
見せて
みしょ
見せろ
もうる
漏れる
もちーいく
取りに行く
やーこい、やっこい
柔らかい
やいやい
おいおい
やっぱ、やっぱし
やっぱり
よせる
(洗濯物を)取り込む
よど
よだれ
らくになる
死ぬ
わきゃーない
容易だ
わぐむ、わごむ
歪む
わにる、わにわにする(しる、せる)
ふざける

北部系編集

使用地域△は資料によってその地域での使用を認めるものと認めないもののある語[15][12][2][5][6]

語彙 意味 使用地域
小野 辰野 箕輪 伊那 宮田 高遠 長谷 赤穂 飯島 中川
あずくみ、あずきみ あぐら × × ×
いけん ダメ × × × × ×
いしっかてー 非常に意志が固い × × × ×
いちまき 血統、一族 × × × × × ×
いぼおつる すねる × × × × × ×
うんでんさま 個人または同族の守り神 × × × × × ×
うんね いいえ × × × × × × ×
えーしくる かまう、相手になる × × × × × ×
えせみ 嫉妬 × ×
えぶる ゆする × × × ×
えもぐさい 布類の焼ける匂い × × × × ×
おいでな おいでなさい × × ×
おいび 行きましょう × × ×
おーたば 大柄な言葉 × × × ×
おーまくらい 大食家 × × × ×
おくみ 人見知り × × × × × × ×
おこと 2月8日 × × × ×
おつくべ、おつんぶ 正座 × × × ×
おっさま おじさん × × × × ×
おてんこ お手玉 × × ×
おんなしょ × × × ×
おんなしょー 女衆 × × × ×
…かい …か × × ×
かかしらう からかう × × × × ×
かもー いじめる × × × ×
かんます かき回す × × ×
きっきと 休みなく × × ×
きのうな きのう × × × × × × ×
くせ 農業の病気 × × × × ×
くわずみ 桑の実 × × ×
けたくる けりつける × × ×
げーに 強く、きつく × × ×
げす 肥やし水 × × × ×
ごまい 悪がしこい × × ×
ごんばな たくさんな鼻汁 × × × × × × ×
こんまい 小さい × × × ×
さなげる 探す × × ×
さらける 捨てる × × × × × ×
さんげーち 竹馬 × × × × × ×
さんじ 通知 × × ×
さんぱーて 俵の小口へあてるもの × × ×
…し …なさい
…じ …ぞ × × × × × × ×
しらしら こちょこちょするさま × × ×
…ぞい …ぞ × × × × × × ×
つとっこ ふくらはぎ × × × × ×
…どー …だよ × × × × × × ×
どん 最下位 × × × ×
なんちょ なんで × × × ×
のくとい 暖かい × × × × × ×
はちあがる 登る × × ×
ひじろ いろり × ×
ふえふきぐさ スズメノテッポウ × ×
ぶっこむ 混ぜる × ×
べーさ 丸太 × × × × × ×
ほける 成長する × × ×
まちる 待つ × × × × × ×
まる 便をする × × × ×
みぐさい 見苦しい × × ×
もごい かわいそう
ゆいつける 縛り付ける × × × × ×

南部系編集

使用地域△は資料によってその地域での使用を認めるものと認めないもののある語[12][2][5][8][21][6]

