1963年アメリカグランプリ

1963年アメリカグランプリ (1963 United States Grand Prix) は、1963年のF1世界選手権第8戦として、1963年10月6日ワトキンズ・グレン・グランプリ・サーキットで開催された。

アメリカ合衆国 1963年アメリカグランプリ
レース詳細
1963年F1世界選手権全10戦の第8戦
ワトキンズ・グレン(1956–1970)
ワトキンズ・グレン(1956–1970)
日程 1963年10月6日
正式名称 VI United States Grand Prix
開催地 ワトキンズ・グレン・グランプリ・サーキット
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 ニューヨーク州 ワトキンズ・グレン
コース 恒久的レース施設
コース長 3.701 km (2.30 mi)
レース距離 110周 407.11 km (252.97 mi)
決勝日天候 晴 (ドライ)
ポールポジション
ドライバー BRM
タイム 1:13.4
ファステストラップ
ドライバー イギリスの旗 ジム・クラーク ロータス-クライマックス
タイム 1:14.5 (50周目)
決勝順位
優勝 BRM
2位 BRM
3位 ロータス-クライマックス

レースは110周で行われ、BRMグラハム・ヒルポール・トゥ・ウィンを飾り、チームメイトのリッチー・ギンサーが2位、ロータスジム・クラークが3位となった。

レース概要 編集

初めてワトキンズ・グレンに来たフェラーリを含むチームがアメリカに来たとき、ジム・クラークは7戦5勝で既にチャンピオンを獲得していた。しかし、グレンで行われた本レースは、グラハム・ヒルBRMのものとなり、チームメイトのアメリカ人リッチー・ギンサーに30秒以上の差を付けて優勝した。クラークはダミーグリッド(F1で初めて使用)上でバッテリーが上がってしまい、1周以上取り残された後に猛追の末に3位[1]。フェラーリのジョン・サーティースは残り30周で首位走行中にエンジンが壊れ、ヒルがトップに立った。

金曜日の予選初日に、クラークのロータスは前年の予選タイム(1分15秒8)よりも速い1分15秒0のラップタイムを記録した。ヒルとサーティースがクラークに続き、3人がすぐに1分14秒台に突入した。ヒルのBRMはバックストレートでコースアウトしてしまい、森の木にヒットしてしまったが、セッションの終わりに1分13秒4の最速タイムを出した。ジャック・ブラバムは、グレンから20マイル(約32km)離れたエルマイラの空港でレンタカーやタクシーを見つけることができず、トラックをヒッチハイクしてサーキットへ来ることができた。

土曜日、ピーター・ブローカーステブロ(搭載されたフォード直列4気筒エンジンは、クライマックスとBRMのV8エンジンが約200馬力 (150 kW)だったのに対し、110馬力 (82 kW)しかなかった。シャシーも記録上は史上初のカナダ製F1マシンであったが、実際はカナダのスピードショップが作った無名のフォーミュラ・ジュニア[2]用である[3]。)がコース上にオイルを撒き散らした。セッションは30分中断したが、金曜日よりコースコンディションが悪かったため、グラハム・ヒル、クラーク、サーティース、ギンサー、そしてジャック・ブラバムとダン・ガーニーのブラバム勢がトップ6に入った。ギンサーとガーニーに加えて、グリッドには5人のアメリカ人ドライバー(マステン・グレゴリーフィル・ヒルジム・ホールハップ・シャープロジャー・ワード)がいた。そしてF1で最も活躍したメキシコ人ドライバーであるペドロ・ロドリゲスがF1デビューを果たした。

レース当日は明るく晴れ上がり、観客動員数は6万人近くに達した。F1世界選手権で初めてダミーグリッドが使用され、各車スターティンググリッドへ進んだが、クラークのロータスはダミーグリッドに残ったままだった。レースがスタートするとヒルがリードし、以下ギンサー、サーティース、ガーニー、トニー・マグス、グレゴリー、ブラバムが続いた。ロータスのクルーは、クラークのバッテリーが上がっていることを発見し、交換を終える頃には、ブローカーのステブロが既に2周目を走行していた。

サーティースはまずギンサーに仕掛け、BRM勢を分断して2位に浮上し、7周目にはヒルを抜いてトップに立った。ガーニーもヒルに追いつき、2位に浮上する。15周目までにクラークは14位まで順位を戻したが、エンジンの調子はまだ良いとは言えなかった。

ヒルは30周目にサーティースに迫り、サーティースを2回追い抜くも抜き返され、その後はサーティースの後方を走行し続ける。43周目、3位を走行中のガーニーが燃料切れとシャシーのトラブルで急減速してリタイアし、クラークは7位まで順位を戻す。

