戦争は女の顔をしていない

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチによる著作

戦争は女の顔をしていない』(せんそうはおんなのかおをしていない、: У войны не женское лицо)は、1985年出版スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチによるベラルーシノンフィクション小説第二次世界大戦独ソ戦においてソビエト連邦軍に従軍した女性たちの証言をまとめた戦争文学である[1]。著者の処女作であり、2015年ノーベル文学賞を受賞した。

戦争は女の顔をしていない
У войны не женское лицо
著者 スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ
発行日 1985年
発行元 Mastatskaya Litaratura
ジャンル

ノンフィクション、長編小説

第二次世界大戦におけるソビエト連邦の女性
白ロシア・ソビエト社会主義共和国
言語 ロシア語
形態 文学作品
ページ数 320
次作 The Last Witnesses
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概要 編集

 
前線に出発するソ連軍の女性兵士たち

1985年に出版されたアレクシエーヴィッチのデビュー作である[1]。アレクシエーヴィッチは雑誌記者だった30歳代、1978年から500人を超える女性たちから聞き取り調査を行った。本は完成したものの、2年間出版を許可されず、ペレストロイカ後に出版された。ベラルーシの大統領であるアレクサンドル・ルカシェンコは祖国を中傷する著書を外国で出版したと非難し、ベラルーシでは長らく出版禁止になっていた[2]

この書籍は、1980年代の終わりまでに200万部の発行部数を記録した[3]

関連作品 編集

 
本作品が初めて戯曲化されたオムスク・ドラマ劇場

本作品は1985年から戯曲化されており、初演はシベリアのオムスクにあるオムスク・ドラマ劇場ロシア語版だった。本作品がベストセラーになった時にソ連で上演され、ロシア各地や国外で巡業を重ねて公演回数は2021年時点で100回以上となる。上演時間は2時間半におよび、役作りのためにキーウに住む元女性兵士に会いに行ったという俳優もいる[注釈 1][5]

2019年、本作を原案とした映画戦争と女の顔』がロシア映画監督であるカンテミール・バラーゴフロシア語版によって製作され、第72回カンヌ国際映画祭ある視点」部門で監督賞、国際映画批評家連盟賞を受賞した[6]

受賞 編集

日本語版 編集

日本語版は2008年に、三浦みどり訳でロシア文学専門の出版社である群像社で刊行された。

2015年10月に群像社は、アレクシエーヴィチのノーベル賞受賞を受け、1000冊の増刷を予定していたが[8]、著者の著作権を管理する代理人から権利消失のため出版できないと通知されたことを公式サイトで公表した[9][10][11]

岩波書店が翻訳権を獲得して2016年に再刊された。

  • 『戦争は女の顔をしていない』 群像社(2008年7月)ISBN 978-4-903619-10-1
  • 『戦争は女の顔をしていない』 岩波現代文庫(2016年2月)ISBN 978-4-00-603295-1

漫画 編集

2019年4月27日からウェブコミック配信サイトComicWalkerKADOKAWA)で漫画の連載が始まり、2020年1月27日に同社よりコミックス第1巻が発売されている。小梅けいとが作画を担当し、速水螺旋人が監修をしている[12]。単行本第1巻の帯には、富野由悠季が推薦文を寄稿[13]。2023年4月時点で累計70万部を突破している[14]

2021年7月、第50回日本漫画家協会賞が発表され、まんが王国とっとり賞に本作が選出されている[15]。2023年5月1日から5月7日まで、単行本第4巻の発売を記念し、京浜東北線根岸線にて貸し切りの中吊り広告を展開[16]

PV 編集

コミックス発売に合わせて、漫画のコマを利用したプロモーションビデオが作られ、YouTubeで公開されている[22]

PVには、軍医・ブレウス大尉のエピソード(漫画第2話)[23]や書記・ヴィレンスカヤ軍曹、ソ連初の女性機関士・アレストワ機関士、射撃手・アフメートワ二等兵のエピソード(漫画第7話)[18]が使われている。

主なキャスト
ブレウス大尉/ナレーション:日笠陽子[22]
ヴィレンスカヤ軍曹/ナレーション:田中敦子[18]
アレストワ機関士:高山みなみ[18]
アフメートワ二等兵:水田わさび[18]

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ オムスクは演劇が盛んな都市で、伝統的なロシア演劇であるゴーゴリ、ドストエフスキー、チェーホフなどの作品の他に安部公房や三谷幸喜などの作品も上演している[4]

