天井川
概要編集
川に堤防が作られ、氾濫がなくなると、河床に堆積した土砂の上を川が流れるようになり、次第に河床が上昇する。これに合わせて堤防を高くすることを繰り返すと天井川になる[1]。天井川が氾濫すると河床のほうが周囲より高く、川に水を戻しにくいため被害が大きくなる[2]。
日本の天井川編集
人口密集地など土地利用が進んでいる地域の河川を中心に、国土交通省や都道府県が、河川の付け替え、拡幅などの公共事業を実施している。河川の改修が地理的に困難な場合には陸閘(りっこう)などで対応している。
現在、全国29の都道府県に少なくとも240が存在する。うち半分の122が関西地方に、なかでも滋賀県には3分の1に当たる81が存在する[3]。
関東地方以東編集
北陸地方・東海地方編集
滋賀県編集
- 姉川 - 長浜市付近8.1km
- 高時川 - 長浜市付近6.2km
- 草津川 - 草津市。下流部は新河道開削により廃川。国道1号の天井川トンネルは撤去されたが、琵琶湖線や中山道の天井川トンネルが廃川部に現存。本流上流や支流の金勝川には天井川が残る。
- 狼川 - 滋賀県草津市、草津川同様に鉄道の天井川トンネルが存在した。現在は遺構のみ残る。
- 百瀬川 - 高島市マキノ町沢付近
- 野洲川 - 守山市内にある現河口は新たに開削されたもので、この付け替えで下流の天井川は廃川になった。支流の大沙川では1884年に竣工した県内初の道路トンネルが東海道を通し、草津線もトンネルで大沙川をくぐっている。
- 家棟川 - 読みが多少異なる物の同じ漢字表記の川が大津市、湖南市、野洲市の三カ所に存在。いずれも道路や鉄道の天井川トンネルが存在したが、現在は大津市の家棟川のみ道路トンネルが残る。
滋賀県以外の関西地方編集
- 弥陀次郎川 - 京都府宇治市付近 2012年破堤し浸水被害
- 天竺川、高川、糸田川(神崎川の支流) - 大阪府豊中市・吹田市
- 寝屋川 - 大阪府寝屋川市付近
- 檜尾川 - 大阪府高槻市
- 武庫川 - 兵庫県尼崎市・西宮市(下流)
- 芦屋川 - 兵庫県芦屋市
- 住吉川、石屋川 - 兵庫県神戸市
中国地方以西編集
中国の天井川編集
中国の黄河(特に下流部)は天井川となっている[5][6]。中国西部には黄土高原が広がっているが、これは台地のさらに西方から風で飛ばされた黄砂が長い年月をかけて堆積したもので、黄河では乾燥した台地から流れ出した黄砂が長い年月をかけて沈積しやがて天井川となった[6]。
古代から中国の歴代の皇帝にとって黄河の治水事業は最大の難題であった[6]。
天井川トンネル編集
天井川によっては河床が高くなり過ぎ、河床の下にトンネルを掘って交通を通している例もある。こうしたトンネルを総称して天井川トンネルという。関西ではかつてマンボ、マンポ、マブなどと呼んでいた。
東海道本線は、旧草津川、芦屋川および住吉川を、それぞれ天井川トンネルで抜けている。かつて東海道本線は石屋川を天井川トンネルでくぐっていたが、この石屋川トンネルは日本で最初(1871年、明治4年)の鉄道用トンネルであった(現在は高架化により消滅)[7]。また、JR奈良線、片町線(学研都市線)、近鉄京都線も京都盆地南部において複数の天井川トンネルを持つ。
愛媛県西条市にある大明神川では現在もJR四国の予讃線線路が川の下を通り車両が通過している。岐阜県養老郡養老町の小倉谷では養老鉄道が河川下の煉瓦造りのトンネルを通過している。
出典編集
- ^ a b “河川の作用による地形”. 国土地理院. 2014年9月9日閲覧。
- ^ 出典 : 河川用語集『天井川』 - 国土交通省国土技術政策総合研究所
- ^ “NHK NEWS WEB 危険な「天井川」 全国に240” (2014年9月16日). 2014年9月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年4月14日閲覧。
- ^ 国土交通省九州地方整備局立野ダム工事事務所『白川の水害』
- ^ 潘威「GIS と中国史における水文変化の研究(リモートセンシングデータを活用した東アジア古代研究)」( 『学習院大学国際研究教育機構研究年報』 第1号、2015年)。
- ^ a b c 日高敏隆『ぼくの世界博物誌』玉川大学出版部、2006年、126頁
- ^ 東海道本線はほかにも大津市と草津市の境界付近の狼川と野洲市の家棟川を天井川トンネルで抜けていた。
関連項目編集
外部リンク編集
- 地形判読のためのページ『天井川』 - 国土地理院
- 河川用語集『天井川』 - 国土交通省国土技術政策総合研究所