多頭飼育崩壊

多頭飼育崩壊の一例。浴室に6匹ものウサギを飼っている

多頭飼育崩壊(たとうしいくほうかい)・アニマルホーディング(Animal Hoarding)は、ペットの動物を多数飼育した飼い主が、無秩序な飼い方による異常繁殖の末、飼育不可能となる現象[1]

ペットを自宅など同一ヵ所で最初は適正頭数を飼っていたが、避妊手術英語版など適正な措置を行わないままに無計画に飼った末、飼い主の予想を超えて異常繁殖が繰り返され過剰多頭飼育となり、経済的にも破たんし飼育放棄に近い状態になる現象が各地で起こっている[2][3]。現場では、糞尿の垂れ流し、餌不足、病気、餓死共食い、害虫などが発生し、図らずも動物虐待となっているケースも多い。民間のボランティア団体が発見し、介入するケースもあるが、飼い主の孤独死、または行方不明などで、近隣住民からの悪臭などの通報により発覚するケースも多い。ボランティアが介入するケースでも、保護先が確保できずにそのまま放置される場合もある[1]関東では2015年時点で過去5年間に少なくとも77件が確認されている[4]ほか、日本では2016年の最新調査で全国で約1800件の多頭飼育による苦情件数が報告されている[5]

目次

原因編集

崩壊する飼い主には大きく分けて以下の3つのパターンがあるとされる[6][出典無効]

動物取扱業者・繁殖業者(ブリーダー)編集

繁殖業者(ブリーダー)が人気品種を大量に繁殖させたが、人気種が変わると売れなくなり、その結果経営が行き詰まり、崩壊するケース。動物は、狭いケージに閉じ込められたまま、不衛生な管理で皮膚病をはじめとする病気が蔓延したり、糞尿や死体が放置される場合もある。利益目的であるため、崩壊を繰り返すことも多い。賃貸住宅の場合は強制立ち退き損害賠償請求も多くある[6][出典無効]。この他、アニマルカフェのような常時多くの動物を占有して営業する動物取扱業者が経営難に陥ったり、動物を増やし過ぎた結果飼養困難になるなどして多頭飼育崩壊状態に至る事例も出ている。廃業したブリーダーから動物を引き取って営業していた東京都墨田区のアニマルカフェが、店内で動物を次々に交配してその頭数を増やし、劣悪・不衛生な環境で飼育。近隣住民から東京都に悪臭などの苦情が寄せられたほか、客から「動物の状態や店の飼育環境が悪い」等の指摘があり、「多数の動物の飼養又は保管に起因して周辺の生活環境が損なわれている事態が生じている恐れがある」として2015年12月、東京都が立ち入り検査。その結果飼育頭数の虚偽報告や杜撰な衛生管理に起因する病気蔓延が発覚し、2016年4月、東京都より動物愛護法に基づく業務停止命令を受け、更にその後も改善しなかったため同年6月、動物取扱業登録を取り消された[7]2017年6月には、鹿児島県鹿児島市のアニマルカフェの経営者が動物を放置したまま失踪していることが明らかとなり、鹿児島市は動物愛護法違反の可能性もあるとして警察に相談。鹿児島市保健所が同月調査したところ、店内には大量のゴミや汚物が放置され、大部分の動物は衰弱、一部は死亡していたという[8]。市保健所からの情報提供を受け、警察が同法違反の容疑で捜査。同年9月、経営者が出頭。同月、経営者は鹿児島地方検察庁書類送検された。

個人の愛好家・過剰多頭飼育者(アニマルホ―ダ―)編集

動物好きが高じ、避妊・去勢手術をしない場合、動物が繁殖を繰り返すことで次第に手に負えなくなり、経済的にも破たんし崩壊する[9][10][11]。悪臭や鳴き声で近隣からの苦情が出ることが多い[12]

アニマルホーダーとは、精神疾患強迫性障害依存症収集癖)の一種で、自らの意思で動物を飼い始めたものの、適正飼育頭数を越えても動物を手放すことができない精神状態にあるもので、本人の治療と行政・ボランティアの介入なくしては回復することが困難である[13]。また、アニマルホ―ダ―の70%~80%が生活区域にペットの糞尿、死骸などを放置したままにするため、公衆衛生上深刻な問題化する場合が多い。アメリカ合衆国では1990年代より病理的な問題として、タフツ大学動物愛護団体HSUS(The Humane Society of theUnited States)との共同研究が始まり、アニマルホ―ダ―に関する数多くのデータと問題解決に向けたマニュアルが公開されている[12]

ボランティア・多頭飼育者編集

善意のレスキュー活動であるシェルター英語版としてボランティアを行っているケースでは、周囲から次々に不要になった動物を押し付けられるなどが相次ぐことで、適正飼育頭数を超えてしまい、飼育者の病気や不慮の事故などが引き金となって突然崩壊する。これは前者のアニマルホーダーと同様である[12]。※(次項、「二次崩壊を参照」)

