ウクライナの言語(ウクライナのげんご、ウクライナ語:Мови в Україні,英語:Languages of Ukraine)とは、ウクライナで使用されている言語のことである。ウクライナの公用語ウクライナ語であり、東スラヴ語群に属している。人口の81%がウクライナ語を日常生活で使用しており、87%以上が仕事または勉強で使用している。ウクライナでウクライナ語に次いで話されている言語はロシア語であり、人口の34%が使用している[1]

ウクライナの言語
ウクライナの言語、2001年国勢調査
公用語
非公用語 言語
国語 言語
土着語
地方言語 言語
現地語 言語
少数言語 言語
主な移民言語 言語
主な外国語
  1. 英語
  2. ドイツ語
  3. フランス語
  4. スペイン語
  5. イタリア語
  6. アラビア語
手話 ウクライナ手話英語版
一般キー配列
出典 2001年ウクライナ国勢調査

言語と日常生活 編集

2022年時点では、ウクライナ語を人口の81%、ロシア語を人口の34%が日常生活で使用している。つまり、人口の19%もの人がウクライナ語とロシア語の両方を日常的に使用していることになる。

2001年国勢調査 編集

2001年ウクライナ国勢調査によると民族としてのウクライナ人が人口77.8%を占め、他の民族はそれぞれのロシア系ウクライナ人英語版(17.3%)、ベラルーシ系ウクライナ人英語版(0.6%)、モルドバ系ウクライナ人英語版(0.5%)、クリミア・タタール人(0.5%)、ブルガリア系ウクライナ人英語版(0.4%)、ハンガリー(マジャル)系ウクライナ人英語版(0.3%)、ルーマニア系ウクライナ人英語版(0.3%)、ポーランド系ウクライナ人英語版(0.3%)、ユダヤ系ウクライナ人(0.2%)、アルメニア系ウクライナ人英語版(0.2%)、ギリシャ系ウクライナ人英語版(0.2%)、クリミア・カライム人(0.1%)、クリムチャク人(0.1%)、ガガウズ人(0.1%)である[2]

下の表は、2001年国勢調査によるウクライナ人の母語(家庭で話されている言語とは限らない)とその話者数を示している[3]

全体の話者数

  ウクライナ語 (67.53%)
  ロシア語 (29.59%)
  その他 (2.4%)
言語話者数合計
ウクライナ語32,577,46867.53%
ロシア語14,273,67029.59%
クリミア・タタール語231,3820.48%
モルドバ語185,0320.38%
ハンガリー語161,6180.34%
ルーマニア語142,6710.30%
ブルガリア語134,3960.28%
ベラルーシ語56,2490.12%
アルメニア語51,8470.11%
ガガウズ語23,7650.05%
ロマ語22,6030.05%
ポーランド語19,1950.04%
ドイツ語4,2060.04%
ギリシャ語6,0290.01%
ヘブライ語3,3070.01%
スロバキア語2,7680.01%
カライム語960.00%
その他143,1630.30%
記載なし201,4370.42%
全て48,240,902100%

この表に含まれていない言語は、ルシン語(6,725人 2001年)[4]ウクライナ手話英語版(54,000人 2008年時点)、イディッシュ語(11,500人 2007年時点)、ウルム語(95,000人 2000年時点 タタール語に含まれることが多い)、クリムチャク語(200人 2007年時点)である。また、代表的なロマ語であるVlax Romani language英語版Carpathian Romani英語版Balkan Romani英語版も含まれていない[5]。他にもスウェーデン語Gammalsvenska英語版方言2014年時点では少なくとも10人が流暢に話せ、150人がなんらかの知識を持っている)などもある[要出典]

地方言語 編集

エスノローグではウクライナの40の少数言語と方言がリスト化されている。そして、ほぼ全ての言語が旧ソ連由来である。

2012年8月にウクライナ最高議会で採択された「国家語政策の原則法ウクライナ語版」が施行された結果、少なくとも英語版人口の10%が話している言語を「地方言語」としての地位を付与することを可能にした。しかし、国全体としてはまだまだウクライナ語が唯一の「公用語」とされていたが、州当局が採用していくにつれて教育機関や地方官庁、裁判所、国営通信などでも受け入れられていった[6]

2014年2月、ウクライナ最高議会は地方言語に関する法律の廃止を決定したにもかかわらず、当時の大統領代行であるオレクサンドル・トゥルチノフはこの決定への署名を拒否した。2014年9月、ウクライナの憲法裁判所英語版はこの法律の合憲性を審査し始めた[7]。そして、2018年2月28日、法律は違憲であると判決を下した[7]欧州評議会によるとこの法律は少数言語の言語権を公正に保護できないとした[8]

外国語 編集

ウクライナで教えられている主な言語は英語である。オンラインアンケートによるとウクライナ人のおよそ50%が英語を喋れるという結果となった[9]

ウクライナにおける言語に関する調査の結果 編集

右の円グラフは1897年ロシア帝国国勢調査英語版による1897年のウクライナ(当時はロシア帝国の9つの県)における言語構成である。

1897年のウクライナにおける言語構成

  ロシア語 (11%)
  ドイツ語 (2%)
  その他 (1%)

ロシア帝国の9つ県の一覧 編集

21世紀初頭 編集

親ロシア派社会政治学法人であるFOM-Ukraine英語版2009年10月に1000人を対象に行った調査では52%の人がロシア語をコミュニケーションの手段として使うと回答。41%の人がウクライナ語を使うと回答し、8%の人が両方を使うと回答した[10]

