貸切バス

バス会社との契約によって専用に運行されるバス

貸切バス(かしきりバス、英語: Private charter bus)は、団体がバス会社と契約して車両を運行する方式、あるいはその際に使用される車両のこと。

乗降口に「貸切」と記されている買い物バスの例(京成バス
パースのBusWestで運行している専用バスの例

日本道路運送法では、バス事業は乗合バスおよび貸切バス(一般旅客自動車運送事業)と、特定バス(特定旅客自動車運送事業)の3つに分類される[注釈 1]。同法における貸切バスの正式名称は一般貸切旅客自動車運送事業である。

概要編集

本来、旅客輸送は請負によって契約が成立しているが[1]日本においてバス会社などが特に「契約輸送」等と呼ぶ場合[2][3]路線バスとは異なる、車両を占有して使用する契約を結んで運行する方式のことを示している。

一般的に、バスの所有、管理、運転には費用がかかるため、企業等の団体ではバス会社から車両と資格を保有する運転士を数時間、1日、2日あるいは長期的に借りる契約をする。例えば、学校法人からの依頼によって運行するスクールバス企業からの依頼によって運行する送迎バス旅行会社からの依頼によって運行する観光バスなどがある。

貸切バス事業者は完全に独立した事業である場合もあれば、公共交通事業者そのもの[4]、あるいはその子会社として、別の車両を保有するか、余剰になっているバス、長距離バス、または多目的長距離バスを使用する場合がある。多くの民間タクシー会社も、グループ運賃に対応するためにマイクロバス車両を運行する。

企業、プライベートグループ、および社交クラブは、グループ会議やイベント、またはサマーキャンプなどの組織的なレクリエーション活動などにグループを輸送する費用効果の高い方法としてバスまたはコーチを利用する場合があり、学校では、子供たちの送迎のためにスクールバスを運行したり、コンベンション、展示会、遠足への移動にも利用している。

民間企業は、ホテル、遊園地大学のキャンパス、または民間の空港送迎サービスなど、顧客や常連客の輸送のために、民間のシャトルバスサービスを契約することがある。このシャトルバスは、場所間の移動、または駐車場と会場との間の移動に用いられる。娯楽会社やイベント会社は、お祭りや会議などのイベントでの輸送のために一時的なシャトルバスを雇うこともある。豪華な仕様のバスは、多くの場合、役員またはVIP輸送のために企業によってチャーターされる。

貸切バスは観光のほか、宣伝広告にも使用される。パーティーバスは、リムジンのレンタルと同様の方法で、社交イベントへの豪華な専用交通機関として、またはツアー体験として利用される。スリーパーバス英語版は、娯楽施設間をツアーし、移動式の休憩施設やレクリエーション施設を必要とするバンドやその他の組織によって使用される。一部のカップル等には、伝統的な車の代わりに、結婚式の輸送のために保存されたバスを利用する。バスはしばしばパレードや行列のために利用され、多くの場合、オープントップバスで故郷や都市をツアーする勝利のスポーツチームのために用意される。スポーツチームは、チームバス、アウェイゲーム、競技会、または最終イベントへの移動に利用する。これらのバスは、多くの場合、チームの色と一致するカラーリングで特別に装飾されている。

日本におけるCOVID-19ワクチン接種に貸切バスを用いる場合、接種会場へのシャトル輸送はもちろんであるが、バス自体を接種会場や休憩場所として利用することもある[5][6]

学校の修学旅行や遠足などの行事、社員旅行など、団体で貸し切っての運行が多く、拾い集めることはあっても乗客は固まって行動し、客扱いは一団となって行われる。停留所があるわけでもないので、乗り降りは路線バスに比べると少ない回数となる。また、団体の中に添乗員と呼ばれる世話人なり幹事がいる場合、情報伝達はその世話人などを通して行うので簡単に行える。乗客が均質なことが多く、トラブルの発生は少ない。

運営編集

事業編集

日本の貸切バス事業は従来は免許制で、多くは路線バス事業も展開している日本国有鉄道(現JRバス)、私鉄系・大手専業系バス会社が貸切バス事業も行っていたが、2000年道路運送法が改正され[7]規制緩和によりバス事業自体が免許制から許可制に変わり、貸切バスを中心に異業種や中小の新規事業者の参入が相次ぎ[8]、2012年には4,536社(1999年の2,336社から194%増)まで増加した[9]。同時に既存のバス会社でも主として経営効率化の見地から、貸切バス事業を含むバス事業の分社化や統廃合などの業界再編が盛んに行われている。