二次崩壊編集

民間の動物愛護などのボランティア団体や、個人が崩壊した飼い主に介入し、ペットを保護する場合があるが、保護する頭数が許容能力を超えた場合には、ボランティアが飼育不可能となる”二次崩壊”を起こすケースも報告されている[13][1]

法的規制編集

日本では2012年から動物の愛護及び管理に関する法律により、飼い主の義務が以下に課せられている[13]

第七条  動物の所有者又は占有者は、命あるものである動物の所有者又は占有者として動物の愛護及び管理に関する責任を十分に自覚して、その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、生活環境の保全上の支障を生じさせ、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない。
(中略)
5  動物の所有者は、その所有する動物がみだりに繁殖して適正に飼養することが困難とならないよう、繁殖に関する適切な措置を講ずるよう努めなければならない。

第三十七条  犬又は猫の所有者は、これらの動物がみだりに繁殖してこれに適正な飼養を受ける機会を与えることが困難となるようなおそれがあると認める場合には、その繁殖を防止するため、生殖を不能にする手術その他の措置をするように努めなければならない。 2  都道府県等は、第三十五条第一項本文の規定による犬又は猫の引取り等に際して、前項に規定する措置が適切になされるよう、必要な指導及び助言を行うように努めなければならない。

第四十四条2  愛護動物に対し、みだりに、給餌若しくは給水をやめ、酷使し、又はその健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束することにより衰弱させること、自己の飼養し、又は保管する愛護動物であつて疾病にかかり、又は負傷したものの適切な保護を行わないこと、排せつ物の堆積した施設又は他の愛護動物の死体が放置された施設であつて自己の管理するものにおいて飼養し、又は保管することその他の虐待を行つた者は、百万円以下の罰金に処する。

— 動物の愛護及び管理に関する法律

日本においてペット民法上、個人が占有する財産であり、日本国憲法第29条第1項の規定により財産権が保障されている。よって単に「何頭以上飼ってはいけない」等、複数頭・多頭飼育を禁止することはできない。動物の愛護及び管理に関する法律に基づき、「多数の動物の飼養又は保管に起因して周辺の生活環境が損なわれている事態が生じていると認められる場合」については、日本国憲法第29条第2項にいう「公共の福祉に適合するように」、都道府県が調査し、改善を指導、勧告、命令することができる、とされているものの、「過剰多頭飼育状態である」というだけの理由をもって行政当局による取り締まりや動物の没収はできない。環境省はパンフレット[14]を作製・配布し、安易に複数の頭数・種類の動物を飼育しないよう、また飼育する場合も十分に注意するよう呼び掛けており、多頭飼育の危険性の周知を行っているほか、都道府県も適正な動物飼養に関するガイドラインを定めている。

飼育頭数に関する法的規制編集

いずれも飼育頭数の届出義務に関する規定である。

  • 化製場等に関する法律
    • 第九条  都道府県の条例で定める基準に従い都道府県知事が指定する区域内において、政令で定める種類の動物[15][16]を、その飼養又は収容のための施設で、当該動物の種類ごとに都道府県の条例で定める数以上に飼養し、又は収容しようとする者は、当該動物の種類ごとに、その施設の所在地の都道府県知事の許可を受けなければならない。
  • 埼玉県動物の愛護及び管理に関する条例 第七条の二・埼玉県動物の愛護及び管理に関する条例施行規則 第三条(合わせて10頭以上飼育する場合の届出義務)
  • 山梨県動物の愛護及び管理に関する条例 第十三条(犬猫合わせて10頭以上飼育する場合の届出義務と繁殖制限義務)
  • 滋賀県動物の愛護及び管理に関する条例 第6条の2(犬猫合わせて10頭以上飼育する場合の届出義務)
  • 佐賀県動物の愛護及び管理に関する条例 第5条(犬猫合わせて6頭以上飼育する場合の届出義務と周辺住民への説明努力規定)
  • さいたま市動物の愛護及び管理に関する条例 第9条の2・さいたま市動物の愛護及び管理に関する条例施行規則 第3条(犬猫合わせて10頭以上飼育する場合の届出義務)

以下は指定した地域における飼育頭数を規制した条例であるが、現在は適用されていない。

  • 鳥取県民に迷惑をかける犬又は猫の飼育の規制に関する条例 第2条・第3条(知事が指定した規制地域において犬猫合わせて10頭以上飼育することを禁止[17]。条例の適用期限は平成22年3月31日)

