農家

農業を家業としている世帯や、その家屋

農家(のうか、英語: Farmer)とは、農業家業としている世帯や、その家屋のこと。農民百姓などともいう。農家の定義は、時代や地域によって変わってくる。

概要 編集

農家とは農業(農耕)によって生計を立てている人、あるいはその家庭・共同体のことである。農家が栽培する植物のことを農産物(または農作物)という。狩猟採集民であった人類が農耕を発明したことで誕生し、爆発的な人口増加により増え続け、有史以来の人類の大半がある時代までは農業従事者だった。現代では工業化社会へ移行して農業が機械化され、少ない農業従事者でも耕作が行えるようになったため、その数を減らしている。

農業を経営する主体としては、途上国におけるプランテーションや旧社会主義国における集団農場(コルホーズソフホーズなど)など例外もあるが、世界的に家族が主流となっている。こうした背景があるため、農業を経営する主体をさして使われる、農業経営体、農業経営者、農業者といった呼称も、それが家族によって担われている農家を想定している場合が多い。

一般に先進国では労働力人口の1~数%に過ぎない農家が、他の人々のための食料を生産している。とはいえ世界全体で見れば、家族やそれに近い単位での農業は依然として重要な存在であり、国際連合食糧農業機関(FAO)などは2019年に「家族農業の10年」をスタートさせた[1]

日本の農家 編集

 
明治時代初期の農民たち

明治時代からの日本では、一貫して専業農家の数が兼業農家の数を圧倒していたが、1930年代後半から兼業農家の比率が増加し始めた。1950年前後に専業農家と兼業農家の数がほぼ同数になって以後は兼業農家の数が専業農家の数を圧倒してきた。けれども近年は兼業農家の著しい減少により状況は変わりつつある[2]認定農業者への農地の集約も進んでいるため、農家数と農業生産量は必ずしも比例しない。また食料の純輸入国であり、他産業の利潤により、他国の農民から余剰の農産物を購入する形になっている。

農林水産省統計部による2020年の統計では、販売農家102.8万戸、自給的農家71.9万戸である[3]

農業経営体としての農家 編集

日本の場合、第二次世界大戦後に実施された農地改革が、現在の農家のあり方を大きく規定しており、農家が今日の姿に至るまでの変化を捉えようとした場合の一応の出発点とみなしうる。こうした側面を強調する場合は、戦後自作農という呼称が用いられる。この戦後自作農が戦前のような小作農へと転落することを防止することが、戦後の農業政策の主要な目的の一つであった。そのため、農地に関する制度を中心として農家を保護する政策がとられる一方で、家族以外が農業経営体となることには様々な制限が加えられてきた。しかし、こうした制限は徐々に緩和され、まず有限会社や農業協同組合法に基づく農事組合法人などの形態で農家が法人化することが認められ、最近では、特区によって株式会社の農業への参入が認められている地域もある。なお、節税などの目的で法人化した場合でも、経営の内実が家族経営と同等とみなしうる場合も多く、通常はこれらも農家とよばれている。

農業経営体としての農家の特徴は、農業経営を行う主体と家計の単位となる主体が未分離であることである。農業経済学農業経営学においては、このことが経営体としての農家の発展を阻害しているという考え方が主流であり、主要な研究テーマとなってきた。農業政策においても、基本的には家族を主要な担い手と想定しつつ、その発展を図ることが意図されてきた。1961年に制定された農業基本法ではこうした考え方を反映し、農工間の所得格差が拡大したことを背景として、「自立経営の育成」が目標として掲げられた。これは、規模拡大や機械化など、農業近代化の方向での経営の発展を目指したものであったが、近年では消費者ニーズの多様化、農産物価格の下落・低迷傾向、資材・燃料等の値上がり等によるコスト増加、食品の安全性、環境への配慮など、農業経営体が考慮すべき課題は多様化している。農業基本法に代わって1999年に制定された食料・農業・農村基本法では、「自立経営の育成」という文言に代わって、「効率的かつ安定的な農業経営」という表現で育成すべき農業経営体のあり方を示している。

