海嶺
海嶺(かいれい、ridge)には、以下の2つの用法がある。
中央海嶺編集
中央海嶺(ちゅうおうかいれい、Mid-Oceanic ridge)は、大洋の中央部を走る比高2~3km, 長さ数千kmの海底山脈。プレートテクトニクスでは、マントル対流やスラブプル・リッジプッシュなどよってプレートが引き裂かれ、マントルが地下深部から上がり、新たな海洋地殻が形成されている場所と解釈される。海嶺軸は左右対称的で、軸に向かって直角方向にトランスフォーム断層(断裂帯)が発達する。この中央海嶺は地殻熱流量が大きく、固体地球内部から放出される熱エネルギーの大部分は中央海嶺から火山活動として放出される[1]。
主な中央海嶺編集
- 大西洋中央海嶺 : 大西洋の真中を南北に連なる海嶺。南北アメリカの海岸線とヨーロッパ・アフリカのそれとがよく一致していることは有名だが、この海嶺もその線を描く。海嶺北部にアイスランドがあるが、ここは、大西洋中部のアセンション島、南部のトリスタンダクーニャとともに、大西洋の拡大を発生させたホットスポットのひとつである。大西洋はまだ若いため、ホットスポット下から上昇してくるマントルプリュームの活動が、海嶺の拡大に大きく寄与している。
- ナンセン・ガッケル海嶺 : 大西洋中央海嶺の続きでアイスランド北方から北極海を通り東シベリアまで続く中央海嶺。
- 東太平洋海嶺(海膨) : カリフォルニア湾からチリ沖のイースター島付近に繋がっている太平洋の中央海嶺。ここで生まれた海洋底の西側は、誕生した約2億年後に日本海溝に沈む。
- 太平洋南極海嶺 : 東太平洋海嶺の続きで南緯55°以南を東西に走る太平洋の中央海嶺。
- チリ海嶺 : 東太平洋海嶺から分かれてペルー・チリ海溝まで続く太平洋の中央海嶺のひとつ。
- 中央インド洋海嶺 : セーシェル島、モーリシャス島沖、東経60°付近に位置するインド洋の中央海嶺のひとつ。モーリシャス沖南緯20°のロドリゲス三重点で南西インド洋海嶺と南東インド洋海嶺につながる。北部はアデン湾まで伸び、カールスバーグ海嶺とも呼ばれる。
- 南西インド洋海嶺 : ロドリゲス三重点からマダガスカルの南方へ南西方向に連なるインド洋の中央海嶺のひとつ。
- 南東インド洋海嶺 : インド洋の中央海嶺のひとつ。ロドリゲス三重点からオーストラリア南方まで連なっている。
- 南アメリカ南極海嶺 : 大西洋の中央海嶺のひとつ。サウスサンドウィッチ諸島南東から大西洋中央海嶺まで続く。
海洋底拡大編集
地球表面の地殻の下にあるマントルは、地球中心部の核に近い部分が温められ、表面に近い部分が冷却されるため、お椀に注がれた熱い味噌汁が対流しているようにゆっくり対流している(注意すべきはマントルは決して軟らかい液体でなく硬い固体である)。対流の速度と位置はほぼ一定しており、マントルの上昇してくる場所は決まっている。上昇してきたマントルは左右に分かれて、地殻の下を水平に動き、やがて冷やされて沈んでゆく。海洋底はマントルの動きに乗って、拡大し、移動し、ぶつかり合い、沈む。この海洋底が生成され、拡大している場所が中央海嶺に相当する。なお、陸塊は海洋底に比べて比重が小さく、ぶつかり合っても沈むことはない。1972年まではこのような海洋底拡大説が信じられていたが、海嶺に大きなフリーエア重力異常がないため、海嶺がマントル対流が上昇する場所であるという考えは否定された。重力異常があるのはホットスポットであり、ホットスポットこそがマントル対流が能動的にマントル中部やマントル下部から上昇する場所である。この意見は1990年以降のマントルトモグラフィーで証明された。海嶺でおこるマントル上昇は消極的なものであり、両側から引っ張られた空隙を埋める活動である。そのため、マントルトモグラフィーから観察される上昇流の根は100kmに達しない浅いものである。
プレートテクトニクスの証拠編集
以上述べてきた地殻の動きやぶつかり合いは、プレートテクトニクスとして理論化されている。海嶺での海洋底拡大は、プレートテクトニクスの有力な証拠とされる。海洋底の拡大はどのようにして確認されたか以下に述べる。
地磁気の逆転と海洋底拡大編集
- 地球は中心部の溶融金属核の対流により磁気を帯びている。これを地磁気という。地磁気は数万年単位で方向が逆になる事を繰り返している。
- 岩石中に一般的に含まれる鉱物である磁鉄鉱は、その名の通り常温で磁気を帯びている。磁鉄鉱を加熱していくと、キュリー温度で磁気がなくなり、冷却すると再度磁気を帯びる。このとき磁鉄鉱が帯びる磁気は周辺の磁場(地磁気)の方向に従う。海洋底鉱物にも微量の磁鉄鉱が含まれており、海嶺でマントル成分が冷やされて、海洋底が生成された時の磁気を帯びている。
- 第二次大戦後、海中にひそむ潜水艦を探索するための磁気探査機器の性能が上がり、海洋底の磁気の分析が進んだ。その結果、海嶺の両側で岩石の磁気が全く対称的に逆転を繰り返していることが判明した。これは『海嶺で海洋底が拡大している』証拠とされた。
海嶺(広義)編集
海嶺(かいれい、ridge)は、長くて狭い海底の高まりのうち両側斜面が急峻でかつ不規則な地形をいう[2]。傾斜が緩やかで幅の広いものは海膨(Rise)という[2]。また、成因には関係しない。
成因編集
プレートの沈み込みに起因する海嶺は、背弧海盆の拡大によってできる。
プレートが沈み込むと、沈み込み帯の大陸プレート側(上側)には付加体や火山活動によって島弧ができる。このとき、マグマも島弧に沿って細長く分布するため、これをマグマ弧という。何らかの原因でマグマ弧が分裂すると、島弧も同様に分裂し、その間で海洋底の拡大が始まる。このとき、沈み込み帯に近いほうは火山前線を伴う島弧として残り、もう1方は火山活動が停止して厚い地殻が残るだけの海嶺となって、その真ん中で拡大する背弧海盆を挟んでお互いに離れていく。
このほかの成因としては、さまざまなものが考えられる。火山活動によって形成され、やがて活動が停止して海底下に沈んだ島弧の跡、古い時代に形成された地塁、周囲のプレートの活動に伴う海底の隆起によってできたものなどがある。
海嶺の片側に厚い地殻があり、片側だけが急な斜面となったような地形も、海嶺とする。
主な海嶺編集
- 東経90度海嶺 : インド洋の海底、ほぼ東経90°に位置する海嶺。マントル内で第3次ホットプリュームが東経90°の位置に吹き上げてできていると考えられている。
- チャゴス・ラッカディヴ海嶺 : 東経72°〜74°付近の海嶺で、その頂点はチャゴス諸島やモルディブ諸島やラッカディヴ諸島になっている。
- ロモノソフ海嶺 : 北極海の海底を横断する海嶺。北極点付近を通る。