語彙 意味 使用地域
小野 辰野 箕輪 伊那 高遠 長谷 宮田 赤穂 飯島 中川
あおたく あおむく × × × × × × × ×
あくと かかと × × × × × × ×
あさっぱち 早朝 × × × × × ×
いかき ざる × × × × × ×
いぎれ、えぎれ 夏の赤切れ × × × × × ×
いきれる 調子づく × × × × × × ×
いぐる 睡眠中に体を動かす × × × × × × × ×
いせる 自分の行動をわざと見せる × × × × × × ×
いちゃつく 子供などが調子づいて騒ぐ × × × × × × ×
いぶる 揺さぶる × ×
うっそり、うっそれ 馬鹿 × × × × × ×
うまかりそう うまそう[22] × × × × × ×
うら 後ろ × × × × × × ×
えせる あくどいことをする × × × × × × ×
えんばな 家の上り口 × × × × ×
おいな いらっしゃい × × × × × ×
おかしま 正座 × × × × × ×
おしろもの 年ごろの娘 × × × × × × × ×
おたま お手玉 × × × × × × ×
おたりんさ 低脳な人 × × × × × ×
おったて 霜柱 × × × × × × ×
おまちて お待ち下さい × × × × × ×
おわえる 追いかける × × × × × × × ×
おんべ どんど焼き × × × × ×
かきやす かき回す × × ×
がなる どなる × × × × × × ×
かまける 愚痴を言う × × × × × ×
かわらんべ、かーらんべ 河童 × × × × × × ×
きぶる 機嫌悪く振る舞う × × × × ×
ぎゃらしい いやらしい × × × × ×
ぎょうさん たくさん × × × × × × ×
きりばん まな板 × × × × × × ×
ぐざる 悪口を言う × × × ×
くろじに 地が死ぬこと × × × × ×
…け …か × × × ×
けつける つまずく × × × × × × ×
けなぶる 馬鹿にする × × × × × × × ×
けなるい 羨ましい × × × × × × ×
こーと 柄の地味 × × × × × ×
ごかき 熊手 × × × × × × × × ×
こんきい 息苦しい × × × × × × ×
さむさいぼ 鳥肌が立つ × × × × × × ×
すこやか 立派なこと × × × × × × ×
すがき 熟蚕 × × × × × × × ×
すびる しなびる × × × × × × ×
せなし しないで × × × × × × ×
せろ しろ × × × × × × ×
たいぎ、たいげ 疲労 × × × × × × ×
ちにくる、ちねくる つねくる × × × × × × × ×
つる 持ち上げて運ぶ
とー 早く × × × × × × ×
…な …だ × × × × × ×
…なむ、…なーし、…なむし …ねえ × × × × × × ×
なむほい ねえ × × × × × × ×
にすい 弱い × × × × × ×
にわ 土間 × × × × × ×
ねぶる なめる × × × × × ×
はばえる 葉がしおれる × × × × × × × ×
びーどろ ガラス製のおはじき × × × × × × ×
ひび × × × × ×
ひょーる ボールなどが弾む × × × × × × × × ×
ほた × × × × × × ×
ほんやり どんど焼き × × × × × × ×
…ま …様 × × × × × ×
…まい …しませんか(勧誘) × × × ×
まんだ まだ × × × × ×
みしる むしる × × × × × ×
やぐい か弱い × × × × × × × × ×
ややける あわてる × × × × × ×
ゆるり いろり × × × × × × × ×
よー よく × × × × × × ×
らくだいも 長芋 × × × ×
らんごく 乱雑なさま × × × × × ×
わや 幼児がぐずる × × × × × × ×

音韻編集

母音の特徴 [12]編集

  • 「ウ」は極度の平唇であり、東京方言より非円唇、平唇の程度はかなり著しい。
  • 唇には若干の緊張があり、東京方言よりも後ろよりの発音である。
  • 「エ」、「オ」の具体音声は東京方言のそれより若干広い。
  • 共通語の「エ」にあたるところに、場合によって「ウェ」があらわれる。
  • 共通語の「オ」にあたるところに、場合によって「ウォ」があらわれる。
  • 助詞「を」はいかなる場合でも文字通り「ヲ」と発音し、「オ」とは明確に区別される。
  • 共通語の「…エオ」にあたるところに「…ウィョ」、「…エワ」にあたるところに「…ウィャ」があらわれることがある。
  • 方向を表す「へ」は、「イェ」と発音されることが多く、「ウェ」や「ウィェ」と発音される場合もある。
  • 共通語にはない「ĩ」という音素がある。

子音の特徴 [12]編集

  • 破裂音[g]と鼻濁音[ŋ]とが区別される。
  • 「ソ」が「ホ」となる傾向がある(例.それでは→ほいじゃー)。

東西方言の音韻上の対立と上伊那方言編集

上伊那方言の音韻は、東日本方言の特徴を持ちながら、なお西日本方言的特徴をも合わせ持っている[12]

(1) 連母音の融合編集

東日本方言では連母音の融合が一般に盛んである。上伊那地域では、[ai]、[ae]→[ee](例.ない→ねー、はい→へー)といったような融合は活発であるが、他の連母音では必ずしも盛んではない[12]