家族で農業を営むと、日常生活との境界や各員の役割分担、労働時間、報酬が曖昧になりやすいという問題がある。このため農林水産省は、経営方針や労働条件を明文化した「家族経営協定」を結ぶことを推奨している[4]。2020年度時点の締結数は前年度比1%増の5万9162戸で、新規あるいは再締結した農家に尋ねた理由は代替わりの事業承継時や新規就農が契機などが挙がった[5]

日本における定義と分類 編集

農家数
(千戸、千人)[6]
  販売農家 自給的農家 総農家 農家世帯員数[7] 基幹的農業従事者
1904年 - - 5,417 - -
1910年 - - 5,417 - -
1915年 - - 5,451 - -
1920年 - - 5,485 - -
1925年 - - 5,549 - -
1930年 - - 5,600 - -
1935年 - - 5,611 - -
1940年 - - 5,480 - -
1946年 - - 5,698 - -
1950年 - - 6,176 - -
1955年 - - 6,043 36,350 -
1960年 - - 6,057 34,410 11,750
1965年 - - 5,665 30,080 8,941
1970年 - - 5,342 26,590 7,109
1975年 - - 4,953 23,200 4,889
1980年 - - 4,661 21,370 4,128
1985年 3,315 914 4,229 19,300 3,465[注 1]
1990年 2,971 864 3,835 17,300 2,927
1995年 2,651 792 3,444 15,080 2,560
2000年 2,337 783 3,120 10,470 2,400
2005年 1,963 885 2,848 8,370 2,241
2010年 1,631 897 2,528 6,500 2,051
2015年 1,330 825 2,155 4,880 1,757
2020年 1,028 719 1,747 3,490[8] 1,363

日本では農家の定義は以下の通りである(農林水産省の用語解説[1] (PDF) による)。

  1. 経営耕地面積が10a(1000m2)以上の農業を営む世帯。
  2. 経営耕地面積が10a未満の時は、年間農産物販売金額が15万円以上の世帯。

1940年以前の分類 編集

専業農家
生業として農業のみを営む農家。
兼業農家
生業として農業を営む以外に他の生業を営む農家。

1941年以降2015年までの分類 編集

主副業農家の分類が定着したため2020年農業センサスでは調査を廃止した[9]

専業農家
世帯員の中に兼業従事者、すなわち自家農業以外の仕事に従事する者がいない農家。
第一種兼業農家
農業以外の仕事で収入を得ている農家のうち、農業の収入が主である農家。
第二種兼業農家
農業以外の仕事で収入を得ている農家のうち、農業以外の収入が主である農家。

1985年以降の分類 編集

販売農家
経営耕地面積30a以上または年間の農産物販売金額が50万円以上の農家。
自給的農家
経営耕地面積30a未満かつ年間の農産物販売金額が50万円未満の農家。

1990年以降の分類 編集

1990年の農業センサスにより、以下の分類を新設した。

主業農家
農業収入>農外収入 かつ65歳未満の農業従事60日以上の者がいる販売農家。
準主業農家
農業収入<農外収入 かつ65歳未満の農業従事60日以上の者がいる販売農家。
副業的農家
65歳未満の農業従事60日以上の者がいない販売農家。

農機具 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 今年度以降販売農家に限る

出典 編集

  1. ^ 国連「家族農業の10年」記念式典日本農業新聞』2019年5月31日(2019年6月21日閲覧)
  2. ^ 農家数・専兼別主副業別農家数の長期推移
  3. ^ 農林水産省/農家に関する統計
  4. ^ 家族経営協定 農林水産省(2019年6月21日閲覧)
  5. ^ 「家族協定で農水省初調査 継承・就農機に活用」『日本農業新聞』2021年12月4日1面
  6. ^ 農水省 農林業センサス累年統計
  7. ^ 農家人口などのデータ株式会社クボタ データで見る田んぼ
  8. ^ 農林業センサス 2020年
  9. ^ 2020年農林業センサス結果の概要(概数値)令和3年1月12日農林⽔産省

関連項目 編集

外部リンク 編集