リサーチ・アンド・ブランディング・グループ英語版2010年3月に行った調査[11]では65%の人がウクライナ語を母語だと回答し、33%の人がロシア語が母語だと回答した。そして、この調査ではロシア語の基礎的な知識を持っている人(76%)がウクライナ語の基礎的な知識を持っている人(69%)よりも多いことがわかった。さらに、調査の回答者の46%はロシア語よりもウクライナ語を話すことを好み、38%の人はウクライナ語よりもロシア語を話すことを好んだ。そして16の人%は両方を同じぐらい話すことを好んだ。

2009年11月に行われた調査では54.7%のウクライナ人がウクライナにおける言語の問題には無関係であり、各人が好きな言語を話すことができ、他の重大な問題がこの国には存在していると回答した。14.7%の人が言語の問題は重大であり、早急に解決しなければいけない問題であると回答した。残りの28.3%の人は言語の問題は解決しなければならないが、先送りにしてかまわないと回答した[12]

2011年8月にラズムコヴァ・センター英語版が行った調査では53.3%の人がウクライナ語を日常生活で使用していると回答し、44.5%の人がロシア語を日常生活で使用していると回答した[13]

2012年5月にレーティング (ウクライナ)英語版が行った調査では50%の人がウクライナ語を母語だと考えていると回答し、29%がロシア語を、20%がウクライナ語とロシア語の両方を、1%がその他の言語を母語だと考えていると回答した[14]

2015年12月11日から23日にかけてラズムコヴァ・センターが10,071人を対象にロシアが支配しているクリミア分離主義者が支配しているドネツクルハンスクを除いた、ウクライナの全ての地域で行った調査では60%のウクライナ人がウクライナ語を母語だと考えているとし、15%がロシア語、22%がウクライナ語とロシア語の両方(内2%は別の母語も持っていた)、37%が仕事で使う言語としてウクライナ語とロシア語を同じぐらい使い、21%が両方でコミュニケーションを取れるバイリンガルだった。この調査での誤差は1%だった[15][16]

地図 編集

ウクライナ全土 編集

クリミア 編集

言語政策 編集

2016年11月にウクライナのラジオ局は毎日、ウクライナ語の歌を流すことを要求する法律が施行された。またこの法律はテレビやラジオのニュース番組の60%をウクライナ語で放送することを保証するように要求した[17]

2017年9月にもウクライナは公教育おける言語に関して同様の法律を制定した。この法律は全ての学校の第二外国語を必要としない授業で国語であるウクライナ語を使用することを義務付けた[要出典]。ただし、「英語または欧州連合の他の公用語」を使用する授業は例外とされた[18]2019年5月にウクライナの閣僚会議で新しいウクライナ語の正書法英語版が採択された[19]

関連項目 編集

脚注 編集

  1. ^ "Мова та ідентичність в Україні на кінець 2022-го" Збруч(ウクライナ).2023年7月18日閲覧.
  2. ^ Opinion on the law on Supporting the functioning of the Ukrainian language as the State language.(PDF)(レポート).ヴェネツィア委員会英語版. 2019年12月9日. p. 3. CDL-AD(2019)038. 2023年7月19日閲覧.
  3. ^ "Table 19A050501 02. Distribution of the population of Ukraine's regions by native language (0,1)"[リンク切れ]
  4. ^ "Чисельність осіб окремих етнографічних груп украінського етносу та їх рідна мова".database.ukrcensus.gov.ua/database.ukrcensus.gov.ua(ウクライナ).State Statistics Service of Ukraine英語版のデータベース.
  5. ^ Eberhard, David M.; Simons, Gary F.; Fennig, Charles D., eds. (2019)."Ukraine – Languages"[リンク切れ]Ethnologue (22nd ed.). SIL International.
  6. ^ "Russian becomes regional language in three more regions in Ukraine" ukrinform.ua.
  7. ^ a b Constitutional Court declares unconstitutional language law of Kivalov-Kolesnichenkoウクルインフォルム(2018年2月28日)
  8. ^ "New Language Requirement Raises Concerns in Ukraine"Human Rights Watch.2023年7月22日閲覧.
  9. ^ "How Many Russians and Ukrainians Speak English?"2022年4月2日.2023年7月25日閲覧.
  10. ^ "ФОМ > Мнения и взгляды населения Украины в сентябре - октябре 2009 года".Bd.fom.ru.2023年7月26日閲覧.
  11. ^ "Маркетинговые, социологические и политические исследования - R&B Group". Rb.com.ua.[リンク切れ]
  12. ^ Poll: more than half of Ukrainians did not consider language issue pressing,キーウ・ポスト.2009年11月25日.2023年7月26日閲覧.
  13. ^ "Опитування: більшість українців спілкуються вдома українською мовою".オリジナルサイトからのアーカイブ(2011年8月23日).2023年7月26日閲覧.
  14. ^ "The language question, the results of recent research in 2012".レーティング (ウクライナ)英語版.2012年5月25日.
  15. ^ "Українці стали частіше розмовляти українською".Українська правда.2023年7月26日閲覧.
  16. ^ "КОНСОЛІДАЦІЯ УКРАЇНСЬКОГО СУСПІЛЬСТВА : ШЛЯХИ, ВИКЛИКИ, ПЕРСПЕКТИВИ : Інформаційно-аналітичні матеріали"(PDF).Uceps.org.オリジナル(PDF)からのアーカイブ(2016年6月13日).[リンク切れ]}
  17. ^ "Ukraine imposes language quotas for radio playlists".BBC News.2016年11月8日.2023年7月27日閲覧.
  18. ^ "New education law becomes effective in Ukraine".www.unian.info.2017年9月28日.2023年7月27日閲覧.
  19. ^ "Міністерство освіти і науки України - Український правопис (2019)"[リンク切れ]

参考文献 編集

外部リンク 編集