ハンノキ
ハンノキ(榛の木、榛[2]、赤楊[3]、学名: Alnus japonica)は、カバノキ科ハンノキ属の落葉高木。水辺を好み、低地の湿地や水田のあぜなどに見られ、早春に尾状に垂れ下がった花をつける。樹皮や球果からタンニンや染料が採られる。
ハンノキ | ||||||||||||||||||||||||
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![]() ハンノキ林(2017年7月撮影)
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分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Alnus japonica (Thunb.) Steud., 1840[1] | ||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||
Alnus japonica' (Thunb.) Steud. var. villosa, L. Zhao et D. Chen | ||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||
ハンノキ(榛の木) | ||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||
Japanese Alder |

名称編集
古名を榛(はり)といい、ハンノキという名称はハリノキ(榛の木)が変化したものである[4]。中国名は「日本榿木」。別名はヤチハンノキで[2]、湿地のハンノキの意味でよばれている[5]。岩手県の地方名にヤチバがある。
漢字表記に用いる「榛」はハシバミの漢名で[4]、ハンノキに用いるのは日本独自の用法である[6]。また、漢名に赤楊を当てたが、これは本来誤用である[4]。
特徴編集
日本の北海道から九州、沖縄まで[7]、朝鮮半島、台湾、中国東北部、ウスリー、南千島に分布する[2]。低地の湿地や低山の川沿いに生え[8]、日本では全国の山野の低地や湿地、沼に自生する。湿原のような過湿地において森林を形成する数少ない樹木。田の畔に植えられ[8]、近年では水田耕作放棄地に繁殖する例が多く見られる。普通の樹木であれば、土壌中の水分が多いと酸欠状態になり生きられないが、ハンノキは耐水性を獲得したことで湿地でも生き残ることができる[2]。
落葉高木で、樹高は4 - 20メートル[7][2]、直径60センチメートル (cm) ほど。湿地周辺部の肥沃な土地では、きわめてよく生長を示すものがあって、高さ30メートル、幹回りの直径1メートルを超す個体もあるが、湿地中央部に生える個体は成長は減退して大きくならない[9]。樹皮は紫褐色から暗灰褐色で、縦に浅く裂けて剥がれる[10][11]。葉は有柄で互生し[2]、長さ5 - 13 cmの長楕円形から長楕円状卵形[10][11]。葉縁には浅い細鋸歯があり、側脈は7 - 9対[10][12]。葉の寿命は短く、緑のまま次々と落葉する[2]。春先に伸びた1葉や2葉(春葉)の寿命は、以降に延びた葉(夏葉)よりも短いため6月から7月になると春葉が集中的に落葉する事が報告されている[13]。
花期は冬の11 - 4月頃で[14]、葉に先だって単性花をつける[10]。雌雄同株で、雄花穂は枝先に1 - 5個付き、黒褐色の円柱形で尾状に垂れ下がる[2]。雌花穂は楕円形で紅紫色を帯び、雄花穂の下部の葉腋に1 - 5個つける[10]。花はあまり目立たない。また、ハンノキが密集する地域では、花粉による喘息発生の報告がある[15]。
果実は松かさ状で1 - 5個ずつつき、10月頃熟すと長さ15 - 20ミリメートルの珠果状になる[10][12]。松かさに似た小さな実が翌年の春まで残る[11]。
冬芽は互生して、枝先につく雄花序と、その基部につく雌花序はともに裸芽で柄があり、赤みを帯びる[14]。仮頂芽と測芽はどちらも葉芽で、有柄で3枚の芽鱗があり、樹脂で固まる[14]。葉痕は半円形で維管束痕は3個ある[14]。
- ハンノキの画像
用途編集
水田の畔に稲のはざ掛け用に植栽されている[5]。しばしば公園樹として、公園の池のそばに植えられる[7]。
良質の木炭の材料となるために、以前にはさかんに伐採された。材に油分が含まれ生木でもよく燃えるため、北陸地方では火葬の薪に使用された。葉の中には、根粒菌からもらった窒素を多く含んでいて、そのまま葉が散るため、葉の肥料木としても重要である[2]。
材は軟質で、家具や器具に使われる[8]。
樹皮や果実は、褐色の染料として有効に使われている[2]。また、抗菌作用があり、消臭効果が期待されている[2]。ハンノキには造血作用のある成分が含まれるため漢方薬としても用いられる。
- 治山の植栽木(荒廃地復旧対策)
食草編集
品種・変種編集
品種
- エゾハンノキ(別名:ヤチハンノキ、学名: Alnus japonica (Thunb.) Steud. f. arguta (Regel) H.Ohba)[16]
- ケハンノキ(別名:ヒロハケハンノキ、学名: Alnus japonica (Thunb.) Steud. f. koreana (Callier) H.Ohba)[18]
変種
- タイワンハンノキ(学名: Alnus japonica (Thunb.) Steud. var. formosana (Burkill) Callier)[21]
- (シノニム: Alnus henryi C.K.Schneid.[22]、Alnus formosana (Burkill) Makino[23])
ハンノキ属の植物編集
ハンノキ属の植物には、主に川辺に生えるカワラハンノキ、川沿いの山の手や溪谷の斜面に生えるヤマハンノキやケヤマハンノキ、さらに山奥の山地の岩石が多い斜面に生えるミヤマハンノキなどがある[24]。
- ヤマハンノキ Alnus hirsuta Turcz. ex Rupr., 1857
- ハンノキ A. japonica (Thunb.) Steud., 1840
- ケハンノキ A. japonica (Thunb.) Steud. forma koreana (Callier) H. Ohba, 2006
- ミヤマハンノキ A. maximowiczii Callier ex C.K. Schneid., 1904
- ヒメヤシャブシ A. pendula Matsuma, 1902
- アルダー A. rubra Bong., 1832 - 家具や楽器によく利用される。
- オオバヤシャブシ A. sieboldiana Matsuma, 1902