しばらくサーティースの後方で走った後、ヒルのアンチロールバーが緩んでハンドリングが突然変わり、重いアンダーステアと戦うことになる。82周目にサーティースのエンジンはパワーを失い、彼はリタイアするためにピットへ戻った。「私はただ彼に付いていっただけだ」とヒルはその後語った。「彼は非常にトリッキーなドライバーだ。彼は1周0.5秒ずつ差を広げていった。それが2台の車の差だったと私は思う」。これでヒルが再び首位となり、同一ラップで走っているのはチームメイトのギンサーのみとなった。

ヒルはチームメイトのギンサーに34秒差を付けて優勝し、開幕戦モナコGP以来のシーズン2勝目をようやく挙げた[4]。新チャンピオンのクラークは、エンジンがミスファイアしていたブラバムに追いつき、3位表彰台を獲得した。ヒルは初めてアメリカGPを制したが、彼は1964年1965年の同GPも制することになる。

エントリーリスト 編集

チーム No. ドライバー コンストラクター シャシー エンジン
  オーウェン・レーシング・オーガニゼーション 1   グラハム・ヒル BRM P57 BRM P56 1.5L V8
2   リッチー・ギンサー
  クーパー・カー・カンパニー 3   ブルース・マクラーレン クーパー T66 クライマックス FWMV 1.5L V8
4   トニー・マグス
  ブラバム・レーシング・オーガニゼーション 5   ジャック・ブラバム ブラバム BT7 クライマックス FWMV 1.5L V8
6   ダン・ガーニー
  ウォルト・ハンスゲン 7   ウォルト・ハンスゲン 1 ロータス 24 クライマックス FWMV 1.5L V8
  チーム・ロータス 8   ジム・クラーク ロータス 25 クライマックス FWMV 1.5L V8
9   トレバー・テイラー
10   ペドロ・ロドリゲス
  R.R.C. ウォーカー・レーシングチーム 11   ヨアキム・ボニエ クーパー T66 クライマックス FWMV 1.5L V8
  エキュリー・マールスベルゲン 12   カレル・ゴダン・ド・ボーフォール ポルシェ 718 ポルシェ 547/3 1.5L F4
  シフェール・レーシングチーム 14   ジョー・シフェール ロータス 24 BRM P56 1.5L V8
  ブリティッシュ・レーシング・パートナーシップ 15   イネス・アイルランド 2 BRP Mk1 BRM P56 1.5L V8
16   ジム・ホール ロータス 24
  レグ・パーネル・レーシング 17   マステン・グレゴリー ローラ Mk4A クライマックス FWMV 1.5L V8
18   ロジャー・ワード ロータス 24 BRM P56 1.5L V8
22   ハップ・シャープ
  カナディアン・ステブロ・レーシング 19   エルニー・デ・フォス 1 ステブロ Mk IV フォード 109E 1.5L L4
21   ピーター・ブローカー
  スクーデリア・フェラーリ SpA SEFAC 23   ジョン・サーティース フェラーリ 156/63 フェラーリ Tipo178 1.5L V6
24   ロレンツォ・バンディーニ
  オートモビリ・ツーリズモ・エ・スポート 25   フィル・ヒル ATS 100 ATS 100 1.5L V8
26   ジャンカルロ・バゲッティ
ソース:[5]
追記
  • タイヤは全車ダンロップ
  • ^1 - マシンが準備できず[6]
  • ^2 - 負傷のため欠場[6]

結果 編集

予選 編集

順位 No. ドライバー コンストラクター タイム グリッド
1 1   グラハム・ヒル BRM 1:13.4 1
2 8   ジム・クラーク ロータス-クライマックス 1:13.5 +0.1 2
3 23   ジョン・サーティース フェラーリ 1:13.7 +0.3 3
4 2   リッチー・ギンサー BRM 1:14.0 +0.6 4
5 5   ジャック・ブラバム ブラバム-クライマックス 1:14.2 +0.8 5
6 6   ダン・ガーニー ブラバム-クライマックス 1:14.5 +1.1 6
7 9   トレバー・テイラー ロータス-クライマックス 1:15.6 +2.2 7
8 17   マステン・グレゴリー ローラ-クライマックス 1:15.6 +2.2 8
9 24   ロレンツォ・バンディーニ フェラーリ 1:15.8 +2.4 9
10 4   トニー・マグス クーパー-クライマックス 1:15.8 +2.4 10
11 3   ブルース・マクラーレン クーパー-クライマックス 1:15.9 +2.5 11
12 11   ヨアキム・ボニエ クーパー-クライマックス 1:16.3 +2.9 12
13 10   ペドロ・ロドリゲス ロータス-クライマックス 1:16.5 +3.1 13
14 14   ジョー・シフェール ロータス-BRM 1:16.5 +3.1 14
15 25   フィル・ヒル ATS 1:17.1 +3.7 15
16 16   ジム・ホール ロータス-BRM 1:17.7 +4.3 16
17 18   ロジャー・ワード ロータス-BRM 1:19.2 +5.8 17
18 22   ハップ・シャープ ロータス-BRM 1:20.0 +6.6 18
19 12   カレル・ゴダン・ド・ボーフォール ポルシェ 1:22.3 +8.9 19
20 26   ジャンカルロ・バゲッティ ATS 1:25.2 +11.8 20
21 21   ピーター・ブローカー ステブロ-フォード 1:28.6 +15.2 21
ソース:[7]