2000年代中頃からは、インバウンド需要の高まりを受け、訪日外国人旅行客の輸送を専門とする事業者の新規開設が相次いだ。このような事業者の中には、免税店[注釈 2]や外国資本の企業[注釈 3]が母体となっているものもある。

安全対策編集

規制緩和の結果として競争が激化し、事業者の経営が不安定となり、乗務員は少ない人員による長時間勤務を強いられ、過労や賃金の低下など労働条件の悪化が指摘されている[10]

2007年には吹田スキーバス事故が発生した。同年2月21日の毎日新聞によると、労働基準法などに違反するとして、2005年に行政指導を受けたバス会社が全国で85社に上ると報じられた。これは法改正された2000年の20社に比べて4倍以上に増加したことになる(ただし規制緩和により小規模の貸切バス事業者が多数参入したため母数自体が増えている)。

日本バス協会では吹田スキーバス事故を契機として、2011年(平成23年)より「貸切バス事業者安全性評価認定制度[11]」を開始した。申請は貸切バスを3年以上営業している事業者の任意で、安全性に対する取り組み状況を協会が審査し、評価された事業者名を公表する。評価レベルは1~3の星の数で示され、星付きの認定シールをバス車体に貼ることができる。

また国土交通省は、2012年の関越自動車道高速バス居眠り運転事故発生を受けて、翌2013年に「高速・貸切バスの安全・安心回復プラン」を策定し、事業者に対して安全を確保するための基準強化を行い[12]、従来の「高速乗合バス」と「高速ツアーバス」を統合した「新高速乗合バス」を制定し[13]、制度を厳格化した。これによって貸切バス事業者数は減少に転じ、2019年時点で4,004社となった[14]

国土交通省ネガティブ情報等検索サイトでは、過去の3年間に行政処分を受けた貸切バス事業者を検索できるほか、各地方運輸局の公式サイトでも行政処分情報を公表している[15]

また、貸切バス手配の際に介在する「ランドオペレーター」についても、総務省は「貸切バス等の安全確保対策に関する行政評価・監視」の中間公表において、「ランドオペレーターに対する法規制の仕組みの構築」の必要性を検討している[16]

運賃・料金編集

貸切(観光)バス会社は、時間・距離に応じて運賃の上限・下限を定めて各運輸局に届け出ている。従って運賃は自由に決められるものではなく、上限運賃を上回ったり、下限運賃を下回ることは道路運送法[注釈 4]違反であり、違反した場合、行政処分[注釈 5]もある。また、貸切バスを配車できる事業者は出発地・到着地いずれかに営業区域(都道府県単位)を有する事業者でなければならなく、全国どこでも配車できるわけではない[注釈 6]

運賃の計算については以下の通りに定められている[17]

  1. 時間あたり運賃 × [当該貸切バス事業者の1日あたり走行時間(X時間) + 2時間(点呼点検時間)] = 日車時間運賃額(時間制運賃)
  2. キロあたり運賃 × [当該貸切バス事業者の1日あたり走行時間(Yキロ)] = 日車キロ運賃額(キロ制運賃)
  3. (日車時間運賃額 + 日車キロ運賃額) × 365日 × 実働率 = 年間運賃額
  • 時間制運賃 - 実拘束時間に時間賃率を乗じる。出庫・帰庫点検2時間+3時間(3時間未満は3時間として計算される)計5時間は最低保証となり、1時間以内の利用であっても5時間と計算する。1日当たり13時間(拘束時間)を上限とし、2日以上は1日平均9時間を上限とする(待機料金も時間制運賃に計算する)。航走料金として、フェリーによる航走時間も8時間未満のものは時間制運賃の対象とする。
  • キロ制運賃 - 走行キロに1kmあたりの運賃額を乗じる。各運輸局管内にて上限額・下限額が決まっている。出庫から帰庫までの回送区間を含んだ距走行距離で、10km未満の場合は10kmとして計算する。

また、以下の項目について、金額を事業者の裁量で設定できることとなっている[17]

  • 深夜早朝運行料金 - 22時から翌5時の間に時間単位で適用する(最大2割増)。
  • 交代運転者配置料金 - 長距離・長時間・夜間運行の際に交代運転手を配置した場合に適用する(時間制運賃+キロ制運賃で計算する)。
  • 特殊車両割増料金 - 最大5割増となる。

