共喰い』(ともぐい)は、青山真治監督による2013年日本映画。主演は菅田将暉

共喰い
The Backwater
監督 青山真治
脚本 荒井晴彦
原作 田中慎弥共喰い
製作 甲斐真樹
ナレーター 光石研
出演者 菅田将暉
木下美咲
篠原友希子
光石研
田中裕子
音楽 山田勳生
青山真治
撮影 今井孝博
編集 田巻源太
制作会社 スタイルジャム
製作会社 『共喰い』製作委員会
配給 ビターズ・エンド
公開 2013年9月7日
上映時間 102分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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ストーリー 編集

昭和63年の夏。遠馬(菅田将暉)は、17歳の男子高校生だ。父の円(光石研)と父の愛人の琴子(篠原友希子)と三人で、川辺の一軒家に暮らしている。円との性交のたびに殴られたり首を絞められたりするせいで、琴子の顔には痣ができる。その現場を見ていた遠馬は、円の血をひく自分も恋人の千種(木下美咲)に同じことをするのではないかと恐れている。

母の仁子(田中裕子)は橋の反対側で魚屋を営んでいる。戦争で空襲に遭って左手首を失った彼女は、特注の義手をつけて魚を下ろす。

円が夏祭りの準備のため外出していたある日、琴子は自分が妊娠していることを遠馬に告げる。円の子だという。不機嫌になった遠馬は神社で千種を押し倒し、嫌がる彼女の首を絞めてしまう。それ以来、千種は遠馬と会おうとしなくなる。

琴子は、近いうちに家を出ていくつもりだと遠馬に伝える。円にはまだ言わないでほしいという。遠馬は円が通っているアパートの女(宍倉暁子)と性交する。

夏祭りの前々日、近所の子供たちに連れられた千種が遠馬の家にやって来る。今度あんなことをしたら殺す、明後日は神社で待っている、と言う。

夏祭り当日、円が家に帰ってくる。円は、遠馬がアパートの女と性交するときに暴力をふるったことを喜んでいる。遠馬は、家を出て行った琴子がもう戻ってこないことを円に教える。雨の中、円は琴子を探しに行く。しばらくして、泣きじゃくった近所の子供たちが遠馬を訪ねてくる。異変を感じた彼が神社へ向かうと、そこには、円に犯された千種が傷だらけで横たわっていた。魚屋に現れた二人の話を聞いて、仁子は包丁を持って円を探しに行く。遅れて駆けつけた遠馬の目の前で、仁子の義手に腹を刺された円が川に流されていく。翌朝、仁子は神社で逮捕された。

拘置所の面会室。仁子は、自分の判決まで「あの人」には生きていてほしい、恩赦があるから、と遠馬に言う。

遠馬はフェリーに乗って琴子に会いに行く。ベッドの上の遠馬が自分の弟か妹を身ごもっている琴子と性交することに躊躇していると、琴子は自分の腹にいるのが本当は円の子ではないことを告げる。遠馬が琴子の首に手をかけると、彼女の子が腹のなかで動いて彼の興奮を冷ます。

遠馬が魚屋に戻ると、そこには、魚を下ろす千種の姿があった。夜、寝ている千種の首元に遠馬が手を伸ばした瞬間、彼女は目を開けて、あなたの手はわたしを痛めつけるためにあるのか、可愛がるためにあるのではないか、と問う。千種は遠馬の手を紐で縛り、仰向けの彼にまたがる。

年が明けて、昭和が終わった。

キャスト 編集

福山莉子 原田健汰 古賀光輝 三枝優希 小川丈瑠 小森悠矢

  • 警察官たち

鈴木将一朗 横川知宏

スタッフ 編集

製作 編集

原作は田中慎弥による第146回芥川龍之介賞受賞の短編小説「共喰い[1]。脚本は荒井晴彦[2]今井孝博によってデジタルシネマスコープで撮影される[3]。エンディング・クレジットには「帰れソレントへ」が選曲される[4]。本作の冒頭と末尾に挿入されるヴォイス・オーヴァーは、大人になった遠馬が語っている設定だが、実際には光石研の声で録音された[5]