  • [oi]、[oe]→[ee](例.すごい→すげー、どこへ→どけー)
    • 上伊那北部:語によって融合するものとしないものがある。
    • 上伊那南部:一般に融合しない。
  • [ui]→[ii](例.あかるい→あかりー)
    • 一般に融合しない。
  • [ie]→[ee](例.ひえ→へー)
    • 融合する場合がやや多い。
  • [au]、[ou]→[oo](例.ちがう→ちごー、ひろう→ひろー)
    • 上伊那北部:融合する場合がやや多い。
    • 上伊那南部:一般に融合しない。
(2) 母音の無声化現象編集

東日本方言では母音無声化が一般に盛んであるが、上伊那地域では母音の無声化は東京と比べると非常に少なく、長野県内では最も少ないものの一つである。それは特に南部へ行くほど顕著である[12]

(3) もともと促音のないところに促音を入れる現象編集

東日本方言ではもともと促音のないところに促音を入れる現象が一般に盛んであるが、この現象は上伊那地域でも多く認められる。ただし上伊那でも若干地域差があり、北部ほど盛んで、南に下るとやや減じる[12]

アクセント編集

上伊那方言のアクセントは有アクセントの中輪東京式アクセントに属し、共通語との差はさほど大きくないとされるが、異なる点も認められる[12]

名詞編集

  • 二拍名詞では、共通語と異なるアクセントを持つものが複数ある。その一部を以下の表に示す[12][23]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
あれ
北部
汽車 しゃ しゃ
新しい
これ
南部
それ
百舌
中北部で「も
南部で「も
  • 三拍名詞の第5類に属する語は、共通語では頭高型をとるものが多いが、上伊那方言では中高型をとるものが多い[12]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
朝日 さひ
のち
姿 がた
火箸 ばし
  • また、類に属さない三拍名詞も、共通語では頭高型が多いが、上伊那方言では中高型が多い[12]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
青葉 おば
きのこ のこ
去年 きょねん きょ
わかめ かめ
  • 三拍名詞で共通語と異なるアクセントを持つものには、以下のようなものもある[12]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
れい れい 北部
トマト まと まと
二十歳 たち たち
中北部で「はたち
南部で「は
花火 なび なび
くら 南部
ろい ろい 中北部
  • 四拍名詞は、上伊那方言では尾高型のものが非常に多い[12]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
生け花 ばな けば
楽しみ のし のし
ナメクジ めく めく
わがまま がま がま
  • 四拍名詞で共通語と異なるアクセントを持つものには、以下のようなものもある[12]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
愛嬌 いきょ いきょう
相棒 いぼう ぼう
いぼ
勢い きお きおい
豌豆 んどう んど
たい松 いまつ いま
茶柱 ちゃしら ちゃばし

疑問詞編集

上伊那では頭高型をとるものが多く、下伊那と接する中川村飯島町南部では頭高型をとるものが非常に多い。ただし駒ヶ根市赤穂を中心とした小地域では、平板型が非常に多い[14]

疑問詞 辰野 伊那 長谷 赤穂 中川
名詞 幾つ くつ くつ くつ
幾ら くら
どこ
どっち っち っち っち
どれ
なに
連体詞 どの
どんな んな んな
副詞 いつ
なぜ

動詞編集

  • 二拍動詞では、共通語では頭高型と尾高型を合わせ持つ語が、上伊那方言では頭高型のみとなる場合がある。これは母音の無声化が起こらず、アクセントの山が移動しないためである[12]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
着く
吹く
伏す
付く
  • 三拍動詞では、共通語で平板型のものが、上伊那方言では中高型に発音される場合がある[23]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
怒る かる
悟る とる
縋る がる
気取る どる
  • 共通語で平板型のものが頭高型で発音される場合もある[23]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
失くす くす くす
見知る しる しる
  • また、共通語では頭高型のみの語が、上伊那方言では頭高型と中高型を合わせ持つ場合がある[12]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
帰る える
える
入る いる
いる
参る いる
いる
通る おる
おる
個人差がある
  • 複合動詞は、起伏型+平板型、起伏型+起伏型ともに共通語では平板型となるが、上伊那方言では前節部の山が消えず、以下のようになる[12]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
はき出す きだす きだす
逃げ出す げだす げだす
考え込む んがえこむ んがえこむ
思い巡らす もいめぐらす いめぐらす