決勝 編集

順位 No. ドライバー コンストラクター 周回数 タイム/リタイア原因 グリッド ポイント
1 1   グラハム・ヒル BRM 110 2:19:22.1 1 9
2 2   リッチー・ギンサー BRM 110 +34.3 4 6
3 8   ジム・クラーク ロータス-クライマックス 109 +1 Lap 2 4
4 5   ジャック・ブラバム ブラバム-クライマックス 108 +2 Laps 5 3
5 24   ロレンツォ・バンディーニ フェラーリ 106 +4 Laps 9 2
6 12   カレル・ゴダン・ド・ボーフォール ポルシェ 99 +11 Laps 19 1
7 21   ピーター・ブローカー ステブロ-フォード 88 +22 Laps 21
8 11   ヨアキム・ボニエ クーパー-クライマックス 85 +25 Laps 12
9 23   ジョン・サーティース フェラーリ 82 エンジン 3
10 16   ジム・ホール ロータス-BRM 76 ギアボックス 16
11 3   ブルース・マクラーレン クーパー-クライマックス 74 燃料ポンプ 11
Ret 14   ジョー・シフェール ロータス-BRM 56 ギアボックス 14
Ret 4   トニー・マグス クーパー-クライマックス 44 イグニッション 10
Ret 18   ロジャー・ワード ロータス-BRM 44 ギアボックス 17
Ret 6   ダン・ガーニー ブラバム-クライマックス 42 シャシー 6
Ret 10   ペドロ・ロドリゲス ロータス-クライマックス 36 エンジン 13
Ret 9   トレバー・テイラー ロータス-クライマックス 24 電気系統 7
Ret 17   マステン・グレゴリー ローラ-クライマックス 14 エンジン 8
Ret 22   ハップ・シャープ ロータス-BRM 6 バルブ 18
Ret 25   フィル・ヒル ATS 4 オイルポンプ 15
Ret 26   ジャンカルロ・バゲッティ ATS 0 オイルポンプ 20
WD 7   ウォルト・ハンスゲン ロータス-クライマックス マシンが準備できず
WD 15   イネス・アイルランド ロータス-BRM 負傷
WD 19   エルニー・デ・フォス ステブロ-フォード マシンが準備できず
ソース:[8]
ラップリーダー[9]
  • 1-6=G.ヒル、7-31=サーティース、32=G.ヒル、33-34=サーティース、35=G.ヒル、36-82=サーティース、83-110=G.ヒル

第8戦終了時点のランキング 編集

  • : トップ5のみ表示。ベスト6戦のみがカウントされる。ポイントは有効ポイント、括弧内は総獲得ポイント。

脚注 編集

  1. ^ (林信次 1997, p. 55)
  2. ^ 1963年当時はF1直下のカテゴリーであった。翌1964年からF2F3が復活している。 (林信次 1997, p. 18)
  3. ^ (林信次 1997, p. 69)
  4. ^ (林信次 1997, p. 58)
  5. ^ USA 1963 - Race entrants”. statsf1.com. 2018年12月9日閲覧。
  6. ^ a b USA 1963 - Result”. statsf1.com. 2018年12月9日閲覧。
  7. ^ USA 1963 - Qualifications”. statsf1.com. 2018年12月9日閲覧。
  8. ^ 1963 United States Grand Prix”. formula1.com. 2013年10月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年9月20日閲覧。
  9. ^ USA 1963 - Laps led”. statsf1.com. 2018年12月31日閲覧。

参照文献 編集

  • en:1963 United States Grand Prix(2018年6月17日 16:06:07(UTC))より翻訳
  • 林信次『F1全史 1961-1965』ニューズ出版、1997年。ISBN 4-938495-09-0 
  • Doug Nye (1978). The United States Grand Prix and Grand Prize Races, 1908–1977. B. T. Batsford. ISBN 0-7134-1263-1
  • Dean Batchelor (January, 1964). "Grand Prix of the United States". Road & Track, 50–55.

外部リンク 編集

前戦
1963年イタリアグランプリ
FIA F1世界選手権
1963年シーズン
次戦
1963年メキシコグランプリ
前回開催
1962年アメリカグランプリ
  アメリカグランプリ 次回開催
1964年アメリカグランプリ