発表 編集

2013年9月7日、日本で全国公開される[6]。視覚障害者向けのバリアフリー上映にあたっては、副音声で流すための音声ガイダンスを吹き込まなかったが[7]、その代わり、通常の7倍の感度をもつ集音マイクが撮影時に使われる[8]

評価 編集

梅本洋一は、本作が腐心するのは1960年代に絶頂期の大島渚が生きた怒りを再現させることであると指摘[9]藤井仁子は、「『日本映画』の伝統をたんなる反復ではないかたちで転生させることに成功している」と述べた[10]。村山匡一郎は本作に五つ星満点を与える[11]

2013年、第66回ロカルノ国際映画祭においてYouth Jury Award最優秀作品賞とボッカリーノ賞最優秀監督賞を受賞する[12]

第87回キネマ旬報ベスト・テンの日本映画5位に選ばれた[13]他、脚本賞(荒井晴彦)と助演女優賞(田中裕子、『はじまりのみち』での演技と合わせて)を受賞している[14]。同じく映画雑誌の『映画芸術』では日本映画ベストテン第2位となった[15]

主演の菅田将暉は、本作の演技で第37回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した[16]

第68回毎日映画コンクールでは、脚本賞(荒井晴彦)と撮影賞(今井孝博)を受賞した[17]

優れた新人撮影監督を顕彰する第57回三浦賞では、今井孝博が受賞した。

脚注 編集

  1. ^ 中村, 俊介 (2012年12月3日). “「共喰い」映画化 北九州・門司でロケ”. 朝日新聞. 2013年9月13日閲覧。
  2. ^ 福永, 聖二 (2013年9月20日). “「共喰い」(スタイルジャムなど)…昭和の香りまとう愛憎劇”. 読売新聞. 2013年9月13日閲覧。
  3. ^ 吉野, 大地 (2013年9月7日). “『共喰い』青山真治監督インタビュー”. 神戸映画資料館. 2013年9月13日閲覧。
  4. ^ 高木, 佑介 (2013年9月7日). “『共喰い』公開 監督・青山真治インタヴュー(3/3)”. Nobody. 2013年10月3日閲覧。
  5. ^ 高木, 佑介 (2013年9月7日). “『共喰い』公開 監督・青山真治インタヴュー(2/3)”. Nobody. 2013年10月3日閲覧。
  6. ^ 藤山, 圭 (2013年9月8日). “芥川賞「共喰い」映画公開 原作田中慎弥さんあいさつ”. 朝日新聞. 2013年10月3日閲覧。
  7. ^ 壬生, 智裕 (2013年9月1日). “映画『共喰い』は製作時から視覚障害者を意識 バリアフリー上映の新しい取り組み”. シネマトゥデイ. 2013年10月3日閲覧。
  8. ^ 三木, 陽介 (2013年9月26日). “新バリアフリー映画:音声ガイドなし 作品中の「音」厚く”. 毎日新聞. 2013年10月3日閲覧。
  9. ^ 梅本, 洋一 (2013年2月6日). “大島渚から青山真治へ”. Nobody. 2013年8月3日閲覧。
  10. ^ 藤井, 仁子 (2013年2月8日). “血と転生 青山真治の『共喰い』”. 読売新聞. 2013年8月3日閲覧。
  11. ^ 村山, 匡一郎 (2013年9月6日). “共喰い 原作超え現代史に連なる”. 日本経済新聞. 2013年10月3日閲覧。
  12. ^ 鈴木, 隆 (2013年8月22日). “ロカルノ国際映画祭:「共喰い」がダブル受賞”. 毎日新聞. 2013年10月3日閲覧。
  13. ^ 2013年 第87回キネマ旬報ベスト・テン「日本映画ベスト・テン」”. KINENOTE. 2014年1月9日閲覧。
  14. ^ 2013年 第87回キネマ旬報ベスト・テン「個人賞」”. KINENOTE. 2014年1月9日閲覧。
  15. ^ 「映画芸術」2013年日本映画ベストテン&ワーストテン決定!!(2014年1月17日)、映画芸術、2014年1月28日閲覧。
  16. ^ 第37回日本アカデミー賞優秀作品発表!”. 日本アカデミー賞公式サイト. 2014年1月19日閲覧。
  17. ^ 第68回毎日映画コンクール発表!『舟を編む』が日本映画大賞 シネマトゥデイ 2014年1月21日

外部リンク 編集