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特型警備車(とくがたけいびしゃ)は、日本の警察が装備している装甲車の公式な装備名称である。都道府県警察本部機動隊に配備されている。

来歴編集

連合国軍占領下の日本では、一度は戦前に編成されていた警備隊が全廃されたものの、その後は警視庁予備隊に代表されるように集団警備力の再興が進んでおり、独立回復後には全国で機動隊の設置も開始された。これらの部隊は、進駐軍(GHQ)から供与されたフォード製CMPシリーズの砲兵トラクター[注 1]、日本軍の九五式軽戦車や九七式中戦車などを改造した放水車や装甲車を使用していた[1]

しかしこれらの車両は、1960年代に入る頃には老朽化が激しく、更新用の新型車両が必要とされた[注 2]。このことから、70年安保闘争を控えて開発されたのが「特型警備車」であった[1]

F-3編集

特型警備車F-3型
基礎データ
全長 7.36 m[2]
全幅 2.49 m[2]
全高 2.2 m[2]
重量 11.16トン[2]
乗員数 14名[2]
装甲・武装
装甲 鋼板・防弾ガラス[2]
主武装 放水砲(口径18~22mm)[2]
副武装 銃眼8個[2]
機動力
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これに応じて製作されたのがF-3型であり、コマンドカーと通称された。これは三菱自動車・W80型トラックのシャシーに防弾鋼板製の車体を乗せたものであった[2][注 3]

このように、ボンネットトラックをもとに鉄板で覆ったような構造であることから、車両前面がまるで犬の顔のように飛び出している[1]。フロントガラスは厚さ32ミリで、また必要に応じて防護板で覆うこともできた。防護板を閉じた場合、上部にあるペリスコープを覗きながら運転することになる[2]

乗車定員は14名。車体は厚さ6ミリの防弾鋼板で構成されており、跳弾を避けるために多面傾斜形状で構成されている。暴徒によじ登られないよう、車体側面の突起物も極力廃されており、運転席への乗降の際には取り外し式のはしごを使用する。また車体下に潜り込まれないよう、側面下端は鋸歯状になっている。足回りの防弾のため、前輪には鋼板のホイールカバーを、また後輪部にはタイヤカバーを付けるが、このカバーはネジで止める脱着式であった[2]

車体には四方に向けて2ヶ所ずつの銃眼が用意された。車体上には放水砲(口径18~22mm)を備えた砲塔があり、水槽容量は1,500リットルであった。このほか、50ワットの拡声器と100ワットの投光器も備えていた[2]

本型は、1970年頃に12両が生産されて、東京・千葉・愛知・大阪の機動隊に配備された。特に警視庁の車両は1972年のあさま山荘事件で出動し、散弾銃やライフル銃の銃撃を受けつつ、放水や隊員輸送に活躍した[2]。しかし一方で、ベースが二輪駆動トラックであったうえに、底部への潜り込み防止のためグランドクリアランスも最低限とされたことから、山道など不整地の走破能力の限界が教訓となり、下記のF-7型の開発につながった[4]。F-3型は老朽化に伴って順次に廃止されていき、警視庁から栃木県警察に移籍したものが最後の1両となった。これはあさま山荘事件で出動した車両で、側面には事件のさいの弾痕が残っている[1]

F-7編集

 
三菱銀行人質事件の際に展開したF-7型(一番奥の車両)

上記の経緯から、機動力を重視した特型警備車として開発されたのがF-7型である。トラック用のコンポーネントを流用しているが、駆動方式は四輪駆動となり[4]、瓦礫やバリケードを乗り越えられるようになった[2]。また水深1メートル程度なら渡渉可能であり、これに備えて排気口は車体後方上部に設けられた。このような不整地踏破能力を確認するため、開発時には自衛隊の演習場で走行テストが行われた[4]

車体には初めてモノコック構造を採用して、床下にも防弾鋼板を施すことで、従来の警備車で欠けていた車体底部の爆発物への抗堪性も獲得した。車体上部にはひとり用の放水銃塔を搭載、車内レイアウトも前方が運転席、中央が乗員室、そして後部に機関室という、戦車と同じ配置を採用した。ただし悪路走破性を重視して開発されたために車内容積が小さく、F-3と比べて人員や物資の積載性で劣っていたことから、平時の運用性は低く、生産数はF-3型よりも少なかった[4]

PV-2編集

 
PV-2型 特型警備車
警視庁第3機動隊の所属車両
ルーフ部の装甲板を展開している

上記のように開発・配備された特型警備車も老朽化が進み、また自動車排出ガス規制に適合できない面も出てきたことから、更新が図られることになった。まず三菱ふそう・ザ・グレートをベースに放水砲を備えたPV-1が開発されたものの、大型で機動性に劣り、生産数は少なく、警視庁と大阪などに配備が確認されたのみとなっている[3]

続いて、同社のキャンターをベースにしたPV-2が開発され、こちらは広く配備された。製造は同グループで自衛隊向けの装甲戦闘車両を多く手掛けてきた三菱重工業が担当している。車体上には、従来の放水砲にかえて、防弾板を備えた銃座が配置された。この防弾板には目標を確認するための防弾ガラス窓と、銃口を出すための銃眼が付されており、360度全方向に対応できるよう、銃座の周囲を旋回させることができる。箱型の車体の両側面と後部ドアにも視察窓と銃眼が設置されている[3]