乗務の制限編集

貸切バスの勤務時間は国土交通省の勤務時間等基準告示[注釈 7]に定められており、1日の拘束時間は原則13時間以内、運転時間は2日を平均して1日あたり9時間以内でかつ連続運転時間は4時間以内と定められている。貸切バスの高速道路走行を伴う運行では、先の「1日あたりの運転時間9時間」に相当する乗務距離の上限は670kmと定められている。670kmを超えて運行する場合は別の運転者を用意、つまり「2人乗務」としなければならない。これは国土交通省の指針[注釈 8]である。

脚注編集

注釈編集

  1. ^ 特定バスによる送迎バスは、貸切バスとは許認可の条件など法的位置付けが異なる。相違については特定バスの項を参照。
  2. ^ ワールドキャビン(「ALEXANDER&SUN」系列)、ケイ・エス・エバーグリーン観光及び子会社のジャパン・グリーン(「光伸真珠」系列)など。
  3. ^ 外資系の観光バス事業者としては、2004年に韓国の旅行会社「株式会社旅行博士」の出資により設立された旅行博士観光バス(母体変更により2008年、トラベル・テースト・ジャパンに改称)が初である。[要出典]その後、サンスターライン(「パンスター」系列)、友愛観光バス(「ハナツアー」系列)、スプリングワールドバス(春秋航空春秋航空日本の母体である上海春秋国際旅行社系列)などの事業者が設立されている。[要出典]
  4. ^ 30条2項及び9条の2第1項、事業の健全な発達を阻害する競争をしてはならない。
  5. ^ 警告処分や再違反の場合、事業用自動車の使用停止。
  6. ^ 道路運送法第20条、発地及び着地のいずれもがその営業区域外に存する旅客の運送をしてはならない。
  7. ^ 「事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準」
  8. ^ 「一般貸切旅客自動車運送事業に係る乗務距離による交替運転者の配置の指針」

出典編集

  1. ^ 「運送」に関する契約であることの要件|国税庁”. www.nta.go.jp. 2022年7月28日閲覧。
  2. ^ 貸切バス(契約輸送など)|貸切バス|貸切バスの阪急観光バス(大阪)”. www.hankyu.k-bus.co.jp. 2022年7月28日閲覧。
  3. ^ 契約輸送(企業・自治体等)” (日本語). 株式会社茅ヶ岳観光バス. 2022年7月28日閲覧。
  4. ^ 貸切バス 横浜市交通局
  5. ^ ワクチン接種バスについて 堺市
  6. ^ ワクチン接種バスは近鉄バスにご用命ください!! 近鉄バス
  7. ^ 貸切バス事業者を取り巻く現状”. 国土交通省. 2022年7月29日閲覧。
  8. ^ 国土交通白書”. www.mlit.go.jp. 2022年7月28日閲覧。
  9. ^ 香川 正俊「交通事業における規制緩和と安全性」2017年、2022年7月29日閲覧。
  10. ^ スキーバス事故から1年、違法運行なくせるか | ローカル線・公共交通” (日本語). 東洋経済オンライン (2017年3月7日). 2022年7月28日閲覧。
  11. ^ 動画でみる・認定制度早わかり 日本バス協会
  12. ^ 輸送の安全を確保するための貸切バス選定・利用ガイドライン (PDF)”. 国土交通省自動車局 (2014年4月1日). 2014年5月28日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2017年4月5日閲覧。
  13. ^ 「新高速乗合バス」について”. 国土交通省 自動車局. 2022年7月29日閲覧。
  14. ^ 規制緩和(2000年2月~)後の貸切バス事業の状況”. 全国自動車交通労働組合総連合会. 2022年7月29日閲覧。
  15. ^ 一般貸切旅客自動車運送事業者に対する行政処分等の状況 国土交通省関東運輸局
  16. ^ “貸切バス等の安全確保対策に関する行政評価・監視「ランドオペレーター」に関する中間公表” (日本語) (プレスリリース), 総務省, (2017年3月31日), https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/000112999_00001.html 2017年4月5日閲覧。 
  17. ^ a b 貸切バス新運賃・料金制度説明会 貸切バスの新たな運賃・料金制度について”. 国土交通省 (2014年5月16日). 2022年7月29日閲覧。

関連項目編集