自立語に付属語が続くときのアクセント編集

自立語に付属語が続くとき、上伊那方言では複合の度合いが弱いため、共通語とアクセントが異なるものが多い[12]。その一部を以下に示す。

  • 起伏型動詞+助動詞「ない」 は、共通語では「な」の直前まで高いが、上伊那方言では語幹から「な」にアクセント[12]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
見ない ない
出来ない ない きな
  • 平板型形容詞+活用語尾「かっ」+助動詞「た」は、共通語では「か」の直前まで高いが、上伊那方言では語幹から「か」にアクセント[12]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
遅かった かった そかった
赤かった かった かかった
  • 平板型用言+助詞「けれど」は、共通語ではアクセント核は「け」より前だが、上伊那方言では語幹から「け」にアクセント[12]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
言うけれど けれど うけれど
枯れるけれど れるけれど れるけれど
  • 平板型用言+助詞「のに」「ので」は、共通語ではアクセント核は「の」より前だが、上伊那方言では語幹から「の」にアクセント[12]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
行くのに のに くの
歌うのに たうのに たうの
  • 平板型動詞+助詞「な(禁止)」は、共通語では「な」の直前まで高いが、上伊那方言南部では平板型[12]
語彙 共通語 上伊那方言 備考
死ぬな ぬな 南部
消えるな える えるな 南部

管内の特別地方公共団体編集

広域連合編集

一部事務組合編集

  • 伊那中央行政組合 - 伊那市、箕輪町、南箕輪村で構成。伊那中央病院や、し尿処理施設等の運営を共同で行う。
  • 伊南行政組合 - 駒ヶ根市、飯島町、中川村、宮田村で構成。火葬場や昭和伊南総合病院、し尿処理施設等の運営を共同で行う。

脚注編集

  1. ^ 南箕輪村誌編纂委員会(1984年)『南箕輪村誌 上巻』南箕輪村誌刊行委員会
  2. ^ a b c d e f 畑美義(1975年)『上伊那方言集』
  3. ^ a b 小木曽伸一(2017年)東西文化を分ける太田切川
  4. ^ 太田朋子 神川靖子(2017年)『飯田線ものがたり』
  5. ^ a b c d e 福沢武一(1954年)『長野県上伊那郡における東西方言の境界線』
  6. ^ a b c d e f g h 福沢武一(1980、83年)『上伊那の方言 ずくなし 上・下』
  7. ^ a b c 馬瀬良雄(2003年)『信州のことば』
  8. ^ a b c d e 守屋新助『上下両伊那方言の境界線』
  9. ^ a b 駒ヶ根市誌編纂委員会(2007年)『駒ヶ根市誌 自然編2』
  10. ^ a b 飯島町誌編纂刊行委員会 (1993年) 『飯島町誌 下巻 現代 民俗編』
  11. ^ 駒ヶ根市の中心部
  12. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak 馬瀬良雄『上伊那郡誌 民俗編 下(方言編)』
  13. ^ a b c 馬瀬良雄『信州の方言』
  14. ^ a b 『長野県史 方言編』
  15. ^ a b c 福沢武一(1957年)『信州方言風物誌 二』
  16. ^ a b 牛山初男(1969年)『東西方言の境界』
  17. ^ a b 大西拓一郎(2016年)長野県伊那諏訪地方言語地図
  18. ^ a b c 新しい
  19. ^ a b c d 馬瀬良雄(2010年)『長野県方言辞典』
  20. ^ 宮田村誌編纂委員会(1983年)『宮田村誌 下巻』宮田村誌刊行会
  21. ^ 中川村方言カルタ制作普及委員会 (2013年)『中川村方言ノート』
  22. ^ 『上伊那の方言 ずくなし』によると、南部では「…あります」を用い、「うもうございますよ」を「うまくありますに」などと言うが、「うまかり」はその「うまくあり」がつづまったものである
  23. ^ a b c 青木千代吉(1948年)『信州方言読本 第四編』