脚注編集

  1. ^ a b c 日刊SPA! 2013年1月9日.
  2. ^ 猫舎の迷宮 180匹「過剰多頭飼育」の現場ルポ 北九州市2016年5月14日 朝日新聞「Sippo」 当事例の飼い主は私財を投じて動物の救済活動をしていたつもりであり、動物虐待状態であるとは認識していない、という。
  3. ^ 多頭飼育崩壊の「実態知って」 朝霞猫虐待死に専門家訴え2017年6月8日 産経新聞
  4. ^ 多頭飼育崩壊~ペットの飼い主になにが~”. NHK特報首都圏. NHK (2015年6月12日). 2017年5月12日閲覧。
  5. ^ クローズアップ現代 2016年11月15日.
  6. ^ a b 猫とネコとふたつの本棚
  7. ^ 猫ブームの光と陰 飼い主探し目的も 10年で100倍「猫カフェ」多様化2016年10月28日 毎日新聞「経済プレミア」
  8. ^ 「猫カフェ」、経営者失踪で廃業の悲惨 店内には「汚物とゴミと猫の死骸」2017年6月30日 J-CASTニュース
  9. ^ どうなる置き去り猫たち 飼い主が埼玉・深谷市長脅迫容疑で逮捕 「120匹いる」と当人(1)2016年11月21日 産経新聞
  10. ^ どうなる置き去り猫たち 飼い主が埼玉・深谷市長脅迫容疑で逮捕 「120匹いる」と当人(2)2016年11月21日 産経新聞 生活保護を受給していた飼い主が「保護活動」と称して120頭を超える猫を占有し、飼育費用等に充てるためネット上で募金集めをしたところ、賛同者・支援者が送金。この金を深谷市収入とみなし、生活保護を停止。支給した金の一部返還を請求した。これに腹を立てた飼い主がネット上で小島進・深谷市長に殺害予告。2016年11月、飼い主は小島市長に対する脅迫容疑で逮捕された。逮捕前、飼い主は猫が増えすぎて世話ができなくなり、汚物や害虫などを放置し劣悪・不衛生な環境で飼育。埼玉県動物指導センターの職員が見回り、給餌などの支援を行っていたものの、飼い主は行政の指導や猫を手放すことを拒否していたため、ボランティア団体等も猫譲渡の斡旋ができず、一部の猫は死亡した。逮捕後飼い主不在となり、多頭飼育崩壊状態に至った。その後市長に対する脅迫容疑については不起訴処分となった。結局家賃滞納により2017年2月9日、裁判所より強制執行勧告が出され、退去させられることになったが、2月8日までに支援者らが飼い主・猫とも連れ出したという。3月9日強制執行となり、汚物やゴミ・猫の遺骸などが処理された。
  11. ^ 室蘭 空き家から76匹の猫2017年8月31日 NHK 北海道内における多頭飼育崩壊は2016年度中少なくとも32件確認されており、2017年度に入ってからも7月、札幌市で1DKの部屋から猫110頭・犬1頭が保護されている。
  12. ^ a b c アニマルウェルフェア推進ネットワーク - 過剰多頭飼育者(アニマルホ―ダ―)とは
  13. ^ a b c 尾形良子、今野洋子「動物愛護をめぐる課題(1)多頭飼育崩壊の背景と変遷」第6巻、2014年NAID 110009905760
  14. ^ 「もっと飼いたい?」犬や猫の複数頭・多頭飼育を始める前に2011年3月 環境省(pdf)
  15. ^ 化製場等に関する法律施行令第一条  化製場等に関する法律第九条第一項の政令で定める動物の種類は、次のとおりとする。 一、二、三、四めん羊、五やぎ、六、七(三十日未満のひなを除く。)、八あひる(三十日未満のひなを除く。)、九その他その飼養又は収容に関して公衆衛生上の配慮が必要な動物として都道府県の条例で定める動物
  16. ^ 化製場等に関する法律施行令第五条 化製場等に関する法律第九条第一項の規定による動物の数は、次の各号に掲げる動物の種類に応じ、当該各号に定めるとおりとする。 一牛1頭、二馬1頭、三豚1頭、四めん羊4頭、五やぎ4頭、六犬10頭、 七鶏(三十日未満のひなを除く。)100羽、八あひる(三十日未満のひなを除く。)50羽
  17. ^ 本条例は鳥取県八頭郡船岡町(当時。現・八頭町)において発生した特定の多頭飼育問題に端を発する条例であり、該当の問題が解消したため、2007年鳥取県議会において適用期限が付され、2010年をもって適用期限が満了している。1998年に鳥取県外から船岡町に転入した動物繁殖業者が、住宅地内において犬80頭以上を飼育し、鳴き声の騒音や悪臭の発生による周辺住民からの苦情が相次いだことから、県が業者に対して数度の文書指導を行った。しかし県が繰り返し指導しても業者が改善に応じず、周辺住民が「生活環境が悪化した」として鳥取地方裁判所提訴する事態に発展した。県は2002年6月、業者に対し動物愛護管理法による改善勧告、同8月には改善命令を出した。しかしなおも状況が改善しなかったため、同12月、県議会定例会に「鳥取県民に迷惑をかける犬または猫の飼育の規制に関する条例」案が提出され、可決された。同月、同条例に基づき片山善博鳥取県知事が船岡町を規制地域に指定し、動物の多頭飼育を禁じた。同月のうちに業者は県内他自治体に転居した。『多頭飼育の現状 (都道府県等アンケート)』2011年 環境省(pdf)

出典編集

関連項目編集

参考サイト編集