出典 編集

  1. ^ a b 【話題の本】『戦争は女の顔をしていない』 埋もれた声が伝える戦争”. 産経ニュース (2020年5月9日). 2021年1月30日閲覧。
  2. ^ 戦争は女の顔をしていない”. 岩波書店. 2021年1月30日閲覧。
  3. ^ Светлана Алексиевич получила Нобелевскую премию по литературе — первую в истории Беларуси
  4. ^ アレクシエーヴィチ他 2021, p. 49.
  5. ^ アレクシエーヴィチ他 2021, pp. 49–50.
  6. ^ 「戦争は女の顔をしていない」が原案 カンヌ国際映画祭2冠「戦争と女の顔」7月公開決定”. 映画.com (2022年4月7日). 2022年9月22日閲覧。
  7. ^ Nagroda im. Ryszarda Kapuścińskiego”. www.press.pl. 2020年2月2日閲覧。
  8. ^ 群像社、『戦争は女の顔をしていない』を1000部重版(2015年10月15日) 出版・書店 業界 NEWS BOOKSルーエ、2020年02月26日閲覧。
  9. ^ アレクシエーヴィチの本の販売について”. 群像社. 2020年2月26日閲覧。
  10. ^ 【群像社】ノーベル文学賞作家に増刷を断られた中小出版社、健気な声明(全文)”. HUFFPOST (2015年10月23日). 2020年2月26日閲覧。
  11. ^ ロシア文学と共に30年—群像社 島田進矢氏に聞く”. 公益財団法人ニッポンドットコム (2015年12月30日). 2020年2月26日閲覧。
  12. ^ 戦争は女の顔をしていない”. ComicWalker. 2019年5月1日閲覧。
  13. ^ a b “「戦争は女の顔をしていない」小梅けいとによるコミカライズ版1巻が発売”. コミックナタリー (ナターシャ). (2020年1月27日). https://natalie.mu/comic/news/364765 2022年3月31日閲覧。 
  14. ^ 「戦争は女の顔をしていない 4 4月27日(木)発売」『電撃マオウ』2023年6月号、KADOKAWA、2023年4月26日、337頁、ASIN B0C1ZC9F75 
  15. ^ “日本漫画家協会賞、今年の大賞は「鬼滅の刃」「NEW NORMAL!」”. コミックナタリー (ナターシャ). (2021年7月26日). https://natalie.mu/comic/news/438319 2022年3月31日閲覧。 
  16. ^ “「戦争は女の顔をしていない」戦争の二面性を表す黒と白の電車中吊り広告を展開”. コミックナタリー (ナターシャ). (2023年5月1日). https://natalie.mu/comic/news/522901 2023年5月1日閲覧。 
  17. ^ 戦争は女の顔をしていない 1”. KADOKAWA. 2020年2月26日閲覧。
  18. ^ a b c d e 「戦争は女の顔をしていない」を田中敦子、高山みなみ、水田わさびらが朗読”. コミックナタリー (2020年12月25日). 2021年1月22日閲覧。
  19. ^ 戦争は女の顔をしていない 2”. KADOKAWA. 2020年12月31日閲覧。
  20. ^ 戦争は女の顔をしていない 3”. KADOKAWA. 2022年3月31日閲覧。
  21. ^ 戦争は女の顔をしていない 4”. KADOKAWA. 2023年4月27日閲覧。
  22. ^ a b 『戦争は女の顔をしていない』試し読みPV(CV:日笠陽子ほか)”. YouTube KADOKAWAオフィシャルチャンネル (2020年1月26日). 2021年1月30日閲覧。
  23. ^ ノーベル文学賞作家の「戦争は女の顔をしていない」コミカライズ第1巻発売 試し読みPVには日笠陽子出演”. 映画.com (2020年2月3日). 2021年1月30日閲覧。

参考文献 編集

関連文献 編集

  • 越野剛「スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ作品の形式的側面について」『国際シンポジウム「文化の汽水域 : 東スラヴ世界の文化的諸相をめぐって」報告集』、東京外国語大学 沼野恭子研究室、2017年12月、5-13頁、2024年4月3日閲覧 
  • 服部倫卓, 越野剛 編『ベラルーシを知るための50章』明石書店〈エリア・スタディーズ〉、2017年。 
    • 越野剛『ノーベル賞作家アレクシエーヴィチの文学の世界――戦争・原発事故・社会主義』。 

外部リンク 編集