オクトリカブト

キンポウゲ科の亜種

オクトリカブト(奥鳥兜、学名Aconitum japonicum subsp. subcuneatum)は、キンポウゲ科トリカブト属疑似一年草ヤマトリカブト A. japonicum subsp. japonicum を分類上の基本種とする亜種群の一つ、有毒植物[3][8][9]。別名、アイズトリカブト[1]。本州の東北地方でもっとも普通に見られるトリカブトである[3]

オクトリカブト
福島県会津地方 2016年9月上旬
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
: キンポウゲ目 Ranunculales
: キンポウゲ科 Ranunculaceae
: トリカブト属 Aconitum
: ヤマトリカブト
A. japonicum
亜種 : オクトリカブト
A. j subsp. subcuneatum
学名
Aconitum japonicum Thunb. subsp. subcuneatum (Nakai) Kadota (1987)[1]
シノニム
  • Aconitum subcuneatum Nakai (1914)[2][3]
  • Aconitum zuccarini Nakai (1914)[4][3]
  • Aconitum aizuense Nakai (1953)[5][3]
  • Aconitum ozense Nakai (1953)[6][3]
  • Aconitum japonicum Thunb. var. kitakamiense Saiki et Hosoi (1969)[7]
和名
オクトリカブト(奥鳥兜)[8][9]

ヤマトリカブトを基本種とする亜種群は、北海道の道南地方から本州、四国、九州まで、朝鮮半島中国大陸東北部に分布するが、本亜種は北海道道南地方と主に東北地方の日本海側に分布し、低地から山地帯の林縁などに生育する。花柄と上萼片に屈毛が生え、葉身が腎円形で5-7浅裂-中裂するのが特徴[3][8][10]

特徴 編集

地下の塊根は径1-3cmになる。形態的変異が著しく、は草原に生えるときは直立し、林内や林縁に生えるときは斜上し先端は垂れて、高さ・長さは60-200cmになり、ときに300cmを超え、茎の上部に屈毛が生える。中部の茎の葉身は腎円形で、長さ7-15.5cm、幅8.5-19cmになり、5-7浅裂-中裂し、裂片はさらに羽裂して、終裂片は狭卵形になるか粗い鋸歯縁になる。葉質はやや厚く、葉身の裏面の葉脈は隆起し、葉柄は長さ2-8cmになる[3][8][9][11]

花期は8-10月。花序は長さ8-20cmで、散房花序または棒状の円錐花序になり、3-10個ほどのがつき、上部から下部に向かって開花する。花柄は長さ3-10cmになり、全体に下向きの屈毛が密生する。花は青紫色から菫色、ときに黄白色で、長さは3-5cmになる。花弁にみえるのは萼片で、上萼片1個、側萼片2個、下萼片2個の5個で構成される。かぶと状になる上萼片は背の高い円錐形から僧帽形になり、前方の嘴は長くとがる。萼片の外面に屈毛が生える。花弁は上萼片の中にかくれて見えないが、柄、舷部、を分泌する距、唇部で構成される。1対あり、柄は長さ18-20mm、舷部は幅3-4mmあってふくらみ[3][8][9]、距は太く長く180度以上に屈曲するか、まれに短い嚢状[3]、または細く短い[8]か、細く長く屈曲する[9]雄蕊には開出毛が生え、雌蕊は3-6個あり、無毛か屈毛が生える。果実は長さ16-25mmの袋果になり、直立するかやや斜開する。染色体数2n=32の4倍体種である[3][8][9][11]

分布と生育環境 編集

日本固有種[10]。北海道の道南地方、本州の新潟県群馬県以北の日本海側に分布し、低地から山地帯の草原、林内、林縁、ときに高山草原に生育する[3][8][9]

名前の由来 編集

和名オクトリカブトは、「奥鳥兜」の意[9]。シノニムの A. subcuneatum Nakai (1914) のタイプ標本の採集地が、青森県八甲田山である[12]ことから、「陸奥」(みちのく)に因み、奥鳥兜としたものという[9]

亜種名 subcuneatum は、「ややくさび形の」の意味[13]

分類 編集

オクトリカブトおよび分類上の基本種ヤマトリカブト A. japonicum とその亜種群は、トリカブト属トリカブト亜属 Subgenus Aconitum のうち、花弁の舷部が距に向かって膨大するキヨミトリカブト節 Section Euchylodea に属し、同節のうち、花はふつう花序の上から下に向かって開花するヤマトリカブト列 Series Japonica に分類される。ヤマトリカブト列に属する日本に分布するの種のうち、温帯に生育する種(高山植物でない種)としては、ヤマトリカブトの他、ヤサカブシ A. nikaiiコウライブシ A. jaluense亜種センウズモドキ subsp. iwatekense がある)、ウゼントリカブト A. okuyamaeオンタケブシ Aconitum metajaponicumカワチブシ A. grossedentatum が属する。ヤマトリカブトとその亜種群、ヤサカブシは、花柄と上萼片に屈毛が生えること。ウゼントリカブトとオンタケブシは、葉が腎円形で3浅裂-中裂し、花柄と上萼片に開出毛と腺毛が生え、上萼片の嘴は短いこと。コウライブシは、葉が五角形で3全裂-深裂し、花柄と上萼片に開出毛と腺毛が生え、上萼片の嘴は長いこと。カワチブシの花柄と上萼片は無毛であることが異なる。なお、オンタケブシは分布が限られ極まれな種であり、ヤサカブシは山口県にのみ分布する種である[14]