ハンノキ属植物の根にはフランキア属[25]の放線菌が共生し窒素固定を行う。そのため比較的やせた土地にも生育し、オオバヤシャブシなどは緑化に用いられる。
脚注編集
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Alnus japonica (Thunb.) Steud.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月29日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m 田中潔 2011, p. 73.
- ^ 三省堂百科辞書編輯部編 「はんのき」『新修百科辞典』 三省堂、1934年、1756頁。
- ^ a b c “「榛木」の解説”. 精選版 日本国語大辞典(コトバンク). 2021年8月15日閲覧。
- ^ a b 辻井達一 2006, p. 80.
- ^ 小川環樹ほか編 「榛」『角川新字源』改訂新版、KADOKAWA、2017年。
- ^ a b c 林将之 2008, p. 168.
- ^ a b c 平野隆久監修 永岡書店編 2011, p. 161.
- ^ 辻井達一 2006, pp. 80–81.
- ^ a b c d e f 西田尚道監修 学習研究社編 2000, p. 105.
- ^ a b c 平野隆久監修 永岡書店編 2011, p. 61.
- ^ a b 林将之 2011, p. 159.
- ^ 菊沢喜八郎、ハンノキ属の葉はなぜ夏に落ちるか Japanese Journal of Ecology 30(4), 359-368, 1980-12-30
- ^ a b c d 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 126.
- ^ 水谷 民子ほか、ハンノキ花粉喘息 Japanese Journal of Allergology 20(9), 700-705, 752-753, 1971-09-30, ISSN 0021-4884, NAID 110002408565
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Alnus japonica (Thunb.) Steud. f. arguta (Regel) H.Ohba”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月29日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Alnus japonica (Thunb.) Steud. var. arguta (Regel) Callier”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月29日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Alnus japonica (Thunb.) Steud. f. koreana (Callier) H.Ohba”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月29日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Alnus japonica Siebold et Zucc. var. rufa Nakai”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月29日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Alnus japonica (Thunb.) Steud. var. koreana Callier”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月29日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Alnus japonica (Thunb.) Steud. var. formosana (Burkill) Callier”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月29日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Alnus henryi C.K.Schneid.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月29日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Alnus formosana (Burkill) Makino”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月29日閲覧。
- ^ 辻井達一 2006, p. 81.
- ^ 袴田哲司、山本茂弘、ハンノキ属樹種稚苗の根粒形成と生育状況 静岡県農林技術研究所 2号, p.75-80(2009-03)
参考文献編集
- 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、126頁。ISBN 978-4-416-61438-9。
- 田中潔 『知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2011年7月31日、73頁。ISBN 978-4-07-278497-6。
- 辻井達一 『続・日本の樹木』中央公論新社〈中公新書〉、2006年2月25日、80 - 84頁。ISBN 4-12-101834-6。
- 西田尚道監修 学習研究社編 『日本の樹木』学習研究社〈増補改訂ベストフィールド図鑑 5〉、2000年4月7日、105頁。ISBN 978-4-05-403844-8。
- 林将之 『葉っぱで調べる身近な樹木図鑑』主婦の友社、2008年2月29日、168頁。ISBN 978-4-07-258098-1。
- 林将之 『葉っぱで気になる木がわかる:Q&Aで見わける350種 樹木鑑定』廣済堂あかつき、2011年6月1日、159頁。ISBN 978-4-331-51543-3。
- 平野隆久監修 永岡書店編 『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、161頁。ISBN 4-522-21557-6。