報復
報復(ほうふく)、仕返し(しかえし)、復讐(ふくしゅう)とは、一般に不当な酷い仕打ちを受けた者が相手に対して行うやり返す攻撃行動の総称である[1]。
概説編集
軍事的報復編集
攻撃また攻撃行動は他者への損害をおよぼすために道徳的には違背行為ともされるが、他方、戦争などで攻撃を受けた側が報復する場合などは肯定的に評価されることもある[2]。報復・復讐攻撃は被害者側の相対的剥奪感を解消し、公平感をもたらすこともあり、近年、米国の刑法学においても「報復的公正」が研究されている[2]。
テロリズム、相互確証破壊、正当防衛、カウンターアタック(逆襲)を参照。
日本国憲法改正により生じる報復権編集
日本国憲法はGHQ草案「マッカーサー草案」を基に日本国の国会が承認し公布し施行した憲法ではあるが、民主主義に基づく国民投票により決定し国会が承認しまた国民投票により選ばれた国会議員による政府が公布し施行をなされた訳ではない為、報復権の有無についての言及はなされてはおらず、議論や棄権もされていない状態であり、この報復権の存在や議論そのものが日本国内ではタブーである。
日本国が有する報復権。 日本国広島県広島市および長崎県長崎市に投下し使用された「核兵器」を投下し使用した相手国(連合国 (第二次世界大戦)および国連常任理事国)に対しての同等の権利。 使用された核兵器が二つ存在する為、二つ以上または最低二つの権利を有する。
報復権の存在の有無そのものが抑止力として機能しているのが、現在の日本国である。
違法性阻却事由 (国際法) 、敵国条項、日米安全保障条約、相互確証破壊、核抑止、核戦略、日本の核武装論、3R・5D・3S政策を参照。
報復の心理学的分類編集
越中康治の幼稚園児童の研究によれば、他の児童からものをとりあげるなどの挑発的攻撃、奪われたものを取り返す報復的攻撃、さらに別の児童が取り返してあげるなどの制裁的攻撃の3つの概念を提出している[2]。また幼児らは、挑発的攻撃は悪いと判断する一方で、報復的攻撃・制裁的攻撃は許容することが観察されており、幼児においても「報復的公正」への理解があるとされる[2]。
また越中らは目的を自己か他者、動機を回避、報復としたうえで次の4つの攻撃があるとする[3]。
攻撃行動は「悪い」行動として道徳背反行為とされるが、実際には常に「悪い」と判断されない[3]。社会心理学の研究では、被害の回避を目的とした正当防衛などの攻撃行動や、加害者への報復行為・報復的攻撃については必ずしも悪いとは判断されずに、文脈を考慮して判断され、攻撃行動が許容されることもある[3]。
歴史編集
原始社会においては、報復は権益を侵害する者に対して、一般的に行われた。報復された側が報復をやり返し、結果止めどなく報復の連鎖を招くこともあった。[要出典]
法編集
「目には目を、歯には歯を」で有名な、古代メソポタミアの、『ハンムラビ法典』は報復を奨励したものではなく、無制限報復が一般的だった原始社会において過剰な報復を禁じ、同等の懲罰にとどめて報復合戦の拡大を制限する目的があった。中世ヨーロッパでは動物に対しても復讐が行われ、「動物裁判」の名前で知られている。
地理編集
アルバニア編集
シチリア編集
コルシカ編集
チェチェン編集
宗教編集
イスラム教編集
イスラム教では「目には目を、歯には歯を」に続きがあり、報復を行わないことを善行として推奨している。これはディーヤという形でイスラム法の制度になっている。
- クルアーン第5章45節
- 命には命を,目には目を,鼻には鼻を,耳には耳を,歯には歯を,全ての傷害に同じ報復を。
- しかし報復せず許すならば,それは自分の罪の償いとなる。
キリスト教編集
キリスト教では復讐は神のものとされており、自分で復讐してはならないと教えている。
- イエス・キリストは敵をも愛するようにと教えた
- 使徒パウロも自分で復讐せず、神の怒りに任せるようにと説いた
報復と社会編集
死刑制度は、犯罪行動に対する報復ともされる。またいじめ問題などでも、いじめの加害者への報復によって事件が発生するなどしている。また、復讐屋と称して報復を代行する業者もある。 被害者が加害者に対して報復的に怒る(キレる)ときに、加害者が怒られるのに耐えられず被害者に怒るという逆ギレという言葉もある。
またアメリカでは銃規制問題にもあるように銃所持は正当防衛とみなされている。
死刑制度と報復編集