車内からの操作によりフロントガラス下部に内蔵された装甲板がせり上がり、フロントガラスを完全に覆う機能が設置されている。装甲板には十字スリット状の細長い覗見孔が開口されており、装甲板展開時には車体前方上部に内蔵されたTVカメラを使用してモニター画面を確認しながら運転を行うことが可能である。車内には、運転席と助手席に加えて、後部に6名の計8名が着座できる。密閉された造りのため、後部にはエアコンと換気扇も設置された。ベースとなるキャンターのモデルチェンジもあって、PV-2型もマイナーチェンジを重ねており、4代目からは側面にもドアが設けられた[3]

なお、同じくキャンターをベースにしつつ、フロントガラスの防弾板とルーフ上の銃座を省いて小型化したような設計の装甲車として、特型遊撃車も開発・配備されている[5]

銃器対策警備車編集

 
銃器対策警備車の後部ドアから降車展開するSAT隊員

銃器対策警備車は、三菱ふそう・スーパーグレートの除雪車用シャーシ(スーパーグレートFR)を使用した大型防弾装甲車であり、主に特殊部隊(SAT)が使用する[6]

二軸六輪(後輪はダブルタイヤ、前輪はワイドタイヤとなっている)の車両で、箱型の垂直面で構成された車体の両側面には銃眼が3個ずつ設置されており、観音開きの後部ドアにも銃眼が2個設置されている。フロント部の出っ張りには、家屋の解体などに使われるグラップルが収納されており、突入に際して使用する可能性が指摘されている。車両上部にも防弾盾を兼ねた開閉式の扉を装備する[6]

銃器対策警備車は警察庁の公開映像や各種訓練などに姿を現しており、北海道警察千葉県警察警視庁神奈川県警察愛知県警察大阪府警察福岡県警察沖縄県警察への配備が確認されている。

登場作品編集

実物
特型警備車、特にF-3型コマンドカーは、1972年に発生した「あさま山荘事件」に出動した車両がTVの報道映像に写っているものが有名であり、日本における「警察装甲車」の代表的映像/写真となっている。
その後も警視庁機動隊の出動した大規模警備を報道した映像には度々F-3型や小型コマンドカーが写っており、前述の東京都の排ガス規制で警視庁から移籍されるまでは、警視庁機動隊の"顔"とも呼べる車両であった。
日本では警察が映像作品に実際の部隊・隊員を動員して協力することはまずないため、特型警備車が創作作品に登場したことはないが、ニュース映像の流用という形で実際の特型警備車が撮影された映像が登場する例はある。
その他
人狼 JIN-ROH』(2000年)
架空の警視庁機動隊の装備車両として、F-3型コマンドカーそのままの装甲車両が登場している。
突入せよ! あさま山荘事件』(2002年)
F-3型コマンドカーのレプリカ車両が製作されて登場している。この車両は用途廃止で払い下げられた消防車を改造したもので、実車同様に放水を行うことが可能であった。
仮面ライダー555』(2003年)
上述のレプリカ車両が、警察車両として登場。オルフェノクを乗せて、主人公たちを襲撃する[注 4]
S -最後の警官-』(2014年)
テレビドラマ版の第1話で、PV-2型をモデルとした車両が登場。民間のトラックを改造して作っているため、車高が実物よりも高くなっている。漫画版では、SATがPV-2型や銃器対策警備車を、訓練などで使用する。

この他にも、創作作品で「警察の装甲車」が描写されている場合、特に"特型警備車"と明記されなくとも実在の特型警備車をモデルとした、あるいはほぼそのままの外観の車両が描写されている例は多い。

脚注編集

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注釈編集

  1. ^ イギリス軍で使用されていた"クォード・ガントラクター"の呼称で知られるものが数車種使用されていることが、当時の報道写真より伺える。1952年に発生した"血のメーデー"事件の報道写真では、フォード社製のFGT(Ford Gun Tracter)改造の「警視庁警備車」が写っている。FGTは1953年まで警視庁と大阪府警察で使用されていた。
  2. ^ ボンネットトラック(車種不明)に鉄板を張り、投光器および拡声器、バリケード排除用の金網製ドーザーを装備した「特別警備車」が少数生産され、警視庁に配備されているが、短期間の装備に終わっている。
  3. ^ 同社のT370をベースとするという説もある[3]
  4. ^ 仮面ライダーに登場した車両は放水砲ではなく機関銃を装備しているという設定となっていた

出典編集

参考文献編集

  • 『連合赤軍「あさま山荘」事件』(ISBN 978-4167560058)佐々淳行:著、文春文庫 1999年刊
  • 『警察裏バイブル―これが最新最強装備のすべて (別冊ベストカースペシャル)』(ISBN 978-4063468533) 講談社 2000年
  • 『Strike And Tactical ストライク・アンド・タクティカルマガジン No.27(2008年5月号)/No.31(2009年3月号) 』SATマガジン出版 2008/2009年
  • 菊池, 雅之 (2018年6月9日). “テロへの備え、警察の「特型警備車」誕生の背景 初代には「あさま山荘事件」の弾痕も”. 乗りものニュース. https://trafficnews.jp/post/80346 
  • 『機動隊パーフェクトブック』講談社ビーシー、講談社別冊ベストカー〉、2010年。ISBN 978-4063666137
  • 柘植, 優介 (2018年9月22日). “装甲車、警察はなぜ自衛隊のものを流用しないのか 独自開発を必要とした理由”. 乗りものニュース. https://trafficnews.jp/post/81538 

関連項目編集