ヤマトリカブト類の分類 編集

広義ヤマトリカブト Aconitum japonicum の分類[3]
和名 亜種名 subsp. 変種名 var. 分布地 茎の長さ 葉身 花序、長さ、花数 上萼片、嘴
ヤマトリカブト japonicum 栃木県-愛知県の太平洋側 60-200cm 五角形-五角形状円形、3深裂-中裂 散房状-総状、5-8cm、1-5個 円頭の円錐形-僧帽形、長い、短い
オクトリカブト subcuneatum 道南、東北地方の日本海側、新潟県 60-200cm 腎円形、5-7浅裂-中裂 棒状の円錐状、8-20cm、3-10個 背の高い円錐形-僧帽形、長い
ツクバトリカブト maritimum 東北地方-関東地方の太平洋側、長野県 60-150cm 五角形-五角形状円形、3全裂-3深裂 小型の円錐状、5-10cm、2-6個 僧帽形、短い
イヤリトリカブト maritimum iyariense 長野県北部特産 300cm、上部はつる状
イブキトリカブト ibukiense 福井県-兵庫県の日本海側 25-180cm 腎円形-五角形状円形、3中裂-3深裂 散房状-総状、4-14cm、2-7個 円頭の円錐形-僧帽形、短い
タンナトリカブト napiforme 中国地方、四国、九州 15-150cm 五角形-五角形状円形、3全裂-3深裂 散房状、4.5-16cm、2-8個 僧帽形、長い

共通することは、花柄と上萼片に屈毛が生えること[14]

  • ヤマトリカブト(山鳥兜[8]Aconitum japonicum Thunb. (1784) subsp. japonicum[15])- 分類上の基本種。茎は高さ60-200cmになり、葉身は五角形-五角形状円形で、3深裂-中裂し、花序は散房状から総状になる。本州の栃木県から愛知県にかけて分布する[3]
  • オクトリカブト(奥鳥兜[8]Aconitum japonicum Thunb. subsp. subcuneatum (Nakai) Kadota (1987)[1] - 本亜種。尾瀬およびその周辺の草原に分布する本亜種の直立型を「オゼトリカブト」ということがある。また、佐渡島新潟県中部に分布し、葉が3深裂するものを「サドブシ」ということがある[3]
  • ツクバトリカブト(筑波鳥兜[8]Aconitum japonicum Thunb. subsp. maritimum (Tamura et Namba) Kadota (1983)[16])- 茎は高さ60-150cmになり、葉身は五角形-五角形状円形で、3全裂-深裂し、花序は小型の円錐状になる。東北地方から関東地方の太平洋側の山地、群馬県長野県に分布する[3]
    • イヤリトリカブトAconitum japonicum Thunb. subsp. maritimum (Tamura et Namba) Kadota var. iyariense Kadota (1987)[17])- ツクバトリカブトの変種で、茎は高さ300cmになり、茎の上部がつる状になるもの。長野県北部に分布する[3]
  • イブキトリカブト(伊吹鳥兜[8]、別名、キタヤマブシ、Aconitum japonicum Thunb. subsp. ibukiense (Nakai) Kadota (1987)[18])- 茎は高さ25-180cmになり、葉身は腎円形-五角形状円形で、3中裂-深裂し、花序は散房状から総状になる。福井県から兵庫県山口県の日本海側に分布する[3]
  • タンナトリカブト(耽羅鳥兜[9]、別名、サンインヤマトリカブト、Aconitum japonicum Thunb. subsp. napiforme (H.Lév. et Vaniot) Kadota (1987)[19])- 茎は高さ15-150cmになり、葉身は五角形-五角形状円形で、3全裂-深裂し、花序は散房状になる。中国地方、四国、九州、朝鮮半島、中国大陸東北部に分布する[3]

ギャラリー 編集

脚注 編集

  1. ^ a b c オクトリカブト 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  2. ^ Aconitum subcuneatum Nakai, International Plant Names Index
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 門田裕一 (2016) 「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物 2』pp.128-129
  4. ^ Aconitum zuccarini Nakai, International Plant Names Index
  5. ^ Aconitum aizuense Nakai, International Plant Names Index
  6. ^ Aconitum ozense Nakai, International Plant Names Index
  7. ^ オクトリカブト(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  8. ^ a b c d e f g h i j k l 『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』pp.212-213
  9. ^ a b c d e f g h i j 『新分類 牧野日本植物図鑑』pp.491-492
  10. ^ a b 『日本の固有植物』p.57
  11. ^ a b 『新北海道の花』p.335
  12. ^ Takenoshin Nakai, “Notulæ ad Plantas Japonicas et Koreanas. X. (Continuari e pagina 36 vol. XXVII.)”, The botanical magazine,『植物学雑誌』、Vol.28, No.327: pp.en59-60. (1914).
  13. ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1489, 1515
  14. ^ a b 門田裕一 (2016) 「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物 2』pp.120-122
  15. ^ ヤマトリカブト 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  16. ^ ツクバトリカブト 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  17. ^ イヤリトリカブト 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  18. ^ イブキトリカブト 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  19. ^ タンナトリカブト 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)

参考文献 編集

外部リンク 編集