現在では報復行為を国が代行するかわりに国民から報復権を取り上げている(応報刑論)。そのため、もし死刑がなくなったとき、被害者遺族の報復権が不当に制限されるという、死刑存廃問題における存続派の有力な意見がある。
殺人などの凶悪犯罪の加害者が、国家により保護されるのに、被害者側には報復が認められないのはおかしいと考え、近代以前のように報復を法で認め、合法化すべきという意見がある[5]。
近代法制度では、「私刑」は認められておらず、相手を誤認して無関係の第三者を殺傷したり、報復の連鎖を招く危険から反対意見が多く、現在では広い論議には至っていない。
報復殺人事件編集
日本編集
- ロボトミー殺人事件(1979年) - 精神外科手術により人間性が奪われた報復として、が起きた。
- 大阪産業大学付属高校同級生殺害事件(1984年) - 犯行の動機は人前で自慰を強制させられたことへの報復だった。
- 熊本母娘殺害事件(1985年) - 1962年に義母(元妻の母)を殺害して尊属殺人罪で無期懲役に処された加害者が仮釈放後、元妻の親族を逆恨みして2人を殺害した。
- 豊田商事会長刺殺事件(1985年) - 豊田商事による詐欺事件の被害者から依頼を受けた犯人が豊田商事会長・永野一男を刺殺した。
- JT女性社員逆恨み殺人事件(1997年) - 7年前(1989年)に強姦致傷事件を起こして懲役7年の刑に処された加害者(殺人前科あり)が警察へ被害届を出した被害者女性(日本たばこ産業〈JT〉社員)を逆恨みし、出所後にお礼参りした事件である。
- 山形一家3人殺傷事件(2006年) - 少年時代に服を脱がされた男性が加害男性の一家を襲撃するという報復殺人を行った。
- 東大阪集団暴行殺人事件(2006年) - 暴力団の名が絡んだ報復に対する報復が行われ、最終的に集団リンチ殺人事件に至った。
アメリカ合衆国編集
- 1999年に、アメリカでコロンバイン高校銃乱射事件が発生した。いじめへの報復とされる。
スペイン編集
スポーツ編集
報復と文芸編集
小説編集
小泉八雲が日本の伝説を題材にした多くの短編小説を残している。
など。
復讐劇編集
- ウィリアム・シェイクスピアの『ハムレット』
- アレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯』
- ルー・ウォーレスの『ベン・ハー』
- 忠臣蔵
- 桜田門外ノ変
- 必殺シリーズ - 金銭をもらって弱者の晴らせぬ恨みを晴らすために裏の仕事を遂行していく者たちの内容。
- 人間・失格〜たとえばぼくが死んだら - 1994年に放送されたTBS系ドラマ。いじめが原因で自殺した中学生の父親が、いじめた生徒や教師に復讐する内容。
- 告白 - 湊かなえによる日本の小説、及びそれを原作とした日本映画。生徒に娘を殺された女性教師が、殺した生徒に復讐する内容。
- 流星の絆 -復讐劇
- ガン×ソード ロボットアニメ作品。作品のテーマは「痛快娯楽復讐劇」。
- メタルギアソリッドV - KONAMIのスニーキングアクションゲーム。作品のテーマは「報復」。
- 機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-
- 善悪の屑 - 渡邊ダイスケによる日本の漫画作品。被害者に代わって犯罪者への凄惨な復讐を行う「復讐屋」の姿を描く。
脚注編集
注釈編集
出典編集
- ^ 攻撃行動(心理学)参照
- ^ a b c d [1] 越中康治「攻撃行動に対する幼児の善悪判断の発達的変化」広島大学大学院教育学研究科紀要、第三部55号、2006.
- ^ a b c 越中康治、新見直子、淡野将太、松田由希子、前田健一「攻撃行動に対する幼児の善悪判断に及ぼす動機と目的の影響」、『広島大学大学院教育学研究科紀要. 第三部, 教育人間科学関連領域』第56号、広島大学大学院教育学研究科、2007年
- ^ 西部邁、黒鉄ヒロシ『もはや、これまで: 経綸酔狂問答』PHP研究所、2013年、192頁。
- ^ 呉智英『ホントの話』小学館文庫、26頁。
- ^ “娘を強姦した男に母親が復讐。ガソリンをかけて焼き殺す”. デジタルマガジン (2009年2月26日). 2011年11月19日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2013年8月28日閲覧。